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8枚目・タイムトラベル研究者⑦

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫

「この世界を構成する形体【ワールドツリー】、その世界が存在する空間【ゼロクロックワールド】、そして世界の出入り口となりえる【パラレルゲート】、これらは理論上証明できたが、目に見える形での証明は不十分だった。

だが、女イズミが異世界から来たことで、異世界の存在が証明された今、この方向からアプローチすれば行き詰っていた研究が進展する・・・・・かもしれん」


断言しない博士の言葉に、4人は座ったままズコッっとなってしまう。


「結果的に研究にいい影響を与えてくれることは間違いねぇ。

こっちが感謝してお礼を言いたいくらいなんだ、だからお前らにお礼されるようなことじゃねぇよ」


そう言って博士は腕を組んだまま肩をすくませた。


「それより」


組んでいた腕をほどくと博士は泉美を指さし、話題を変えてきた。


「お前さんの心配をした方が良いんじゃないか?困ったこととかさ。

ここは元居た世界とほとんど変わらんと言っても異世界だ、なにか不都合なことがあるんじゃないか?」

「ん~・・・困ったこと」


博士の言葉に、泉美は左手で口元を隠すようなポーズで考え始める。


「困ったこと、困ったこと・・・あっ!スマホが使えなくなりました」

「スマホが?」

「はい、メーカーの問題かと思ったんですが、この世界にも存在するメーカーで機種もこちらで売られている機種と同じだったので、繋がるはずなんですが・・・」

「それは~・・・」


博士はしばらく考え込んでから、眉間にしわを寄せながら自信なさげに言った。


「SIMカードのせいかもな」

「SIMカード?

えっと・・・携帯電話の番号とか登録されてるICカードですよね」

「良く知ってるじゃねぇか。携帯番号の他にもメールアドレスなんかの個人情報も入ってる、ついでに識別番号も設定されているはずだ。

恐らくその識別番号がこの世界で使われているスマホの識別番号と被ったんだろう」

「えっと・・・私が使ってるスマホの電話番号と、この世界でもともと使われていた電話番号が被っちゃったから壊れたってこと?」

「いや、個人を識別する番号と電話番号が既にこの世界で使われているうえに、組み合わせが合わなかった、それらが組み合わさってエラーを起こしたってとこだろう」

「エラー・・・」


博士の説明を聞いてもイマイチ理解できない様子の泉美だったが、大樹が声をかけてきた。


「こっちの世界じゃ使えないけど、元の世界に戻れば普通に使えるようになるってことでしょ?」

「多分な」

「うーん・・・よくわかんないけど、壊れた訳じゃないなら良いや」


泉美はイマイチ要領を得ていない様子だったが、すぐに話題を切り替えた。


「あともう一つ不思議なことがあって、私が居た世界とこっちの世界で同じ人間が居ることはもちろんなんですが、人間関係も同じだったり、行動が同じだったりするみたいなんです」

「・・・具体的には?」

「私の家族はもちろん、学校の先生、部活の先輩、それらの人々が私の居た世界とこっちの世界で同じなんです。

ただ違う人もいて、ここに居る鈴蘭さんは私の世界には居ないんです、代わりに彼女より若い男の子が居るんです。

それだけじゃなくて、私が元の世界で言ったことや体験した出来事を、この世界の泉水も似たようなことを言ったり、出来事を体験したって言うんです。

これってどういうことか分かりますか?」


泉美の言葉に博士は眉間にしわを寄せて考え込む。


「それは・・・つまり・・・存在している人間が同じことはもちろん、その関係や行動が2つの世界が似ているが、一部異なっているという事が不思議だってことか?」

「そうです」

「う~ん・・・恐らく2つ世界がお互いに共鳴しているってことだろうな」

「共鳴・・・お互いに影響し合ってるってことですか?」

「まぁ、そういうこった。

お互いに起きた現象がもう一方の世界に影響をおよぼして、それが相互に起きているんだろう、同様に人間なんかの生物も相互に影響し合っていると考えるべきだろう。

だが、世界が分かれて時間が経ったことで、その影響が薄れている、もしくは部分的に薄れている、それが異なっている部分として表れていると考えられる。

一方だけ異世界に来ちまったお前らみたいにな」


泉美は視線だけを泉水に向けた。その視線の先で泉水もまた泉美に視線を向けていた。


「2つの世界は恐らく分かれてそんなに経っていない。少なくともイズミ達の年齢以上は経っているはずだが、何が要因となって世界が分かれたのかは調べようがないな」

「えっ?私たちの性別が分かれたのが要因じゃないんですか?」

「かもしれんが、断定は出来ん。

2人のイズミが男と女に生まれ別れたのが要因なのか、世界的な出来事が要因なのか、もしかしたらこの星ではないどっか別の星系で起きた大異変かもしれん。

例えば星が1つ消えた、消えなかったとか、あるいは生命が誕生した星が生まれた、産まれなかったとか、そんぐらい大規模な出来事が起きたと考える方が世界が分かれたなんて現象としては自然かもしれん。

逆にお前らの性別が分かれた事とか、そんぐらい小規模な出来事が原因かもしれん。

要は、分からん」

「博士でも分からないことあるんだね」

「当たり前だ、オレは神様じゃねぇんだからな。

何が要因で世界が2つに分かれたか分からんが、それぞれの世界に存在していた女イズミと男イズミがこの世界で出会った奇跡。

この現象も今後の研究のために名―――」

「ねえ、博士?」


博士の話を遮って話しかけてきたのは大樹だった。

そんな大樹に博士は不機嫌そうに答える。


「なんだ?」

「お姉ちゃんや兄ちゃんのことを女イズミ、男イズミって言ってるけど、名前で呼んだ方が良くない?」

「確かにそうなんだけどよぉ~。

名前が同じイズミだろ?言い分けるためには仕方ないだろう?」

「みんなちゃんと名前で言い分けてるよ?お姉ちゃんは水が沸く泉と同じいずみ(→→→)で、兄ちゃんはいずみ(↗→→)ってアクセントで読んで―――」

「そんな器用なこと出来るか!

出来たとしてもややこしくてたまらん!!

読み方が違えばいいんだが・・・」


博士は腕を組み、両目をつぶり考え込む。


「あ!お前らニックネームとかないのか?」

「ニックネーム?」


博士の言葉に泉水は目をしかめる。


「同じイズミでも男女でニックネームは微妙に違うだろ?」

「んー・・・ニックネームは無いな。

無いって言うか、周りが付けようとしない」

「周りが付けようとしないってことは、泉水もやっちゃった?」

「その言い方、泉美もかよ・・・」


お互いの顔を見ながら、泉美は苦笑いを浮かべ、泉水はあきれ顔になってしまっている。

そんな二人を見て博士は眉間にしわを寄せながら、不満そうな口調で言ってきた。


「何2人だけで通じ合ってんだ。ちゃんと説明しろ」

「ん?あぁ・・・小学1年の頃にさ、小川ってニックネームを付けようとしたヤツにブチ切れてさ、ボコボコに殴り倒しちゃって先生や親から怒られたんだよ」

「私も同じ、小川って半笑いで言ってきた男の子、ボコボコにしちゃって先生や親にこっぴどく怒られた」

「はぁー???

ニックネームで小川って言われたくらいで相手をボコボコって、何がそんなに気に入らなかったんだ?

そもそも小川ってどこから来たんだよ?」


博士の疑問に対して、イズミ達は渋い顔になる。その顔には明らかに「言いたくない」と書かれていた。

それを察したようで、大樹がイズミ達の代わりに理由を話し出した。


「僕たち苗字が春野でしょ?それが理由だよ。

ほら童謡で春の小川って名前の歌あるでしょ?兄ちゃんたち名前が水に由来してるから余計に敏感になってて、僕も半笑いで歌を歌われたらムカッと来るのに、歌いながら小川って半笑いで言われたからブチギレたんだって」

「・・・それ以来ニックネーム付けようとするヤツは居なくなったって訳か」

「そういうこと」

「いや、そんなことでブチギレって・・・お前ら怒りの沸点低すぎだろ!何度で沸くんだよ・・・」


博士は驚きを通り越して呆れ顔になりながら言った。


「まぁいいけどさ。

ニックネームがないとしたら、別の呼び方を考えるしかないかぁ?せめて女イズミに別の呼び方を付けた方が呼びやすいんだが・・・」


その言葉を聞いた、大樹が思いついたように声を出した。


「あ!偽名は!?あの偽名をお姉ちゃんの名前として読んでもらえばいいんじゃない」

「偽名?」

「うん、高校に通うのに偽名を使った方が良いってことで、お爺様が付けたんだよ」

「お爺様って・・・ああ、水輝の血を引いてるって言ってたな。つまり水輝家の爺さんか・・・で、どんな名前なんだ?」


そう言って博士は泉美に話を振った。


「ケイ・・・蛍と書いて(けい)、水輝 蛍って名乗るように言われた」

「蛍ね。

いいじゃねぇか、ならこれからはお前さんのことは蛍と呼ぶことにしよう」


泉美の呼び名が決定したところで、博士は満足そうに背もたれに腰を預け、タバコを手にした。


「確か話の途中だったな。何の話だったか?」

「えっとお姉ちゃんと兄ちゃんが出会った奇跡がとか?」


大樹の言葉を聞き「ああ、そうだったな」と言うと、博士はタバコを(くわ)え、火をつけた。


「2人のイズミが出会った奇跡なんて長ったらしいからな、名前を付けようとしてたんだった。名前がないんじゃ呼びづらくてたまらんからな」


そう言って博士はタバコをふかしながら、ぶつぶつと独り言を始めた。


「異世界接触・・・ないな。異界同一人物接触・・・余計にないな。

うーん・・・無理やり日本語にする必要はないか。となると・・・アイデンティクル(同じ)コンタクト(出会う)・・・長いうえに分かりにくいな」


唸りながら考え込む博士を見て、大樹が声をかけた。


「ねぇ、ドッペルゲンガーコンタクトとかどうかな?

2人ともお互いにドッペルゲンガー見たいな存在だって、話で盛り上がったって聞いたんだ」

「ドッペルゲンガー・・・ドッペルゲンガーコンタクトねぇ~・・・悪くはないが、もう一捻り欲しいな」


そう言って博士はおもむろに立ち上がると、本棚にヒントを探しているのか人差し指を指しながら適当に見始めた。

そうして見始めて数秒、その指がピタリと止まった。

そこには暇つぶしに使ったのだろう、トランプカードの箱が無造作に詰め込まれていた。


「トランプか・・・」


博士は本棚からトランプを取り出すと、トランプを箱から出し両手で広げてカードを選び始めた。

やがて1枚のカードを選び出すと、テーブルの上に放り投げた。


「泉水と蛍、お前らの関係はこのトランプの柄のようなもんだ」


そう言って椅子に座りながら、博士はトランプをトントンと指で叩いた。

そのトランプはハートのクイーン。


「このトランプが俺たちの関係?どういうことだ?」


博士の言葉に、泉水は疑問を口にせざるを得なかった。もちろん他の3人も声をあげなかったが、疑問に思っているのは確かだった。

そんな態度の彼らに博士はトランプを拾い上げ、トランプの柄を指さしながら説明を始めた。


「泉水と蛍は違う人格で、違う体を持っているが、ある要素は同じものを持っている、同じ人間だ。

違う人間だがある一点の要素において2人は同一化している、まさに世界を違えた同一人物」

「世界を違えた・・・」

「同一人物・・・」


泉水と泉美はお互いに相手を見ながら、つぶやくように言った。


「その関係性はまさに、2つの体が真ん中でくっついているこのトランプの柄そのもの。

お前らの関係を視覚的に説明する材料としてこのトランプの柄以上にピッタリなものはない。

以上のことから、オレは同じ要素を持つ2人の人間が世界を越えて出会うこの事象を


【トランプコンタクト】


と名付けようと思う」


「「トランプコンタクト」」


博士の言葉を同時に泉水と泉美は、つぶやくようにその言葉を発していた。

はじめて聞く言葉なのに、なぜか自分たちを表す言葉としてこれ以上にピッタリな言葉は無いとイズミ達は感じていた。


そんなイズミ達を横目に、大樹が博士に質問してきた。


「ねぇ博士、兄ちゃん達の関係をトランプコンタクトって名付けたって話は分かったんだけど、兄ちゃん達に共通する要素って何?」

「共通する要素が何かだと?」


大樹に質問された博士は「うーん」としばらく唸った後、渋い顔で答えた。


「泉水と蛍の共通する要素・・・そりゃー、一般的に言うならた―――」

【グーゥ・・・】


博士の言葉を遮り、盛大に腹の虫が鳴き声を上げた。

ため息と共に音が鳴った方向に、博士が鋭い視線を向けると、腹の虫の主は顔を赤くしながらうつむいて謝った。


「ご、ごめんなさい」

「坊主・・・大樹って言ったか、質問しておいて本人が盛大に話の腰を折るとかねぇわ」

「ごめんなさい・・・すみませんでした」


深々と頭を下げる大樹を見て、博士は大きくため息をついた。


「まぁ、長々話をしていたオレも悪いか・・・」


そう言うと博士は壁掛け時計に視線を移した。


「もうすぐ2時か・・・ホントは飯でもおごるべきなんだろうが・・・」

「いやいやいや!そんなことまでしなくて良いって!!」

「そうそう、お昼代はいっぱいあるから外で食べるよ!!」


博士の提案に、慌てて断る泉水と鈴蘭。

だが、博士はそれでは納得がいかない様子だった。


「とはいえ客人に茶も出さずに帰す訳にもいかんだろ」

「いやいや、良いですってば!そんな気を使わないでください」


本気で遠慮する泉美だったが、博士はおもむろに立ち上がると入り口の方へ向かった。

お茶を入れに行くのだと悟った泉美はおもむろに申し出た。


「お茶を入れるなら、手伝いますよ」


こうなれば早めにお茶を飲んで、お昼にしようそう考えたためだった。

だが、博士は手を突き出して言った。


「いや、レディーファーストだ。蛍とスズ、それと大樹の坊主はここで待ってろ。

その代わり、泉水、お前が手伝ってくれ」


名指しされた泉水を見て、泉美は(なんで俺がー・・・とか文句言うだろうなぁ~)と心の中でほくそ笑んだ。

だが、彼女の想像とは裏腹に泉水はスクッと立ち上がると、博士のもとへと向かって行く。


「分かった。お昼過ぎてるし、俺たち腹減ってるから一杯だけごちそうになるよ」

「まあまあ、そう言うな。

こう見えてもオレはコーヒーにはウルサイたちでな、豆を挽いた粉からドリップするコーヒーは自分で言うのもなんだが、薫り高くて旨いぞ」

「へぇ~・・・それは楽しみだ」


微笑を浮かべながら答えると、泉水と博士は部屋を出て行った。


「インスタントで十分なのに・・・ドリップコーヒーじゃ時間かかりそう。

泉水も遠慮してたのに、最終的にはノリノリで行っちゃうし・・・泉水ってコーヒー好きなんだね」

「えぇ?・・・お兄ちゃんビターチョコレートは好きだけど、コーヒーそんなに好きだっけなぁ?」

「あれ?そうなの?

ノリノリに見えたから、コーヒー好きなのかと思ったんだけど?」

「兄ちゃんコーヒー好きなんて聞いたことないけどな?」

「大樹も?

うーん・・・最近になって好きになったとか?ほら年を取ると味覚が変わるって言うし」

「うーん・・・そうかもね。お兄ちゃん昔は今よりも甘さ控えめのチョコレート好きだったし、最近はコーヒーくらいビターな味が好きなのかも。

(だったら、来年のバレンタインは甘さ控えめのビターチョコレートを手作りで・・・フフフ♡)」


心で考えていることが顔に出て、にやけてしまう鈴蘭。そんな彼女を見て泉美も微笑むのだった。

その後、泉美は時計を見ながら言った。


「泉水達戻ってくるまで、しばらくかかるよね・・・私ちょっと席外すね」

「お姉ちゃんどこへ行くの?」

「えっと・・・」


言いよどむ泉美を見て大樹は首を傾げる。と、向かい側の鈴蘭が怪訝(けげん)な声で注意してきた。


「大樹君、そこは察するのがマナーでしょ?」

「察するって・・・ああ、トイレか」

「まぁ・・・ね。それじゃあ」


はにかみながら大樹に答えると、泉美はいそいそと部屋を出て行く。そんなやり取りを見て、鈴蘭は小さくため息をついた。


「大樹君、女心分かってると思ったけど、やっぱり男の子だねぇ~」

「そんなに恥ずかしがることかなぁ?」

「そういうとこ」


鈴蘭の呆れ顔に、大樹は不思議そうに首を傾げるのだった。




一方、キッチンへと向かった泉水と博士。

博士はタバコをふかしながら、やかんに水を入れコンロに載せるとつまみを回し火をつける。

そして横目で泉水を見ながら指示をしてきた。


「泉水、カップ出してくれ。客が来ることなんて想定してなかったから、数が揃ってるカップはねぇだろうから似てるヤツ見繕ってくれればいいからよ」

「ああ、分かった」


泉水は食器棚の扉を開け、コーヒーカップを選ぶ。

その横で博士は、ポットにドリッパーとフィルターをセットし粉を入れていく。

お互いに目を合わせない2人だったが、不意に泉水が話しかけてきた。


「そろそろ話してくれないか、俺にだけ話すことがあるんだろ?」


博士はピタッと手を止める。そしてポットに視線を向けたまましばらく黙り込む、やがてタバコを大きく吸いゆっくり吐くと視線はそのままで答えた。


「どうしてそう思った?」

「どうして?」


泉水は小ばかにしたような口調で、博士を呆れ顔で見ながら答える。


「ちょっと考えればすぐに分かるさ!

俺たちを客として招き入れたのに書類だらけの部屋の片づけを押し付けてくるような博士が、突然俺たちにコーヒーを入れてもてなしてくれると言い出して、何より泉美やスズに対してレディーファーストとか言い出す。

あれだけこき使っといて、いきなりレディーファーストとか似合わねぇこと言いだすから吹き出しそうになったよ。

だけど大樹まで残して俺だけ手伝うように言ってきたから、すぐにピンときた『俺だけに話すことがある』ってな」

「冴えてるじゃないか、お前はどっちかっていうとカンは鈍いほうだと思っていたんだがなぁ~」

「秘密組織に泉美のことをリークしたってイタズラをされた後から気を張ってたんだよ、これ以上小ばかにされたら悔しいからな」


泉水は肩をすくめながら苦笑いで言った。

そんな様子に博士はようやくこのタイミングで泉水に視線を移した。


「あの嘘もまんざら無駄じゃなかったって訳だ・・・ご明察(めいさつ)、お前にだけは話しておくべきだと考えて、お前だけを呼びだしたって訳だ」

「やっぱり・・・で?

改めて聞くけど俺に言っておきたいことって何なんだよ?」


睨みつけるような視線を向け質問してくる泉水に、博士はタバコを一吸いし、吐きながら答えた。


「手っ取り早く話すか、時間をかけるのもなんだし、回りくどい言い方をするのは好きじゃねぇしな」


そう言うと博士は【シュー】と勢いよく蒸気を噴き出すやかんに近づくと、コンロの火を弱めた。




「単刀直入に言おう。

蛍・・・・・泉美は6ヶ月以上この世界に居ると・・・・・死ぬ」




数秒間、キッチンの中を静寂が包んだ。




「は?」




ようやく声を発した泉水だったが、博士が何を言っているのか全く理解できなかった。


≪人物紹介≫


タイムトラベル研究室の研究者

博士こと、大林(おおばやし) 素彦(もとひこ)その②


白衣を羽織り、赤毛に角刈り、金色の瞳でタバコをふかしている男で、占い師のウォール曰く泉美が元の世界帰る方法のヒントをくれる人物。

博士号は取得していないため厳密には博士ではないが、鈴蘭によって博士とあだ名をつけられ、イズミ達も博士と呼ぶことに抵抗がないため、博士呼ばわりが定着する。


研究しているテーマは、研究室の看板に書いてある通りタイムトラベルで、その研究に人生をかけている。

また、タイムトラベルの方法を研究する過程で、パラレルワールドが存在していることを確信している。そのため泉美が異世界から来たと話すと、研究に役立つとして帰還に協力してくれることになる。




もう1人の主人公

春野(はるの) 泉水(いずみ)」その③


誕生日について聞かれ、誕生日が泉美と同じ5月27日であると話す。

ちなみに星座はふたご座。






≪登場用語説明≫


DNA

分類:科学知識


DNAは通称、生物の設計図と呼ばれることがあり、植物を含む生き物の細胞の中に必ず存在している。

生物の姿はもちろん、骨や筋肉、内臓、更にはその働きから、一部の性格にまで影響していると言われ、生物のあらゆる情報が詰まっているまさに設計図である。

また、このDNA両親から半分ずつ受け継ぐ特性があり、その特性を使って両親や肉親の特定検査に利用されることもあり、またDNAは一人一人違っており、他人同士が同じDNAを持っている可能性は天文学的に低いと言われ、個人特定のためにDNA検査として利用されることもある。


今回、イズミ達に博士が渡したDNA検査キットは口から頬の内側を綿棒で擦り、その綿棒に付いたわずかな細胞に含まれるDNAを使って二人のDNAの共通点がどれだけ多いかを調べる目的で行われた。

二人のイズミは世界こそ違うが、同じ両親から生まれた同一の人間である。

博士の考えでは二人の父方のDNAは違うが、母方のDNAは同じ、つまり子供になる卵子は同じだろうと考えている。

当たり前だが、卵子にもDNAは含まれており、この卵子に含まれていたDNAが一致、つまり二人のDNAの半分は絶対に一致する。

博士はそう推測しているため、検査結果は肉親である可能性が高いという結果が出るだろうと博士は考えていると思われる。




遺伝子

分類:科学知識


よくDNAと遺伝子は混同されがちだが、厳密には全く違う。

遺伝子とはDNAの中の実際に生物に作用する塩基(えんき)と呼ばれる物を読み解くための言葉を挿すものとされている。

分かりやすく例えるとDNAという本の中に書かれた文字列、これを遺伝子と呼んでいる。大雑把に説明するならばこのように例えられる。




パラレルゲート

≪通称、光の玉と呼んでいた物の正式名称≫ その③

分類:現象


空気を引き裂くような音と共に現れ、月のような淡い黄色い光を放つ球で、輝いているが熱はなく、世界同士の空間を繋げてしまう光り輝く球体。

この光の玉の正体は【エーテリア】と呼ばれる謎の物質が寄り集まったモノだと、博士は説明してくれる。




エーテリア

分類:物質


パラレルゲートを形成している物質で、それ自体が淡い黄色い光を発している。

名前の由来は、かつて光を伝える媒体であると考えられていた幻の物質【エーテル】にある。


エーテリア自体は傷ついた空間を修復するための、人体の血小板のような役割があるらしく、これによって発生したパラレルゲートはまさに世界のかさぶたと言える。

この世界のかさぶたであるパラレルゲートを形成する際に近くの世界と、世界同士を繋げてしまう作用があり、泉美はこの作用によって出来た道を通って泉水の世界に来てしまった。


エーテリアにより発生したパラレルゲートは、それぞれの世界双方で同じ座標に発生する訳ではなく、繋がる座標はバラバラになる。

泉美が通ったゲートはたまたま同じ世界の座標に同時発生したパラレルゲートの出入り口が繋がったレアケースだったようで、博士はパラレルゲートの出入り口の座標軸を指定する研究に、着手することになった。




ワールドツリー形体

分類:世界


泉美の居た世界や泉水達が居る世界を形成している世界の形、それに博士が付けた名前。

全ての世界は一つの木のような大きな幹から伸びた枝に当たる部分であり、世界に違いが生まれると枝が分かれ世界が増えると、博士は考えている。

その世界の枝が何らかの原因でこすれ合った時に生まれる空間の傷、この傷によりパラレルゲートが発生する。




ゼロクロックワールド

分類:世界


世界の根本であるワールドツリーが鎮座している時間の概念がない世界。

博士によると世界に時間の流れがあるということは、それを支える時間の流れのない世界が存在しているらしい。

博士は時間の概念があるこの世界を川に、時間の概念がないゼロクロックワールドを大地に例え、ゼロクロックワールドという大地のくぼみに世界という川が流れることで時間が生まれると説明してくれる。さらにこの時間の概念がないゼロクロックワールドを活用することで、タイムトラベルを実現しようと博士は考えている。




タイムトラベル

分類:技術


博士はパラレルゲートとゼロクロックワールドを組み合わせることでタイムトラベルを実現しようとしている。

具体的には・・・

①パラレルゲートを利用し、世界からゼロクロックワールドに移動

②ゼロクロックワールド内を移動し、世界の枝の部位から目的の時間まで移動する

③パラレルゲートを利用し、ゼロクロックワールドから元の世界へ移動する

以上の手順で目的の時間まで移動しようというのが博士のタイムトラベル方法である。




博士の収入源

分類:現金収入


博士の研究は収益に結びつくものではなく、研究成果によって得られる収益は無い。

その代わり博士は父親の所持物件であったマンションを一棟、生前贈与してもらっており、そのマンションの家賃収入を使って研究及び生活をしている。

それなりの収入があるはずなのだが、わざわざボロ雑居ビルのワンフロアを借りて研究室にしているので、収入の多くを研究につぎ込んでいるようだ。




泉美のスマホが使えなくなった理由

分類:現象


泉美のスマホが、泉水の世界に来てから使えなくなった理由について博士の予想では、スマホのSIMカードが原因ではないかと語る。

SIMカードに登録されている個別識別番号や電話番号、これらの番号や組み合わせが泉水の世界で使われているものと違っていたり、被ってしまっていることでエラーを起こしているのではないか?

博士はそう考えており元の世界に戻れば問題なく使えると語る。




泉美の世界と、泉水の世界に多くの共通点がある点、違う点もある点

分類:現象


博士によると、二つの世界で多くの共通点があるのは世界が分かれたばかりで、お互いに影響を与えているのではないかとのこと。

また違う点もあるのは、世界が二つに分かれて少なくとも16年以上は経っているので影響が少なくなって来ている出来事や、もともと影響を受けていない出来事が存在していたのではないかと語る。

どちらにしろ、二つの世界が分かれた理由がイズミ達の性別の違いによるものなのか、まったく別の要因があるのか、調べようもないため推測の域を出ない。




イズミ達があだ名をつけようとした男子にブチギレした理由

分類:名称


イズミ達の苗字は【春野】であり、名前も【泉】を由来にした名前のため、小学一年生の時に半笑いで春の小川を歌われながら、あだ名として【小川】とつけられそうになってブチギレ、男子をボコボコにしてしまう。

もちろん担任の先生や両親からこっぴどく怒られたことは言うまでもない。そのため以後イズミ達にあだ名をつけようとするものは現れなかった。


博士は泉美と泉水の区別のためにあだ名を利用しようとしたが、上記の理由のため断念。

あだ名に変わるもので二人の区別をハッキリさせようと思案する中、大樹から泉美が偽名として【蛍】と名乗るように指示されたことを知り、以後彼女のことを蛍と呼ぶことになる。




泉美と泉水、2人のイズミの出会いについて、博士が付けた名前

分類:名称


2人のイズミの出会いについて、博士は説明調の名称の改善と、今後の研究に当たっての呼びやすさのために、別の人間でありながら世界を越えた同一人物とも呼べるイズミ達の関係性に【トランプコンタクト】という名前を付けた。




博士が泉水だけに告げた真実

分類:説明


泉美や鈴蘭、大樹に聞かれないように、博士がひそかに泉水と二人きりになり彼に告げた真実。


泉美がこの世界に6ヶ月以上居ると命を落とす。


なぜそのようなことになるのか、なぜ泉水だけにその真実を伝えたのか、その真意は今のと

ころ不明。


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