8枚目・タイムトラベル研究者⑥
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
それからしばらくして、全員が正気を取り戻すと博士は話を再開した。
「ゼロクロックワールドの存在証明は、簡易的に説明するのは無理だから端折る。
それより、重要なのはゼロクロックワールドとタイムトラベルの関係だからな」
「まぁ確かにそうだ・・・で?何でその2つが関係するんだ?」
「そうそう、私もそれが分かんない。
それにパラレルゲートとタイムトラベルとの関係性もよく分かんない。
確かゲートが世界の出入り口になるから、研究してるって言ってたと思うけど・・・。
それがどうしてタイムトラベルに関係するの?」
泉水と泉美の質問に、博士は小さくため息をつくと、ホワイトボードの一角を左手の握り拳の裏側で叩いて示した。
「ここに書いた図で説明してやる」
博士が拳で示したのは、縦に2本線が描かれた絵。線の間に川と時間という文字、両側に岸とかっこで囲われたゼロクロックワールドという文字が書かれている。
その図を見てイズミ達は、それが少し前に説明された時の流れを川に例えた図であると理解した。
「オレの考えるタイムトラベルの方法はこうだ。
時間の流れという川、オレ達はその川に浮かぶ船に乗っている。
その船から、岸であるゼロクロックワールドに降り立ち、過去や未来の位置まで移動して、再び時間という川に浮かぶ船に戻る。
これを川に浮かぶ船から見えれば、時間を飛び越えたように見えるって訳だ」
「なるほど・・・確かにそれが出来ればタイムトラベルって言えるかもなぁ」
博士の説明に、泉水は半信半疑ながら納得した。と同時に彼の脳裏に新たな疑問が浮かんだ。
「・・・じゃあパラレルゲートはどう関係するんだ?」
「パラレルゲートが世界の出入り口になるといっただろ。
さっきの川の話に当てはめると、時間の流れである川に浮かぶ船、これはオレ達の今いる世界だ。
この世界から出て岸であるゼロクロックワールドに行くためには、岸に上がるための桟橋が必要だ。その桟橋となるとオレが考えたのが、世界の出入り口になるパラレルゲートだ」
「えっと、つまり・・・博士の言うタイムトラベルの手順は、
(1)パラレルゲートでゼロクロックワールドに移動
(2)その後目的の時間にあたる世界の位置まで移動して
(3)パラレルゲートで元の世界に戻る。
ってことか?」
「まっ、そういうこった」
博士は肩をすくめてみせた。
「その性質から便宜上パラレルゲートと名付けたが、オレはこのゲートを世界からゼロクロックワールドに行くための扉として研究をしてきた。
だからパラレルワールド自体には大して興味がなかった・・・今日まではな。
はぁ~、パラレルゲートの機能の一種、異世界との空間接続の実証実験はずっと後だったんだがなぁ~」
ため息交じりの博士の言葉に、泉美は申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません・・・私のために・・・」
「あぁ~・・・別に女イズミを責めようって訳じゃねぇよ。
オレも大概お人好しだと思ってな。まぁ、このまま見ご・・・帰りたいって懇願してる人間を見捨てるのも寝つきが悪いしな。
ゲートの座標指定はゼロクロックワールドに出るにしても戻るにしても必要なことだからいずれ研究していたはずだから気にすんな。
それより6ヶ月後に女イズミを元の世界に戻せる装置を作れてることを祈ってくれや」
「それじゃあ!協力してくれるんですね!!」
一変して顔を輝かせる泉美に、博士は小さく息を吐く。
「結構前から協力してやるって言ってたつもりだったが?」
「そうでしたっけ?」
「僕はそう思ってたけど?」
泉美の言葉に、大樹は不思議そうに答えた。
向かい側の鈴蘭も無言でうなずく。一方、泉水は顔を赤くして苦笑いを浮かべていた。
「そ、それにしても博士がこの町で研究室開いてくれてよかったよ。とんでもない遠くで研究室開いてたら会いに行くのが大変だったし」
赤くなった顔を誤魔化すように話題を変えてきた泉美に、博士は椅子にドカッと座り話始めた。
「偶然とも言えんかもしれんぞ。オレがこの町に流れ着いたのはこの町の周辺にゲートが開きやすかったからだ」
「えっ?ゲートが開きやすい??」
「正確には多く発生すると言うべきか。
さっき話したようにオレはゼロクロックワールドへの出入り口として、パラレルゲートの研究をしていた。当然ゲートの発生が多い地を探していた、それこそ全国各地な。
ゲートが発生する時、磁場と電磁波が同時に局地的に異常な数値になる、それをもとにゲート検知装置を製作してもらってゲートが多く発生する地に近い町を探したんだ」
「わざわざ町の近く、ですか?」
「ああ、研究室確保や生活維持のために仕方なく、な。そんで条件に会ったのがこの町だったって訳だ。
逆に言えばそれだけこの町はゲートが発生しやすいともいえる」
「私がゲートを見つけたのは必然だった・・・」
「必然とまでは言わんが、他の町より確率は高かったと言えるかもな。
まっ、運命に感謝するのも悲観するのも自由だが、結果的にオレはこの町で研究することになった訳だ」
「・・・それじゃあ博士はこの桜門町に・・・研究室を開く場所をこのボロボロのビルにした理由は?」
「そりゃあ、家賃が安いからさ」
「博士収入源なさそうだしね」
泉美が苦笑いを浮かべて言うと、博士は「ハッ」と小ばかにしたような声を上げた。
「人を見た目で判断するもんじゃねぇぞ!
オレはこれでもそれなりに収入はあるんだ、研究費でほとんど消えるから家賃を押さえてるだけさ」
ドヤ顔で言う博士に、4人は驚きを隠せなかった。
「収入あるんですか?」
「ていうか、この研究利益生んでるのかよ!?」
泉水の言葉に、博士はジト目になりながら不機嫌な声で答える。
「この研究では利益は出てねぇよ。
ウチの実家それなりに金持ちでな」
「まさか!親のすねを・・・」
「ちげぇわ!!」
泉水の言葉に反論すると博士は理由を話し始めた。
「ウチの親が生前贈与ってやつをやってな、兄貴と姉貴はそれぞれ、家督の相続権といずれ親父の会社を継ぐために身分を隠して新入社員として就職を望んだり、自分の店をオープンするための資金を出してもらったりしたんだわ。
まぁ、オレは三男坊で自由気ままに研究がしたかったんで、親父の所有してたビル一棟をもらって家賃収入が一定金額の家賃が入るようにしてもらったんだ。
まっ、管理はメンテナンス会社に委託してるからそれなりに収入減してるが、好き勝手研究しても困らないだけの収入はあるって訳よ」
ドヤ顔で話す博士に対し、泉水はジト目で少しあきれた様子で言った。
「若干すねをかじってる感じがしなくも・・・」
「あぁ゛!!」
「何でもないっス」
博士にすごまれ、泉水はすぐに視線を逸らした。
「たく、口の利き方には気を付けろっつーの」
「そうだよ!私が元の世界に帰れるかどうかは博士に懸かってるんだから、機嫌を損なうようなことは言わないで!!」
「わ、悪かったよ・・・」
泉美に怒られ、泉水はバツが悪そうに謝った。
「・・・安心しろ。あんな些細なことで、協力をしないなんて子供みたいなこと言わねぇからよ」
真顔で淡々と話す博士に、泉美は申し訳なさそうに言った。
「ありがとうございます。
私を元の世界に返すための装置の開発費は、お支払いします。もちろんお礼も」
「それは要らん。
ゲートの座標指定もそうだったが、ゲート発生装置は制作するつもりだったんだ、金も困ってねぇしな。
逆に今日お前らが来たことで、行き詰っていた研究の突破口になるかもしれん」
博士は腕を組んで背もたれにもたれながら、遠い目で語り始めた。




