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1枚目・プロローグ ~失踪していた少女の証言~

学生時代に小説コンテストに出すために考えた作品です。


それから何度か小説にすることを考えては、止め、考えては、止め、を繰り返して、今回、ようやく本格的に小説化する決心がつき、連載を開始します。


ちょっとでも楽しんでもらえたり、ウルっとくるようなシーンを書ければいいなと思っています。


2020年 05月31日

服を着た猫




小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫


トランプコンタクト -2人のドッペルゲンガー-


挿絵(By みてみん)

イラスト:アップルT中毒(林檎茶中毒)




「ただいま・・・瑞希(みずき)


泉美(いずみ)が絞り出すような声で「ただいま」を言った瞬間、瑞希は彼女に駆け寄り抱きしめた。


「み、瑞希!?」


紺色のブレザーに灰色のスカートの高校の制服に身を包み、紫紺色(しこんいろ)(紫色)の髪をポニーテールにし、青い瞳をした少女

春野(はるの) 泉美(いずみ)

彼女は突然抱き付かれたことに、その青い目を白黒させて驚く。

一方、水色のパジャマ姿で泉美に抱きついた少女。

肩まで伸ばした緑の髪をハーフアップし、長方形の飾り気のないシンプルな、べっ甲のバレッタ(髪留め)をハーフアップで髪をまとめたへアゴムを隠すように髪に着けて、光を失った紫の瞳に銀縁の長方形のメガネをかけた彼女は、泉美の同じ高校の同級生で同じクラスメイトである

皆倉(みなくら) 瑞希(みずき)

彼女は驚く泉美をよそに、抱きしめる力を強くする。


「泉美!泉美!!泉美!!!」


ただただ泉美の名前を連呼し泣き続ける瑞希。

その姿は普段の彼女を知る者からすると、とても信じられない光景だった。

口を開けば毒舌が飛び出し、光を失った瞳からは感動の涙どころか悲しみの涙さえ全く流さない。

無表情か変わっても仏頂面などの怒りの表情ぐらいにしか変わらない。

そんな彼女に人は【能面の瑞希】の異名を付けた。

そんな彼女が人目もはばからず、泣き続けている。

その場に居る、泉美の両親や弟、瑞希の母、誰もが唖然とし数秒後には涙した。


「瑞希、ごめんね。ごめん」


彼女に誘われるように泉美も涙を流しながら、強く瑞希を抱きしめた。

挿絵(By みてみん)

イラスト:アップルT中毒(林檎茶中毒)




泉美の家の前で再会した2人は、場所をお隣の瑞希の家に移すことに、そのまま瑞希の部屋へ移動した2人。

部屋に置かれたテレビからは、朝の全国ニュースを女性キャスターが読んでいる。



『―――市、桜門町で失踪事件があって約6ヶ月。

行方不明だった春野 泉美さんが昨晩、無事保護されました。

事件当初、家出説、誘拐説、神隠し説など、物議をかもしたこの事件。

昨夜、春野さんが保護されたのは、最後に目撃された場所に近い桜門神社の境内で保護された時、春野さんは失踪時と同じ制服を着用し、怪我などの外傷はなく至って健康であるとのことです。

ですが、警察による6ヶ月間どこで何をしていたのかという聞き取りには『覚えていない』との返答を繰り返しているそうで、警察関係者によると医師の診断では記憶喪失ではないかということです。


果たして春野さんが6ヶ月間一体どこに居て、どう生活をしていたのか?

誘拐なのか?単なる家出だったのか?はたまた神隠しに会っていたのか?

謎の究明は難しいのではないかと警察関係者は答えています。


さて、ここからは話題を変えて紅葉のニュースです。

今年も紅葉が―――』

【ピッ】


学習机の椅子に座っている瑞希はリモコンでテレビを消すと、ベッドに腰かけている泉美の方を向き直した。


「で、本当はどこに居たの?」


瑞希は先ほどまでの涙が嘘のように、能面のような無表情と冷たい声で語りかけてきた。

(やっといつもの瑞希に戻ったな)と思いながら、泉美は彼女の目をしっかりと見て答えた。


「今のニュース見たでしょ?

覚えてないんだってば、気が付いたら神社の社殿の前に居て―――」

「嘘」

「嘘って・・・何を、根拠に?」

「根拠?

根拠ならいくつかあるけど、一番は勘ね」

「か、勘・・・」


思わず絶句する泉美だったが、気を取り直し話し続ける。


「でも本当のことだし、6ヶ月前に神社の社殿で『学園祭で演劇の公演がうまくいきますように』って祈願したまでは覚えてるの。でも、その後、目の前が真っ暗になって、気が付いたら6ヶ月も経ってて、境内に立ってたって訳」


丁寧に説明する泉美、だがその姿を見ても瑞希は眉一つ動かさず声も冷たいまま。


「あの『ただいま』を言った時、あなたは絞り出すような声で言った。

本当に6ヶ月分の記憶が消えてるなら、あなたの中では最後に会ってから1日しか経ってないはず。

なのに、あれは・・・あの『ただいま』は久しぶりに・・・奇跡的に会えた『ただいま』だった」


突きつけるような言葉にも、泉美は少しも動揺するそぶりを見せず、瑞希の目を見続けた。


「あれは瑞希が寝込んだって聞いたから、不安だっただろうなって・・・」


苦笑しながら語る泉美に、瑞希はジト目になる。


「苦しい言い訳ね」

「苦しい言い訳って・・・本当のことだし」

「目・・・泳いでいるわよ」

「うそ!しっかり瑞希の目を見て―――」

「やっぱり・・・」


ため息交じりにうつむく瑞希の言葉に、慌てふためいていた泉美は罠にハマったことに気づいた。


「ダマしたの!?」

「鎌をかけただけよ。

言ったでしょ?一番は勘だって、何年あなたと腐れ縁していると思っているの?

だけど流石と言うべきかしら、嘘をついている時、一切視線を逸らさずに嘘を吐き通した。

さすが腐っても演劇部ね。

だけど・・・やっぱり嘘ついてた」


泉美を睨みつける瑞希は相変わらずの仏頂面だったが、その瞳には怒りがにじんでいた。


「いつも私のこと親友親友って言うくせに、こんな時には嘘つくんだ」


声を荒らげる瑞希に、泉美も思わず声を荒らげる。


「それは!

私は瑞希のこと、ちゃんと親友だと思ってる!でも・・・」


そこまで言って、泉美は苦悶に満ちた表情で視線を逸らした。


「こんな話信じてもらえるはずない。だから言えるはず―――」

「それはあなたの決めることじゃない!!」


うつむきながら叫ぶ瑞希。

その姿に泉美は言葉を失ってしまった。


「あなたが居なくなってから、私がどんな生活してたか分かる?

最初の数日は、すぐに戻ってくるって高を括ってた。

でも、あなたは戻ってこなかった。

それから眠れない日々が続いた。

心配で心配で心配で気が狂うかと思った。気が付いたら病院のベッドの上で点滴を打ってて、すぐに退院したけど睡眠薬なしでは眠れなくなってた。

毎日、ママから渡される睡眠薬を飲みながら、朝目覚めれば、あなたが「おはよう」っていつもみたいに来てくれる。

そう信じながら眠りについた。

でも、朝目が覚めるとやっぱりあなたは居なくて、毎日毎日、日中はベッドの上でガタガタガタガタ震えながら過ごした。

パパの時みたいに、大切な人がいなくなるんじゃないかって、もう二度と会えないんじゃないかって、毎日、怖くて怖くて不安に押しつぶされそうだった」

「瑞希・・・」

「今朝、あなたが見つかったって、おば様から電話で聞いた時は這ってでも迎えようと思った。

でも玄関まで行った時に、間違いだったらどうしよう?

見つかったって、そっちの意味だったら!?

そんな悪い予感が頭から離れなくて・・・それでも外に出たら、あなたは『ただいま』って言ってくれた。

あの時は、自分でも驚いたわ。もう一生分の涙が流れたんじゃないかってくらい泣いた。

それなのに!なに!?

覚えてないって嘘ついて!私を親友だって言ってくれた癖に、私があなたの言葉を信じられないって決めつける!!


ふざけないで!!!


どんなに信じられないことだって聞かせてよ。

たとえ小説みたいな話だったとしても、笑ったりしない。

一生癒えないような心の傷を負ったくらいの辛い体験だっていうなら、一緒に泣いてあげる。

私を親友だっていうなら・・・一生の友達だっていうなら・・・話してよ。

お願いだから・・・」


彼女の声は、最後は絞り出すような声に変っていた。

そして、ようやく顔を上げた彼女の顔はやはり無表情。

だが、光が失われた瞳からは一筋の涙が流れていた。



その言葉を聞いて、泉美の決意は折れた。



(ごめんなさい。

いくら信じてもらえないだろからって、親友に嘘を付き続けるなんて私には無理だよ・・・)


泉美は神妙な面持ちで、瑞希を見た。


「ごめんね、瑞希・・・分かった、全部話すよ」

「最初からそう言えばいいのよ」


瑞希は泉美から視線を逸らさずに言った。

だが、頬を伝う涙に気が付くと、彼女は慌てて顔をそらしティッシュで涙を拭いた。


「・・・それで、本当は何があったの?」

「うん、ちゃんと話すよ。

だけど、瑞希の言ったみたいに小説みたいな話だけど笑ったりしない?」

「小説みたいな話ねぇ。それは楽しみだわ」


瑞希はニヒルに笑った。


「笑わないって言ったじゃん」

「これは楽しみの、笑みよ。フフ」

「左様ですか」


瑞希の返しにあきれ顔になりながら、泉美は左手で口を覆い考え始めた。


「えっと、どこから話せばいいかな?

まずは私が演劇部の公演でやる役が決まった時からだなぁ~」




時は6ヶ月前、泉美達が通う桜門高校の部室から始まる。

≪人物紹介≫


主人公

春野(はるの) 泉美(いずみ)


本作品の主人公、6ヶ月間行方不明になっていた。

紫紺色(しこんいろ)という紫色の髪に青い瞳を持つ少女で、その髪をポニーテールにしている。

行方不明になっていた期間に「どこで何をしていたのか?」という警察の問いには「忘れてしまった」と伝えていたが、瑞希に見破られ仕方なく6ヶ月間の話をし始める。




泉美の親友

皆倉(みなくら) 瑞希(みずき)


肩まで伸びた緑色の髪を、長方形のシンプルな、べっ甲のバレッタ(髪留め)を頭の後ろ中央、ヘアゴムまとめた髪の上に付けていて、紫の瞳に銀縁の長方形のメガネをしている少女。

誰に対してもきつく当たる性格で、そのため友人と呼べる人は泉美以外いない。また感情の起伏が少なく、周囲から【能面の瑞希】の異名で呼ばれるくらい無表情か、仏頂面などの怒りの表情や、ニヒルに笑うぐらいしか変化がない。

それは泉美に対しても同じだったが、今回泉美が行方不明になってしまってから、体調を崩し寝込んでしまうほど、心配した。






≪登場用語説明≫


桜門町(さくらもんちょう)

分類:町名


周囲を山々に囲まれた田舎町。

交通機関は発達しているので、田舎町と言われる中ではそれなりに発展している。


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