8枚目・タイムトラベル研究者①
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
「・・・いいだろう。話を聞いてやる」
赤髪の短髪に無精ひげ、タバコを銜えた顔は少し頬がこけて鋭い目つきをしている、長身に白衣を羽織ったヤクザのような風貌の研究者。
男はタバコを入り口に置いてあった灰皿に押し付けると、4人を研究室の中へ招いた。
部屋の中はゴミ袋が山積みになっており、タバコの匂いが充満していた。
「うわ・・・ゴミ屋敷かよ」
「それにスゴイタバコの臭い、換気してないでしょ?」
大樹は思わず鼻をつまむ。
「突き当りの窓開けないの?この部屋?」
「ここは廊下、あの窓は明り取りのために残したもんで、元は広いフロアーをパーテンションで区切っていくつかの部屋にしているんだよ。
居間にしているスペースの窓は開けてやるから文句言うな」
「居間ってこの部屋?」
泉美は扉のない入り口を指さす。
「そこはキッチンだ。居間はこっちだ」
研究者は廊下を進み、途中逆トの字になった分岐点で左に曲がると、4つの扉が並ぶ通路で右奥の扉を開けた。
その部屋の中は、これまたゴチャゴチャで壁に立てられた本棚にはファイルや、むき出しの紙の束が無造作に詰め込まれており、所々に資料が入っていると思われる箱が詰め込まれていた。
「もう少し片づけたらどうなんだ?」
思わずツッコミを入れる泉水に、研究者は「フン」と鼻を鳴らして答えた。
「研究に夢中でな、気づいたらこうなってた。
窓を開けてやるから、テーブルの上、片づけろ」
「ええ・・・私たちが片付けるの?」
「話を聞いてやるんだ少しは協力しろ」
その言葉に泉美は渋々机の上の紙の束に手をかけた。
「うわぁ・・・テーブルの上いっぱいに紙が乗ってる・・・これ全部ゴミ?」
「ゴミじゃねぇよ。未整理の資料だ、そこに山積みしてくれりゃいい」
泉美の質問に研究者は本棚の横、紙が山積みになった一角を指さした。
「あー・・・うん、了解」
「ねぇ、椅子の上にも紙が乗ってるんだけど・・・これも片付けるの?」
「そりゃ、片づけないと座れないし・・・僕も手伝うから片付けよう?」
「もう~」
大樹に促され渋々といった様子で、鈴蘭は椅子の上の書類に手をかけた。
「ちょい待ち!椅子の書類は椅子ごとに種類で分けてあるから、ごちゃ混ぜにするなよ」
「えー!!面倒くさいなぁ~」
鈴蘭と大樹は書類を乗っていた椅子ごとに分けて横に並べて置いた。
その様子を見て納得したのか、研究者は窓のロックを外すとサッシを少しだけ横にずらし、窓を開けた。
「もっとガバッと全開したら?」
「バカ、全開になんかしたらビル風で大惨事になるわ!タバコ臭いって言うから無理して開けてやってんだ!文句言うな」
「・・・すみません」
渋い顔で謝る泉水を見て、研究者は「フン」っと鼻を鳴らした。
やがてテーブルの上と椅子の上の書類を退かし終えると、見計らったように研究者が台拭き持ってきてテーブルと椅子を簡単に拭く。そして、入り口近くの椅子にドカッと座り脚を組んだ。
その様子を見て四人も研究者に倣い椅子に座ることにした。
テーブルは四角形の形をしていたので、研究者の向かい側にイズミ達2人が、左側に泉水、右側に泉美がすわり、泉水の隣であるテーブルの左側に鈴蘭、泉美の横である右側に大樹が座った。
「さてと、じゃあ詳しく話を聞こうじゃないか?」
「私が異世界から来たってことですよね?」
「当たり前だ。
オレが聞きたいことなんて他に無いからな。それで嬢ちゃん・・・名前が分かんねぇと不便だな」
研究者は頭をボリボリと掻きながら、泉美を見て小さく唸った。
「そうですよね。私の名前は泉美【春野 泉美】です。泉に美で泉美です。
隣にいる彼は後回しにして、こっちの男の子から、彼の名前は大樹【春野 大樹】です」
「春野・・・嬢ちゃんの弟・・・の訳がないか」
「弟といえば弟になります・・・」
「ほ~う」
泉美の言葉を聞いた研究者は興味深そうに、泉美と大樹の顔を見比べた。
「それで彼女が・・・」
「【水輝 鈴蘭】みんなからはスズって呼ばれてるよ」
「水輝・・・ああ、大地主の金持ち一族か」
「確かに地主でマンションとかたくさん持ってるから家賃とか入ってくるけど、剣術一族としての方が有名だよ」
「そういやぁ、そうだったな。
それで、そこの坊主の名前は?最後にしたってことは訳ありだろ?」
「ご明察、俺の名前は泉水、隣に座ってる泉美と同じ名前だ」
これにはさすがに驚いたのか、研究者は目を大きく見開いて、組んでいた足を崩し両手をテーブルについて前のめりにイズミ達の顔を見比べてきた。
「俺の名前は【春野 泉水】泉に水と書いて泉水、そこに居る大樹の実の兄だよ」
「こいつは驚いたな!
お前さんの名前と、隣の異世界から来たって言う嬢ちゃんが同じ名前ってことは、そう言うことだろ!!こいつぁ面白れぇな!!」
研究者はにやけながら立ち上がり「ククク」と怪しげな笑い声を上げた。
「それで貴方・・・博士の名前を聞いてもいいですか?」
泉美に博士と言われた研究者は一瞬キョトンとした顔になったが、やがてドカッと椅子に座った。
「オレは博士号を取得してねぇから、博士じゃねぇぜ。
まっ、お前らだけに自己紹介させておいて自分がしないのは良くねぇな。
オレは【大林 素彦】いわゆる異端な研究者だ」
「えっと、素彦さん?」
「さん付けは要らん、だが好きに呼べと言った手前・・・それでも―――」
「じゃあ、博士でいいよね」
突然会話に割って入ってきた鈴蘭を、素彦は呆れたようにジト目で睨みつけた。
「あのな、さっきも言ったがオレは博士号を取得してねぇから博士じゃねぇって」
「じゃあ、研究者?」
「いや・・・」
「じゃあ、研究員?」
「それも・・・」
「じゃあ、モトッチ?」
「っ・・・・・博士でいい」
苦虫を噛み潰したような顔になった博士はうなだれるように頭をガクンっと倒し、鈴蘭の提案を承諾した。
「博士で決まりだね!」
無邪気な笑顔で鈴蘭は、コロコロと笑った。
博士はその顔をジト目で見ながら大きくため息をついた。
「お前らよっぽどお人好しばっかりに助けてもらってきたんだなぁ~。
世の中ってものを知らなすぎるんじゃないか?」
博士の言葉に、鈴蘭はキョトンとした顔になった。
「それって、どういうこと?」
「少しは人を疑えって話さ・・・・・まっ、おかげで仕事はやりやすかったがな」
博士の言葉に、和やかな雰囲気は一瞬にして張り詰める。
鈴蘭も真顔になり、博士に問い詰める。
「それって、どういう意味ですか?」
「フッ、そういうしゃべり方や顔も出来るんじゃねぇか。
なに簡単な話さ、台拭きを取りに消えていた時に『異世界から来た人間がここに来てる』とか情報をリークしたんだ。
今頃、特殊工作員がこのビルの周りに配備されているだろうぜ。
もしかしたら、扉の前で突入準備中かもな」
そう言って博士はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
その言葉に6つの瞳がキッと博士に突き刺さる。
「泉美、スズ」
左右の2人に目配せをし、泉水はテーブルの脚を掴む。
無理やり外せば少々短いが、木刀だと思えば武器としては十分。
「泉美、場合によっては2人で五芒―――」
「博士・・・質の悪い悪戯は止めた方が良いと思うよ?
3人とも水輝流剣術の達人だから、斬りつけられたら怪我じゃすまないよ?」
大樹の言葉に、ピリピリしていた空気は一変した。
「そいつぁ勘弁だなぁ~・・・安易に人を信用しすぎるなって言いたかっただけなんだが、大暴れされた上に怪我させられたらたまらん。
って言うか、オレがウソついてるっていつ気が付いた?」
「・・・そんなのすぐに分かったよ」
博士の言葉に、大樹は少々あきれ顔で答える。
「異世界から来た人間が居るって聞いただけで、特殊工作員送り込む組織がどこにあるのさ?
そもそも日本にそんな組織ないでしょ?警察に言ったところでいたずら電話だって思われてすぐ切られるに決まってるし、万が一そんな組織が日本にあったとしても、連絡の取りようないでしょ?」
「だな、冷静に考えれば普通気が付くわな」
そう言って博士は小ばかにした顔で3人を見る。
小ばかにされた3人は怒りもあったが、それ以上に小学生でも見抜けるような冗談を、うのみにしていた恥ずかしさで顔を真っ赤にしてうつむいてしまっていた。
「付け加えるなら、詳しい話を聞いた今ならまだしも、台拭きを取りに行ったタイミングじゃ何も聞きだしていないのに、そんな状態でリークするなんて情報が少なすぎるしなぁ。
その上、仮に秘密組織なんてものが本当に在っても、オレがリークするメリットがねぇ。
部屋中荒らされた上に、騒ぎを起こしたせいでこの部屋どころか、この町で研究が出来なくなる。ただでさえ異端な研究者って言われて耳が痛いのに、デメリットしか無いことをわざわざする訳がねぇよ」
そう言って博士は肩をすくめた。




