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5枚目・親友の定義④

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫

激しい雨が降る中、春野家の玄関の(ひさし)の下に駆け込んでくる影が二つあった。


「あーもう、家に着く直前に降ってくるとか、勘弁してくれよ!!」

「同感、私なんて、あと30秒くらいで自分の家に着いたって言うのに、よりによって貴方の家の前でいきなり土砂降りの雨が降るなんて、最悪!!」


(ひさし)の下から雨空に向かって文句を言う泉水と、同じく文句を言うのは瑞希だった。


「フウ~、濡れちまったな、タオル持ってくるか?」

「良い、少し濡れたくらいだし、傘貸してもらった方が良い」

「あいよ、ちょっと待ってくれ」


ぶっきらぼうに言ってくる瑞希の言葉を聞き、泉水は傘を取るため玄関の中に入ろうとドアの取っ手に手をかけた。

その時、泉水は庭の方から雨の中を小さな影が、こちらに向かって走ってくるのに気付いた。


「何だ?・・・猫?」


走ってきたのは見た目、黒色の毛をした小柄の猫だった。

その猫は泉水達が居る(ひさし)の下に入ると、ブルブルと体を振り、水しぶきを飛ばした。


「うわっ、何すんだコイツ!!」

「野良猫かしら」


泉水の後ろに隠れて、水しぶきが掛かるのを防いだ瑞希が、彼の背中から顔だけ出して答える。


「オイ・・・」


顔だけ出してくる瑞希を泉水はジト目で睨む。


「瑞希、俺を盾にするなよ」

「男のくせに小さいこと気にしすぎ、モテないわよ」

「ほっとけ・・・

それよりもコイツ何なんだ!?」

「だから、野良猫でしょ?」


瑞希は泉水の後ろから出ると、猫を拾い上げ、腕の中に入れ胸で抱きしめた。


「震えてるわね・・・仕方ない、しばらくこのまま温めてあげるわ」

「瑞希のぺったんこの胸じゃ温まらねぇだろ」

【バキッ】

「ガッ!!」


振り返らずに放った瑞希の裏拳が泉水の顔面にヒットする。


「黙れ。

私はB寄りのAよ、ぺったんこじゃない!」


ドスの利いた声で反論する瑞希に対して、泉水は鼻を抑えながら唸ってうつむいていたが、しばらくして顔を上げた。


「ほ、ほぼ、ぺったんこだろが」

【ドカッ】

「ブッ!!」


今度はくるっと回転しながら振り返る勢いで放った瑞希の拳が、泉水の顔面にめり込む。

大ダメージを負った泉水はその場に尻餅をついてしまった。


「死にたいの?」

「う、うぅぅ・・・ご、ごめんなさい」


今にも本当に殺されそうな殺気を帯びた目で睨んでくる瑞希に、泉水は右手で顔面を抑えながら平謝りするしかなかった。


「まったく、デリカシーがないヤツ。

少しは女心勉強したら?」

「幼馴染に対する、ちょっとしたジョークだろが、本気で殴りやがって、痛ってー」


呆れ顔の瑞希に対して、泉水は鼻頭を抑えながら立ち上がった。


「人の心を傷つけたら、それはもうジョークとは言わないのよ」

「・・・悪かったよ」


いつものトーンで話す瑞希だったが、その言葉に心というキーワードがあったことで、泉水はバツが悪そうに謝った。

その姿を見て、瑞希は「フン」っと鼻を鳴らした。


「分かればいいの、分かればね。

それよりタオルを持ってきて」

「ん?さっきタオルは要らないって言わなかったか?」

「バカ!この()のためよ。さっきから温めているけど、すっかり濡れてしまって、こう濡れていちゃ温まらないわ、だから・・・早く!!」

「わ、分かったよ」


瑞希に怒鳴られ、泉水は慌ててドアを開けて家の中へ入っていった。

そして、数十秒後バスタオルを持って戻ってきた。


「ほらバスタオル、2枚持ってきたぞ」


泉水の言葉に瑞希は眉をひそめる。


「2枚?1枚で十分でしょ?」

「もう1枚は瑞希にだよ。ちょっととはいえ瑞希も雨でぬれたんだから寒いだろ」


そういうと泉水は持っていたバスタオルを広げ、瑞希の頭の上に乗せて、わしゃわしゃと手荒く拭いてあげた。


「・・・ふん、余計なことを」

「ハァー、素直に「ありがとう」くらい言えないかねぇ」

「そんなこと思っていても、素直に言うはずないでしょ?何年腐れ縁してると思ってるの?

いい加減人の性格ぐらい分かりなさい」

「そうだな()()()()()()()()()()()()()()、そういう性格なんだよな」

「・・・なに、上げ足でも取ったつもり?」


髪を拭き終わったタオルを手に笑顔で言ってくる泉水を、瑞希はギョロっと鋭い視線で睨みつける。

そんな瑞希の視線など気にならないと言った様子で、泉水は肩をすくめる。


「本当のことだろ?親友の心根ぐらい分かってるよ」

「・・・勝手に言ってなさい!」


ニヤニヤとバカにしたような態度の泉水を、瑞希は歯をギリギリと鳴らしながら睨みつけた。

だが、すぐにプイッと視線を逸らし、泉水が持ってきたもう1つのバスタオルを乱暴に奪い取ると猫を包んであげると優しく拭き始めた。


「でも、時々お礼ぐらい素直に言葉にして欲しいと思っちゃうよなぁ~」

「ニャー!」

「お、鳴いた。コイツも「そうだよ」って言ってるんじゃないか?」


ケラケラと笑いながら言う泉水、だがすぐに腕を掲げ身構える。

すぐに瑞希が大激怒し拳が飛んでくると思っていたからの行動だったのだが、そんな泉水の予想に反し一向に怒鳴り声も拳も飛んでこず、逆に意外な一言が聞こえてきた。


「・・・ありがとう」

「な、なんだよ、いきなり素直になったな」


棒読み気味ながらお礼を言ってくる瑞希に、ぎこちない笑顔になりながらも泉水は彼女の肩に手を置いた。

だが肝心の瑞希は泉水のことなど意に介さず、目を見開いて驚いた表情のまま、猫を見つめ固まっていた。

やがて口を開いた瑞希は驚きの声のまま反論し始めた。


「違う私じゃない」

「いや、今の瑞希の声だろ?」

「この()が言ったのよ!この()が言った言葉を私は言い直しただけ!」

「・・・何言ってんだ・・・大丈夫か?」


瑞希の必死ながら信じがたい主張に、泉水は戸惑いを隠せなかった。

瑞希の訳の分からない主張に戸惑いながら、泉水は瑞希の額に右手を当ててみた。


「熱はないな」

「私は正気よ!本当にこの()が喋ったの!!」

「猫が喋る訳ないだろ?現に俺の耳にはニャーとしか聞こえないぞ??」

「そんな・・・私にしか聞こえてないの!?」


瑞希は必死に訴えるが、泉水にまったく信じてもらえないと分かると、抱いていた猫の顔を自分の顔の前まで持ち上げて、険しい表情で話しかけ始めた。


「ねえ、今『ありがとう』って言ったわよね?」

「ニャー」

「ほら!!『うん言ったよ』って!!」

「いや・・・俺にはやっぱりニャーとしか聞こえないんだが・・・ホントに大丈夫か?」

「そんな・・・」


やはり信じてもらえないと分かった瞬間、瑞希は今まで見たことがないくらいの狼狽(ろうばい)した表情で訴えてきた。


「確かに聞こえるの・・・本当なの!!」

「わ、分かった、分かったから!顔が近いって!!」


あまりにも近くに顔を近づけてくる瑞希に、落ち着くように言い聞かせ、泉水は彼女の両肩を掴んで引きはがした。

余りにも必死に訴えてくる瑞希に、まったく信じられなかったが、とりあえず話だけでも聞こうと泉水は話し出した。


「とにかく、今分かってんのはこの猫が言ってることが、瑞希にしか聞こえないってことだな・・・具体的にはどう聞こえてるんだ?

鳴き声に聞こえなくて言葉に聞こえるのか?」

「違う、何て言えばいいのか・・・ニャーって鳴き声は聞こえてるの。

鳴き声と一緒に・・・聞こえる?・・・ちょっと違うわね・・・頭の中に・・・頭の中に響く・・・そう、頭の中に声が響く感じ!!」

「頭の中に声が響く・・・それだけ聞いてると、テレパシーみたいだな」

「テレパシー・・・そうよ!テレパシーみたいに頭の中に男の子の声が響くの!!」

「テレパシーかぁ~・・・不思議なことも、あるもんなんだな」

「・・・顔に絶対嘘だって書いてある」

「いや、そんなことないって」


右手を左右に振りながら半笑いで否定する泉水を、瑞希はジト目で睨んだ。

同時に別の視線が自分に向けられていることに、泉水は気づいていなかった。


「ニャー・・・」

「ええ、ウソね」

「ニャー、ニャー?」

「う~ん、あなたの言葉が分かるって証明の仕様がないし、完全には無理じゃない?」

「ニャー・・・ニャー!」

「え?」


猫が鳴き始めたときから、猫に視線を移していた瑞希は、不意に顔を上げ泉水の顔を見た。

そこには驚きのあまり口がふさがらない様子の泉水が居た。


「お、お前ら完全に会話してたよな」

「ふぅ、やっと信じてくれた?」


瑞希はため息交じりに、泉水をジト目で見つめた。


「さ、さすがに今のやり取り見てたら、信じる気になったよ。

ちなみになんて話してたんだ?」

「え~っと最初から再現すると・・・

『ウソだね』

『ええ、ウソね』

『どうすれば、信じてくれるかな?』

『証明の仕様がないし、完全には無理じゃない?』

『そっか・・・わっ!ねえ見て!』

『え?』って感じね」


瑞希は猫とのやり取りをコロコロと表情を変えながら、説明してくれた。


「そんなやり取りしてたのかよ・・・。

(うん?・・・何か引っかかったような?・・・まぁいいか)」


瑞希の話に違和感を感じた泉水だったが、違和感の正体が何なのか分からないため、気にせず話を続けることにした。


「それはそうとこの猫、人間の言葉が分かるんだな」

「そう言われれば、そうね・・・。

ねえ、あなた野良猫?」

「ニャー」

「『元飼い猫だよ』・・・ねぇ~?

・・・元ってことは、今は野良なの?」

「ニャ、ニャ~・・・ニャー」

「・・・歯切れが悪い答えね」

「何だって?」

「『え、え~っと・・・野良だよ』って言ってる」

「本当に歯切れ悪いな・・・エサだけもらってるってことか?」

「ニャー」

「うむ『そんなところ』って言ってる」

「なるほどな、なら名前とかあるのか?エサをもらっている時に呼ばれてる名前とか、前の飼い主に付けられた名前とかさ」

「・・・ニャー、ニャー」

「『ルーン、飼い猫だったころの名前』だって、いい名前ね」

「ニャ、ニャー、ニャー」

「『へっ、へへへ、いい名前でしょ』だって」


嬉しそうなルーンの言葉に合わせるように、明るい声で訳す瑞希だったが、すぐに眉間にしわを寄せてルーンに質問をした。


「そんなに気に入った名前をもらったなら、何であなたは野良になったの?前のご主人のところから逃げてきたの?」


瑞希がそう聞くと、ルーンは耳をペタンと下げ、下を向いて明らかに落ち込んでしまった。


「ニャー・・・」

「!!

ごめん、それ以上は無理に言わなくていいわ」


思いつめた顔で謝ると、瑞希はルーンをギュッと抱きしめた。

その様子に泉水も難しい顔で、瑞希に話しかけた。


「・・・ルーンは何て?」


泉水の質問に、瑞希は言いにくそうに口を開いた。


「『お姉ちゃんは・・・』って言ってる。

言いにくそうな声のトーンでね。

それに明らかに落ち込んでる暗い様子から見て、多分そのお姉ちゃんって人は、もう天国へ・・・」

「・・・そっか、勘が良い瑞希が言うなら、そうなんだろう・・・悪いこと聞いたな、ゴメンよ」


バツが悪そうにルーンの顔を覗き込むと、泉水は心から謝った。

そんな泉水に対し、心なしかルーンは微笑んだ気がした。


「ニャー、ニャー」

「『いいよ、泉水』・・・私たちの会話から、名前を覚えたのね。人間の言葉が分かるだけじゃなくて、頭もいいのね」

「ニャー、ニャー」

「そう、私の名前は瑞希・・・ちなみに今は『うん、そうだよ、瑞希』って言ったわ」

「ニャー・・・」

「フフ、ありがとう」

「何て言ったんだ?」


少し広角を上げる瑞希に、泉水は少しキョトンとして聞いてみた。


「・・・『瑞希の匂い、お姉ちゃんに似てる。落ち着く・・・』だって」

「はは、やっぱり子猫だな、甘えん坊だ」


小さなルーンらしい可愛らしい発言に、泉水は笑いながら話す。

だが、そんな彼をルーンが睨みつけて鳴いた。


「ニャー!ニャー!!」

「あら、そうなの?・・・『子猫じゃない!ボクは大人だ!!』だって」

「わ、悪かったよ。小さい黒猫だから子供だと思って―――」


そこまで言った泉水の言葉をルーンが遮るように、再び興奮しながら鳴いた。


「ニャー!?ニャー!シャー!!」

「な、なんだよ・・・怒ってんのか?」

「あー・・・『黒!?黒じゃない!ボクの毛色は濃紺だ!!』ですって」

「濃紺??」


泉水はルーンの顔をジッと覗き込むように、毛の色を確認してみた。


「う~ん、雨雲で暗いから黒にしか見えねぇ」

「確かに黒色にしか見えないわね」

「ニャー・・・」

「『瑞希まで・・・』フフ、ごめんなさいね。明るいところなら、分かると思うんだけど」


ルーンの反応に目を細めて笑う瑞希、その姿に泉水が驚きの声を上げた。


「み、瑞希が笑った!?

瑞希、今笑ってるよな??」

「えっ?」


目を見開いて驚く泉水の言葉に、瑞希は慌てて鞄の中からコンパクトを取り出し、鏡で自分の顔を確認した。


「わ、私笑ってる!?」

「・・・瑞希が笑ってる姿、久しぶりに見た・・・初めて会った時以来だ」


瑞希は父親の事故以来、怒りや憎しみ、憐れみなど()の表情以外、見せることが一切なくなっていた。

人を馬鹿にしてニヒルに笑うことはあっても、笑顔など(せい)の表情を見せることなど一切なくなってしまった。

幼い彼女と出会った翌日に起きた事故によって彼女は、心が壊れるとともに(せい)の感情を失ってしまっていたのだ。


「心が・・・感情が戻ったのか!?」

「・・・たぶん違う、一時的なものだと思う」


自分の頬を触れながら信じられなという表情で、瑞希は答える。


「この()と話している間だけ、気持ちが軽くなる感じがしたから、そのせいだと思う」

「この猫のおかげってことか・・・。

そっか!さっきの違和感が何だったのか分かった!!

瑞希がいつもの無表情じゃなくて、表情豊かだったからだ!いつもだったらほとんど変わらないのに、あんなにコロコロ表情が変わる瑞希を見たのは初めて会った時から、ずっと見たことなかったからだ!!」

「そんな叫ばなくてもいいじゃない」


瑞希は少し呆れ顔で泉水を見た。

だが、すぐに小さく息を吐いた。


「まぁ、驚きたくなる気持ちは分からなくはないわ。自分のことながら自分で驚いてるし」

「・・・つくづく不思議な猫だな」


泉水は深刻な顔で瑞希に抱かれているルーンをしばらく見つめた。

そのまま何か考え始めた。やがて意外な提案を瑞希にしてきた。


「なぁこの猫、瑞希のウチで飼う訳にはいかないか?」

「えっ?このルーン()を?」

「この猫・・・ルーンと接することで、瑞希の心が一時的にでも治るなら一緒に暮らせば完全に治るんじゃないか?

この猫・・・ルーンだって瑞希に懐いてるみたいだし、なぁ、ルーン?」

「ニャー!」


笑顔の泉水に話を振られたルーンは『うん』と答えたのだろう、元気よく鳴いた。


「・・・ありがとう。私の心が治るかどうかは別として、好きになってくれたのは素直にうれしいわ」


笑顔で答える瑞希。だがすぐに顔を曇らせた。


「だけど、飼うのは無理。だってママは・・・」

「ニャー・・・」

「えっ?・・・ええ、ママは猫アレルギーだけど、何でアナタがそれを知ってるの!?」

「ニャ!?・・・ニャー」

「『たまたま知ったんだ』って・・・猫コロニーでは、どこの人が猫アレルギーかって情報交換でもされているの?」

「ニャー、ニャー」

「・・・本当に?」

「ニャー」


ジト目でルーンを睨む瑞希。そんな瑞希に泉水は渋い顔で話しかけた。


「なぁ、瑞希、訳してくれなきゃ何を話してるんだか分かんないんだけど・・・」

「ああ、そっか・・・

ハァー、面倒くさい」


泉水の指摘に瑞希は、心底面倒くさそうに横を向いてため息をついた。

その後、面倒くさそうな顔のまま説明をし始めた。


「えっと・・・最初はあなたの呼びかけに『うん!』って、答えて。

その後、私が飼えない理由を言おうとしたら『猫アレルギーなんだよね・・・』って、言ったの。

それで私が驚いて聞き返したら『え!?・・・たまたま知ったんだ』って、答えて。

その後、私が情報交換でもしているの?って、聞いたら『そうじゃないけど、たまたま友達の猫に聞いたんだ』と答えてきて。

本当に?って、聞いたら『本当だよ』って答えてきたって感じよ」


よほど面倒だったのか、先ほどとは違い瑞希は無表情で淡々と説明してくれた。

その後、少し困ったような表情になり、話始めた。


「とにかく、ウチでは飼えないわ。ママに会わないように、遊びに来てくれる分には構わないけど・・・」


そこまで言って、瑞希はハッと思いついた様子で泉水の方を見て逆に提案してきた。


「ねえ、いっそのこと泉水の家で飼うのはどう?」

「俺ん()で!?」

「お隣だから私の家からも近いし、ルーンもあなたのこと好きみたいだし、ねえ、ルーン?」


少し微笑みながら話しかける瑞希に、ルーンは元気よく答える。


「ニャー!ニャー」

「ほら『うん!泉水のことも好きだよ』って言ってる」

「そうなのか?

別に好かれるようなことした覚えはないけど・・・」

「ニャー」

「『タオルを持ってきてくれた』だって」

「瑞希に頼まれたから持ってきたんだから、そんな当たり前にしたことを感謝されてもなぁ」

「いいじゃない、あなたが飼えば、私はいつでもルーンに会える、ルーンは温かい家とご飯がもらえる、あなたは・・・カワイイ家族が増えるってことで」


そう言ってほほ笑む瑞希に、泉水は苦笑しながら答える。


「最後は無理やりだろ。

でもまぁ、母さんとかペット欲しいねとか言ってたし、話をすればノリノリで飼うって話になりそうだけど・・・」

「ならいいじゃない。一石三鳥ってことで、決まりね」

「ニャー!!」

「ハァー、母さんや家族に聞くだけ聞いてみるよ。

ちなみに、ルーンは今なんて?」

「『やったー!!』だって」

「いや、まだ決まった訳じゃないんだが・・・」

「ニャー」

「・・・『きっと大丈夫』って言ってる。

・・・なんか妙に自信満々な言い方」




ルーンが断言したとおり、母を含め家族全員がルーンを飼うことに賛成し、改めてルーンは春野家の飼い猫となった。


ただ、瑞希が想像した通りにはならなかった。

ルーンは時々、家を抜け出し1日から長い時は1ヶ月ほど帰ってこないことが度々あった。

そのため、瑞希がルーンに毎日会うことは出来なかった。

それを不満に思った瑞希がルーンに詰め寄ることがあったが、瑞希いわくルーンは理由を聞いても『秘密』の一点張りで、まったく理由を教えてはくれないという。

そのうち元野良猫だからと、泉水も瑞希も気にすることは無くなっていった。


それでもルーンと触れ合うとき、瑞希には笑顔が戻ることには変わりなく、泉水はそのことを心底喜んだ。

このまま瑞希の心が癒され、元に戻ればと願い続けた泉水だったが、現在に至るまで瑞希の心が戻ることは無かった。


≪人物紹介≫


瑞希の母


緑色の髪をミディアムしていて、濃い紫色の瞳が特徴の瑞希の母親。

単身赴任で家に居ない夫に代わり、家を支えていた女性。

夫の死後は、それまで以上に娘と家を支え、女手一つで瑞希を育て上げた。




瑞希の父


アメリカに単身赴任していた瑞希の父親。

娘が小学校に入学するのを機に日本に戻り、一緒に住むと約束していた。だが、不慮の飛行機事故で帰らぬ人になってしまう。

瑞希に入学祝として送った、べっ甲のバレッタが形見の品となってしまった。




イズミ達の弟

春野(はるの) 大樹(だいき)」その③


泉美と泉水、それぞれのイズミが瑞希と出会った当時は、1歳にも満たない赤ちゃんだった。




泉美の親友

皆倉(みなくら) 瑞希(みずき)」その②


美人だが、口を開けば毒舌を吐き、誰とも仲良くしようとしない彼女だが、元からこのような性格ではなかった。

小学校の入学直前に泉美と泉水、それぞれの世界のイズミの家の隣に引っ越してきた彼女は、とても人懐っこく明るい性格で泉水、そして泉美それぞれの世界ではあるが、どちらの世界のイズミともすぐに仲良くなった。

しかし、引っ越してきた次の日、父親が飛行機事故で亡くなったニュースを見てしまう。

瑞希の幼い心はそのショックに耐えられず壊れてしまった。

それ以来、親しい人間をつくることを極端に恐れ、親友の契りを交わした泉水と泉美にも冷たい態度をとるようになる。

しかし、どんなに冷たい態度をとっても、泉水も泉美も彼女を親友だと言って離れることはなかった。


ちなみに胸のサイズはB寄りのAカップで、コンプレックス。




春野家のペットの猫

「ルーン」その②


一年ほど前、泉水の世界では、雨が降る日に玄関の(ひさし)にずぶぬれで走り込んできたことがきっかけで、泉水の家の飼い猫となった。


瑞希によるとルーンの鳴き声が言葉に聞こえるらしい。

正確には鳴き声と一緒に頭の中に声が響く、まるでテレパシーのような状態ということだが詳しいことは分からない。

また、瑞希はルーンと触れ合っている一時だけ心が戻り、笑顔など豊かな表情や、優しい言葉を言うようになる。


またルーンは時々、家に帰ってこない日があり、その期間は1日から長い時は1ヶ月ほど。

疑問に思った瑞希が理由を聞いたことがあるのだが『秘密』と言うばかりで、まったく理由を教えてはくれなかったらしい。

だが、元野良猫だからと、泉水も瑞希も気にすることは無くなっていった。







≪登場用語説明≫


べっ甲のバレッタ

分類:髪留め・形見のプレゼント


瑞希の父親が、小学校への入学祝に瑞希に送ったプレゼント。

べっ甲でできた長方形のシンプルなデザインで、風呂に入る時や眠るとき以外は常に髪に着けている瑞希の宝物。

父親が飛行機事故で無くなってしまったため、父親の形見となってしまった。


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