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5枚目・親友の定義③

小説の構成順番を直すために投稿し直しました。

2024年7月15日

服を着た猫

その日のお昼が終わり、しばらく経った頃・・・



【ピンポーン】

「瑞希ちゃん、あそぼ!!」


無邪気な笑顔でチャイムを押すと、泉水は元気よく瑞希を呼んだ。


【ガチャ】

「あ、瑞希ちゃ―――」


チャイムを鳴らして数十秒後、玄関の扉がゆっくりと開き瑞希が姿を現した。

だがその姿を見て、泉水は絶句してしまった。

彼の前に現れた瑞希は生気のない瞳で、その表情はまるで能面のように無表情、まさに動く人形のようだった。


「ど、どうしたの?」


前日の人懐っこい笑顔の彼女から変貌したその姿に、泉水は驚きを隠せず彼女に駆け寄る。


「具合でも悪いの?」

「違う・・・」

「じゃ、じゃあどうしたの?」

「どうもしない。

悪いけど今日は遊びたくない、帰って」


瑞希はそのまま振り返り、家の中へ戻ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


冷たく突き放すような瑞希に、泉水は思わず腕を掴んでいた。


「何かあったんでしょ?」


泉水は心から心配しながら話しかけた。

だが瑞希は振り返ることなく冷たく言い放った。


「何でもない」

「そんな訳ないでしょ!?

昨日までの瑞希ちゃんと全然違う!何か嫌なことがあったんでしょ!?」

「離して・・・」

「何があったの?僕たち親友でしょ!?」

「離してって言ってるでしょ!!」


瑞希は声を荒らげると同時に泉水の手を乱暴に振りほどき、振り返って泉水を見た。

睨みつけるように泉水を見る瑞希は、子供とは思えないような形相(ぎょうそう)で歯を食いしばり、目には怒りが滲んでいた。


「何でもないって言ってるのに、うるさい!!」

「で、でも昨日までパパが帰ってくるって、あんなに嬉しそうだったのに、そんな顔してるなんてやっぱりおかしいよ!」

「ほっといて・・・」

「ほっておけないよ!親友なんだから!!」

「・・・親友なんて」


泉水の心からの叫びに対し、瑞希の声はポツリとつぶやいた。

その声は余りにも小声だったので、泉水の耳には届かなかった。


「えっ?今なんて?」

「・・・話したら帰ってくれる?」

「う、うん、お話し聞いて帰った方が良いと思えば、今日は帰るよ」


諦めたような声の瑞希の言葉に、泉水はただうなずくしかなかった。

そんな泉水の言葉を聞いた瑞希は、小さくため息をついてから、ゆっくりと話し出した。


「朝、テレビ見た?」

「ううん、見てない」

「朝のテレビで見たの、パパが乗ってた飛行機が落ちて燃えてるの・・・」

「そ、それって」

「パパが死んじゃったの。

今日帰ってくるって言ってたのに、これからはずっと一緒だって言ってたのに!」


初めは淡々と話していた瑞希の声は、徐々に叫び声に変わっていく。



「パパは嘘つきになった!!!」



泉水に向かって叫ぶ瑞希の声には、怒りが滲んでいた。


「これからはずっと一緒だって言ったのに!!」


涙を流すことなく、怒りを爆発させる瑞希。

だが次の言葉は、まるで怒りの炎が消えたように、落ち着いた口調に戻っていた。


「パパが死んじゃったって分かってから、ずっとお胸が痛いの。

前にママが言ってた『大切な人を無くすと心が痛くなるのよ』って、この痛いのはお胸じゃなくて心が痛いんだって気づいた。

痛くて痛くて死んじゃいそうなくらい痛い、大切な人が死んじゃうとこんなにも心が痛いんだって分かった。

だから私は大切な人なんてもう要らない、私はもう親友なんていない方が良い」


淡々と話し続けた瑞希だったが、次の瞬間両手を握りしめて、叫んだ。



「私は親友なんて要らない!!」



うつむきながら叫んだ瑞希はゆっくりと顔を上げると、再び無表情になり言った。


「私のこと・・・親友って言うの・・・止めて」

「み、瑞希ちゃん!」

「もう親友でも、友達でもないのに名前で呼ばないで!!」


今にも飛び掛かりそうな勢いで叫ぶ瑞希に対して、泉水は泣きそうな顔になりながら、言葉を続けた。


「僕は・・・僕はそれでも瑞希ちゃんの親友だよ」

「何で・・・」


瑞希は怒りの表情から一転、憎しみの表情に変わっていく。


「何でそんなこと言うの!!私は要らないって言ってるの!

どうして!・・・どうして私を苦しくさせるの!!」

「僕は瑞希ちゃんを苦しくさせたいんじゃない!瑞希ちゃんを助けたいんだ!!」

「それが嫌だって言ってるの!!私は大切な人が居るのが、怖いの!

泉水君がこのまま親友で、もしも死んじゃったらどうしよう!!

消えちゃったらどうしよう!!!

そう考えると怖いの!!」


憎しみに満ちた声は、やがて苦しげな声に変わっていた。


「私きっともう笑えない、心が壊れちゃったから・・・。

もしも、大切な人が死んじゃったり、消えちゃったら、今よりももっと心が壊れちゃう。

今よりももっと心が壊れたらきっと、私は死んじゃうかもしれない。

だからお願い・・・私の大切な人にならないで」


そう言うと瑞希は顔を逸らせた。

そんな瑞希を見て、泉水は目をつぶってうつむく。しばらくして、顔を上げた泉水は意を決し話し始めた。


「瑞希ちゃんの気持ちは分かったよ」

「そう、じゃあもう帰―――」

「だけど、やっぱり僕は瑞希ちゃんの親友をやめたくない」


予想外の言葉に瑞希は再び叫んだ。


「どうして!?

分かってくれたんじゃないの!?」


掴みかかりそうな勢いで睨みつけてくる瑞希に、泉水は目を逸らすことなく答える。


「僕が親友じゃなくなっても、瑞希ちゃんの大切な人は無くならないよ。

瑞希ちゃんにはまだママがいるんだから」

「それは・・・そうだけど」


痛い所を突かれ、思わず目を背ける瑞希。


「それに、これから好きになる男の子だって出来るだろうし、その人と結婚して子供だって生まれるかもしれない。

大切になる人は、これからどんどん増えるんだよ」

「わ、私はもう誰かを好きになるつもりなんてない!!」

「確かに、そうかもしれない。だけど心が元に戻れば、きっと瑞希ちゃんは誰かを好きになれるはずだよ。

僕は親友として、友達よりも仲がいい友達として、瑞希ちゃんを支えたい。

もう一度瑞希ちゃんが笑えるように、瑞希ちゃんの心を直したいんだ。

だからお願い、僕を親友で居させて」


その言葉が泉水の心からの訴えであることは、瑞希にも伝わった。

だからこそ反論しようと、瑞希は口をパクパクさせながら言葉を探したが、反論の言葉は出なかった。

瑞希は怒りとも悲しみとも取れない顔をした後、背を向けて叫ぶように言った。


「好きにすれば!!」


叫んだ瑞希は地団太(じだんだ)を踏みながら、勢いよく扉を開き中へ入ろうとする。

その背中に泉水の明るい声が届いた。


「瑞希ちゃん!明日、入学式出るよね?・・・僕、明日の朝ここで待ってるから、友達として、親友としてずっと待ってるから」


その言葉に瑞希は振り返ることなく冷たい声で答えた。


「・・・ずっと待たれるのは邪魔・・・だから、行ってあげる」

「うん!約束だよ!!」


瑞希の背中に泉水は笑顔で答えた。


「そうだ、指切りげんまんする?」

「しない!」


背中越しに叫ぶと、瑞希は勢いよくドアを閉めた。



時を同じくして、別世界の住人である、泉美と瑞希も言い争いをしていた。


親友をやめたいと言う瑞希の訴えに、泉美は彼女を支えたい、心を直したいと訴え続け、根負けした瑞希は泉美が親友であり続けることを認めた。




どちらの世界の瑞希も大切な存在である父を失い、心が壊れてしまった。

そして、大切な存在が増えることを恐れ、親友となった友を遠ざけようとした。

だが、どちらの世界のイズミ・・・泉水も、泉美も、瑞希と共に歩むことを望み、どちらの世界の瑞希もそれを渋々受け入れた。




それから10年、瑞希は人を遠ざけるように、誰にもきつく当たるようになった。

残った心がこれ以上傷つかないように、大切な人が出来ないように、毒を吐き続け、だれ1人友達を作ろうとしなかった。

だがイズミ・・・泉水と、泉美だけは、どんなに毒舌を浴びせられても、暴言を言われようとも、変わらず彼女を親友と言い寄り添い続けた。


その関係は泉水が一人称を僕から俺に代え、瑞希がメガネをかけ、お互いが呼び捨てになっても、変わることは無かった。


そして、別世界の泉美も、瑞希がメガネをかけるようになり、お互いが呼び捨てになっても、変わることは無かった。




「私の心を直すため、あなたは親友であり続けている」

「うん・・・」

「そのきっかけは私が親友になりたいと言ったから」

「うん・・・」

「泉水も同じ?」

「ああ、俺も瑞希を今も親友と思ってる。そのきっかけはあの言葉だった」


泉美と泉水、2人のイズミ達の言葉に瑞希はため息をつくと、2人を憐れむような目で見た。


「・・・はっ!

とんだ、お笑い種(おわらいぐさ)ね!!」

「瑞希・・・」


あざ笑うように言う瑞希を、泉水は悲しげに見つめた。

そんな泉水を無視するように、瑞希は憐れむような口調で言い続ける。


「あの頃は親友の意味をよく解っていなかった、だけど今なら解る。

親友とはお互いにかけがえのない存在、助け合い、支えあい、たとえ離れ離れになってもその友情が変わらない存在。

そういう存在と互いに認め合ったものが、お互いを親友と呼び合うのよ。

私はあなたの助けになったつもりも、支えてあげたつもりもない!」


最初は憐れむような口調だった瑞希は、最後には怒りをにじませ叫ぶように言った。

だが、そこまで言い終わると、一転してうつむきながら苦しそうに言った。


「だから私は・・・私は・・・・・親友と呼ばれるような存在じゃ・・・ない」


そこまで言って瑞希はテーブルに置いた手をギュッと震わせながら握りしめた。

その姿を見て泉水は意を決したように話し出す。


「俺はずっと瑞希のことを大切な存在だと思ってる。

俺が危ないところを何度も助けてもらったと思ってるし、何度も支えてもらったって感じてる。

俺も瑞希のことを何度も助けたし、支えたと自負してる。だから君は俺の親友で、俺は君の親友だ」


そこまで言って泉水は、声のトーンを下げる。


「だけどもし・・・もしこの思いが一方通行で、瑞希にとって俺が邪魔な存在だったら、一言でいい、言ってくれ、あの時みたいに『親友なんて要らない』って、そうすれば俺は―――」

【バン!!】


泉水の言葉を遮るように、瑞希が両手でテーブルを叩き、勢いよく立ち上がった。


「不愉快!!帰る!!」


そう叫ぶと、瑞希はリビングを出て行ってしまった。

瑞希と入れ替わるように、キッチンから事の成り行きを見守っていたアゲハが飛び出し、泉水に詰め寄る。


「泉水!あなたなんてこと瑞希ちゃんに言うの!!

あなただってあの子の気持ち分かってない訳ないでしょ!?」


母にとがめられ、泉水はバツが悪そうにうつむきながら言った。


「分かってる、分かってるよ!!・・・分かってるけど、それでも確かめたくなるじゃないか・・・自分が本当に瑞希の支えになっていれているのか??

ただ瑞希を苦しめているだけじゃないか!?ずっと変わらない瑞希の態度に、確かめたくなっちまったんだよ・・・」


うつむきながら苦しい胸の内を吐露(とろ)する泉水に、泉美も暗い顔で言う。


「泉水・・・私も時々、自分勝手な思いで、瑞希を苦しめているだけじゃないかって考えることあるよ。

それでも信じてる。

親友で居ることが瑞希のためになってるって、そう信じるしか・・・ないじゃない」


そう言って泉美もうつむいてしまった。

そんな2人を見て母アゲハは2人の肩をポンと叩いた。


「大丈夫、瑞希ちゃんはあなた達が親友で居てくれていること、感謝しているわ。

そうじゃなきゃ

先生に頼まれたから、電話の内容が気になったからって、あなた達に関わろうとする訳ないじゃない。

安心しなさい、彼女もあなた達のこと親友だと思ってるわ」

「母さん・・・ありがとう」

「ありがとう」


泉水と泉美はそれぞれ母にお礼を言った。

うつむいた顔を上げた泉美は、ふと【パラパラ】という音に気づき、窓を見た。その窓には雨粒が当たっており、雨が降り始めていることに気づいた。


「雨・・・瑞希、濡れる前に家に着いたよね」



泉美が瑞希の心配をしてつぶやいていた頃、瑞希はまだ玄関の(ひさし)の下に居た。

怒りに任せて飛び出したものの、彼女はそのまま留まっていたのだった。



『だけどもし・・・もしこの思いが一方通行で、瑞希にとって俺が邪魔な存在だったら、一言言ってくれ『親友なんて要らない』と、あの時みたいに、そうすれば俺は―――』


泉水が苦しそうに言った言葉を思い出しながら、瑞希は大きくため息を吐いた。


「そんなこと・・・言える訳ないじゃない」


悲しげにうつむく瑞希。

その足元へ近づいてくる小さな影があった。


「ニャー・・・」

「ああ・・・ルーン、どうしたの?」


瑞希はルーンに気づくと、から元気でしゃべりかける。


「ニャー」

「そう、私を心配してわざわざ出てきてくれたの、ありがとう」


瑞希はまるでルーンの言いたいことが分かっているかのように答える。

そしてしゃがむと、ひょいっとルーンを持ち上げ、腕の中に抱きかかえた。

その顔はニッコリと微笑んでいた。

10年前、父親の死と共に失ったはずの瑞希の笑顔、その笑顔がそこにはあった。


「君と出会ったのも、こんな雨の日だったね」

「ニャー」


優しく語り掛ける瑞希にルーンは、同意するように鳴いた。




瑞希とルーンとの出会い、それは約1年前にさかのぼる。


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