4枚目・水輝家会談①
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
一夜明けた、次の日の夕方。
イズミ達と大樹は水輝家の本家に向かっていた。
「お姉ちゃん、そのワンピース似合ってるね」
「そうでしょ!ありがとう。
パンツコーデとも迷ったんだけど、お爺様に会うなら、清楚に見える方が良いかな。と思ってこれにしたんだけど、似合ってるなら良かったよ」
大樹の誉め言葉に、泉美は素直に喜んだ。
そんな泉美の姿を見て、泉水はうなずきながら言った。
「お爺様は、女が男っぽい格好してるのが嫌いな、昔気質だからな」
その発言に大樹は大きくため息をつき、ジト目で力説してきた。
「兄ちゃん、そこは一言『似合ってる、かわいいよ』で良いんだよ」
「そ、そんなこと言えるか!」
「何で?」
「じ、自分が女になった存在に、似合ってるとか、か、かわいい・・・なんて言えるか!
泉美だって俺がカッコいいなんて言えないよな!?」
オロオロしながら同意を求める泉水だったが、泉美はジト目で見てきた。
「ふーん、言えないんだ」
「な、何怒ってんだよ?」
「別に~」
歩みを早める泉美に、泉水は右手で頭をボリボリと掻き「ウー・・・」と唸った後、早口で言った。
「あーもう、すげー似合ってるし、かわいいよ」
「それだけ?」
「それだけって・・・はぁー、今度でいいから、パンツコーデとやらも、見てみたいなぁ~。これでいいか?」
「言わされてる感がすごいけど・・・まぁいいや」
やっと機嫌を直した泉美。
その様子に、泉水はやれやれといった顔でため息をついた。
そんな他愛のない話をしながらしばらく歩いていると、3人の前に立派な門構えの屋敷が見えてきた。
巨大なお屋敷の入り口である門は、まるで時代劇のお屋敷の入り口を連想させる巨大な門。
巨大な水輝流剣術道場の看板の横に小さく水輝の表札が張り付けられた門は、剣術道場へ通う者たちのために全開に開けられている。
普通はそのまま道場へ向かうのだが、あえて泉水はその門の柱に設置してあるカメラ付きインターホンに近づきボタンを押した。
【ピンポーン】
インターホンを鳴らしてすぐに女性の声が、スピーカーから聞こえてきた。
『はい・・・これは泉水様!こんばんは。
剣術道場に直接ではなく、インターホンを使われるという事は、お屋敷の方にご用事ですか?』
「ええ、おじ―――」
お手伝いの年配の女性の質問に対し、丁寧な口調で答えようとした泉水だったが、その声を遮るように元気な女の子の声が飛び込んできた。
『お兄ちゃんが来てるの!待ってて、今行くから』
『お、お嬢様!!
・・・すみません。止める間もなく、そちらにお嬢様が・・・』
「みたいですね。このまま待ちます」
『申し訳ございません』
申し訳なさそうなお手伝いさんの声の後【ガチャ】という受話器を置く音が聞こえた。
会話を終えてしばらく、時間にして30秒ほどだろうか。
正面に見える屋敷の母屋から、右腕をブンブン振りながら走ってくる元気な女の子の姿が見えてきた。
「お兄ちゃん!道場に行かないで、屋敷の方に用事なんて珍しいね」
泉水をお兄ちゃんと呼ぶ少女は、彼よりだいぶ背が低く髪をツインテールにした、見た目にも元気いっぱいという感じの女の子。
もちろん髪は藍色で、青い瞳をしている。
「ちょっとお爺様に急用でな」
「お爺様に急用?
あれ?大樹君も一緒?」
「こんばんは」
「こんばんは。
叔母さんは?」
「大勢で詰めかけるのもなんだからな、今日は来てない。
それより―――」
泉水が、泉美の方を見るよりも早く、少女は泉美を指さしジト目で言った。
「で、この女何?」
低いトーンの声で指をさされ、泉美はビクッと体を震わす。
「えっと、私は・・・」
「紫紺の髪ってことは、水輝家の血が入ってるみたいだけど!」
ギロリと睨んでくる少女に、悪いことをしたわけでもないのに泉美はタジタジになってしまう。
「わ、私は泉水の―――」
「ああ!今、お兄ちゃんを呼び捨てにした!!
ねえ!何なのこの女!何なの!!」
泉美に対する勢いそのままに、少女は泉水に言い寄る。
少女からの圧力に、泉水はうつむきながら右手で両目を覆いながら大きくため息を吐いた。
「彼女のことで相談をしたくて、お爺様に会いに来たんだ」
「この女のことで、相談!?
うぅぅぅ・・・」
今にも飛び掛からん限りに、唸りながら泉美を睨んでくる少女。
「お兄ちゃんの彼女とか、言うんじゃないでしょうね!?」
「い、いやいやいや!!そういう関係じゃないよ!!
私は―――」
「どういう関係でもいいの!
とにかくお兄ちゃんに、ちょっかいを出したら許さないから!
シャー!!」
歯をむき出しにして、爪と立てるポーズで威嚇する少女、それを見て泉水は再びため息をついた。
「お前は蛇か」
「えー!!蛇って・・・かわいくない。せめて猫って言ってよ!」
「はいはい、お前は猫か」
「棒読み!もうちょっと感情込めてよ」
「はいはい、お前は猫でしゅか?」
「なんで赤ちゃん言葉・・・ちょっと引く」
冷めた目でたじろぐ少女に、泉水は慌てて言った。
「い、いいだろ、ちょっとふざけてみただけだよ。ほら行くぞ」
「あ、待ってよ」
このままではいつまで経っても話が進まないと考えたのか、泉水は半ば強引に話を切り上げ母屋に向かって歩き出した。
そんな泉水の後を少女は慌てた様子で駆け寄り、隣に並ぶと並んで歩いて行く。
「ねえ、あの子って?」
泉美が泉水と並んで歩く少女を指さしながら、大樹に聞くと大樹はさも当たり前という口調で答えた。
「うん、おじいちゃんの孫で、現水輝家本家当主の一人娘。未来の当主の鈴蘭さんだよ」
【水輝 鈴蘭】
前当主【竜水】の孫で、将来的に当主を継ぐことが決定している少女である。
今年で16歳になる桜門高校の一年生で、帰宅部。
本当は泉水が所属している剣道部や、最近兼部することになった演劇部に所属することも考えたが、実家の道場での稽古が忙しすぎて泣く泣く帰宅部になった。
「お姉ちゃんの世界にも居るでしょ?」
「えっと・・・」
大樹の言葉に、泉美は少し困った表情を見せる。
そんな泉美の姿に大樹は何が困るのか分からずキョトンとしてしまった。
しばらく困り顔で考え込む泉美だったが、やがて大樹に質問返しをしてきた。
「ねえ、鴉くんって知ってる?」
「カラスさん?知らない・・・」
予想外な泉美の質問に大樹は面喰ってしまったが、やがて質問の意味に気づき、少し驚きながら聞いた。
「え?もしかしてお姉ちゃんの世界にスズさんいないの?」
「うん、居ない。前当主の孫で、未来の当主は鴉くんだし・・・」
大樹の質問に答えながら、泉美は母屋の入り口に入っていく鈴蘭と呼ばれた少女を見ていた。
「っていうか、今言った【スズさん】ってあの子のことだよね?」
「うん、みんな鈴蘭さんのことを、スズ、スズって呼ぶよ」
大樹の言葉を聞き、再び視線を鈴蘭に向けた泉美だったが、既に彼女は屋敷の奥へと消えていた。
「ふーん、それにしても、鴉くんが居ないってことは・・・あのスズって子が鴉くんの替わりってことかな?」
「うーん、多分そういうことだね。お姉ちゃんの世界とこっちの世界、全く一緒って訳じゃないんだね」
「そうみたい。
それにしても、あの子、泉水のこと・・・フフ」
「お姉ちゃん?」
「ん?」
「何考えてるの?」
何やらニヤニヤとしながら鈴蘭の消えた母屋の入り口を見ている泉美に、大樹はちょっと不安そうに聞いてみた。
「別に~フフフ、これは面白いことになりそう」
「・・・僕は不安になってきたよ」
楽しそうな泉美とは対照的に、大樹は不安げな顔で答えた。
「さてと、私たちもお爺様に会いに行きましょうか?
泉水達がしびれを切らせて呼びに来る前に」
「う、うん、そうだね」
泉美に促され、大樹は泉美と一緒に立派な日本建築である母屋へ向かって歩き出した。
【ジャー・・・カッコン】
日本庭園に造られた鹿威しが静寂の中鳴り響いている。
畳敷きの客間に通されたイズミ達は、今日本家を訪ねた理由を話した。
話し終えてから、既に5分以上、日本庭園は静寂に包まれていた。
【ジャー・・・カッコン】
静寂の中、鹿威しの音だけが一定間隔でなり続けていた。
客間の和室には、入り口側に泉水、大樹、泉美が横並びで座り、その向かいに鈴蘭、そして床の間を背にして男性の老人が鎮座しており、目をつむったまま黙り込んでいた。
【ジャー・・・カッコン】
何度目かも分からなくなってしまった鹿威しの音が鳴り響く中、ついに沈黙に耐えかねて声を上げたのは鈴蘭だった。
「別の世界から来た、イズミってなに!?訳分かんない!!」
「これ、落ち着きなさい、スズ」
「はい・・・」
膝立ちになった鈴蘭をなだめ再び正座させた、男性の老人。
この人物が水輝家、本家前当主【水輝 竜水】齢73歳の貫禄ある前当主である。
その髪は藍色というよりも、白髪交じりの水色で、髪を首の後ろで束ねて止められており、青い瞳とのコントラストが映えている。
そして白い毛の形よく整えられた口ヒゲと、これまた形よく整えられた顎ヒゲが渋さの中にも気品を漂わせていた。
髪の毛の色は一見すると水輝家の人間に見えないが、イズミ達がもつ蒼玉の瞳を通してみればその老人が水輝の血を引く人間であることは確かだった。
この地に住まう【水輝一族】は、剣術で全国的に名をはせる一族で、水輝の苗字を継ぐ者たちは、代々伝統的な付けを行うことで有名である。
具体的には男性には、獣や、伝説の生き物の名前を名付けることが決まりであり。
対して女性は、花や、美しい虫の名前を名付けることが決まりになっている。
この伝統は分家の人間にも当てはまり、その伝統は今も受け継がれている。
そのためイズミ達の母、アゲハは美しい虫の蝶であるアゲハ蝶の名を、鈴蘭は花の名前であるスズランの名を持っている。
そして、泉美の世界にだけ居る、鴉は鳥のカラスの名前を持ち、竜水は伝説の生き物であるリュウの名前を持っているのである。
水輝一族の起源にはいくつかの説があり、一説にはフランスの百年戦争で活躍したジャンヌダルクが処刑される直前に替え玉と入れ替わり、この地へと逃れ水輝と名乗ったという、とんでも説もまことしやかに語られているが、真相は一切不明。
その他にもいくつか説が存在するが、どれも決めて気かけており、決定的な起源は分かっていない。
鈴蘭をなだめた竜水は、泉美に視線を移した。
「泉に美で、泉美であったな?」
「はい」
泉美の口調は最上級の敬意を表すため、自然と厳格なものになる。
「つまり、お主は別の世界から来た。異世界人であると」
「はい」
「そして、ここいる泉水が女として生まれたときの姿だと」
「はい、推測であり、恐らくではありますが」
「つまり実質わしの孫じゃから何か協力して欲しいと、言う訳か?」
「はい、ぶしつけなお願いとは解っておりますが、何卒、助力お願い出来ませんでしょうか?お爺様」
「フム、お爺様か」
確かめるようにつぶやく竜水の反応に、泉美は顔をこわばらせる。
「お気に障りましたか!?
お嫌でしたら別の呼び方を―――」
慌てて頭を下げる泉美、だが、竜水は右手を掲げ穏やかに言った。
「いや、良い。
スズ以外の孫娘に、お爺様と呼ばれるのがくすぐったかっただけじゃ」
竜水は少し微笑むと、泉美の顔を見ながら言った。
「わしに出来ることであれば何でもしよう、申してみるがいい」
「あ、ありがとうございます!」
願ってもない言葉に感謝と安堵した泉美は、感謝の言葉と共に深々と頭を下げた。
「ただし」
「えっ?」
思っても見なかった返しに泉美は頭を上げ、竜水を見た。
「わしと勝負をして、お主の力を見せてもらおう」
「・・・はい!」
一瞬戸惑った表情を見せた泉美だったが、竜水の目を見てはっきりと答えてみせる。
こうして、竜水と泉美の剣による勝負が決定した。




