3枚目・私のドッペルゲンガーと俺のドッペルゲンガー③
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
5人がテーブルにそろったことを確認すると、泉美が話を切り出した。
「まずは皆さんに謝らないと、混乱していたとはいえ、皆さんに冷たく接してしまってすみません」
泉美は深々と、頭を下げる。
「謝らないで、こんな状況じゃ仕方ないわよ」
「ああ、こんな状況だったら、誰だって荒れてしまって当然だ」
母と父の言葉を聞き、泉美は頭を上げた。
「そう言ってもらえて、ありがたいです」
「それはそうと、さっきから何で敬語なんだ?」
父の言葉に、泉美は目を閉じて、小さく「フゥー」と息を吐いてから、3人に視線を移し硬い表情で語り始めた。
「皆さんは、遺伝上は私の知ってる、人間と同じ人です。
だけど、皆さんは私のことを知らない。初めて会った他人も同然、だから敬語を使って話させてもらいました。
今後、皆さんを私が知ってる人と同じとして、接していいなら・・・敬語じゃなくていいなら、そうしたいのですが・・・どうですか?」
「そんな、他人行儀な。
今自分でも言ったじゃないか、遺伝上は自分が知っている人と同じだと、だったら、気にせず自分のことは父さんと呼んでほしい」
「私も母さんって呼んでほしいわ」
父と母は少し悲しげな表情で答えた。
「僕も大樹って名前で呼んでほしい!」
大樹は元気よく笑顔で答える。
それを聞いて、泉美はほっとした様子で、大きく「ハァー」と息を吐いた。
「ありがとう。そうさせてもらうね。
だけど大樹以外は、父さんとか、母さんとは呼べないかな」
「ど、どうして」
「なぜ!?」
予想外の答えに、両親は顔を曇らせて、身を乗り出し聞いてきた。
「え、えっと・・・お父さん、お母さん、って呼んじゃダメ?」
「は?・・・あ、アハハハ、そういうことか!」
「び、びっくりした。もう、好きに呼んでいいに決まってるじゃないの!」
泉美の提案に、強張っていた両親の表情が一気に和らいだ。
「良かった。無理して、父さんとか母さんとか、言わなくちゃならないかと思っちゃって」
「もう、そんなこと気にしなくていいのに」
「母さんの言う通りだ、びっくりしたぞ」
「ごめんなさい」
自然な笑顔で謝る泉美を見て、隣に座った泉水は心から良かったと思った。
そんな楽しそうな雰囲気に惹かれたのか、猫のルーンが泉美の足元へやってきた。
「ニャー?」
泉美の足元で首を傾げ、鳴くルーン。
「ん?・・・ああ、ちゃんと君のこともルーンって呼ぶよ」
「ニャー!」
うれしそうに鳴くルーンを見て、微笑む泉美。と、彼女の隣に座っていた大樹が、身を乗り出して話しかけてきた。
「ねえ、泉美お姉ちゃんのことは、お姉ちゃんでいい?それとも、姉ちゃん?それとも、お姉さん?
僕は、お姉ちゃんって呼びたいんだけど・・・」
「フフ、好きに呼んでいいわよ」
笑顔で泉美が答えると、大樹も満面の笑みで答える。
「じゃあ、お姉ちゃんで!
ねえ、お姉ちゃんは、僕のこと、大樹って呼び捨てしてくれるんだよね?」
「ええ、向こうの世界でも大樹のことは呼び捨てにしてたし」
「やっぱり向こうの世界にも僕が居るんだね!
ねえ、向こうの世界の僕ってどんな奴だった?」
「えっと・・・悪口になっちゃうけど、ちょっと生意気だったかな」
「ほー、どっちの世界でも生意気なのは、変わりないか」
泉水がニヤニヤしながら、大樹を見ると彼は顔を真っ赤にして怒った。
「な、生意気なんかじゃないよ!本当のこと言ってるだけだよ!!」
「その本当のことを言うのが、生意気なんだろ?」
「確かに、正論を並べて、こっちが、ぐぅの音も出ないことを言ってくるのが、生意気に感じてたなぁ~」
「うう・・・じゃ、じゃあ、これからは気を付けるよ」
先ほどの笑顔から一転して、しょんぼりした表情になってしまった大樹。
「どうして?」
「僕、昔からお姉ちゃんが欲しかったから、お姉ちゃんには嫌われたくない。
だから、生意気なこと言わないようにするよ」
「へぇー、こっちの世界の大樹は、お姉さんに憧れがあったのかぁ~。
フフ、別に気にしないからいいよ。ちょっとくらい生意気な方がうれしいし」
「ホント!?」
「ええ」
「じゃあ、普通にするね」
「ええ、そうして・・・それにしても、私の知ってる大樹は、いっつも『兄ちゃんが欲しい、兄ちゃんが良かった。姉ちゃんはつまんない!』って言ってたから、なんか新鮮」
「ええ!!こんなに美人のお姉ちゃんが居るのに、そっちの僕ってイヤな奴だね」
「私、美人かな?
フフ、ありがと」
「ど、どういたしまして」
顔を真っ赤にして、照れる大樹を見て、泉水はニヤニヤと笑った。
そんな楽しく話す空気を一掃するように、父が「ゴホン」と咳払いをしてから話を振ってきた。
「それより今後どうするかを話し合わないか?
泉美は向こうの世界で、桜門高校に通っていたのだろ?」
「あ、はい、通っていました」
まじめな話に、泉美は先ほどまでのフランクな話し方ではなく自然と敬語になる。
「こちらでも通わせてあげたいが、実質戸籍がない泉美を、通わせるのは難しいと思うんだ」
「でしょうね。覚悟はしています」
悲しそうに伏し目がちになる泉美。
その姿を見ながら、父は話を続ける。
「でだ、母さん、お義父さんに相談するのは、どうだろう?」
「お父様に?
そうね。お父様は市の政界に顔が利くし、高校転入に関する手続きも何とかしてもらえるかも!」
「そうだろ?
どうだろう、明日にでも尋ねてみるというのは?」
それを聞いて、泉美はうなずいた。
「分かりました。明日本家に行ってみます」
「ちょっと待った、泉美だけじゃ門前払いされる可能性が高いだろう?
行くのは夕方にして、俺も一緒に行くよ」
「あ、じゃあ僕も一緒に行く」
泉水と大樹が名乗りを上げる中、母も立ち上がった。
「私も―――」
「いや、母さんは残ってくれ、そんなに大勢で押し掛けるものでもないだろう?家のこともあるし」
「・・・それもそうね。残念だけど待ってるわ」
「じゃあ、明日は早めに帰ってくるよ。
あと問題になるのは・・・寝る場所か」
「それだったら、僕たちが用意したよ」
胸を張って言う大樹を見て、泉水は父と母を見た。
「それで居なかったのか・・・でも、うちに空き部屋なんかあったけ?」
不思議そうに考える泉水だったが、すぐに顔を曇らせた。
「・・・まさか」
「ああ、仏間として使ってるあの部屋だ。広さとしては問題ない、泉美が嫌でなければだが」
それを聞き、泉水は泉美に視線を移した。
泉水の視線に気づいた彼女は、少しうなずいた。
「心配してくれてありがとう、私は大丈夫、嫌じゃない」
「まぁ、泉美が嫌じゃなければ、俺が文句を言う訳にはいかないな。
あと問題は・・・」
左手で口を覆い考え始める泉水を見て、今度は母が口を開いた。
「あとは着るものね、明日一緒に買いに行きましょう?」
「えっ?でも・・・」
「いつまでも制服のままという訳にもいかないし、お金なら心配ないわ。明日、日中は暇だから時間はあるし、ね?」
「うん・・・分かった」
泉美は遠慮気味にではあるが、母の提案にうなずいた。
「あとは何かあったかしら?」
考え込む母を見て他の4人も考え始める。と、大樹がふと口を開いた。
「ねえ?ご飯まだ食べてないよね?」
大樹の言葉で他の全員が時計を見た。
「もうこんな時間!?泉水が帰ってくるまで、夕飯は後回しにしましょうって言ってて、この騒ぎで、すっかり忘れてたわ」
母は慌てて、キッチンへ駆け込んだ。
「トンカツ揚げたんだけど、すっかり冷めちゃったわね。今温め直すわ」
そう言って、母は電子レンジにトンカツを入れようとする。
「ああ、揚げ物は、しわくちゃにしたアルミホイルに乗せてオーブントースターで温めた方がサクッとなって良いよ」
そう言いながら、泉水はキッチンに入りアルミホイルの箱を差し出した。
「はい、あと手伝えることある?」
「あら、ありがとう。
じゃあ、お皿用意してくれる。五枚お願いね」
「OK、一、二、三、四、五と・・・ねぇ、ふと思ったんだけどさ?」
「ん?何?」
母はトンカツを乗せるアルミホイルをしわくちゃにしながら返事をする。
そんな母に泉水は少し困ったトーンで言った。
「トンカツ、四人分しかないよね」
「えっ?・・・あ」
固まる母。
その時、キッチンから漏れ聞こえる声を聴いて、泉美がある提案をした。
「え、えっと、わ、私カップラーメンでいいよ。というか、カップラーメンがいいな!」
棒読み気味で苦笑しながら話す泉美を見て、母は強く否定する。
「だ、ダメよ。年頃の女の子が夕飯にカップラーメンなんて!!」
「で、でも・・・」
「あなたはトンカツで、お父さんがカップラーメンを食べればいいわ」
「え゛っ?」
突然、自分の名前が出たことで、変な声が出てしまう父。
「何?あなた、文句でも?」
「いや、ないない。自分こそ、カップラーメンがいいな」
千切りキャベツを切る包丁をチラつかせながら目をギラっと光らせ、凄みのある声で言う母に、棒読みで答える父。
「・・・ごめんなさい。私のために」
頭を下げる泉美を見て、父はその頭を手でポンポンとした。
「顔を上げなさい。こんなことで、家族同士、頭を下げるものじゃない」
「家族・・・」
「そうだろ?」
「うん!」
笑顔で話しかけてくる父に、泉美も笑顔で答えた。
「それにしても、食事の準備が1人分増えるのか~」
泉美は左手で口を覆い、考え始めた。
「ねえ、明日、本家に行くついでに、衣食住の支援を頼むのは、どうかな?
そうすれば食事の用意とかも今のままでいいし、部屋用意してもらって悪いけど、あっちから学校に通った方が近いし、いい考えだと思―――」
「ダメよ!!」
「お、お母さん?」
キッチンから駆け寄ってきた母は、泉美の両肩としっかりと掴んで、険しい表情で言ってきた。
「あなたは、ここから学校に行って、ここに帰ってくるの!いいわね!」
「・・・うん、分かった」
険しい声で言う母に、泉美は何かを悟り、素直にうなずいた。
「そう、それならいいの」
その反応を見て母はほっと胸を撫で下ろし微笑むと、キッチンへと戻っていった。
その姿を見ていた泉水は、カップラーメンの包みを剥がし、中身を取り出していた父に近づいて行った。
「ねえ、母さんおかしくない?」
泉水の言葉に、父は小さくため息をついてから泉水に小声で言った。
「・・・飛世だよ」
「飛世姉ぇ?」
泉水も父に合わせ小声で答える。
「大樹と2人でマットレスにシーツを敷いている間、母さんはずっと飛世の写真を見つめていた。
3人並んで撮った最初で最後の写真を」
「もしかして、泉美と飛世姉ぇを重ねているのか?」
「もしかしなくても、確実にそうだろう。
あの子が生きていたら、今年で20歳だ。泉美に亡き娘の姿を重ねていても不思議じゃない」
「母さん・・・」
泉水はキッチンの母へ視線を移した。
母は楽しそうに笑顔でキャベツを千切りにしていた。
【春野 飛世】
春野家の長女。イズミ達が生まれる約3年前、誕生した。
水輝一族の血を濃く引く者の特徴である、紫紺の髪と蒼玉の瞳を持ったイズミ達の姉である。
春野夫婦の間に産まれた初めの子供は、当初何の障害もなく、元気にすくすく育っていく。
そう、誰もが思っていた。
生後2か月経ったある日、彼女は家のベビーベッドの中で、息をしていないところを発見される。
【乳幼児突然死症候群】医師の診断は、実質死因が原因不明であることを意味していた。
葬儀の時、遺影として置かれたのは、かわいらしい笑顔の写真だった。
その写真はだれが見ても愛らしく、この先の成長が楽しみになる赤ん坊の姿。
その写真に参列者は誰しもが涙した。
そして、その小さな棺の前で人目もはばからず泣き続け取り乱す、母アゲハの姿に参列者はまた涙した。
場所を火葬場に移しても、アゲハは泣き続けた。
やがて、火葬炉の扉を閉めようとした時、アゲハが火葬炉に飛び込もうとする。親族はそれを必死で止め、扉を閉めさせた。
飛世の名をアゲハが叫び続ける中、彼女は骨となって出てきた。
骨上げの時、アゲハの目には涙はなかった。
もはや涙は、涸れ果てていた。
全てが終わって、3年後、新しい命がアゲハに宿った。
この子は必ず幸せにしてみせる、その決意と共に、アゲハは生まれた子供にイズミという名を付け必死で育て上げた。
やがて大きく育った泉美と泉水、別々の世界のイズミ達はそれぞれ、飛世を「飛世姉ぇ」と呼び、幻となった姉に思いを馳せるようになっていた。
だからこそ、泉美も泉水も母の気持ちが痛いほど解った。
食事も終わり、お風呂を済ませ髪を下ろした泉美は母に借りたパジャマに着替え、用意してもらった布団に寝るため、仏間に入った。
そして、小さな仏壇の写真に手を合わせた。
「これから、しばらくお世話になります、飛世姉ぇ」
しばらく祈った後、泉美は床にひかれたマットレスに潜り込んだ。
「これからどうなるんだろう?
向こうのお母さんたち心配してるんだろうな。瑞希は・・・心配してくれてるかな?」
見慣れない天井をしばらく見つめた後、泉美は目を閉じた。
やがて眠気が、彼女の意識を包み込んでいった。
≪人物紹介≫
春野家のペットの猫
「ルーン」
泉美の世界で1年ほど前に、段ボール入って川に流されているのを、瑞希と一緒に見つけ助けた猫で、名前の由来は月を意味する【ムーン】らしい。
そのため泉水の世界のルーンは別の猫で、なぜか泉水と瑞希にしか懐かず、家族にも懐いていない。
そのため泉美も初めは無視されるだろうと思っていたが、なぜか懐いてくれる。
また子猫に見えるがこれでも大人の猫らしく、普通の猫よりも長いしっぽを持ち、そのしっぽの付け根に金色のリングが付いている。
イズミ達の姉
「春野 飛世」
水輝一族の血を濃く引く者の特徴である、紫紺の髪と蒼玉の瞳を持ったイズミ達の姉。
生きていれば今年20歳の誕生日を迎えるはずだった。
生後2か月という若さで、乳幼児突然死症候群という原因不明の乳幼児特有の突然死によりこの世を去った。
泉美の部活の先輩
「神条 舞」その②
桜門神社の敷地である山の麓にある日本家屋が実家であるが、住宅兼社務所を兼任している。
落とし物の鞄を届けに来た泉水に応対した時に、なぜ巫女服を着ていたのかは謎。
主人公
「春野 泉美」その③
当初この世界の家族を拒絶していたが、泉水の一言で心を開こうと努力し始める。
その姿にこの世界の家族も快く受け入れてくれ、家族の一員となった。
甘党で大好物はチョコレート、特にミルクチョコが大好き。
今は亡き姉を、飛世姉ぇと呼んでいる。
もう1人の主人公
「春野 泉水」その②
泉美と同じで一応、剣道部の所属しており腕は凄腕だが、練習相手が舞くらいしか務まらないため実質在籍はしているが自主練のみで、暇をしていた。
そんな時、舞に演劇部の兼任を勧められ、演劇部にも3ヶ月前から席を置いている。
演劇部では、その実力を買われ、舞台【天女物語】の主人公、長二に任命されるが、上手く演じられるか悩んでいる。
甘党で大好物はチョコレート、特にダークチョコが大好き。
今は亡き姉を、飛世姉ぇと呼んでいる。
イズミ達の母
「春野 アゲハ」その②
いつも冷静沈着、優しい性格だが、娘である飛世幼くして亡くした時は、人目をはばからず取り乱した。
イズミ達の弟
「春野 大樹」その②
泉美の居た世界では姉よりも、兄が欲しいと文句を泉美に言っていたが、泉水の世界では姉が欲しいと泉水に文句を言っていたので、異世界から来た姉に喜んでおり、彼女に気に入られようとしている。
≪登場用語説明≫
長二その②
分類:人の名前
舞台【天女物語】の主人公の名前。
泉美の世界では舞が演じる予定だが、泉水の世界では泉水自身が演じる予定。
珀その②
分類:天女の名前
舞台【天女物語】のヒロインの名前。
泉美の世界では泉美が演じるはずだったのだが、泉水の世界では舞が演じる予定。
光の玉(仮名)その②
分類:現象
見た目、月のように光り輝く玉。
観察していた泉水の腕を泉美が掴んでしまい、異世界である泉水の世界に引っ張り込んでしまった。




