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 大きな城のバルコニー

 その前には民衆がいて


 花が舞う


 そこにいるのは綺麗なお姫様と世界を救った勇者様


 全ての人が笑顔だ


 あぁ、私は


 ずっと、これが見たかった。



 私は勇者一行の戦士をやっている。元々は小さな町の盗賊団の用心棒なんぞをやっていたのだが、たまたまやってきた勇者たちによって盗賊団は壊滅させられ、行くあてのなかった私は何故か勇者に拾われ、現在にいたる。


 私を拾った勇者は何を考えているか分からないような奴だ。ただでさえ武骨な大男なのに、その上無口で愛想がない。

 腰に引っさげた伝説の勇者の剣とやらがなければ、こいつこそ盗賊といっても違和感ないくらいだ。

 まぁそこいらの盗賊がどんだけ集まろうが屁でもないほど強いが。

 顔は天使かと見間違えるほど綺麗だし。あんまり笑わないが。


 勇者一行のメンバーは私の他に、神経質そうな神官、勇者を送りだした大国で騎士団長をやっていたらしい騎士、きゃぴきゃぴと少女のような魔法使い(実際一番若い)、そしてエルフの弓使いがいる。

 どいつもこいつも個性が強い奴らで、さすが世界を背負って立つ人間だ、という感じである。


 ちなみに私はこいつらとお仲間ごっこをする気はない。から、いつも一人離れている。

 私は純血の人間じゃないので、向こうも私のことを怖がっているみたいだし、丁度いい。

サラッと言ったが私は半魔である。魔族は人間の敵なので普通はありえない、禁忌の子とかいう重い設定だ。

 唯一エルフの姉さんはケロリとした様子で構ってくるんだが、サバサバあっさりしたもんで、まぁそこそこ上手くやっている。


 私達は魔王を倒すために旅をしている。

 各地で魔獣や魔族を倒しながら少しずつ魔王が支配する土地へと向かっていた。

 幾年か前から魔王の力によって、土地は荒れ、人々は苦しみ、国が滅んだ。


 ある大国は国中から勇者を集い、魔王を斃せる伝説の剣を使えるものを探した。

 剣は真の勇者が持てば光を放つそうだ。それに見事にあてはまったのがこの勇者。

 こうして大国は精鋭とともに勇者を魔王討伐に送りだしたというわけだ。


 そうして旅をして、幾度も魔物を倒し、まぁ私みたいなおまけも加わって、数日前についに魔王領に足を踏み入れた。


 ここまできてなんだが、私は正直、魔王とか魔獣だとかっていうのにはさっぱり興味がない。私に被害がこなければ勝手にやっていろ、という感じだ。


 しかし、私にはこの旅をする目的が他にある。

 私は勇者を幸せにしたいのだ。



 勇者は幸せになるべきだ。

 だっておかしいじゃないか。

 何であいつが1人で世界の命運を全て背負って、傷だらけになりながら見ず知らずの他人のために命を懸けるのだ。

 何度も何度も殺されかけて、おかしいじゃないか。

 世界で一番重大な役割を果たすあいつは、世界で一番幸せにならないといけないだろう。だから私はあいつが死なないように、魔王を倒すまで共に戦うのだ。

 そして無事に戦いが終わったら、国から褒美をもらって、美しいお姫様と結婚なんかしてしまって、あいつがそりゃあもう幸せで幸せでしょうがねぇやあ、と腑抜けた笑顔を晒すのを眺めてやるのだ。


 まぁ助けられた当初は助けてもらったなんて思ってもいなかったし、勇者のことは何考えてるか分からんし、やたらめったら強いしで、正直恐ろしい以外の何物でもなかった。

 不承不承引きずられるようにして旅をしてきたが、いつの間にやら長くもない旅の間にほだされて、こんなことを考えるようになってしまった。


 勇者は

 何考えてるか分からんくせに

 苦しんでいる人間がいたら真っ先に助けに行って


 無愛想なくせに

 他人の幸せを真剣に思って


 やたらめったら強いくせに

 いつも

 ひとりぼっちだ



 私が勇者と出会った時


 私は盗賊団の中で生きることに満足していたのに、奴はそれを壊滅させた。

 盗賊団の被害にあっていた民たちの願いだ、それは分かる。

 しかし、奴は私を殺さなかった。

 全て諦めて、殺せと言った私に現実を見せつけて、お前は生きろと連れ出した。


 私は盗賊団の中にいながら、その盗賊どもからも恐れられ、蔑まれ、良いように利用されていた。


 心のどこかで分かっていた、だが自覚した瞬間に居場所が無くなることも知っていた、だから見て見ぬ振りをしていたのに。


 それを勇者は容赦なく目の前に叩きつけた。



 所詮、魔物と人間の間に産まれた子供だ。

 殺されないだけマシなのだ。

 受け入れられるわけがない。


 そう諦めて、甘んじて、全て憎んで憎まれていた私に、勇者は。




 旅の間に幾度も魔物が声をかけてきた。

 お前は魔物だ、こちらの仲間だ、と。

 その度に勇者は私に言う。


 願うでもない

 祈るでもない

 疑うわけでも

 恐れるわけでもなく



 ただ静かに、まるで事実を言うように。


「お前は、人間だ」


 と。


 尖った耳も、人では有り得ない回復力も知りながら、私自身でさえ言えないことを、奴は堂々とのたまうのだ。

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