69話
桜子は今までの事を親に伝えた。
そして俺と別れて子供を堕ろすように言われた。
「いやです。」
「はあ?!あんた自分が何言ってるか分かってるの?!あんたまだ17よ?!」
「もうここまで来たら堕ろすことは出来ないの。殺人になってしまうわ。」
桜子は子供を産むことを選んだ。
「構わないわよ!強姦されて生まれた子供なんて可愛くないでしょ!それ以前に貴方に子供を育てることなんか出来ないわ。」
「・・・・・」
桜子は何も言わずこの場から立ち去った。
―――――――――
「いいの?」
「なにが?」
「子供だよ。・・産んじゃって。」
子供を産むには若すぎる。
それに俺達はまだ学生だ。
俺はまだ大学生で就職していない。
親には頼れないから経済的にも厳しい。
それ以前にそんな形で産まれた子供に愛情を注げる?
「どんな形で産まれたって構わない。貴方と育てられるならいいの。」
「子供はどう思う?大きくなってこの事実を知ったら・・」
「隠せばいいのよ。それにどう産まれたかよりどう育っていくかの方が大事だと思う。」
本気で産むつもりなんだ。
俺は子供を産むことに反対は出来なかった。
桜子は本気みたいだし桜子の言う通りどう産まれたかよりどう育っていくかの方が大事だ。
産まれた過程がどうであれそれから俺達が子供に愛情を注いでいこう。
そして桜子は親に頭を下げてお金を借りた。
お金を貸す条件として桜子は大学に行くことを言われた。
そして俺はちゃんと大学を卒業して大手の会社で働くことを義務付けられた。俺は迷わず了承した。
俺の両親は桜子が妊娠したと知った途端に俺を家から追い出し絶縁した。
――――――――
あれから数年後
「あら、随分若いお母さんね。」
「きっとヤンキーよ。怖いわねー。子供が可哀想だわ。」
無事に子供が産まれて三人で暮らし始めた。
けど桜子はママ友から孤立していた。
若く産んだからヤンキーだDQNだとか言われて
「おとは!帰るわよー!」
「はーいママ!」
でもちゃんと子育てをしていた。
音羽は比較的明るい性格だったので通ってた保育園での友達は多かった。
「ねえママ、今日は誰がご飯作るの?」
「今日はパパが遅いからママが作るわ。音羽グラタン好きでしょ?」
「・・・うん。わーい!チーズたっぷり入れてね!」
桜子と俺は
いつも順番に家事をしている。
特に大きな問題は無かった。
「まあ!小学校受験?確かにあの子優秀ですもんね!」
「受かるかどうかなんて分からないわよ。」
「うちも小学校受験させるんですよー!」
「あら、お互いに頑張りましょうね?清水さんは?」
「え?うちですか?」
「だって裕福そうだし子供を私立に行かせるくらいの財力はあるでしょ?」
「でも音羽ちゃんはねえ、なんて言うか・・・」
「どう言う意味ですか?」
「別に悪気がある訳じゃないのよ?ただ小・中の受験は倍率高くて厳しいから普通の子には無謀かなって」
「そうそう!ウチの子が言ってたんだけど音羽ちゃんってバカなところあるってねえ。」
「運動神経も悪いらしいわよ?いつも外で遊んでるのに可哀想ねえ。」
ママ友たちは音羽の悪口を次々と言い始めた。
「いい加減にして下さい!失礼にも程がありますよ!親がそんなんだから子供がああなるんですよ!」
「はあ?うちの子の悪口言わないでよ。貴方確か22よね?親が馬鹿だから子供が馬鹿になるんじゃなくて?」
「わたしはちゃんと育てています!」
「ふんっ!どうだか。」
その事件がきっかけで桜子が変わり始めた。
「この文字をなぞってみて?」
「・・・外で遊びたい。」
「それが終わったら遊ばせてあげるわよ!あなた来年小学生なのよ?勉強出来なきゃ恥ずかしいわ。」
最初は娘の為を思っての事だった。
「なんでこんな簡単な問題解けないのよ!」
でも段々とずれ始めた。
「おいおい!そんなに怒ること無いだろ?おまえ音羽に無理させすぎ。まだ小1だぞ?」
「貴方何も分かってない!これは音羽のためよ!」
「音羽の学力にはなんの問題もない!むしろ優秀なくらいだぞ。」
「あのねえ公立で優秀でも意味が無いの!」
「おまえ自分のことしか考えてない!」
そして喧嘩が起こり始めた。
音羽はその様子を見てただ泣いていた。
夫婦喧嘩を見てよく思う子供なんかいるわけない。
そんなのが1年くらい続くと
「このわからず屋!出てってよ!」
「はあ?!自己中もいい加減にしろよ。音羽が可哀想だろ。」
「貴方こそ自分のことしか考えてないじゃない!」
「なんで?!て言うかお前しか居ないと音羽が息苦しそうで可哀想だわ!」
「ああもう五月蝿い!こうなるならあんな子産まなきゃ良かった。」
俺はその言葉を聞いた途端に黙って出て行った。
喧嘩しててどんなに冷静を保てなかったとしてもあの言葉は禁句だ。
そして二人に会うことなく気づけば10年経っていた。
時々連絡などは聞いていた。
どこに引っ越したとか。
まあ必要最低限のことは。
そして桜子が海外出張へ行き俺は仕事でたまたまここへ来たので10年も顔を見なかった娘に会った。もちろんただ顔を見るだけじゃない。
―――――――――
清水音羽
「そんな形で産まれた子供やっぱり存在するだけで反吐が出る。もう殺しておこう。」
清水涼太
「・・・・」
奴は俺にも桜子にも似なかった。
桜子と違って背は小さい。
俺に似ないのは当たり前か。
でもなんでそんな衝撃な事実を突きつけらてそんなに冷静で居られるんだ。
自分の父親を名乗るよく分かんないジジイにナイフ突きつけられたままずっと語り続けられたんだぞ。
逃げるなり叫ぶなりなにかするだろ。
清水音羽
「ここで私を刺したらあんた殺人犯だね。」
清水涼太
「でもお前が死んで悲しむやつなんか誰一人居ない。むしろ死んでくれる?桜子が海外出張から帰って来たら再婚する予定だし。別に今からでも俺ら遅くないから。」
俺がそう言うと音羽は真正面から走り出して俺が持ってるナイフを掴み自分の首元へ向けた。
清水涼太
「おまえっ・・・」
今俺が手を離したらその反動で首元に刃が刺さりそのまま逝く。
清水音羽
「ほらどうした?今の本音だよなあ?!」
音羽は声を荒らげて話し始めた。
今はお互いにナイフを引っ張りあっている。
俺はなんで手を離さないんだ。
本当はずっと思ってたよ。
桜子と同じような考えだった。
こいつなんか産まれて来なければ良かった。
そうすればお互いに嫌な思いをしなくて済んだのに。
清水音羽
「離して!!早く殺してよ!!」
清水涼太
「・・・」
俺はパッと手を離した。
清水音羽
「あっ・・・」
さようなら。




