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タイトル無し  作者: ルル
65/75

65話

内村陽太

「どう思います?」


坂下真理亜

「・・・・」


金曜日の夜

仕事終わりに二人は陽太の部屋で飲んでいた。


坂下真理亜

「あなた最近嫌われますね。」


真理亜はソファーの上で足を閉じて座り片手にグラスを持ちながらそう言った。


内村陽太

「やっぱキャラ変しても中身がクソ野郎なのは変わりませんね。」


陽太もソファーの上で足をクロスさせて白のワイシャツの第一ボタンを外しネクタイを緩めた格好でグラスの中のワインを勢いよく飲み干した。


坂下真理亜

「確かに清水さんからすれば貴方は残酷な人ですね。」


内村陽太

「俺は真理亜の意見を聞いてるんだけど。」


この二人は同僚であり恋人でもある。

陽太は仕事の時は敬語を使って教師らしく振舞ってるが学校外ではボロを出してくる時もある。


坂下真理亜

「そんなの分かりません。どちらの立場でもないですもん。」


真理亜は職場だろうがプライベートであろうがそこまで態度の違いさはない。


内村陽太

「ああそう。」


坂下真理亜

「でもあんな貴方・・・わたしは二度と見たくないですよ。」


陽太が胡桃という子が亡くなったことを知ったのは飛び降りた日の夜だった。

――――――――――

ちょうど仕事の途中で電話が掛かってきた。


坂下真理亜

「ちゃんと電源切ってくださいよ。仕事中なんですから。」


電話を終えた陽太に私はそう言った。

でも陽太は何も喋らずに無表情でぼーっとしていた。


そしてそのあとは何も喋らずに途中だった作業を終わらせて学校から出た。


不自然に思ったわたしは彼の跡をつけるかのように学校から出た。


坂下真理亜

「内村先生?」


呼んでも反応がない。

気づいてないなんてことはありえない。

まだ人気のない道だし。


坂下真理亜

「聞こえてるんですよね?無視しないで頂けますか。」


内村陽太

「・・・せえな・・」


坂下真理亜

「・・・・は?」


内村陽太

「うるせえんだよ!!察してくれない?!」


いつもは温厚と言うか温厚過ぎる彼がいきなりキレた。


正直すごく怖かった。

普段優しい人にいきなりこんなこと言われたら誰だって怖い。


坂下真理亜

「わたしは超能力者じゃありません。言っていただけないとわからないです。それと外で大声出さないで下さい。」


怖がってるのを隠すようにそう言ったが震える足は誤魔化せなかった。


内村陽太

「・・・ごめんね。」


陽太は急に優しくそう言った。


坂下真理亜

「・・・・」


それに対して私は何も言えなかった。

そしてしばらく沈黙が続いた時に気づいた。


最初は風邪気味だから鼻水をすすってるだけだと思った。でもそれにしてはなんか変


暗くてよく見えなかったけどこれは・・・


坂下真理亜

「せんせ・・い?」


内村陽太

「・・・っ」


彼は何も言わずに私に抱きついてきた。

そして彼がすすり泣く声を必死に我慢してるのが伝わってきた。


坂下真理亜

「内村先生・・抱きつかれても分かりません。」


戸惑ってるのを必死に隠すように言った。


坂下真理亜

「・・・・」


そのあとは人が来る気配がしたので無理やり離してそのあとは気まづい空気のままお互いに一言も話さなかった。


次の日になると私の顔を見るなり頭を下げてそのことを謝っていた。

――――――――――

坂下真理亜

「まあ無理ないですけど。」


わたしはなんの関係もないからどうこう言えないけど。


内村陽太

「それはどっち目線ですか?」


坂下真理亜

「どっちもです。」


自分だってあの歳で仲良い友達があんな死に方したらそんな行動をさせた相手を絶対に許さないと思う。


内村陽太

「どっちも・・ねえ。」


でも自分にもしそういう身内がいたら陽太と同じことをしたと思う。


向こうはこっちにしか当たれなくて嫌いなふりをしてたとしても相手にそれは伝わってない。

そんなのじゃなくて素直にSOSを出してくれたらそれでいい。それで解決したかもしれないのに。


でもそんなことを言っていられない状況まできちゃったのかもしれない。


「助けて欲しい」と言うより「死にたい」と言う感情が強くなってしまった。


「死にたい」って言って自殺しようとする人はいるけど途中で怖くなって出来ずにいる。それが普通だよ。その段階ではまだ救うことが出来る。


ただ本当に死ぬ人は誰がなんと言おうと聞く耳を持たずに死だけを待っている。そうなると何をしても救えない。


内村陽太

「本当ダメだな。おれ・・・」


あいつらの言う通りかもしれない。

偽善者で冷酷で頼りない。

生徒を正しく指導する教師がこんなんでいいのか。


内村陽太

「なんでこんなクソ野郎に惚れるの?」


ふと口にした。


坂下真理亜

「あなたがクソ野郎なら世の中の大半の人がクソ野郎だと思いますけど。ただ隠してるだけで。だって普通こんなこと起きます?起きてないから分からないだけですよ。」


いじめや虐待を第三者が平和に解決することなんか出来ない。


内村陽太

「・・・」


坂下真理亜

「あのことは言ったんですか?」


―――――――

大石大地

「頭痛い・・病み上がりなのに無理し過ぎたかな。」


夜の10時頃

塾を出て夜道を歩いていた。


放課後に家に帰らずに塾へ直行して授業がない休み時間とか白澤先生をとっ捕まえて分からないところを教えてもらっていた。


今日は珍しく音羽がいなかった。

俺がいるからとか?でも勉強するのに白澤先生がいなきゃ困るはず。会話聞く限り大変そうだったし。


大石大地

「・・・・ん?」


そんなことを考えながら歩いているとふらふら歩いてる人の影が見えた。この辺は居酒屋とかもあるし酔っ払いでもしたのか。


なんて思いながら俺が歩き始めるとその人は急に倒れた。


大石大地

「大丈夫ですか?!」


驚いてそう声をかけその人がいる方向へ走った。

でもどうすればいいんだ。酔っ払った人に何をすればいい?酒癖の悪い人だったら面倒なことになりかねない。


大石大地

「あの・・」


でもその人はスっと立ち上がった。

ただ転んだだけなのか。


肩につく黒髪が見えた。

女の人だ。身長は自分よりちょっと小さめだ。


「大丈夫です・・・」


暗くて顔はよく見えなかったけど目が隠れるくらいの前髪の長さだった。声は少し綺麗だ。


女の人はそう言うと走ってその場から去った。


大石大地

「・・・早く帰ろ。」


俺はまた歩き始めた。


―――――――

女は勢いよく走っていた。


「・・・はあ・・はあ」


距離はそんなに無いが本当に勢いよく走ったので息が切れていた。


そして大きな家の前に立ちしばらく立ち止まったあと玄関のドアを開けた。


「ただいま・・・・帰ったよ。」













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