60話
胡桃が亡くなったことを知った次の日の事だった。その日の放課後に学年室でその事について話をしていた。
清水と胡桃が最後に会ったあとの胡桃の様子など。そして・・・
内村陽太
「っ!・・」
話してる途中で頬を平手打ちされた。
清水音羽
「なんでその時に何もしてくれなかったんですか!!」
さらに・・・
清水音羽
「本当は嫌われてないこと分かってましたよね?!内村先生なら自殺を止めること出来たのに!!」
机と俺が座ってた椅子を蹴っ飛ばし俺の胸ぐらを掴んで怒鳴るようにそう言った。
内村陽太
「なんでそんなこと言えるの?あんな態度で接しられたら誰だってああ自分は嫌われてるんだって思うでしょ。」
俺が痛みに耐えながらそう言うと清水はパッと手を離して
清水音羽
「胡桃は両親からの電話が来ると怯えながら敬語で受け答えしてた。きっと相当圧力をかけられたんでしょうね。そして内村先生のこともちょっとだけ聞いたことがあります。」
内村陽太
「きよ・・みず」
すすり泣く声が聞こえた。
清水音羽
「すごく優しい。あんな人が父親だったらいいのになって。」
内村陽太
「・・・」
清水音羽
「両親に言いたいであろう暴言を内村先生にぶつけていたんじゃないですか。」
内村陽太
「本人から親に圧力かけられてることは聞いてた。でも嫌われてないことは今知った。」
俺がそう言うと清水は驚いて「え?」という声を出した。
内村陽太
「両親の操り人形嫌なんでしょ?ならどうする?って聞いた。そしたらあいつは死にたいって言った。」
清水音羽
「そんな・・」
内村陽太
「だから言った。死んでもいいんだよって。」
その途端清水は俺の胸ぐらを強く掴み殴りかかろうとした。
内村陽太
「・・・殴っていいよ。」
手を止めた清水に俺はそう言った。
内村陽太
「清水は俺の立場だったらなんて言う?無責任に頑張れ。生きろ。って言う?そんなこと言っても余計苦しめるだけだよ。それを言って死ぬのを辞める奴は元から死ぬ気なんてない。ただのかまってちゃんだと俺は思うけど。」
清水音羽
「自分の子供にもそう言うんですか。もし誰かにめちゃくちゃいじめられて死にたいって言った時そう言うんですか?」
内村陽太
「俺は圧力かけないしそんな性悪女と結婚しない。まずは加害者と被害者の言い分を聞く。それでもダメなら担任なり校長なりに報告する。それでもダメなら転校させる。」
清水音羽
「・・・・」
内村陽太
「俺を恨んでる?」
清水音羽
「私を見てわからないですか?」
俺を睨みつける鋭い目
険しい表情
そしてあの荒ぶり方
清水音羽
「この際言っときますけど今回のことがある前から私は内村先生のことが嫌いでした。」
内村陽太
「へー?おれ影で嫌われてんのかなあ。前にもそんなこと言われたんだよね。でもどこが?これ以上人から嫌われたくないし教えてよ。」
陽太は立ちながらそう言った。
清水音羽
「何ヶ月か前に入院した生徒いましたよね?あなたその原因なんて言いました?私知ってるんですよ。あの時の電話で本人の口から聞いたんですから。」
内村陽太
「なのに俺に聞いたんだ?」
清水音羽
「わたしは生きてんのか死んでんのか色々聞こうと思ったのに内村先生が適当な嘘言ったんじゃないですか。優しさのつもりですか?」
内村陽太
「それで嫌いになったんだ?」
清水音羽
「嘘をつく人って大嫌いなんですよ。その人がどんな人間であろうと。」
内村陽太
「ああ。確かに悪い事をした。でも言い訳にしかならないけど世の中には人を傷つけないための嘘もあるんだよね。だってあんな残虐な・・・」
清水音羽
「それは優しさじゃありません!!なんでどうでもいいことでいい人ぶって大事な時には冷酷になるんですか?!」
音羽は声を荒らげてそう言った。
内村陽太
「冷酷ねえ?10年ぶりくらいに言われたよ。さっきも言ったけどこの場合に何も出来ない奴が無責任に生きろって言ったって自分はカッコイイこと言ったつもりでも向こうからしたら迷惑でしかないの。余計に苦しむだけなの。俺の行動はむしろ優しさだと思うけど。」
俺がそう言うと清水は俺の頬をグーで2発殴った。相手がすごく小柄な女子でも殴られればかなり痛い。
清水音羽
「訳わかんない!!人の人生終わらせといて何が優しさですか?!」
つい最近そんなことを言ったのを思い出した。
清水音羽
「生きてたら辛いことだってありますよ。でもそこで死んだら・・」
内村陽太
「そういうのなんて言うか知ってる?綺麗ごと。って言うんだよ。」
清水音羽
「・・・」
清水は呆気にとられて何も言わなかった。
内村陽太
「もし自分が親の転勤が無くてずっとああいう人生を送ることになってたら今頃どうなってると思う?耐えられないよね?」
清水音羽
「私のことは関係ありません!!」
私がここにいなければ・・
内村陽太
「ああそうだね。でも苦しみにも限度があるんだよ。例えば受験勉強は苦しいよ?毎日勉強して模試の結果が悪ければ追い詰められて。でも合格したら幸せ。めちゃくちゃ嬉しい。確かに苦しみを経験して幸せを手に入れることもあるよ?でもあいつは何を得られるの?」
清水音羽
「・・・・」
内村陽太
「世の中には死ぬことで楽になれる人間もいるの。」
清水音羽
「本当は胡桃のことなんかどうでも良いからそんな理屈を並べてるだけなんじゃないですか?」
内村陽太
「お前は自分を嫌ってる人間を好きになれる?そうじゃなかったとしても俺はずっと嫌われてるんだって思ってたの。」
清水音羽
「どうでもいいなら放っておいたら良かったじゃないですか!!この人殺し!!」
そう言って男の急所を思い切り蹴った。
内村陽太
「いっ・・!!おまっ・・顔はいいけどそこは・・」
あまりの痛さに倒れ込んで普通に声を出すのも辛かった。男にしか分からないがこれは泣きなくなるほどに痛い。ていうか死ぬ。
そして俺が掠れた声でそう言うと本当に頬をグーで2発殴った。
その時の表情は本当に怖かった。
ゴミを見るような冷たい目付きで俺を睨みつけ憎しみを込めた表情を見せつけていた。
まだ蹴られた時の痛みを感じながら立ち上がり
内村陽太
「これでスッキリする?スッキリして清水の気が晴れるなら急所以外いくらでも殴らせてやるよ。お前の言う通り胡桃を殺したのは俺なんだ」
頬を抑えながらそう言った。
清水音羽
「馴れ馴れしく胡桃って呼ばないで下さいよ!!」
内村陽太
「おれ身内や彼女には下の名前で呼ぶ主義なの。んで話戻すけどお前これで気が晴れるの?」
清水音羽
「晴れません。何をしても晴れません。ただ内村先生への憎しみが増すだけです。なんのメリットもありません。単なる時間の無駄です」




