45話
あの時はこれが正義だったんだと思っていた。
「まだ返信ないよー!」
「もう一週間だよ?」
高校一年生の秋ごろだった。
月岡涼真
「一週間も欠席って珍しくない?早めのインフルとか?」
内村陽大
「俺暇だから様子見てこようかな。」
文化祭で半年ぶりに真理亜に会い
その次の週から西条未来が学校を休み始めた。
あの元気の塊みたいな奴が。
「ねえどこ行きたい?」
「前に行ったカフェの新作のケーキ食べたい!」
「ゲッ!あれクソ高えよ!」
放課後に未来が住んでるマンションへ行こうと歩いていると
道端で制服を着たカップルがイチャついてるのを見た。
「えー。奢ってくれるって言ったじゃん。」
「そんなワガママ言うと・・・また未来に鞍替えしようかな。」
その名前を聞いて足を止めた。
「えー!ごめんウソウソ!」
「冗談だよ!あいつは論外!」
「西条さんってなんかつまらなくなかったー?」
「そうそう!性格はいいけど性格だけだしな・・・」
あいつ彼氏いたんだ。
でも見る目なさすぎないか。
金髪だしピアスつけてるし。
内村陽大
「あの!」
「ん?なに?俺ら?」
内村陽大
「すみません。おれ西条未来と同じ高校に通ってて同じクラスなんですけど・・・しばらく学校休んでて・・なんか知ってたりします?」
「学校行ってないの?まじで?」
「アンタが振ったからじゃないのー?わたしたち西条さんの前でキスして付き合う宣言しちゃったしー」
「えー?ただお前よりこいつの方がいい女だって言っただけだし。俺しらねえ。」
マジでクソ野郎だ。
でもこういう問題は俺がとやかく言うべきじゃ無いしあと数日したら学校来るようになるだろ。そしたらあいつの気晴らしに遊びにでも誘おう。
でも未来が学校へ来ることはなかった。
その日に未来はマンションの部屋から飛び降り自殺をした。
坂下真理亜
「え?!引っ越したの?!」
内村陽大
「うん。・・・すごく急で・・」
嘘をついてしまった。
でもすぐにバレた。
坂下真理亜
「ふざけないでよ!!よくそんな嘘つけるよね?!」
内村陽大
「ごめん・・・傷つけたくなくて・・」
坂下真理亜
「今のほうがうんと傷ついてるよ!!陽大がそんな奴だとは思ってなかった!!もう金輪際話しかけないで!!顔も見たくない!!」
余計な気遣いが彼女を傷つけてしまった。
それから電車で話しかけても無視されメールも無視され続けた。
そして一週間後の事だった。
ニュースを見て未来を振った男が殺されたことを知った。
内村陽大
「はぁ?!お前マジで言ってんの?!」
月岡涼真
「マジだから!!殺された日に真理亜ちゃんがあの男と仲良さ気に歩いてるの見たから!」
信じられなかった。
なんで真理亜みたいな優等生があんなチャラ男とデートなんかしてるんだ。
月岡涼真
「そしたらマンションの中に入っていったよ!!」
内村陽大
「桜庭町の?!」
月岡涼真
「そうだよ!」
真理亜の家は当時は浜ヶ丘だった。
だからあの男のだ。
月岡涼真
「ニュースでやってた時間的にも同じだし・・・」
内村陽大
「・・・お前このこと誰にも言うなよ?!」
月岡涼真
「言わねえよ!!」
そしてその日
内村陽大
「ねえ!」
坂下真理亜
「・・・・」
真理亜と同じ電車に運良く乗れて同じ駅で降りて話し掛けた。
坂下真理亜
「ついてこないでよ気持ち悪い!!言ったでしょ?!あんたみたいに隠しごとするやつ大嫌い!!」
内村陽大
「そっちもなにか隠してるよね。」
俺がそう言うと真理亜は歩く足を止めた。
坂下真理亜
「・・・・・」
内村陽大
「あの男とマンションの中に入ったのを見た奴がいる。そいつには口止めをしといたけど。」
坂下真理亜
「・・・・・そうよ。私が殺したのよ。だったらなに?私を警察にでも突き出す気?べつに構わないけど。犯罪だしね。」
内村陽大
「別にそんなことするつもりはないよ。」
坂下真理亜
「・・・変わってるね。」
内村陽大
「だって正当な理由だし。・・・俺はそう思う。ほんと日本の法律はおかしいよ。死んだ方がいいやつ殺して何が悪いんだろ。」
坂下真理亜
「・・・・」
陽大がそう言うと真理亜は少しずつ涙を流した。
坂下真理亜
「・・・ごめん・・陽大の気持ち全然考えてなかった。八つ当たりしてた。」
内村陽大
「おれも酷いことした。」
陽大は真理亜の目の下の涙を指で拭いてそう言った。
――――――――
「底なしのクズ野郎だよ。」
なんでこの言葉が出たんだろう。
教師が生徒に対して言っていい言葉じゃないだろ。
俺はあいつらが何をされてきたか詳しくは分からない。
あいつがあんな事をしたんだから相当酷いことをされて限界だったんだと思う。
「やっぱ俺あんた嫌いだわ。」
「やっぱ」ってことは昔から俺はあいつに嫌われていたのか。
俺の戦力不足で嫌われたのか。
でもああ言った大地の目に涙が溜まっているのが見えた。
普通優しくするべきだったんだろうけど何を言っても「キレイ事」と言われて相手にされなさそうだったから汚い本心をぶち撒けてしまった。
でも大地形式の「キレイ事」に嘘があるわけでもない。全部本音だ。
坂下真理亜
「随分と激しい口論でしたね。」
内村陽大
「坂下先生・・・」
夜の10時頃
いつもよりかなり遅く学校を出た。
内村陽大
「夏休みの宿題作ってたんです。」
坂下真理亜
「そう言えばもう7月ですね。」
内村陽大
「はい。・・坂下先生はなにか大石と話しました?」
坂下真理亜
「別にあなた程たいしたことは話してません。」
内村陽大
「俺のはもう完全に暴言でしたからね。」
坂下真理亜
「ほんと・・私の時もああ言っても良かったのに。」
内村陽大
「当時高校生ですよ?あなたと同じ様な考えでしたから。」
「人の人生終わらせといて何が正義だよ!!」
おまえは本当に良い奴だよ。
だから道を外して欲しくないんだよ。
真理亜は道外さずに普通に教師やってるけど俺がもしお前の意見に賛成してたらお前が道を外す可能性だって無いとは言えない。
坂下真理亜
「確かに説教にしてはちょっと・・・」
内村陽大
「・・・・」




