30話
坂下真理亜
「ありがとうございます。」
内村陽大
「いいえ。これくらい。」
仕事を終えて二人は駅まで歩いていた。
坂下真理亜
「今日も多いですね。」
真理亜はこの辺りを歩いているカップルたちを見てそういった。
内村陽大
「クリスマスですからね。あえてイブじゃなくて今日って人もいるんじゃないですか?」
坂下真理亜
「そうみたいですね。」
出歩いてるのは高校生や大学生くらいの人たちだ。
内村陽大
「坂下先生はああいう時期あったんじゃないですか?大学生の時とか。」
坂下真理亜
「いいえ。」
内村陽大
「嘘でしょ・・・」
こんなに美人なら絶対告白されたりとかしてるはずだ。
いやでも告白されて必ずしも付き合うわけじゃないか。
坂下真理亜
「よくもまあ人前で腕組んだり手繋いだりして歩けますよね。信じられません。」
内村陽大
「失礼ですけど・・・告白されたことありますか?」
坂下真理亜
「いいえ。」
いやいやおかし過ぎる。
俺がいた大学だったら絶対みんな放っとかないのに。
偏差値高い大学だとそういうの無いのかな?
「ねぇそこの彼女!」
俺らが話してると後ろからチャラそうな男の人が話しかけてきた。
茶髪でピアス・・・
「バイトの帰り?それとも学校帰り?どこの大学?それとも高校生?良かったら俺と遊ばない?かわいいから奢ってあげるよ!」
ああ。こいつ絶対殺されるな。
内村陽大
「この人はやめといたほうが・・」
坂下真理亜
「・・・身の程わきまえて下さい。て言うか隣に彼氏がいるのが分からないんですか?」
真理亜は相手を睨みつけてそう言い
内村陽大
「・・・あ・・」
陽大の手を握った。
しかもカップル繋ぎ。
「はあ?!だってさっき・・・」
坂下真理亜
「行きましょ?」
そして走って駅へ向かった。
坂下真理亜
「すみませんでした。」
駅の改札で手を離して謝った。
内村陽大
「いいえ!」
むしろご褒美
たとえナンパ避けでも・・・
内村陽大
「いるんですね。クリスマスにナンパする人って。」
坂下真理亜
「ああいう人嫌いです。」
内村陽大
「ですよね・・・」
坂下真理亜
「・・・なにかお礼しましょうか。」
内村陽大
「おれ何もしてませんよ?」
坂下真理亜
「さっき手伝ってくれたじゃないですか。あれ一人じゃ出来なかったですし。なにがいいですか?」
内村陽大
「もらって欲しいものがあるんです。懸賞で当たったんですけど既に持ってて。捨てるのも勿体無いし。」
―――――――
内村陽大
「ごめんなさい。こんなバカでかいクッション押し付けちゃって。」
陽大が真理亜に渡したのは両手で抱えなければいけない程の大きさの女性ウケしそうなキャラクターのクッションだった。
坂下真理亜
「いいえ。」
内村陽大
「せっかくだからお茶でも飲んでいきます?あとクリスマスケーキ買ったんですけど一人じゃ食べきれないなって。」
坂下真理亜
「じゃあ・・・お邪魔します。」
真理亜は緊張を隠しながら靴を脱いで上がった。
坂下真理亜
「外から見ても思ったんですけど随分立派なところに住んでるんですね。」
陽大が住んでるマンションは30階建ての高層
どっかの大企業の社長が住んでそうな高級マンションだ。
内村陽大
「俺の金で買ったわけじゃありませんよ?むかし家族で住んでたんですけど俺が大学生の頃に祖母が亡くなってみんな祖母がいた家に引っ越したのでじゃあここいらねえからやるよ。みたいな感じで貰っただけです。」
坂下真理亜
「そうなんですか。」
内村陽大
「でもこれだけ広いと逆に困りますよ。使ってもない部屋にほこり溜まって掃除するの面倒くさいし。あ、そこのソファー座っててください。」
陽大は真理亜を大きなソファーに座らせて
キッチンへ行き食器を出したりなどの準備をした。
坂下真理亜
「・・・・」
ここは20階でかなり高い。
だから夜景が綺麗に見える。
内村陽大
「他の人は綺麗って言ってるんですけど住み慣れてくると夜景が綺麗に見えないんですよね。」
陽大が二人分のマグカップとケーキを二回ずつ運びながら言った。
坂下真理亜
「慣れってすごいですね。」
内村陽大
「ここに住んでるおかげで高所恐怖症が改善されましたからね。幽霊出そうな屋敷に住んだらホラー怖くなくなるかもしれませんよ。」
坂下真理亜
「住み心地がいいだけじゃないですか?普通に暮らしててここ高い怖いとか意識します?」
内村陽大
「最初は洗濯物干してるだけでビクビクしてましたけど。」
坂下真理亜
「かっこわる。」
内村陽大
「昔ですよ!むかし!」
そんな会話をしているとスマホの着信音が聞こえた。
内村陽大
「俺のです。・・・」
陽大がスマホを見ると
内村陽大
「うわ・・・」
表情を曇らせて
内村陽大
「娘のことが心配なら自分で様子見に行けよ・・・」
小声でそう呟いた。
内村陽大
「あ、ごめんなさい。」
坂下真理亜
「娘ってあなたが話してた人ですか?」
内村陽大
「はい。俺を超絶嫌ってる人です。こうも人に嫌われてばかりだとな・・」
坂下真理亜
「女性の頭の中には男性と違って生理的無理ゾーンがありますからね。そこに入ったらどう足掻こうと戻ってこれないんですよ。」
真理亜はナイフでケーキを上手に切り分けながら言った。
内村陽大
「俺があいつの生理的無理ゾーンに入ってるのか・・・ああ怖い。女って怖い。」
坂下真理亜
「と言っても滅多にいないですよ。わたしはたった三人です。」
なんか微妙な数だな。
俺入ってないよね?
入ってたら家に上がんないか。
女性を家に入れるの初めてなんだよな。
そう言えば今思い出したけど
「嫌いじゃない」って言ってたな。
彼女のふりをするのに相手の事が嫌いだから耐えられないのは分かるけど嫌いじゃなくて耐えられないのは・・・・
坂下真理亜
「でもなんで娘のことで貴方に連絡するんでしょうね。」
内村陽大
「・・・・さあ。」
わりと深刻だったりするもんで。
内村陽大
「それよりこのケーキの生クリーム白だけど普通のより味が違いますね。」
陽大がフォークでケーキをさしながら言った。
坂下真理亜
「チーズケーキみたいな味です。」
真理亜がケーキを口の中に入れてそう言った。
内村陽大
「美味しいですね。」
坂下真理亜
「そうですね。その子に残してあげたらどうですか?甘いモノ好きなら。」
内村陽大
「・・・食べてくれるかな。」
陽大は不安に思いながらも最後のひと切れを残して冷蔵庫に入れた。
―――――――
清野琢磨
「新しいドレミの歌を作って。」
鈴木伊緒
「ドは・・どらえもんのド・・レは・・」
琢磨は仲の良い友達とゲームセンターに来ていた。
清野琢磨
「ミはミトコンドリアのミ・・ファは・・・おもいつかなくね?」
やりたいゲームの待ち時間があまりにも暇だったので並びながら暇つぶしをしていたが
鈴木伊緒
「もう他のとこ行かね?!時間も遅いし。」
清野琢磨
「俺も言おうと思ってた。ていうか今何時?・・やば6時!」
鈴木伊緒
「早く帰らねえと親に殺される。」
―――――(陽大の部屋)
坂下真理亜
「優しいんですね。」
内村陽大
「あいつにはキモいって言われますけど。」
坂下真理亜
「そうですか私は好きですけど。」
内村陽大
「ありがとうございます。」
真理亜がそう言うと陽大は落ち着いてそう言ったが
実際はちっとも落ち着いてなくて・・・
内村陽大
「・・・でも女の優しいと男の優しいって意味違うことあるらしいですよ。」
やばい。やばい。
もう「すき」って言われたら都合のいいようにしか頭が働かない。
なんだよこの漫画でよくありがちな反応は!!
初恋の中学生じゃあるまいし・・・
坂下真理亜
「わたし大学生の頃に同じ学部だった男の人にデートに誘われたことがあったんですよ。どんな人なのか女友達に聞いたらめっちゃ優しいって言ってたのでとりあえず誘いにのったんです。そしたらただのおごり魔でした。」
内村陽大
「奢られるの嫌いですか。」
坂下真理亜
「なんか怖いじゃないですか。」
内村陽大
「確かに・・」
なんか一瞬だけいいムードになったんだけど
俺が無理やり話し続けたせいでぶち壊したか。
いや、単なる勘違いかもしれない。ああもう!!
内村陽大
「坂下先生!変なこと聞きますけど俺のこと嫌いですか?」
ああミスった。
「好きですか?」って聞く勇気がなかった。
俺ってそんなチキンだったんだ。
坂下真理亜
「あなた人の話聞かないタイプですか?嫌いじゃないっていったじゃないですか。」
内村陽大
「間違えました!・・えっと・・」
坂下真理亜
「惚れてます。・・好きです。」




