28話
清水音羽
「ふざけやがって・・・」
嫌な予感しかしなかった。
電話に出るなり大声で慌てた様子で「お母さん大変だから今すぐ来て!!」って言われた。普通ならそんな言われ方したら事故にでもあったのかと思う。
だから慌てて指定された場所へ向かうと
清水音羽
「海外出張?」
「はい。社長から突然の命令です。期間は短くて一年です。」
長過ぎる。
なんの仕事だよ。
「詳しいことはまた後ほど話すのでしばらくお待ち下さい。」
わたしは母親が勤めている会社の待合室でボーッと待っていた。
「ちょっと!どういうことよ!おかしいんじゃないの?!」
「落ち着いて下さいお姉さん・・」
「落ち着けるわけ無いでしょ?!子供はどうするのよ!」
外から女性が大声で訴えてる声が聞こえる。
「・・・・はあ・・」
やがてその声はため息になった。
そしてこの部屋のドアが開く音が聞こえた。
「あら、ごめんなさい。聞こえてたかしら?恥ずかしい・・・わたし桜子の姉の華井亜夜です。」
母と同じくらいのスタイルで顔も似ているが性格は母と違って良さそうだ。
清水音羽
「は・・じめまして。」
華井亜夜
「急なことでビックリしてるでしょ?おまけに知らないおばちゃんまで出てきて・・」
清水音羽
「は、・・はい。少し。」
華井亜夜
「さいきん決まったことでね。だけど桜子はあなたに話してないって言うからビックリしちゃってね・・・とりあえず行きましょ。」
そして私は華井さんに連れられて華井さんの家に行った。
庭付きの三階建て。そうとうお金持ちなんだろう。
「お母さん!!この人だれ?!」
すると小学生くらいの女の子が出てきた。
華井亜夜
「親戚よ。陽菜は会ったことなかったわね。あなたより3つ上よ。音羽ちゃんって言うの」
華井陽菜
「うそ!中学生に見えない!!だって陽菜より背低いんだもん!」
心にだいぶ刺さった。
華井亜夜
「失礼でしょ!!それに威張れるほど差無いでしょ!」
みたいな会話をして・・・
華井亜夜
「わたしこの家以外にマンション1部屋持ってるのよ。ずっと昔に一人暮らしに使ってたんだけど思い出深くて売れなくて・・・でもさすがに中学生に一人暮らしさせる訳にいかないって思ったんだけど桜子があの子は一人暮らし出来るほどの家事は出来る。お金はこっちがちゃんと送るからって。でも・・・」
どんだけ金持ちなんだ。普通売るでしょ。
でも結婚前の一人暮らしってことはアパートとかかな?
清水音羽
「わたし平気です。母の言ってる通り火事はできるので。生活費もちゃんと貰えるなら・・・」
華井亜夜
「本当に?嫌だったらいつでも来ていいからね?桜子がむちゃくちゃなだけだし全然迷惑じゃないから。」
清水音羽
「いいえ。本当に大丈夫です。」
知らない人と暮らすよりは・・・
華井亜夜
「本当に?・・でも完璧に一人暮らしってわけじゃないけどね。一年前から高校生の女の子が住むようになったの。でもバイトと勉強が忙しくて家に帰ってくるのが遅いみたい。あと友達の家に泊まることも多いし。」
清水音羽
「そう・・なんですか。」
華井桜子
「その子も親戚でね。両親が亡くなって私とも話してさえくれなかったから一緒にいてもその子にとってはストレスかなって。」
愛想がない人なのかな。
わたしが言えたことじゃないけど。
華井桜子
「とりあえず事情話したり部屋開けてもらったりするからその間はここにいなさい?着替えとか取りに行ってさ。」
清水音羽
「はい・・・・」
―――――――(帰り道)
夜の六時頃
仕事を済ませて駅まで歩いていた。
内村陽大
「ああもう!憂鬱過ぎます!」
坂下真理亜
「うるさいです。貴方は私にどうして欲しいんですか。」
内村陽大
「おれ言っちゃったんです。彼女持ちだって。そしたら親戚中に広まって・・・」
坂下真理亜
「ああ・・・イヤです。」
真理亜は陽大の頼みを察して断った。
坂下真理亜
「一秒たりともそんな真似したくありません。一緒にいるだけで耐えられないのに。」
内村陽大
「・・・そこまで俺のこと嫌いですか?」
坂下真理亜
「耐えられませんね。」
内村陽大
「めちゃくちゃ嫌われてますね。もしかして生理的無理ゾーンに入ってますか?」
坂下真理亜
「・・・・」
内村陽大
「ごめんなさい。見栄貼りたいがためにそんな失礼なこと頼んじゃって・・・本当にごめんなさい。忘れて下さい。」
そう言って逃げるように早歩きをして真理亜との距離を大きくした。
内村陽大
「・・・・ああ。やらかしたな。」
学生時代ちょっと関わったことがあるからって何勘違いしてるんだろ。
あれから数年経ってるしな。ただの同僚だ。キャラも変わってるし。
仕事する上で彼女に嫌われるようなことしてないとも言い切れないんだし。
むしろそれしかしてない気が・・・
坂下真理亜
「内村先生!」
内村陽大
「え?」
振り向くと後ろに坂下先生がいた。
走ってきたのか?
坂下真理亜
「勘違いしないでください。別に嫌いだから嫌なわけじゃありません。」
それだけ言って彼女は俺を抜かして走って駅へ向かった。
内村陽大
「・・・あ・・」
勝手にニヤける。
ダメだな。都合のいいように頭が働いてしまう。




