突きつけられる戦力差
一昨日に刺さった爪楊枝の痛みが今日も抜けないゾ……そして明日は検定……ギリ合格いけるか行けないか位やぁ……プリキュア見れねぇえええええ!!(慟哭)
「UIがEUNの軍事基地を攻撃だと!?」
ZERO領。軍事基地、ウェポン・ハウスにて。格納庫でファントムを見上げていたルーヌイが配属されたばかりの部下からの報告を聞いて驚愕する。
「はい。さらに襲撃された所はEUNの中でも軍事力第2位を誇る【スカーチフェルド】です」
ルーヌイに報告する20代半ばの男は緊張しているのか声を震わせながらも噛むことなく報告する。
ルーヌイの目つきは以前よりも鋭くなっており、部下の男は怒鳴られると思ったのか親に叱られた子どものように震え上がっている。
「……」
ルーヌイは顔を横に振り、壁に背中を預けるように勢いよく寄りかかると手の平で顔を掴むように隠す。男は怒られると思ったのかそっと胸をなでおろすが、代わりに困惑の表情が顔に出る。
(なんだ……?なぜ悩むんだ?ZEROとは関係ないのに……)
そこまで悩む必要は無いんじゃないか?と男は思考する。
別の国の事なんて考えているヒマなどない。こっちはこっちの問題だけで精一杯なのだから。いくら異星人が他の国家に攻めたからと言ってこちらが出向く必要も復興する必要も無いのだから。
ルーヌイが「ふぅ〜」と深く息を吐くと、壁に微弱な振動を感じ、寄りかかっていた壁からすっと椅子から立ち上がるように離れるとモニターが開かれた。
「少佐」
モニターに映る厳つい男性に対してルーヌイが敬礼し、背後にいた部下の男が遅れて同様の仕草をする。
「話というのは他でもない。EUNの軍事基地が襲撃されたという知らせは受けているな?」
「……はい」
少佐と呼ばれた男性がルーヌイに訪ねると苦虫を噛み潰したような顔で答えた。その声には異星人に対する悔しさと怒りが混じったような部下の男が怖がるような声音で目からはハイライトが消え、今にも何かをやらかしそうな雰囲気だ。
「し……しかし少佐!!第3世代のファントムがあれば……!!」
「ルーヌイ中尉。落ち着きたまえ」
焦りが隠せず、急かすように答えを求めるルーヌイに対して少佐は宥めるように返す。
いつでも冷静沈着で将来はZERO軍1の実力者になると噂されている。
(ルーヌイ中尉は1つ上の階級であるマービス大尉を模擬戦やシミュレーターの成績でも対人戦闘の成績でも上回っているのだが……)
異星人関係となると頭に血がのぼり、自分の憎しみの感情を表に出して突進する性質がある。ルーヌイが所属する部隊の隊長もその点に頭を悩ませていた。「これさえ無ければ将来は将来有望なのだが……」と隊長が独り言を頻繁に呟いていたのを少佐も目撃している。
「ルーヌイ中尉。確かに第3世代ならば第2世代よりも遥かに高性能だ。機動性、装甲、武装、どれをとっても優れている……が、貴官はたった1機でイノシシのように突っ込んで勝てると思っているのかね?」
落ち着いた声でルーヌイに問いかける。相手は第2世代機の部隊をあっさりと倒せる異星人。
少佐の映っているモニターが背面に移動し、代わりに大きくEUNで起こった映像が表示される。ルーヌイに軍事基地、スカーチフェルドで起こった戦闘の映像を見せて答えや意見を求めるつもりなのだろう。
(これで少しは冷静になってくれればいいがな)
少佐は目を瞑り、異星人との戦争を夢想しながら大きく息を吐いた。そもそも第3世代の結晶機を開発したばかりの時に撃退できれば苦労はしない。
(そうは言ったものの、今のところはイエローナイトとインセクトの2種類しか出してきていない……異星人の機体の方がその程度であるはずがないだろう)
結晶機を大きく上回る戦力を持つ異星人。たとえ地球人全員が力を結集したとて勝てるはずがないだろう。
仮にイエローナイトを撃破できたとして集団で襲いかかってきたのならば敗北は必須。下手をすれば上位の機体まで出るだろう事は予想できる。
映像を見てルーヌイは沈黙した。たった1機にEUNで2番目の戦力が結集されている軍事基地が無残な姿になっていたからだ。
初めは軍事基地上空の空間が歪み、ブラックホールが発生したような穴が突如として出現する。
その空間に頭部が、次に胴体が、最後に足が出てきてゆっくりと回転し、脚部が下となる。
出てきたのはイエローナイト。1部の者は魔王の騎士と呼び、畏れられる存在だ。今までイエローナイトを撃墜はおろか、撃退すら出来ていないのだから。
ピタリと空中で静止し、軍事基地を見下ろすイエローナイト。
軍事基地から第2世代・ラファールが左手に大型シールド、【エンダール】を構え、右手には大型ライフル、【シービクセン】を構えた。その数、実に12機。
さらに軍事基地から飛んでくる戦闘機25機。数だけを見れば37対1だ。
イエローナイトはゴーグル越しの緑のツインアイを妖しく光らせ、腰にたずさえている対艦刀を手に持った。
大型ライフルを一斉に撃つラファール。その弾は吸い込まれるように全弾がイエローナイトに命中する。
シークセンは理論上は第2世代結晶機を貫くほどの威力を持つ新兵器だ。ファントムを公開した数ヶ月ほど前にEUNが発表した。「武装で勝負する」と。
イエローナイトは少しも動かず、モアイ像のようにピタリと静止している状態だ。避けることも破壊する事もしなかった。
カチ、カチ、トリガーの音だけが鳴った時。ラファールはシービクセンを投げ捨て、近接用ブレード、【ミステール】を構え、待機する。
煙が上がる数秒間、まるで時間が止まったかのようにシーンと何も動かなかった。ただただ煙やスラスターが噴く音のみが鳴り響く。
そして煙が晴れた時、イエローナイトの姿が顕となる。
ーーーなんと、あれほどの攻撃を受けても装甲がほんの少しだけ欠けた程度だ。しかも近くで視認しなければ分からないほどに。
1機のラファールが大型シールドを投げ捨て、近接用ブレードの刃をイエローナイトに向けて闘牛のように突っ込む。
第2世代のラファールの猛スピードをものともせず、イエローナイトは対艦刀で胴体から真っ二つにする。
真っ二つにされたラファールは地面に落下する。
ドォン!!と音がなると同時にイエローナイトは先程のラファールのスピードとは比べ物にならないほどの俊敏な動きで7機のラファールを縦へ、横へ、斜めへと斬り捨てる。
コックピット事切り落とされ、動力を失った結晶機は装甲に赤い液体を付着させながら燃料が切れた飛行機のように落下していく。
戦闘機は誘導ミサイルを放つ。レーダーには数えるのも馬鹿らしくなるくらいの赤い点が表示されるが、イエローナイトは無駄が無く洗練された動きで頭部バルカンで撃ち落とし、被弾しそうになると手の甲に搭載されているダガーミサイルを撃墜する。
撃墜し終わったらすぐさま肩のポッドを展開し、ミサイルを放った。嵐のように降り注いだミサイルは戦闘機を全機大破させ、避けようとして墜落する物もあった。
37機あった軍勢が3分もかからずに残り5機の第2世代結晶機、ラファールのみとなった。
2機のラファールは片手で持てる小型のマシンガンである【ハリアー】を撃ちながら近接用ブレードを構え、挟み撃ちの要領で斬りかかる。が、第2世代結晶機を貫ける大型ライフル、シービクセンの攻撃を持ってしても皮がささくれる程度の破壊しか産まなかった。たかが小型のマシンガンなど気にするだけ無駄とばかりにイエローナイトは対艦刀を構えて斬り捨てる。
その隙に残り3機のラファールは地上に降りて予備の大型ライフルを手に取る。が、損傷が激しく、とても撃てるような代物ではない。使えなくなったライフルを投げ捨て、2機と1機に分かれた。
イエローナイトが地上に降りて戦闘機や結晶機の残骸を踏みながら歩く中、後ろにいたラファールが近接用ブレードを構え、突進する。が、直ぐに斬り捨てられる。
そして残った1機は錯乱したのかめちゃくちゃに両手で持てる大型マシンガン、【ウーラガン】を乱れ撃つ。しかし、そんな攻撃が当たるはずもなく、イエローナイトはゆっくりと接近する。
そして弾が切れてカチ、カチ、と音が鳴っても未だにトリガーを引き続けるラファールに容赦なく振り下ろいたーーー
「第2世代でも最速を誇るラファールが……いとも簡単に……」
後ろの部下も酷く怯え、ガクガクと足が震えている。流石に涙目にはなっていないが、それでも不安と恐怖に今にも潰れそうな雰囲気だ。
「ル……ルーヌイ中尉……我々は……」
部下の男は弱々しく震えた声でルーヌイに言葉をかける。
ルーヌイの手元を見ると血が流れていた。手に力が入りすぎてしまったのだ。
「……見ての通り、国家内で第2位の戦力を誇る軍事基地ですらご覧の有様だ。……もう一度言う。貴官はこのようなバケモノに1人で突っ込んで勝てるのかね?」
今度は威圧を込めたような声音でルーヌイに言う少佐。
ルーヌイは身体を震わせ、悔しそうに顔を歪め、瞳には少しの涙を浮かべた。
「……申し訳ありません。少し頭を冷やしてきます」
ルーヌイは後ろを向いて逃げるように格納庫から出るのだった。
ウィーン、シュ〜っと、扉がスライドした音が鳴り止むと格納庫は静寂に包まれる。
役目を終えた壁に映っていたモニターは消え、イスに座っている少佐は目を右手で覆い尽くして大きくため息をつく。
「分かってはいる……分かってはいるのだがな……」
目を覆っていた右手を退け、机の引き出しを開け、その1番上にある一枚の写真を取り出した。
「シベッド……」
写真には若い頃の少佐と同い年くらいの厳つい男、そして薄紫色の髪をした少女が写っていたーーー。
ルーヌイの心情のお話?です(´・ω・`)
修正しました。前半はカットして次回に持ち越し、映像を細かくしてみました。