友達と一緒に登校!!
旧作の電車部分をより詳しくしてみました。
「はぁ……はぁ……」
駅前に着いた時に息切れを起こす。
家から駅まで歩いて13分ほどかかる。
だから琉斗は「家から近いしギリギリでも大丈夫でしょ」という認識でこのように歩いて間に合わない時間になって慌てて走っていくという事も日常茶飯事だ。余裕を持って出る時がごく稀なのだ。
それに琉斗自身、体力があんまりない。
50メートル走ならば8秒1と遅いとも言えないが、他の人が少し息を乱しているのに対して息がきれてしまう。
さらに1500メートル走では30分という最低記録を叩きだし、トラック一周半目で吐いたことも何度かあり、リタイアする事もあった。走りきれた方が少ないくらいだ。
しまいにはこの暑さ。気温は猛暑日。それがさらに体力を奪っていっている状態。
目眩を起こし、足も酔っ払ったおっさんのようにフラフラになりながらもホームにある自動販売機でお茶を買う。
お茶が排出されると水を見つけた砂漠でさ迷っている人のようにフラついているものの速い手つきで手を突っ込んだ。
手に持ったペットボトルのキャップを取り、ゴクゴクゴクと貪るように口に含める。
「あぁ〜」
冷たいお茶が乾いた喉と疲れた身体に染み渡った。
ぐわんぐわんしていた視界も回復し、疲れは対して取れていないものの、フラフラと危ない歩きをする事は無くなった。
ちょうどその時、電車が到着する。ドアがスライドして開くと、琉斗は電車に乗ってドア近くのイスに座った。
「はぁ〜つかれたぁ……」
気が抜けた声と共に「ふぁ……」欠伸をする琉斗。こんなに走り、電車に乗ったことで安心し、気が抜けたからだろう。椅子に座った事で心地よい子守唄を聞いた赤ちゃんのようなさらに深い眠りに誘う。そして
「すぅ……すぅ……」
疲れと睡魔が同時に遅い 、眠ってしまう。
電車に乗ってから2分。早くも琉斗は深い眠りに誘われたーーーーー
琉斗が電車に乗る駅から5駅目のホームにイヤホンをしてスマホを見る男がいた。髪を短く切りそろえた高い身長で痩せ型の眼鏡をかけた男。着ているのは琉斗と同じ制服だ。紺色のブレザーにグレーのチェック柄のズボン。青が主体の大きなショルダーバッグにある名前欄には【小森宗二】と書かれている。
見ているのは結晶機の画像。それを空中に投影し、より立体的な機体構造を観察する。
「……なるほど。装甲を厚くしたことで攻撃力と防御力を上げて後ろのブースターで推進力を補っているわけか」
手を顎に当てて「ふむ……」と考え込む。
彼はカバンの中のクリアファイルに結晶機の設定資料を入れている。自分で考えたオリジナルのものだ。どこか参考になるかもしれない。早速教室に着いたら描かなければ……とボソリと呟いた。
「それにしても、第三世代かぁ……これでも勝てるのかねぇ?」
男が懸念しているのは、地球を攻めている侵略者である。
動画に上がっていたが、見た目は虫のような外見の小さな機体とRPGに出てくる魔王の騎士のように禍々しい外見の黄色の騎士みたいな機体。アレらが第1世代の結晶機を粉砕し、第2世代の結晶機を切り刻んだ。第2世代を数十機もってしても勝てなかった。それも善戦ではなく、圧倒的な敗北。素人目で見れば「凄まじかった」の一言に過ぎよう。
「おっ、来たな」
男がトンネルの方を見ると電車が来た。
正面と背後は黒を主体とした角丸の立方体のような形で左右には人型のロボットや車のツインアイのような赤い模様がある。
胴体部分はグレーを主体とした直方体のような形でところどころ黒い模様がついている。これらはセンサーやレーダーが駅や生き物を察知するためにつけられたものだ。
電車は減速して停る。停ると直ぐに扉がスライドしてぞろぞろと人が降りる。
人が降り終わると次は人が乗車する。降りる人も乗る人も学生やスーツを着た大人、子連れの母親などがいる。今日も「お疲れ様です」と心の中で呟いて乗車する。
電車が停まって2〜3分した頃、発進する。
ウィーンという音とともに扉が閉まって空中に投影されている線路をスケートリンクをスニーカーで滑るように進んでいく。
発進直後、反対側の乗り場に同じ形の電車はいま発進したものよりも早いスピードで到着する。
「ゆっくり落ち着いて登校したいんだよなぁ……」
宗二は立った状態で壁に寄りかかり、向こう側の電車を見て言った。
普通電車は2つの種類がある。それはざっくり言えば早いか否かだ。
早い方の電車には外見の違いもある。遅い方は正面と背後の色が黒主体なのに対し、速い方は赤がメインなのだ。宗二の祖父は「赤い方は私の世代の特急くらい速かった」ということらしい。
そして黒い方は時折「ガタン」と揺れるが、これはSNSで上がっていたインタビューによると「昔の電車の風貌を楽しんでいただきたい」ということらしい。
「……それにしても……」
ちらりと視線を横に動かす。
その先にいるのはすやすやと眠っている琉斗。
「こーんな見た目で男ってのがなぁ……」
未だに信じられない、と続くような言葉を言う。実際、琉斗を初見で男とわかった者はだれ1人として居ない上に性別がわかった所で信じる者は少なかった。
それは琉斗の外見も1つの要因だが、もう1つ理由はあった。声変わりしていないのである。
本来ならば男は第二次成長期に入ると声変わりしてしまうが、琉斗の場合はそれが無かった。声を聞けば活発な女の子のような可愛らしい声を発し、可愛らしい外見と相まってより男とは思えず、寧ろ女の子として扱われることも少なくない。
そして琉斗と宗二は共通の趣味がある。ロボットだ。
2人は高校に入学してから知り合い、好きなロボットアニメやゲーム、結晶機について何度も語り合い、時にはオリジナルの結晶機を描いて見せ合い、意見を言い合った。
2年生になってからはいつも一緒に登校し、昼休みも一緒にご飯を食べ、下校する時も一緒で1年生の時よりも一緒にいる時間が大幅に増えたほどだ。
「むにゃ……」
眠っている琉斗は気持ちよさそうに眠っており、口からはヨダレをツツーっと垂らしている。「いい夢見てんだな」と呆れるように視線を送りながら動画を見るのだったーーーーー
ZERO軍の施設、結晶機の格納庫でルーヌイは水を飲む。今の格好は黒のタンクトップと炎のような模様が書かれているスカートと腰に結んでいる上着だ。ZEROのエンブレムが書かれている水色の帽子は腋に抱えている。
「終わった……いや、これから始まるのね」
第三世代結晶機、ファントムを見上げて言う。戦闘機に打って変わって戦場の主役となった第2世代の結晶機。それを持ってしても敵わなかった相手。
いや、少なくとも理由のひとつは分かっている。実際に何度も第二世代に乗ったのだから。
第二世代の結晶機は【戦闘機よりも強いがいざ空を飛ぶとなると直ぐにエネルギー切れ起こしてしまう】点だ。
試しに満タンまでエネルギーが入った状態で空を飛び続けていると僅か五分でエネルギー残量の警告音が流れてきた。
戦闘機よりも強い防御力、攻撃力、スピード……。しかし持久力はクソザコ同然だった。
地上に居る時はそうでも無いが、空中にいるとなると莫大なエネルギーを消費する。それを何とかしようとZEROは新たなエネルギーを開発する。
旧世代の水素エンジンを徹底的に改良した【Hydro Plasma Jet Engine 】である。水素とプラズマをフレームや装甲に浸透することによって相乗効果を生み出し、燃費改善や軽量化を成功させたものである。
ファントムは第2世代結晶機よりも装甲を増やしているのにもかかわらず、軽いのはこれが理由だ。更にバックパックブースターを付けることによって空中にいられる時間を倍近く増やす事が出来たのだ。
「空中に居られるのがお前らだけだと思うなよ……!!」
怒気を含んだ声をボソリと呟くルーヌイ。それはまるで信頼していた仲間を目の前で殺されたような憎悪の炎を黄色の瞳が映している。
ルーヌイは新たな力で異星人と戦い、勝利する事を決意するのだったーーーーー
同時刻、【EUN領】のとある軍事施設。
基地の規模は大きいとはいえないが、小さいともいえない。
結晶機ハンガーや戦闘機を格納している格納庫、管制室が火を吹いている。
そして基地の外には大量の戦闘機や結晶機の残骸がゴミのように散らかっていた。
「クソっ!?何故こんな所にまで攻めてくるんだ!?」
結晶機に乗っている男が悪態をつく。
片腕を失った結晶機。目の前には異星人の機体があった。
メインカラーは黄色でRPGに出てくる魔王の騎士のような禍々しい外見。頭部は悪魔のツノのように歪に曲がったアンテナのついたカブト。
胴体はスラリとした騎士の鎧のようだが、肩部分が大きく、先端で結晶機を突き刺せる程鋭利なものになっている。
腕部分も肘から先から刺々しいものになっており、手もハリケーンナックルのように鋭く、どんなに硬い物でも粉砕しそうな雰囲気だ。腰部分のスカートは膝までの長さがあり、側面にはアゲハ蝶のような模様が描かれている。
脚部分はスラリとしたモデルのように細いが、足の先端にはナイフのようなものが装備されている。まるで胴体以外が全身サーベル装備のような印象を受ける。
コードネーム【イエローナイト】、地球が付けた便宜上の名前だ。
イエローナイトは当たりに散らかっている結晶機残骸を蹴り飛ばし、翼が千切れた戦闘機の残骸を踏み潰しながら進んでいく。
生き残りなど許さない。辺り一帯の全て破壊するとでも言いたげだ。
まだ損傷が浅い格納庫から第2世代の結晶機が2機出てくる。
緑を主体としたカラーリングの機体。頭部は折り紙のカブトのような形で青のバイザーが光る。
胴体もファルコンに対しては細く、肩も関節が見えているため貧弱に見える。
腕部分は細いが肘から先は戦艦の主砲くらい太い。
スカート部分は戦闘機の翼のような形で膝の側面部分やくるぶし辺りのスラスターが大きい。型式番号、【ENFF-0220・ラファール】は疾風の名の通り、世界一速い第2世代の結晶機である。
2機のラファールは近接用ブレード【ミステール】を構え、イエローナイトに突進する。その姿はさながらアクセル全開のドラッグマシン。世界一速い結晶機の名前は伊達ではない。
「くたばれ異星人ぁ!!」
突撃しているラファールのパイロットの1人が怒号を挙げる。
流石のイエローナイトもこのスピードには対応出来ないだろう。なんせこっちは『疾風』の名の如くとてつもなく速いスピードだ。スラスターもフルパワーで展開している。
「取った!!」そう思って近接用ブレードでイエローナイトの胴体を真っ二つにしようとした刹那、ラファールのバランスが崩れる。
進んでいたはずがいつの間にか前に投げ出されている状態だ。
「……へ?」
気の抜けた声とともに鉄が地面にぶつかったような音が聞こえる。
モニターを見てみるとノイズが走っているが、ハッキリと地面が目の前にあるのを認識する。
コックピットから出ると、いつの間にか対艦刀を握って振ったあとのようなポーズのイエローナイトがいた。
「ま……まさか……!!」
下の方を見てみると腰から下がない自分のラファールがあった。視線を変えれば胴体がないラファールの残骸が見える。
「は……はは……」
イエローナイトは顔面の紅いモノアイを不気味に光らせ、無慈悲に対艦刀を振り下ろした。
その光景を見ていたラファールパイロット。あのスピードをまるで赤子の手をひねるかのごとく軽々とやってのけた。
ラファールの最大スピードを捉えられるものなどいなかった。軍事力が1番強いZEROや戦力が1番ある【スラヴィム】の結晶機でもラファールの最大スピードを捕えられなかったのだから。
「ば……バケモノがぁ……!!」
自暴自棄になったラファールのパイロットがスカート部分に搭載している大型マシンガン、【ウーラガン】を取り出して正面に佇んでいる黄色の怪物へとやぶれかぶれに撃つ。
当然、冷静さをかいてめちゃくちゃに撃っているため弾が当たるはずもなく、1発当たったとしても大したダメージにはならない。
イエローナイトはゆっくりと獲物を追い詰めるように歩き、ラファールは後ずさりする。
「う……うわぁぁぁぁ!?」
目の前が真っ白になった男はマシンガンの弾が切れているのにも関わらず、トリガーを引いている。
カチッカチッっと言う音が虚しく鳴る中、ついに目の前に悪魔の騎士が来てーーーーー
持っていた剣を、なんの躊躇いもなく振り下ろした。
イエローナイトが去った基地は炎に包み込まれ、発見した時には既に大きな穴と灰、そして戦ったであろう戦闘機や結晶機の残骸がゴミのように散らかっていたーーーーー
『間もなく、明波駅に到着します』
無機質な女性のような声が車内に響く。
明波駅。そこが琉斗達が下車するところだ。そこから20分ほど左手側に歩くと県立校、鱒波高校に辿り着くのだ。
終点の2駅手前なためか降りる大人の数は片手程でその他は学生である。
スマホを駅に翳し、『ピロリン』という軽快な音ともにゲートが開かれる。
そうして多くの学生が学校から借りている近くにある自転車に乗って登校する者、友達と喋りながら、音楽を聴きながら登校するもの、反対方向に行って近くのスーパーでお昼やお菓子を買ってから行く者など様々だ。
そして電車に残っている2人。宗二と琉斗だ。寝ている琉斗を起こして登校するのが半ばテンプレと化している。
「おい、おきろ」
両手で肩を掴んで身体を揺らす。起きていたら酔うほどの勢いだ。しかし琉斗はそれでも起きない。もはや耐性がついているのかと言うくらい平然と寝ている。
「う〜ん……30分……5万……ばらまくぞ……」
むにゃむにゃと訳の分からない寝言を聞いて宗二の頭に怒りマークが見えるような錯覚が見えた。
「どんな寝言だ!?」
思わず掌で琉斗の頭をスパコーンと叩いた。ギャグテイストのような星マークがチラホラと見えている気がした。
「もぉ〜……なんなのさぁ……」
眠そうに瞼を擦る琉斗。寝起きでぼやける視線の前には宗二の姿が。
「おおっ、宗二じゃん。おはよ〜」
気の抜けた声で挨拶をする琉斗。起きたのを見届けた宗二は「遅れるぞ」と一声かけて早足で駅を出た。
「待ってよ〜」
慌てて定期券を改札口に入れて駅を出る。宗二の1歩後ろが定位置で後ろからおんぶするように抱きついたり、おしゃべりしながら歩くのが日常だ。
傍から見ると男女の幼なじみのように見えている。そんな2人は今日も一日登校するのだった。
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