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第一区 『幽霊が現れた!』 奏者 Mu

ー初めにー

この物語はフィクションです。実在のいかなる個人・団体とも関係はありません。

たとえなんとなく似ているキャラクターがいても、それは偶然、もしくは他人のそら似です。

ええ、あくまで他人のそら似ですったら、そら似ですからね!

 

「こんばんわ〜」

 目の前の扉を開けるとそこは広いリビングだった。中にいた数人の人が振り返る。

「やあ、”ボク”くん、こんばんは」

「いらっしゃい」

 僕は傘の雫を少し拭ってから傘立ていれると部屋に入っていく。

「雨、すごいね。大丈夫だった?」

「はい、なんとか」

 外からは遠く雷の音も聞こえていた。


      *


 東京のとある一角に小さな文学サロンがある。マンションの一部屋(と言っても2LDKある)に文学好きが三々五々集まって、好きな本の話や日常の出来事を語り合うそんな場所。元々、ネットの本好き交流サイトでのオフ会イベントが切っ掛けで、月に何回か集まっていたらしいのだけど、そのうち部屋を借りて常時好きなときに集まるようになったらしい。それでもオフ会イベントは月一ぐらいで続いていて、僕が初めて参加したのもそういったイベントだった。大学進学と共に東京で一人暮らしを始めた僕は、人恋しさと好きな本の話を誰かと出来る機会を求めて参加したイベントで、たちまちその楽しさに嵌った。学生で時間があるのをいいことにこの場所に足繁く通うようになっていた。


      *


「ボクくん、なんか食う?」

 キッチンから”オーナー”さんが声を掛けてくれる。オーナーと言ってもこの部屋の持ち主ではなく、実家が料亭を経営してるとかで、普段からプロ並みの料理の腕を僕らに披露してくれる親切なお兄さんだ。なんでもあるイベントの時に料理を作っている姿がまるで飲食店のオーナー料理人のようだったことからそう呼ばれるようになったらしい。今もオープン式のキッチンでなにかを作っている。

「そうですね。夜になってお腹がすいてきたので、なんか作ってもらえると嬉しいです」

「うん、分かった。じゃあ、さっとパスタでも作ろうか」

「ありがとうございます」

「なになにパスタ作るの? 俺も欲しいぞ」

 リビング中央のソファから声が掛かった。男性が二人、向かい合ったソファに座ってこちらを見ている。

「マスター、おまえはさっき食べただろ」

「えー、だって、議論が白熱して小腹が空いてきたんだよ」

「じゃあ、私ももらおうかな」

「教授まで? まったく……まあ、いいや、作ってやるよ」

「ありがとう、オーナー」

「感謝感謝」

 オーナーさんと二人の男性とのそんなやり取りを聞きながら、ボクもソファに腰掛けた。ちなみに”マスター”さんはなにか有名なゲームのチャンピオンらしくゲームマスターの略称で、”教授”の方はなんでも知っているその博覧強記な知識量がハンパなくて、そう呼ばれている。もっとももしかしたらほんとにどこかの教授なのかも知れないと密かに思ってるんだけど。

「それで、お二人はなんの議論をしてたんですか?」

「ああ、いやね」

 マスターさんがローテーブルに広げられた本を手にとって僕に見せてくれる。

「えっと、『読書家のための101の作法』……なんですか、これ?」

「最近出た本なんだけどさ、良い読書をするための作法なんだって」

「へえ?」

「キミ、これ、どう思う?」

「へ?」

 急に問われて言葉に詰まる。

「えっと、あの、本を読むときにそんなこと考えたことないです」

「そうだろう。それが普通だよね。こんな作法、人に言われてもなあ」

 マスターさんがそう言うと教授が口を挟んだ。

「いや、この手の作法については、古代ギリシャ時代から文献があってね、プラトーンの著書中でソクラテスも言及している」

「そうなんですか?」

 僕は驚いて尋ねた。

「ああ。それに中国の春秋時代の思想家で論語で有名な孔子は暗唱法の提唱者として知られてるよ」

「へえ」

 そこへマスターさんがすかさず反論する。

「いや、でもね、ゲーム理論では、個人の行動は複数の利害の相関に基づいて決定されるわけで、これにはその視点が欠けてるんだよねえ」

「はあ……」

 だんだん内容が分からなくなってきた。僕は一つため息を吐いてそう言えばと思いだした。

「あの〜、今日、会長さんは?」

「俺は見てないけど、奥にいるんじゃないか?」

「いや、今日はまだ来てないんじゃないかね」

 と二人が首を傾げた。ちなみに”会長”さんとは、この文学サロンの主催者、設立の立役者だ。

「会長なら、来てたけど、だいぶ前に外出したよ」

 キッチンでパスタの茹で具合を見ていたオーナーさんが教えてくれる。

「この雷雨の中ですか?」

 僕は驚いて尋ねた。さっきからまた雷の音が大きくなってきている。

「大丈夫かなあ」

「まあ、大丈夫だろう」

「それより会長になにか用かね?」

「あ、いや、来月のイベントでなんか手伝って欲しいって言われていて詳細が聞きたかったんですけど」

「それなら、そのうち帰ってくるんじゃないかね」

「そうですよね」


 その時、タイミングよく玄関の扉がカチャッと音を立てた。

「あ、かいちょ…」

 呼び掛けた声は途中で止まる。玄関に女性が二人立っていた。

「やっほー」

「こんばんは」

「あ、ミカンさん、ユメさん、こんばんは、です」

「ああ、ボクくん、こんばんは。今日も来てたんだ」

「はい」

 ミカンさんが手を振ってくれる。

「お二人はずっと一緒だったんですか?」

「ううん。下のエレベーターホールでちょうど一緒になったのよ。ね、ユメちゃん」

「はい」

 二人が部屋に入ってくるとマスターさんが声を掛けた。

「ミカンさん、今日はけっこう遅いね。残業だった?」

「ううん、違うの。それが、聞いてよ」

 途端にミカンさんの瞳が輝いた。

「来る途中で急に雨が酷くなってきたからカフェに入ったの。そしたら美少年の店員がいてさあ。たぶん高校生バイトだと思うんだけど、それだけでコーヒー2杯はいけたの」

「あー、そゆこと」

「もう一人いたら、カップリング的には完璧だったんだけどなあ」

「え? カップリング?」

 僕の疑問のつぶやきにミカンさんの瞳がさらに光る。

「カップリングって言うのはね」

「ちょっと待った!」

 マスターさんが制するように声を挟んだ。

「その話はそこまでだ」

「もう、なんでよ」

「まだ純真な彼に、その世界は10年早い」

「えー」

 ミカンさんがふくれる。

「え? え?」

 なんの話だろう? 僕は首を傾げることしかできなかった。その時、急に大きな雷の音が響いた。

「きゃっ!」

 ユメさんが飛び上がってミカンさんに縋り付く。

「ユメちゃん、大丈夫?」

「雷、苦手ですか?」

「うん、そうなの、音がね」

「はい、よしよし、大丈夫だよ〜」

 ミカンさんがユメさんの頭を撫で撫でする。それを見たマスターが

「ミカンさんは両刀使いだよなあ」

「なに言ってるの。かわいい子に性別は関係ないの。可愛いは正義よ」

「あー、はいはい」

 そんな2人の会話を聞きながら、両刀使いってなんだろう? と思った。あとで検索してみよう。


「おーい、パスタ出来たぞ」

 オーナーさんから声が掛かる。

「ありがとうございます」

 僕はキッチンに料理を取りに向かう。

「わたしは紅茶淹れようかな」

 その横をもう立ち直ったユメさんが付いてきてキッチンに入った。

「ボクくんもいる?」

「あ、はい、お願いします」

 キッチンには出来上がったパスタが三皿。

「マスター、教授、出来てますよ」

 振り返るとちょうどマスターさんが立ち上がって取りに来るところだった。

「あれ? 教授は?」

「ああ、さっき奥の書庫に入っていったから、呼んでみるか」

 リビングの奥の一室は丸々書架になっていて、みんなの持ち寄った本が置かれている。普段自分では買わないような本を手にとって読んでみられるのもこのサロンの楽しさだ。

「教授〜、パスタ出来ましたよ〜、て、え?」

 奥の部屋からガタンと大きな音がして、バタバタと教授が走り出てきた。その顔がなんだか蒼い。ちょっと震えているような気もする。

「どうしたんですか?」

「もしかしたら教授も雷怖いの? よしよししてあげようか?」

「な、なにを言ってるんだね、ミカンくん。雷の事なんてどうでもいいんだ。それより、皆さんは……」

 そこで教授はちょっと言い淀んだ。

「……幽霊の存在を信じるかね?」

「は?」

「なに?」

 話が見えない。

「わ、私は信じちゃいないんだけどね。魂の実在はこれまで証明されたことはないし……」

「あれ? どこかのお医者さんが魂の重さを量ってなかったですか?」

 僕の質問に教授が答える。

「ああ、アメリカのダンカン・マクドウーガルと言う医師が死亡前後での体重変化を計測して魂の重さが21グラムだと報告はしてるが、まあ科学的には眉唾だよ」

「あ、わたし、信じます」

 そこへキッチンから声が掛かった。ユメさんだった。

「わたし昔から霊感強くって、そういうのよく感じるんです」

 その一言で教授の顔が見るからに強張った。

「いったいなにが?」

 尋ねると教授は声を落として言った。

「で、出たかもしれない」

「え?」

「……幽霊だよ」

「ちょ、ちょっと! 冗談やめてよね、教授」

 たちまちミカンさんが飛び上がって抗議した。

「どう言うことだよ?」

 マスターさんが説明を求めた。

「書庫の奥に押し入れがあるだろう。私が書架の本を眺めていたら、そこからカタカタと音がしたんだ」

「か、雷の聞き間違いなんじゃないの?」

 ミカンさんがこわごわ言う。

「そんなものと間違えたりしない。それにちょっと耳を澄ませてごらん。ほら今も……」

 僕らは一様に口を噤んで奥の部屋に耳を澄ました。ザーザーという雨の音に混じって、明らかに異なる音が聞こえてきた。

 ガサガサ、ガサゴソ。

「ぎゃあああ!」

 ミカンさんが飛び跳ねてキッチンに走っていってユメさんに縋り付いた。

「ウォ! ビックリしたァ。ミカンさん、落ち着け!」

 マスターさんが怒鳴る。

「まだ、そうと決まったわけじゃない。例えば……」

 その瞬間、稲光と共にこれまでにないほど大きな雷の音が轟いた。ふっと辺りが暗くなる。なにも見えなくなった。

「きゃあああ!」「うわー!」「なんだよこれ?!」

「て、停電じゃないですかね?」「そうだよ、停電だよ」

「スマホスマホ!灯り灯り!」

 手持ちのスマホの灯りを点けてみんなの顔が浮かび上がった。教授は同じ場所で立ち尽くし、マスターさんはスマホの明るさを操作中で、ミカンさんとユメさんは二人で手を繋いでキッチンの床にしゃがみ込んでいた。そしてオーナーさんはと言うと、レンジの火加減を冷静に調整していた。まじか。この人やっぱプロだ。

「この停電って、まさか幽霊の所為じゃないですよね?」

 半信半疑で尋ねると

「いや、普通に雷の所為だろう」

 マスターさんが答えてくれる。でもその声が少し震えていた。

「そ、それより、例えば侵入者がいるって考える方が現実的だよ」

 マスターさんの考えにユメさんが言葉を添える。

「わ、わたしも、幽霊じゃない気がします」

「なぜですか?」

「あんまり霊を感じないから」

 みんななんとも言えない表情で顔を見合わすけれど、ユメさんがそう言うのなら、それはそれで心強い。それでもガサガサという音はまだ聞こえている。

「どっちにしても確かめる必要があるんじゃ……」

「そうだね」

「うん、ボクくんの言う通りだよ」

 そう言ったミカンさんが僕の方を見る。え? あれ? なんとなくみんなの視線が自分に集まっているような気がする。背中に冷や汗が流れた。

「あの、みなさん……」

「ボクくん、確かめてきてくれる?」

「いや、ミカンさん……僕がですか?」

「そうだなあ、それが適任かなあ」

「マスターまで」

「だって、ボクくん、若いから、生命力あって霊に取り憑かれる心配なさそうだし、すばしっこいから侵入者だとしても逃げられそうじゃない」

「そんな無責任な……」

 みんなに期待の眼差しで見つめられてどうしようと思っていたら、ひょっとオーナーさんが進み出てきた。

「俺が行こうか」

「おー」

 たちまちみんなの視線がオーナーに注がれる。その視線の先に出刃包丁を握りしめたオーナーが立っていた。

「ちょ、オーナー、包丁」

「なんかあったら、これで一突きに……」

 僕は部屋中血まみれになった様子を想像して怖くなった

「いや、ちょっと待って、それ危なすぎますって」

 みんなも顔を見合わせている。あー、もう、仕方ない。

「わ、分かりました。僕が行きます」

「おー」

「ボクくん、えらい!」

「頑張って!」



 スマホの明かりを頼りに書架の間を抜ける。みんなは書庫部屋の入り口から、こちらを覗き込んでいる。

「ボクくん、頑張って〜」

 ミカンさんが小さな声で声援を送ってくれる。

「そんなところで見てるんだったら、一緒に来てくださいよ〜」

「それはイヤ」

 仕方なく奥まで進むとそこに押し入れの襖がある。ガサゴソという音は今も聞こえている。

 この扉を開けてなにがいるのか確かめるのか。

 緊張でドキドキしてきた。呼吸が荒くなってくる。

 手をそっと襖にかけた。その手が震えてるのが自分でも分かる。落ち着け。

 ゆっくりと音がしないように少しだけ襖を横にずらした。5センチほど空いた隙間から中を覗く。暗くてなにも見えない。忘れていた。スマホで照らさなきゃ。落ち着け。

 手に持ったスマホで押し入れの中を照らそうとした時、轟音と共に稲光が部屋を照らす。

 押し入れの中で二つの瞳が妖しく光った。


「うわあああああ!」


 見た瞬間、頭が沸騰した。

 勝手に身体が動いて飛び跳ねて、襖を大きく蹴り飛ばしていた。

 身体はそのまま後ろ向きに倒れ込んで行く。その一瞬がまるでスローモーションのように長く感じる。

 出入り口で見てるみんなの阿鼻叫喚が聞こえる。

 稲光の中で光る瞳が押し入れから自分に向かって飛び掛かってくる。

 もしかしたら自分はここで死ぬんだろうか? 

 そんなことを考えた瞬間、後頭部が書架にぶつかって激しい痛みに目が閉じる。

 倒れ込んだ頭の上でバラバラと本が落下する音がする。

 それとは別に胸の上になにかが落ちる感覚。

 恐る恐る目を開けた僕の眼前で、その声が聞こえた。




「にゃあ〜」


「は?」

 その時、今までの闇が嘘だったように唐突に灯りが付いた。僕の胸の上にはまだ幼い子猫が乗っかって頻りに僕の胸を叩いている。打ち付けた後頭部の痛さも忘れて僕は呆然とそのネコをしばらく見つめていた。それから我に返る。

「……ネコ、だったのか」

「ボクく〜ん、大丈夫〜」

 部屋の入り口付近から声が掛かる。あっちはどうなってるんだろうと思って顔を捻って入り口を見るとみんなが覗き込んでいた。

「あー、大丈夫です。ネコでした〜」

「え? ネコ?」

「どこどこ?」

「あー、ほんとだあ」

 僕の一声でみんなが部屋に入ってくる。なんて言うかちょっとホッとしてしまった。僕はようやく起き上がって胸の上にいたネコを抱きかかえた。ミカンさんとユメさんがさっそくネコの頭や背中を撫でていた。

「よしよし、良い子良い子。でも、どっから来たんだあ、おまえ」

 ミカンさんの問いかけにネコは「にゃあ」と答える。

「うん、全然わかんないわ」

「まさか、どっか外から侵入したって事はないですよね?」

「それはないんじゃないかなあ」とマスターさん。

「じゃあ、どこから来たんだろうね、キミ?」

 ユメさんの問いかけに今度は教授がつぶやいた。

「れ、霊界から来たって事は……」

 マスターさんがすかさず突っ込む。

「教授はもう幽霊から離れた方がいいね」

「う、うむ」

 そんな喧噪の中、玄関のドアが開く音がした。そして部屋の入り口に顔を出したのは

「やあ、みんな、ここに集まってなにしてるの?」

「会長!」

「会長さん!」

 両手に大きく膨らんだビニール袋を提げた会長さんだった。書庫の室内を見渡した彼はネコに気づいて、

「あー、出てきちゃったのか」

「このネコ知ってるんですか?」

 マスターさんの問いに会長が答える。

「うん。夕方、拾ってきたんだよ」

「なんと、会長の所為だったのかね」

「「はあ〜」」

 教授に続いてマスターさんと僕のため息が重なった。

「え? え? なに?」

 会長さんは何のことか分からないながらも、微妙に慌てて説明しだす。

「いや、捨て猫みたいでさ。雨の中、木の下で濡れて弱ってたから、拾ってきて乾かして、寝かした方がいいだろうと思って、暗くできる押し入れの中に入れといたの」

「ははあ、それで、押し入れ」

「そんで、いろいろ買ってきたんだよ。ネコ砂とか、ネコ缶とか、爪研ぎマットとか、キャットタワーとか」

「ここで飼うんですか?」

「そのつもり」

「わーい」

 途端にミカンさんが両手を挙げてはしゃいだ。

「よかったね、キミ」

 ユメさんに背中を撫でられたネコは気持ちよさそうに目を細めていた。


             *


「こんばんわ〜」

「やあ、ボクくん、こんばんは」

「いらっしゃい」

 翌日、サロンを尋ねると今日もマスターさんと教授がソファから出迎えてくれた。でも今日は昨日と違って、リビング脇に会長さんが立っていて、昨日設置されたキャットタワーを眺めていた。その上ではネコちゃんが気持ちよさそうに眠っている。

「”我が輩”、元気でした?」

「やあ、ボクくん。ああ、さっきまで元気に部屋中走り回っていたよ」

 会長さんが眼を細めてネコちゃんを見つめる。案外、ネコが大好きなのかもしれない。ちなみにネコちゃんの名前はみんなの投票の結果、かの有名なネコの名前(ではないけど)になった。

「ボクくん、なんか食うかい?」

 キッチンからオーナーさんの声。

「あ、はい、今日はまだお腹すいてないんで、コーヒーもらえますか?」

「オーケー」

 自分もソファに座ろうと思って歩き出したところで、玄関のチャイムが鳴った。珍しいな。チャイムを鳴らしてくる人ってあんまりいないんだけど。玄関に戻って声を掛ける。

「開いてますから、入って大丈夫ですよ」

 扉がゆっくりと開いて女性が一人、入ってきた。初めて見る人だ。大学生かな。僕よりは年上そうだけど。

「あの、文学サロン関係の方ですか? 僕、まだ入って間がないので、みなさんの顔を分かってないんですけど」

「いえ、あの、違います」

「はあ」

 女性は窺うように奥のリビングを見回した。

「えっと、ここって、探偵みたいなことをされているって聞いたんですけど」

「え?」

「なになに、どうした?」

「あ、会長さん」

 僕らのやり取りを聞いて会長さんが玄関まで来てくれる。

「この方が、このサロンに探偵がいるみたいなことを言われるんですが」

「あー、それね」

「え? いるんですか?」

「いや、いないけど。でも、前にサロン利用者関係のトラブルをみんなでいくつか解決したことがあってさ。なんとなく噂が広まってるとこはあるんだ」

「へえ」

「それになんだかんだと変な雑用をたのまれる事もある」

「そうだったんですね」

「あの〜」

 僕らの会話に女性が怖ず怖ずと声を挟んだ。

「あー、すみません。それで、なんの用でしょうか?」

 改めて会長さんが聞くと、女性は少し俯きがちに「実は……」と話し出した。この女性の訪問が、まさかあんな事になるなんて、この時の僕は思いもよらなかった。


つづく



ついに、初話、投稿しました。

ちょっとリレー小説としてはあれなんだけど、あまりにも時間がありすぎてワンエピソード丸々書いてしまいました。

とりあえず、間口は広げといたんで、いかようにもしてやってください。

はとむぎさん、後はまかせた! バタン(バトンを渡して倒れる音)


あ、そうだ、お題置いときますね。→「舞台」です

よろしく〜


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