第九区 『世界の終わり。そしてはじまり』 奏者 HERO-TAKA
残る奏者は、あとふたり――
渾沌をこえて終末が近づく――
▶【会長を終わらせない】
教授が言っていたらしい、冷戦時代のおはなし。
誰かによって書かれた作品に、また誰かによって作品が被さり、繋がり、延々と拡張は続いていく。永遠に終わらない。
世界は崩壊した。
突如、宙から到来した隕石の雨は、地上に遺るすべての生命の息吹を根絶する勢いで降り注いだ。既に一週間ほどの時間を数えたが、その手は決して緩まない。
機能を止める前の政府が、諸外国からの軍事侵攻や宇宙人の襲来かと騒いでいたけれど、それがぜんぶ間違いだって知っている。
これは、私の選択の結果だ。
「会長。いい眺めですね」
それは、偽りのない私の感想だった。すでに世界の主要都市……いや、すべての文明は灰燼と化した。この東京だって、今や見渡す限り瓦礫の山。灰色の崩れたコンクリートから土煙が舞い上がり、空気はいつだって埃っぽい。空には雲ひとつなく、血のように朱い空のグラデーションが綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「そうだね。本当に、すっきりしてしまったね」
体育座りで、膝に顔を埋めて座っている私。隣に立っている会長は、私の言葉に同意してくれた。表情を変えない彼が、心の中でなにを思っているかはわからない。喜んではいないに決っている。でも、絶望しているわけでもないと、私は勝手にそう思ってしまう。
「会長……こんなときに言うのも、なんですが……」
「……マツリカさん。それは、こんなときだから、思っているのではないかな?」
「いいえ。私はこうなる前から、ずっとこう思ってました。その想いが、あなたもいっしょだと嬉しいです」
私は隣に立つ彼の顔を見上げる。私が空を見ているのに、彼は眼下に広がる風景をずっと見つめている。
「会長。私はあなたと、永遠にいっしょにいたいです。会長は、どう思ってますか?」
目が離せないほどの惨状。たったの数日で変わり果ててしまった世界。気が狂わんばかりの不安が、精神を汚染していく。それに呑み込まれて、獣に戻ってしまったほうが楽に決まっていて、それでも両の脚で踏ん張っているあなた。
「……僕はまだ、見届けてないから」
「……なにを? ですか?」
「マツリカさんが開催する、読書会」
そういえば、そんなことを相談していたっけ。随分前に交わした、遠い約束だ。
「僕も、永遠にいっしょにいたい」
会長の言葉から、その言葉が出た。悔しいことに、そのときだって会長は私の顔を見てくれてなくて……だからその言葉が私に向けられたものなのか、私と私以外のすべてに向けられたものなのか、わからなくて……。
でも、その意思が聞けたことで、私は確信できた。
「ありがとうございます。ずっとこのままでいましょうね。永遠に……」
私の選択は間違っていなかった。
そしてごめんなさい。読書会は、永遠に開催されません。
世界を終わらせる力を使い、私はこの世界を終わらせるのではなく、この世界への道を塞ぐことにした。この世界を他のパラレルワールドから切り離した。
もうこの世界は、上位存在からの干渉も、同じ立場の人たちからのちょっかいも受けない。誰かが続きを書きたいといっても、私が書いている途中だといって突っぱねる。編集者が眉根を寄せて睨んできたって、連載中だっていって打ち切りにさせない。
だって、続きを書くつもりだもん。未完ではなく、たとえ失踪と言われようとも、更新は続いていく。投稿はしないけれど。あなたたちには、もう見えない。私の手帳のなかで広がっていく妄想のような物語だけど。
違う選択をした、違う物語の「私」へ。
ごめん。私はひとりで先に舞台を下りる。でも、あなたも「私」でしょ? じゃあ、きっとわかるよね。
私はここで自分で幸せになるから、「私」も勝手で幸せになってね。
ここは助助文学サロンが入ったマンション。この世界に唯一遺された文化のあかり。瓦礫の山と海のなかでそびえ立つ塔。
私と会長は屋上にいて、そして――
「……アインシュタインは、第四次世界大戦は石と棍棒で戦うことになると言ったけど、どうやらその予想は外れてしまったみたいだね」
「会長……この状況で言うことが、それですか?」
「『199X年~世界は核の炎に包まれた~海は枯れ~地は裂け~全ての生物が死滅したかのように見えた。だが、人類は死滅していなかった! デデーン!』」
「会長、モノマネが下手ですね……ってそうじゃなくて、あの、ほら、気の利いた科白とかあるでしょう……」
時が止まった。耳障りな風の音だけが、天井知らずの沈黙の中を吹き抜けていく。
「あら。会長。もしかしてこういうのは初めてでしたか? 顔は真っ赤で、恥ずかしくてこっちを向くこともできないと。これはまた、随分と、お可愛いこと」
「…………」
「実は会長……。告白しますと、私、魔女なんです。だから、今度はもっとずごいのをお見せしますよ」
「す、すごいの?」
「そう。すごいの! もう『すけすけ』ですよ。『すけすけ』。会長の『すけすけ』すけべえな部分が刺激される、とんでもない『すけすけ』ですよ」
「『すけすけ』!」
「『すけすけ』!」
私と会長はきっとこんな感じで続いていくのだろう。
私と会長は手を繋ぎながら、屋上から下の階に移動した。
乙女のたしなみとして手を離して、いつもの扉を開ける。
そこにはいつものメンバーがいる。
オーナーの作る温かい料理の匂い。
マスターと教授は奥のテーブルで議論を交わしている。
ミカンさんとユメさんはふたりでボクくんをからかっている。
みんながいっせいに私たちに気付いた。笑顔が私に向けられる。
「おかえりなさい。マツリカさん」
その光景に、思わず目が潤む。両手で顔を隠さないと、見られてしまう。
会長が私の肩を抱いてくれた。
ばか。みんなにばれちゃうじゃない。
そういえば、あの猫はどこに行ったんだろう?
隕石を降らそうと思って調べていたら、ネットの小説の更新が途絶えることを「エターナる」「エタる」ということを初めて知りました。面白い言葉だったので、今回のお話に採用させていただきました。それに合わせ、タイトルを「テイルズ・オブ・エターナる」にしようと思いましたがやめました。
実はまだ高田大介さんの「図書館の魔女」は読んだことがありません。これを機に手にとってみようと思いましたが、読んでいる最中、頭の中に「すけすけ!」という言葉が響き渡りそうなので、躊躇しております。
さて、いよいよアンカーさんにバトンを渡します。
真打ち登場。JOJOさん。やっちゃって下さい。
お題は「そして伝説へ」でお願いします。




