第八区『欲張りな女の子は嫌いですか?』 奏者 みや
▶【先輩に挨拶する】
【先輩を無視する】
【会長と先輩のところへ行く】
【教授とマスターのところへ行く】
▶【ユメとミカンとボクのところへ行く】
【コーヒーをもらう】
▶【紅茶をもらう】
【ここはセンブリ茶一択でしょ!】
人生は選択の連続である。
ハムレット王の名言として有名だけれど、実際には「ハムレット」にこんな言葉は出てこない。でも、劇中に台詞として書かれなかっただけで、舞台裏で一度くらいは言っていたんじゃないかしら。ハムレット王でなくても、誰もが当たり前に感じていることなのだから。
些細な選択から、その後の人生を動かす重要な選択まで、内容もタイミングも種々様々。妨害されることもあれば、後悔することもある。私たちは毎日毎日、気付かぬ内にそんなことを繰り返している。
この原点の場所へ辿り着き、初めて助助文学サロンの読書会に参加してから、私はある一つの選択肢を選べずに保留し続けている。
【会長を終わらせる】
【会長を終わらせない】
デウス・エクス・マキナ。終わりを司る私の使命は、ただ一つであるはずなのに。
そして今日もまた、私はこの場所に足を運ぶ。
○
正面に座るミカンさんとボクくんに熱く語るユメさんの隣りで、私はゆったりと紅茶を味わう。星の文壇では今も争いの真っ最中だと分かってはいるのに、この穏やかな空間にいると、つい心が緩んでしまう。私の身代わりになってくれた彼女は、今もまだ生きているだろうか。
「梓くんは一人になった時に見せる切なげな表情にキュンとなるし、いつも明るい椿くんがちょっと落ち込んでる時にはギュッとしてあげたくなるんです。侑介くんが照れながら告白してくれるのもすっごく萌えました。でも、やっぱり一番素適なのは棗さん!かっこよくて、優しくて、でもちゃんと叱ってくれて、本当に凄く凄く素敵なんです!」
「な、なるほど…」
ボクくんが思わず引いてしまう程に、普段はのんびりとマイペースなユメさんを、ここまで早口にさせているのは『乙女ゲーム』と呼ばれるもの。『ゲーム』ではあるのだけれど、ゲーム要素はほとんどなく、ボタンを押して文章を読み進め、何度か登場する選択肢によって、複数あるエンディングのどれかに辿り着くというものらしい。
「ボクくんはユメちゃんの乙女ゲーム語りを聞くのは初めてだった?」
「はい。恋愛小説がお好きなのは知っていましたけど、こういったゲームも好きだとは知りませんでした。むしろ何となく、ユメさんはゲームとか苦手そうなイメージだったので、意外です」
「戦ったり車に乗ったり飛んだり跳ねたりするゲームは、よく分からない内に終わっちゃうから苦手。パズルゲームも酔っちゃうから無理かな。でも、ノベルゲームはゲーム機で読む『小説』だから、わたしでも楽しめるの」
私が元いた世界では小説を語覚で楽しんでいたから、こういったゲームの存在を知ってはいたけれど、実物はここに来て初めて見た。勿論、こういったものに目を輝かせる女性の姿も。キラキラして眩しい。
「それは電子書籍で小説を読むのとは、また違うんですか?」
「違うところはいくつかあるけど、小説とノベルゲームの一番大きな違いは結末が沢山あるってことかな。大抵の小説は作者が決めた男の子と女の子が結ばれるでしょ。乙女ゲームだと選んだ選択肢によって物語がどんどん分岐していって、私、あっ、主人公の女の子のことね、私はいろいろな男の子といろいろな運命を生きていくの」
物語。何の気なしに今まで使っていた言葉が、私の心を酷く騒めかせる。
私は、ある一つの物語の中にある、ある一つの世界の中の、ある一つの物語の登場人物らしい。何言ってるの?って思うでしょ。私もそう思う。
それを数十分前に私へ教えた男は、部屋の対角線上で会長と共に笑いながら話している。彼らはユメさんとはまた違う、言葉のゲームを楽しんでいるみたい。一瞬だけ目が合い、一人で思い悩む私を面白がるような顔で笑いかけてきたから、反射的に睨み返してしまった。どうしても好きになれない。言いたいことだけ言って、何事もなかったかのように初対面の挨拶を要求してくる男を、どうやって好きになれというのだろう。でも、不思議と彼が話す言葉は私の心の奥へ自然と入り込み、信じられないようなことを信じさせられてしまう。それがまた悔しい。目的を果たすためには冷静でいないといけないのに、私の感情を揺さぶってくる。
「主人公の女の子に感情移入しやすいっていうのも特徴じゃない?」
「えっ!ミカンさんも乙女ゲームをやるんですか?」
「なんでそんなに驚くのよ~。確かに私はユメちゃんから話を聞いているだけでプレイしたことは無いけど、タイプの違う沢山のイケメンと恋をするっていうのは女の憧れなんだから。ボクくんはもうちょっと女心を勉強しないとダメね」
「は、はい…。ご指導よろしくお願いします」
ボクくんは本当にもう少し勉強した方がいいわね。ミカンさんがボクくんを好きなことなんて猫でも分かるほどに隠せていないのに、全然気付かないなんて。でも、このサロンにいる男性陣はオーナー以外誰も気付いていないようだから、ここにいる人達を参考にしちゃだめよ。
「百聞は一見に如かず!ボクくんもやってみて」
ユメさんが桃色の可愛らしい鞄の中から、桃色のゲーム機を取り出す。ユメさんの頬が桃色に染まっているのは、好きなことを語っているからであって、決してボクくんを争う三角関係が生じているわけではない。ただでさえ複雑な物語に、そんな修羅場まで追加しないで。
「私は両親を幼い頃に亡くして、忍者になるために奉公生活を送りながら町の道場に通っていたら、有名な忍術学校の特待生試験を受けるために学校へ編入させてもらえるようになった忍者見習いなの。くのいち」
「はあ…」
「得意忍術は男の子をメロメロにさせる術」
「その技を持っていたら、どの男の子とも簡単に付き合えるんじゃないんですか?」
「恋の道はそんなに甘くないのよ、少年」
「今日はバレンタインです」
「え?忍者なんですよね?現代のお話なんですか?」
「そういう細かいところは気にしちゃダメなの。広い心で全てを受け入れるのが乙女ゲームのポイントです」
「なるほど」
「ここで選択肢が三つ出ます。ボクくん、君はどのチョコレートを作りますか?」
勢い込んだユメさんと共に立ち上がり、ボクくんの背後からゲーム機の画面をのぞき込む。
【ミルクチョコレート】
【ビターチョコレート】
【ホワイトチョコレート】
あまりにも普通過ぎる選択肢に思わず驚いてしまう。忍者のバレンタインなんだから、せめて抹茶とか梅とか、和風のものにすればいいのに。でも、そこを気にしないで受け入れるのが乙女ゲームのポイントなのよね。広い心が大切。
そして、この些細な選択が彼女の、今はボクくんの今後の運命を左右する。
「えっと…、じゃあ、ミルクチョコレートにします」
少し悩んだ後、ボクくんはボタンを押して【ミルクチョコレート】を▶で選ぶ。さて、彼の運命は如何に。
『これは…すごく甘いね。甘いものもいいけれど、君には苦みのある大人の味を、俺が教えてあげようかな?』
ゲーム機に映る彼は、女性たちが喜びそうな甘い声で、甘い台詞を平然と囁く。こんな男が目の前にいたら、思わず終わらせてしまうかもしれない。駄目よ、広い心が大切。
「あ~、残念。真田先生は甘いものが苦手だから【ビターチョコレート】を選ばないと先生ルートには入れないの」
「ルート?」
「う~ん、それぞれの物語って言えば良いのかな。大抵の場合、最初は攻略対象のキャラクター全員と過ごす共通パートがあって、途中から恋をする相手によって全然違う展開になる個別ルートに入っていくの」
「そこが分岐になるってことですね」
私からすると『真田先生』はそれなりに喜んでいたように見えたのだけれど、どうやら違ったみたい。私ももう少し恋の勉強をした方が良いのかも。
「乙女ゲームは女の子が主役だけど、男の子が主役で女の子と恋をするゲームも沢山あるから、ボクくんもやってみてね」
「えっと…そういうのって、ちょっと…その…え、えっ…みず、水着とかお風呂とかそういう・・・のが…ある・・」
どこまで純朴なの、この子。大丈夫かしら。もう少しで二十歳になるというのに、あまりにも無垢すぎる。私には他にも考えなければならない問題が沢山あるというのに、彼の今後が心配で集中できないわ。
「Hなのばっかりじゃないから大丈夫だよ~」
ユメさん、大分興奮してるわね。そんな大きな声でそんなことを言ったら、純情が煮詰まりきったような男性陣たちが驚いてしまうじゃない。
「毎日違うイケメンと付き合うなんて現実世界では許されないけれど、ゲームの中だとどんなに浮気しても許してもらえるからいいわよね」
「ミカンさん、それは違います!」
ユメさんの中にある新しいスイッチが、カチッと押される音が聞こえた。
「プレイしているわたしはわたし一人だけですが、それぞれの物語で恋をする『私』は全部違う『私』なので、浮気ではないんです!」
私の中のスイッチも、カチッと押される。『私』は全部違う『私』。
「一途に一人だけを愛して、他のゲームも他のキャラクターも一切攻略しないというファンの子もいます。 そういう子からすると、わたしは浮気しているように見えるのかもしれません。でも、音也くんと恋をしている『私』は音也くんだけが好きで、翔くんと恋をする『私』は翔くんだけを愛しているんです」
そう、『私』は一人だとは限らない。
「例えば、父を探すために男装して新選組に入ったら隊士に血を吸われたり鬼に狙われたりする私と、 争いによって荒廃した並行世界で植物状態となった十年後の自分の体に意識だけ跳ばされる小学六年生の私は、全く違う『私』です」
「乙女ゲームって、結構殺伐としてるんですね」
「苦難が大きければ大きいほどに恋は盛り上がるのよ、少年」
「勿論、物語そのものが違うので、お互いのことは全く知りません」
先輩曰く、根本の全く違う、二つの物語があるらしい。私が今いるのは、その内の片方の物語。その物語の中には複層となった世界があり、層の上下は放浪者及び観測者か、登場人物かによって決まる。私は登場人物の一人。
「わたしはプレイヤーですから、全てのルートを知っています。でも、ゲームの中で理一郎や鷹斗、円、トラ、終夜、それぞれのルートで男の子と恋をする小学六年生の私は、どれも違う『私』なんです。だから、どの『私』も他の『私』を知りません。『私』が他にいることも知りません」
「そもそも小六が主役の乙女ゲームって凄いわね。最近の子はませてるから、そういうのもアリか」
ある一人の作者が書いた小説、つまり下の世界に同じ人物が存在することはあっても、それは異なる物語だから互いに干渉しない。存在していることも知らない。私は私以外の『私』を知らない。
それらの物語は最初から複数の作品として存在しているのだろうか。それともノベルゲームのように、分岐することで増えていっているのだろうか。登場人物の一人に過ぎない私には、いくら考えても分からない。
「同じ一人のルートでも、大抵の場合、複数のエンディングがあります。分かりやすく言うと、ハッピーエンドとバッドエンドです」
「え?誰かのルートに入っても、バッドエンドになることがあるんですか?」
「彼が一人で留学してしまったり、戦場で死んでしまったり、私がライバルに殺されたり、狂った彼に監禁されたり、変な薬を飲まされたり、とにかく色々な結末があるの」
「乙女ゲームって、やっぱり殺伐としてますね」
「その一つ一つのエンディングにいる『私』も、それぞれ違う『私』で、他にどんな人生があったのかは知りません」
『私』が存在する物語はいくつあるのだろう。先輩が読んだ小説では、ブギーマンであるボクくんがサロンの仲間たちを虐殺する物語もあるみたい。その物語の『私』は先輩と一緒に謎を解決するらしいけれど、想像もつかないわ。この少し惚けたところのあるボクくんがそんなことをするなんて到底思えない。でも、この私の物語でも選択肢次第ではそんな展開になる可能性があるのかもしれない。もしかしたら、そのルートへ進む選択肢はもう選び終えてしまっているのかも。
「もしゲームの中にいる私が私一人だけだとすると、理一郎とハッピーエンドを迎えた後に、記憶をリセットされて、円くんとの新しい物語を始めるということになります。これだと理一郎との物語は、そこで終わっちゃうんです。いろいろな苦難を乗り越えて、せっかく結ばれたのに、そこで終わってしまうなんて、悲しいと思いませんか?」
「まあ、恋は片思いの時が一番楽しいとは言うけれど、両思いになったところで終わりっていうのは流石に味気なさ過ぎるわよね」
絶賛片思い中のミカンさんがボクくんに告白しないのは、今を楽しんでいるというよりは、自信が無いからだと思うけれど。年齢差を気にしているのかしら。
「このゲームでは別の世界、あ、これは別のルートという意味ではなく、純粋に物語の中でのパラレルワールドの設定です。別の世界の未来にいる自分の体に意識だけ入ることになる小学六年生の私は、元の世界で一緒に学校生活を送っていた同級生たちと会いますが、違う世界を生きてきたので子供時代の記憶は一致しません」
『私』と先輩が謎解きをする世界は別のルートだけれど、私が『私』に意識だけ入ったとしたら、そこは私にとってパラレルワールドになる、といったところかしら。ややこしいわね。もうちょっと分かりやすいゲームで説明してくれれば良かったのに。まあ、ユメさんは乙女ゲームの素晴らしさを語っているだけで、私のために私の状況を解説してくれているわけではないのだから、ここで文句を言っても仕方ないのだけれど。
「そんな中で色々あって、私は荒廃した世界で一人の男性と結ばれます」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも、結ばれた後にも重大な、凄く凄く重い選択を迫られるの」
拳を握りしめて、涙目になりながら熱く語るユメさんを、ミカンさんとボクくんだけでなく、サロンにいる全員が食い入るように見つめる。好きなことを本気で語っている人は、心を惹き付けて止まない。
「別の世界の未来に残ることを選んだ場合、もう一つの世界は永遠に時が止まったままになります。十二年間過ごしてきた元の世界に生きる彼は、永遠に止まり続けることになるんです。逆に元の世界へ戻ることを選んだ場合、植物状態になっている私が争いの原因なので、私が帰ってしまったら争いは更に激化します。思いが通じ合って結ばれた彼を、そんな世界に残していくことになるんです。どちらの彼を選んでも、どちらかの彼を犠牲にしなくてはなりません」
「重いですね…本当に。それは…重い」
もし私が会長を終わらせずに助助文学サロンを守ったとしたら、星の文壇の争いが起きて、殺し合いが始まってしまう。もし私が会長を終わらせたら、小説の感覚や争いは起こらず、星の文壇にいた仲間たちは平和な日々の中で読書を楽しめるようになるのだろう。そこに私はいないけれど。
「新機種へ移植されるたびにアフターストーリーが増えることもありますが、そのどれにおいても絶対にどこかでゲームは終わってしまうんです。でも、本当にそこで彼らの物語は終わってしまっているのでしょうか」
デウス・エクス・マキナ。“焉”を司る者。終わらせることが、私に与えられた役割。これまで数多の終わりを生み出してきた。でも、『終わり』とは一体何なのだろう。
「未来残留エンドで幸せになる未来の『彼』と、過去帰還エンドで幸せになる過去の『彼』、プレイヤーのわたしはどちらの『彼』も幸せになる姿を見ています。でも、ゲームの中にいる『私』は他のルートにいる『彼』を知ることはできません。わたしは欲張りだから『私』全員に幸せになってほしいんです。全員の『私』が未来の彼も過去の彼も幸せになる姿を見て、幸せになってもらいたい」
「でも、それはゲームだと描かれずに終わっちゃってるんですよね」
「そう。でも、もし未来残留エンドでゲーム上ではクリアになった後も物語が続いていたら、過去の世界を救う方法が見つかるかもしれない。過去帰還エンドでも、もう一つの未来の世界を救う方法ができるかもしれない。そのまま続けていれば幸せな物語になるかもしれないのに、ゲームのシナリオが終わったからといって、終わりにしたくないんです」
「それは、ゲームはそこで終わってしまったけれど、ユメちゃんの心の中では彼らは生き続けている、ということ?」
「確かにわたしが妄想を膨らませているだけなのかもしれません。でも、作者がそこを結末だと決めても、わたしがいつかこの作品のことを忘れてしまっても、その物語が終わったとどうして言いきれるんでしょうか。目に見える形としては存在してなくても、文字に記されることがなくても、読者が誰もいなくなっても、一度生まれた限り、どこかで続いているかもしれない」
放浪者が幕を閉じ、観測者が全て帰った後も、登場人物たちは舞台でアドリブ劇を演じ続ける。彼らは、終わったことを知らないから。そんなことは可能なのだろうか。
「つまり終わりを決めるのは、その物語を生みだした作者とは限らない、ということかな」
「ごめんなさい。うまく説明できなくて。真実がどうなのかは分かりません。でもわたしは、ゲームでエンディングに辿り着いた後も、物語は続いていると思えて仕方ないんです。作者が用意しなかった選択肢を、わたしではなく『私』自らの意思で、選び続けて、毎日生き続けている」
登場人物は自らの意思を、そこで初めて手に入れたことに気付くのだろうか。それまでは誰かに操られる傀儡に過ぎなかったと知ったら、何を思うのだろう。私は今、私の意思で生きているのだろうか。
「選択肢が出る度に物語は分岐して、新しい物語が生まれ続けます。その度に、新しい『私』も生まれます」
どの物語も終わらないのであれば、物語は増え続けていく。放浪者も観測者も知らぬ間に。
「わたしにできることはありません。プレイヤーとして選択肢を選ぶ権利は、もうありませんから。だから、終わりを決める権利もありません。もしわたしがここで『終わり』だと思っても、それはただわたしが、そこで『終わり』だと認識するだけ。もう終わったとわたしが勝手に感じるだけに過ぎなくて、物語は紡がれ続けているように思うんです」
深く感情移入して、自らが登場人物であるかのように『私』と表現するユメさんだけれど、あくまでも彼女はプレイヤーであり、観測者。自分が満足できるところまで観続けたら、自分とその物語との関わりを好きな時に終わりにできる。
「欲張りなわたしは、もっともっと幸せになる『私』を見たい。全ての『私』に、世界中で一番幸せになってもらいたい。だからゲームが終わったからといって、そこで終わりになんてされたくないんです。どの物語を生きる『私』も、幸せになるために必死に生き続けていると信じてますから」
ユメさんは他の物語も知っている。複数の物語を読み、複数の同じ登場人物を見守り、複数の展開を見比べることができる。
私は誰かが書いた物語に存在する一人の登場人物に過ぎない。放浪者が誰なのかも知らない。元から複数の物語があるのか、選択肢を選ぶ度に逆の選択肢から沢山の物語が生まれてくるのか、そんなことすら分からない。観測者の地位を放棄して、再びこの物語の世界に戻ってきた私は、他の『私』が歩む人生も知らない。
でも、それがどうしたというの?
登場人物に過ぎない私には、この物語だけが全て。私は私の物語の中で、必死に生きていくしかないの。他の物語の『私』の幸せまで責任なんて持てない。持つ必要もない。そちらの『私』にもそちらの物語で頑張ってもらうしかない。私はこの物語で、必死に生き続けるだけ。全ての望みを叶えるために。
「私も欲張りになろうかしら」
この先に終わりはあるのか。作者が結末を書いたら終わりになるのか、私がデウス・エクス・マキナとして終わりにするのか。終わりは永遠に来ないのか。その答えもぜひ手に入れたいわね。
本当に私は欲張り。全部を守りたいし、全部を知りたい。そのために自分が犠牲になるつもりもない。私がいない幸せなんて、私にとって幸せな物語ではないのだから。
「過去にいる仲間たちも未来にいた仲間たちも、過去の私も未来の私も、私は全員と幸せになるわ」
満足気に微笑む男に、今なら目を逸らさずに堂々と対峙することができる。
天に祈りを捧げるだけなんて性に合わないの。
○
わたしはデウス・エクス・マキナ。終わらせることが使命。終わりを選ばない私は、果たしてデウス・エクス・マキナなのだろうか。そうね、この問いの答えも知りたい。
旧講堂の謎は本当の意味では未解決だし、この物語でもブギーマンが現れるかもしれない。旧訳版か新訳版かの言い争いで、サロンが分裂するかもしれない。その全ての分岐点で、私は私が信じる選択をしよう。
まずはこの場所を、この愛する仲間達を守るための選択。
【会長を終わらせる】
▶【会長を終わらせない】
ミルフィーユは横向きに倒して、一層ずつ食べるのが好きです。
前奏者のひろさんが美味しいミルフィーユを作ってくださったので、最初は全部丸ごと綺麗に食べようと思ったのですが、やはり私には一層ずつ食べていくことしかできませんでした。
マツリカちゃんにも、この一層を心ゆくまで堪能してもらいたいと願っています。
更に欲張って他の層も狙いに行ってしまうかもしれませんが、慎ましやかな私にはここが限界でした。
次の方へ委ねます。
ただでさえ複雑な物語に「ゲーム」という新しい要素を取り入れてしまい、申し訳ありません。
乙女ゲーム要素を省いたら三分の一くらいの分量で纏まったような気もしますが、どうしても可愛いお話を書くためには、これ以外に道がありませんでした。
登場するゲームやキャラクター名は様々な作品を参考にさせていただきました。
全て都合よく改変しています。忍者はチョコを作りません。
風邪で寝込んだり、マウスが壊れたりするなど様々な危機に苛まれ、一時は未完の遺作になるのではと危ぶまれましたが、無事に書き上げることができ、安堵しています。
次のHERO-TAKAさんへのお題は 「告白」 でお願いします。
ついにあの人が愛を告白するのか、はたまた衝撃の事実が告白されるのか。
読者として楽しみに待ちたいと思います。




