生きるという意味を考えてみたぞぉ~~!!
その空間は自然の木の温もりが感じられた、生きた巨木が空洞を作った天然の部屋だった。
部屋の中心には女性とも男性とも見える美麗な水色の彫像が静かに佇んでいた。
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俺は散歩の途中で道に迷い、偶然見つけた巨木に神秘的な魅力を感じて惹かれたままに木の根元を(のぞ)いた。
巨木の根元には大きな暗い穴が開いていたのだ、暗い道の先には光が見えて好奇心のままに長い道を歩いて進むと、部屋のような空間に出た、中央には見事な水色の彫像が光を浴びて静かに佇んでいた、無言の中の美しさの迫力は俺の思考を停止させるには充分な魅力だった。
俺は綺麗な彫像を間近で見たいと思い、靴音が響く静寂の中を歩く。
「ようこそ、いらっしゃいました、あなたは数万年ぶりの来訪者です。」
俺は日本語の内容に驚く暇も無かった、美しい彫像の前に、美しい彫像が色付いて動き出したような、とても綺麗な麗人が現れて優美なお辞儀をしていたのだから。
「俺と結婚してください!」
気が付けば俺は出合ったばかりの麗人に結婚を申し込んでいた、一目惚れだった、今も高鳴る胸は此の出会いを逃しては為らぬと甘く締め付ける。
「ふふふっ、嬉しいですが困りましたね、此の部屋に訪れることが出来る人には在る共通の因子が存在しています。」
麗人の声は涼やかな鈴を思わせる可憐な声で男性とも女性とも、とれる声だった、その美しい微笑みは困ったようには見えず、むしろ楽しそうに見えた。
「ですが、その因子は私が教えるのでは無く、あなた自身で見つけなければ意味がありません、此の疑問は私と対話をする事に因って解決する事が出来るよう為っています、いかが致しますか?」
「ちょっと考えさせて。」
「ええ、構いません、御緩りとお考え下さい。」
む~ん、俺の考える事は1つだけだ、如何にして此の麗人を口説き惚れさせるかだ、細かいことは口説いてから聞けば良いのだ。
「俺に惚れたら結婚してくれる?」
俺は気に成っている事を1番目の質問にした。
「ふふふっ、もし私を惚れさせる事が出来たら良いですよ♪ですが私にも役目が在り、因子の内容が理解できない殿方は私を惚れさせる事は無理で御座いましょう。」
どうやら此の部屋に訪れることが出来る因子とは彼女の中では重要な事のようだ、良かろう為らば期待に応えて更に上を行き俺という男の価値を相手に認めさせるのだ。
「此の部屋に辿り着く事が出来る因子とは何?」
「それは直接お答えでき出来ません、生きる意味とは何だと思いますか?」
俺は幸せ回路は結婚式に突き進む為に何時に無く高速で考えを纏めた、此の質問の意図はまだ解らないが生きる意味とは誰もが一度は考える事だ、此の勝負の勝ちは貰ったも当然なのだ、お嫁さん姿の麗人を思い浮かべて俺は自然と緩んだ笑顔に成った、お婿さんらしく格好良く見える様に振舞う。
「生きる意味は大小に別けて2つ在り、大きい生きる意味はズバリッ!!人間と言う種族が子孫を残す事です。」
俺は大袈裟に両手を広げて、ズバリの部分で格好良く右手の人差し指で美しい麗人の胸を指さした、少しでも好感度を稼ぐのだ。
「ふむ、もう少し詳しく話して下さい。」
麗人の服は女性や男性が着ても不思議ではない、中世的で優美な艶が在る音楽家が着ている様な黒い礼服で胸は慎ましかった。
「俺は在る時気付いたんです、此の身体は一度も死んでいないと、祖先が子供を残し、子供が大人に成ると又子供を残します、其れを繰り返している今の身体は死を体験したことが無いのです、つまり人間と言う種族は発生してから何万年もの間姿を変えながら生き続けているのです。」
「ふふふっ、素晴らしい答えです、小の方の意味は?」
俺は得意顔で麗人を見詰めた、美しい麗人は長い黒髪を頭の高い位置で結い上げて、流した艶やかな黒髪を肩の上を通し胸に掛けていた、結婚式は神道式にしようかなぁ~~着物がとても似合いそうな凛々(りり)しさだ。
「小の意味は即ち大足る生命を尊重しつつ、個人が幸せに成る事です。」
「なるほど、具体的には?」
麗人は胸に掛かった黒髪を右手で撫でて興味を惹かれたような顔で先を促す。
俺は麗人の興味を確実に引き出せた事に喜びを感じつつ、此処で俺という男を認めさせようと少しずつ麗人に近付きながら演説する。
「人間とは何にでも成れる可能性を秘めています、全ての可能性は感情の中に曖昧に存在して、人が行動する度に曖昧の中の可能性は確実な輪郭を得て自己認識が出来るように成ります。」
「ふむ、心の基本の在りようですね。」
「ええ、幸せとは在りのままの心を認める処から始まります、こんな良い言葉が在ります、日日これ好日、人人これ真人。行かんと要すれば即ち行き、座せんと要すれば即ち座す。餓え来れば飯を喫し、困じ来れば即ち眠る。ただ平常にして無事なれば、無事これ貴人と悟るべし。」
「良い言葉ですね、在りのままの自分を認めるだけで心が安らぎます。」
「そうでしょう、朝露のような心は優しく包む様に抱きしめてこそ大事に出来るのです、そうして俺があなたを見て幸せを感じたように、あなたにも同じように幸せを感じてくれたら、、、」
俺は良い雰囲気を作りだす事に成功したと確信して、麗人の手を取ろうとして、すり抜けた。
「ふーふふっ、今の私は、あなに解り易く言うと立体映像なのです、本体は水色の彫像なんですよ。」
俺は驚いてしまって口を開けたままにしてしまった。
「ふふふっ、あなたは合格しました、此処に来れる方は私に興味を持ち、且私の考えを理解出来る方が此処まで来ることが出来るのです。」
俺は第一関門を合格したことより、お嫁さんが2次元に成ってしまった事に動揺を隠せない。
「えっ空気嫁?」
「本体は彫像です、私は、あなたの大の答えと同じ事を考えました、即ち進化の先は何が待っているのか?その答えを知るには種族としての長い生では無く、個人で種族並に長生きしなければ知ることが出来ない答えでした。」
俺は冷静に考えた、2次元嫁では子孫は残せ無いが其れは別の人間がしてくれる、それよりも俺と同じ考えを抱いて自分で考えた事を確かめるために実際に実行してしまった麗人には、とても興味を惹かれた。
「それで?答えは解ったのかい?」
「ふふふっ、答えは宇宙に適応したです、惑星は理想的な巨大な宇宙船で在ると共に卵の殻なのです。」
うん、その話は解るな宇宙を旅する宇宙船で最も理想的なのは地球だ、循環の浄化作用で綺麗に成って湧き出る水、生成される酸素、数多の生命体を住まわす環境、どれをとっても耐用年数は億年だろう。
「卵の殻と言うのは?」
「そのままの意味です、進化の果てに星の様な大きさの身体と恒星のような尻尾を生やして銀河の中心核に訪れます。」
「それは又豪快な、銀河の中心には何が在るんだい?」
麗人は何か懐かしいものを思い出しているような儚げな綺麗な表情を浮かべていた。
「♪♪♪♪♪は新たな空間要素をもった、いわば異世界行きの道標。」
それは綺麗な歌だった、複雑な音程は綺麗な音色に成って紡がれた、それは俺という人間の種族が頑張って発音できる範囲を軽く超えていた。
「それは、まるで、あなたが異世界から着た様に聞こえるのだけど。」
俺は心は感動を覚え、半ば答えを確信して、それでも一応確認の為に聞く。
「そう私は異世界からやって着た最後の旧人類、自ら進化からはずれし者。」
何だろう言葉に出来ない感動が溢れてくる、少しだけ解るのは想像出来ないくらい長い時を此の麗人は過ごしたのだろうという事だけだ。
「あなたは、はじめに会った時に数万年ぶりと聞いたのだけど此れは事実?」
「ええ、私が合った地球人類はあなたが初めてです、少しだけ補足すると此の世界に到達したのは今日です。」
俺のお花畑が、やっと色んな事を考え始めた、もしや地球の命運を今俺だけが握っているのではないかと言う結論が頭の隅を掠めた、はははははは、まさか。
「日本語お上手ですね?」
「ええ、貴方の脳波と記憶の活動を♪♪♪♪♪から解析して知識を学習しています。」
俺は又思った、此れは何かをする為の事前準備で調査結果次第では地球人類の命運が決まってしまうのではないかと、はははははは、考え過ぎだ、そんなことは無いよね。
「あ~~異世界だと結婚は如何いう意味かな?」
「はい、子孫を残す為の役割分担を規定した恋の約束で、私からすると惑星同士の交配に因って新物質を生成する灼熱の恋ですね♪」
俺は一瞬だけ白目に成った、気を失えたら、どれだけ幸福だろうか、甘い誘惑に打ち勝ってしまうくらいには俺の精神は頑丈だった。
灼熱の恋と、どんなに可愛く発音されても、新物質が地球上で生成される様な灼熱の恋とはマグマだらけの赤い世界しか、ねぇーだろうが!!住めないぞぉ~~そんな地球になったら。
「えっと俺が君を惚れさせる事が出来たらどうなるのかな?」
「惑星同士の恋と言うのは精神性が重要なんです、つまり同じ様な人類が発生した私の惑星とあなたの地球では、惑星の構成物質や大きさ経過年数が相性抜群です、最後は人で在る私が恋をすれば人同士の精神性の相性も抜群と判断できて合格です。」
俺の責任重大だったよぉ~~!!何時の間に地球代表に成ってしまったのだ俺は、、、しかし、やるしかないぞ、くっ足が震えるぜ。
「あ~灼熱の恋は良いと思うんだが、地球人は如何するのだ?」
「地球人の皆様には幾つかの進化計画をご提案させて頂き、進化したら宇宙へ旅立ってもらおうと思います。」
ん?考えてた状況と大分違うな、、、というか人間が進化出来るなら進化したい、、、アレ?此れは物凄い好機なのでは?少なくとも数万年先の技術を人類は手にする事が出来る訳だ、その恩恵は計り知れないだろう、全ての人類の生活水準は激的に上昇する事は想像するのに簡単で直ぐに宇宙世紀に突入するはずだ。
別の意味で責任が重大だった、、、俺は瞬時に回答を出した、大丈夫だ口説く事に失敗しても誰にも、ばれないのだ、唯日常に戻るだけなのだ、俺は小市民並みの卑怯さを遺憾無く発揮し責任を回避したと確信すると、肩の力を抜いて、ほっとするのだった。
「君の微笑みは、まるで黄金のように輝いて、とても素敵だ、どうか俺だけの為に微笑んでくれないか?フヒッ!」
俺は自分の部屋で1人孤独に練習を重ねて来た自己陶酔の結晶を初めて人前で披露した、あ”あ”あ”あ”しまった何時もの癖で笑いまで忠実に再現してしまった。
「ふふふっ貴方は、とても面白い方なのですね。」
麗人が微笑む姿は綺麗で、とても魅力が在った、嬉しくなった俺は、たたみかける。
「俺の面白さは貴女の為だけに存在しているのです、どうか俺に貴女の事を教えてくれませんか?」
麗人の瞳は綺麗な茶色で顔は日本人と言われても違和感が無い整った顔で、俺は触れられない事を大胆に生かして、口付け出来るくらいの至近距離で麗人と見詰め合った。
「良いでしょう、と言っても何から話せば善いのかー何か質問は在りませんか?」
「それならば、貴女の名前を聞きたい。」
麗人は微笑んだまま、暫くの間微動すらしなかった。
「私の故郷の言葉では♪♪♪と言いますが、此方の意味で近い言葉に当て嵌めると祭です。」
「マツリ中々良い名前ですね、俺の名は、」
「「空水」」
マツリの口と俺の口から同じ言葉が同時に紡がれた。
「ふふふっ、そんなに驚いた顔を為さらないで下さい、今まさに貴方の人生の全てを私は学習を終えたのです。」
「えっ?」
「心配なさらずとも良いのです、人類の調査は貴方だけで無く少なくとも各国毎に最低1人は調査をしています。」
「えっと、マツリは俺に会ったのが数万年ぶりだって。」
「ああ~なるほど、其れは技術差から来る勘違いですね、私の彫像は此処に在るかのように見えますが実際は此の次元には存在していません。」
俺は次の一手を打つべく静かにマツリの話を聞いて思いを廻らせる。
「私は次元の彼方でボタンを押して此の立体映像を操っているのです、此の次元世界には私が操る沢山の立体映像が居ます、そうして私の立体映像に合いに来た人間は全て時間を調整して同時に挨拶をしたのです。」
「なるほど、時間の調整とは?」
「貴方は気付いていませんでしたが、最大の人では1日ほど時間を停止させて頂きました。」
俺は思った、此れは個人の努力でどうにか成る範囲を軽々(かるがる)と超えている事を認めるしかないと、手も足を出せ無い俺は床に直接座って安堵した。
「それで人類はどうなるんだい?」
「ふふふっ、その思考方法と状況判断は称賛に値しますよ、とても私には好ましく映ります。」
「ふ~ん♪それは嬉しいねぇ~~♪本当に、、、マツリが俺のお嫁さん成ってくれると俺はもの凄く嬉しいんだが。」
「ふふふっ、ではこうしませんか?人類の進化の選択権を貴方に与えます、つまり進化するも此のまま何も無かった事にするのも貴方次第です、しかし其方の選択肢を選んだのならば、もう一つの選択肢は消えてしまいます、つまりどちらか一方だけが選べるのです。」
「それは何とも、、、もう一方の人類の未来と吊り合う程の提案が在るとは、とても思えないけど。」
「それは貴方次第かと、もう一方の提案は私を貴方のお嫁さんにする事です。」
俺は一瞬で喜んだ、こんなに綺麗な麗人をお嫁さんに出来る事だけでも嬉しい事なのに、其処に超絶科学技術が着いてくるのだ。
「すぅーーはぁーーすぅーーーはぁーーーすぅーーーはぁーーー。」
俺は一旦冷静に成るように努めた、美味し過ぎる話だ、此の選択は正しいだろうか?
「マツリが俺のお嫁さんになったら人類の進化はどうなるの?」
「それは今までの人類の人生を参考にした結果に成ります、心配しなくても人類が私の手に因って進化しなかった場合は何事も無い今まで通りの日常に成ります。」
情報を整理する、俺がどちらの選択肢を選んでも俺自身の利益は確定していた、人類で1人だけ勝利を約束されているのだ、例え人類がマツリの手で今回進化出来なくとも、俺が人類を進化させてあげれる状態に成るのは、時間だけが問題で解決していると見て良い。
一応もう一方の選択肢も考えるべきだ、人類が進化するという事は俺も進化できる事を意味していた、唯隣には奥さんのマツリが居ないと言うだけだ。
そうした考えの中で一瞬過ぎる可能性、此の選択肢を選ぶ行為自体が人類の進化を決定する情報の基本に成らないかという危惧だ、はははははは、まさか。
俺は人類の善性を信じたいのだ、やってくれるさ人類は。俺は俺の道を行く、それが自分を信じて己を誇るという事だろう?
「マツリ決めたよ俺のお嫁さんに成ってください。」
「ふふふっあっははははっははは、空水はぶれませんでしたね、良いでしょう結婚しましょう。」
俺は自分の選択肢が当たっても外れても構わなかった、唯生きている実感が俺が俺で在る事を肯定したのだ。
マツリの笑い顔は今までに見た事が無いような顔で、目は細く成り口を大きく開けて豪快に笑っていた、マツリの真実に少しだけ触れる事が出来た気がして嬉しく思った。
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「マツリ此の仮面変じゃない?」
「そんな事は在りませんよ、空水。」
その日、世界は震撼した、突如空中に巨大な映像が映り人々が目撃すると同時に個人の目の前にも映像が映った、しかも人類の身体は少しも動かせず意識だけが動くことを許されたのだから。
「やあ皆、初めまして地球の時間は止めさせて貰ったよ、だから事故は起こら無い、寝ている人も此れは夢じゃ無いんだ。」
「みなさんに、お知らせが在ります、今日から文武段位制が導入されました、今から個人の意思で画面が展開できるように成ります、其処の文の部分に触れて頂くと足し算の問題が出てきます。」
「それで問題が解けると文の段位が1上がるんだ、すると1段上がる度に個人の寿命が100年伸びて年老いた肉体年齢も歳をとるように徐々(じょじょ)にではあるけれど肉体の代謝年齢が20歳まで若返る得点つき。」
奇妙で派手な仮面を被った男女が交互に喋っていた。
「沢山の方が戸惑うでしょう、食糧問題を解決するにあたって各地に小さな異世界をご用意させて頂きました、此方の中の動物を狩って頂くと武の段位が上がります。」
「それじゃぁ~~人類の素晴らしい進化の幕開けを人類皆で楽しんでくれ、文の方の問題を順調に解いて行けば、10年以内に無重力推進装置の開発が可能に成ると思うよ。」
マツリの夫に成った空水は人類に先駆けて進化を果たした、優れた超絶科学に人類の感性が上手く慣れ親しんで貰うための最初の段階、隔絶し過ぎた科学感覚の齟齬を埋める為だけでも人類に多大な努力を自然に要求していた、勉強だけの感覚では埋まらないと思われる部分を個人で楽しく学べる様に工夫した結果が人類全てを巻き込んだ世界改変だった。
各地の小さな異世界の階層は其々(それぞれ)に段位が設定して在り、武と文を上手く組み合わせる事で因ってのみ深い階層に進める様に成っている、此れに因り頭だけで理解した心算に成っている科学感性では絶対に先に進めないように成っていた。
文を解いていくと深い階層のみに存在する新物質が示唆される、人類は新物質を手に入れる為に新しく出合った超絶科学の真の価値を正しい感性で心の底から理解する事に成るだろう。
其処に至るまでに宇宙に出ても良い精神性を人類が獲得する事を俺は期待していた、今は人類が宇宙に出るには精神が幼過ぎだと感じている、宇宙には数える事が出来ない程の生命が溢れているのだから。
●終わり
如何でしたでしょう?読んだ方の心の中に何か作者でさえ思いも因らないような素晴らしい何かが残って、貴方の心を満たせたら幸いです。
此の小説は短編ですので、此の小説が何か良いと思われた方が居たら気軽にポイントをポチポチしてくれたら作者がポイントを見てニヤリとします。
↓に在る作者マイページから作者の別の小説『空の世界』に行けます、興味の在る方は御覧に成って下さい。
此処まで、お読み頂き、ありがとうございます。