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コイバナ前線

真琴は悩んでいた。

それはもう、途方もない迷路に入り込んでしまったかのように。


大会が近いと言うのに、タイムが伸び悩んでいるのだ。

元々、部員の中でも遅い方だったから今更のことではある。それでもやはり最後の大会ということを考えると、もう少し良い結果を残して引退したかった。

真琴はため息をつきながら、部室棟から下駄箱までの道を歩く。今日も雨。梅雨前線がやってきた。雨季だから仕方ない。昨日の晴れ間が奇跡のようだと、昨日の計測の結果を思い出しながら心の中で毒づいた。


「まーこと」

「菜摘っ? 先行ったんじゃないの?」

「そうなんだけどさ、部活前にあんたに用があるって子がいて呼びに来たの」

「私に?」


誰? と思っていたら、真琴の下駄箱の前で本人が出迎えてくれていた。


「い、一年の稲瀬夕貴(いなせゆうき)です……」

「あ、こないだの」


ポンっと真琴は手を打った。先週あたりの雨の日に、踊り場で立ち往生していた美術部の少年だ。


「三年の佐倉真琴(さくらまこと)です。どうしたの、今日は」

「えっ、とその……こ、この間は、ありがとうございました……お、お礼、言えなかったので……」

「あぁ。別に良いのに。律儀だね、君」


真琴はくすりと笑う。わざわざ自分のために日をまたいで礼を言いに来てくれたらしい。なんだか重たかった胸が少しだけすっきりした。


「美術部に迷惑かけてんのうちらだから、うちらの方がよっぽど謝らないといけないよ。ね、菜摘」

「そうだよねぇ。先生も、もっと別のところでやればいいのに。部活動ある教室の前じゃなくても、空き教室前の廊下とかいっぱいあるんだからさぁ」

「せっかくだし、今日言ってみる? 雨の日の練習場所変えてくださいって」

「さんせーい」


真琴が菜摘に練習場所の変更に関する打診を提案すれば、菜摘もそれに乗ってくれた。菜摘は部長なので、こういったことは比較的言いやすい立場だ。

真琴が下駄箱の前でどうすればいいのか分からずに立ち尽くしている夕貴に笑いかける。


「そういうことだから、今度から迷惑かけないように先生に話して……」

「い、いいえ!」


夕貴がその小さい体でびっくりするほど大きな声を出した。

それからぐっと拳をにぎって、きっと真琴を見上げる。


「そのままで、いいですっ」


そう言ってハッと我に返ったように顔を真っ赤にすると、走り去っていった。ひょこっと下駄箱から左の方の廊下を見れば、集まり始めていた陸上部のメンバーが何事かと走っていく少年に視線を向けている。

夕貴は彼らの視線にますます顔を羞恥に染めながら、美術室に飛び込んでいった。


取り残された二人は互いに顔を見合わせる。


「何だったの、今」

「さぁ……」


最近の一年生って、何がしたいのか分からない。

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