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099 わたくし東の大迷宮を越えてやってきた河屋太郎と申しますわ

同時投稿中の新作も是非よろしくお願いします。

「やあそこ行く若人よ、ちょっとお話よろしいですか?」

「あん? 何だよてめぇ……いや、本当になんだよお前」


 こちらを振り返りつつ悪態をついた、粗末な身なりの若者が、こちらを確認してから改めて疑問を呈してきた。

 ほう、僕が誰か分からない? ならば言って聞かせて進ぜましょう。


「僕の名前は河屋太郎。この国風にいくならタロウ=カワヤという。よろしく!」

「お、あ、おお。よ、よろしく?」


 僕の上げた手に、思わず手を上げ返す若者。

 王都に入れないスラムの住人といえど、礼儀は弁えているようだ。関心関心。


「あ、頭が痛い。これが頭痛。そして心労……」


 後ろでナターシャさんが何か言っているが、聞こえなかったことにしよう。

 何故なら僕は久しぶりに素で外を歩けているのだから!

 

 いやまぁ、笠を被っているので顔の上半分はほとんど見えてないないし、下半分はマスク型魔道具で隠れているから素顔は晒していないんだけど。

 それはそれ、これはこれだ!


「実は僕の連れがこの国へ着てから行方不明になってしまってね。タダでさえ見知らぬ土地だというのに、この国は奴隷がお上に認められているんだろう? よもや人攫いにあったのではと心配で心配で」

「お、お上?」

「ああ、偉い人のこと。この国だと、貴族とか、王様とか?」

「そ、そうか。ってなんで俺がお前みたいなのと話さなきゃなんねえんだよ! どっかいけ!」

「いや、それが王都の中では侯爵家とかいうところのお嬢さんが奴隷を魚の餌にして回っているというじゃあないか。そんな恐ろしいところ歩けやしないだろう?」

「ぶはっ」


 ナターシャさんが噴出した。

 後ろを向いて必死で笑いを堪えている。うん、受けたみたいでなによりだ。

 ちなみに彼女には人格を変える暗示魔法をかけているので、この姿のときの言動は気にしないようにと告げてある。


 そんな魔法使えないけどね!


「あぁ、あれか。俺も見たことがあるが、まだ幼い奴隷にむごい仕打ちをする、悪魔のような女だったな」


 悪魔みたいな女か。たしかに悪魔みたいな美貌は誇っているが、美の女神兼魔神からのプレゼントだし、間違ってはいないのかな。


「なんと、幼子にまで手を出すというのか。これは早急に連れを見つけ出さねば」

「つっても、さすがにだれかれ構わず奴隷にするような国じゃねえぜ? 一応お貴族さまであっても、平民を奴隷にするには手続きが必要だって話だし」

「だが、闇奴隷というのもあるのだろう?」

「……ちっ。ああ、たしかにあるぜ。だがあれは悪魔みてぇな侯爵家にすら疎まれてるやつらだ。国が認めた存在じゃねえ」


 いい感じで話に乗ってきてくれたところで、このまま闇奴隷商について聞いていこう。

 クリスタ=ブリューナクではこうも上手く聞き出すことは出来なかっただろうから、やっぱりこの姿にして正解だったな。


「であるならば、わたしの連れがその不埒な輩に連れ去られた可能性はあるわけだ。何か情報を知らないか? 無論タダでとは言わん」


 そう言っていくばくかのジェムを男に手渡す。


「は? 今時実態化させてんのかよ」

「すまないね、僕は異国から来たものだから、この国のカードをもっていないんだ。冒険者というわけでもないしね」


 冒険者ならこの国用のギルドカードを発行してくれるらしいんだけど、生憎と僕は登録していない。

 ふむ、冒険者なら国外でも仕事があるし、万が一国外逃亡しなきゃいけなくなった時に備えて登録しておくのもありか?


「そうさな、俺が知ってることなんて大してないんだが」

「些細な事でも構わない。この国の常識にも疎い身だからな」


 半分くらいは本当だ。長年幽閉されていたから、この国のことは知識としてしか知らないことが多い。実際に暮らしている人からの情報は本から得た知識に勝る。


「まず闇奴隷商は大っぴらに名乗ったりしない。ま、当然だな、そんなことしたら侯爵家と奴隷ギルドに潰される。それから、税を払えない村なんかを回って奴隷を買っているって聞くぜ」

「意外だな、誘拐などではないのか」

「そんなことしたら足がつくからだろ? つっても森んなかとか、魔獣がいるような場所で攫うこともあるみてぇだけどよ」

「なるほど、それならば食われてしまったことにできるわけか。村や街中では難しいが」

「そういうこった。俺が知ってるのはこれくらいだぜ? こんなんこの国の人間ならガキでも知ってるが、まさかジェム返せだなんて言わねえだろうな?」


 渡したジェムを自分のカードに入れながら言う男へ、朗らかに返す。


「言わん言わん、十分に助かったよ。僕はしばらく聞き込みをしているから、もっと詳しい情報を持っている友人がいたら僕のことを教えてくれ。無論、報酬は払おう」

「けっ。まぁそんなのがいたら伝えてやるよ」


 そう言って去っていく男の背中を見送って、次の聞き込み先を定める。

 スラムへやってきてから、同じ事を繰り返していた。


 集まる情報は似たり寄ったりだが、中には貴族が知らないような情報も多かった。

 村人がお金のために、借金奴隷ではなく、闇奴隷商へ子供を売ることがあるなどは単なる噂だったけれど、本当のことだと半ば確定した。してしまった。


「あ、ナターシャだ」

「え? ああ、ナターシャちゃんのほうね」


 ナターシャさんの声につられてみれば、奴隷の首輪を身に着けた女の子、ナターシャちゃんがやってくるところだった。

 ナターシャちゃんはナターシャさんよりも頭ふたつほど小さく、幼女からぎりぎり少女になりました、という感じだろうか。

 ……それをいうとイリスも背が低いけれど、彼女は他の部分で年齢を主張しているから置いておこう。


「ナターシャー!」

「わわっと、ど、どうしたの?」

「あのねあのね、あっちでね! ……この人誰?」

「く、くらすめ……ともだ……えっと」


 クラスメイトと言おうとして、それでは正体がばれるかもと友達と言い直し、しかし侯爵令嬢を友達と言っていいのかと踏みとどまり、挙句混乱する鬼毒蜘蛛。


 なんだこの魔獣、かわいいな。イリスへ感じる可愛さと違って、幼子を見守るような気持ちだけど。


「拙者ナターシャ殿の友人で太郎と申すでござる」

「ぶはっ、げほげほ、がほっ」

「ナターシャ大丈夫?」


 突然の言葉使いにナターシャさんが撃沈した。それを心配し、背中を撫でてあげるナターシャちゃん。なんて尊い空間だろうか。


「冗談はさておき、僕はナターシャさんの友人の河屋太郎っていうんだ。太郎って呼んでくれるとうれしいかな」

「そうなんだ。わたしもナターシャっていうの。よろしくね、変なかっこのお兄ちゃん!」


 そのやり取りを見ておろおろしだすナターシャさん。

 僕の正体を知っている彼女からしてみれば、ただの奴隷が侯爵令嬢を変な格好の男と呼んでいるわけで、しかも学園で学んでいる彼女は魔獣であるに関わらず、グリエンドの身分制度を詳細に知っているわけで。

 そりゃあおろおろするのも仕方ない。


「そ、それでナターシャ、急いでたみたいだけど、何かあったの?」

「あ、そうだった! あのねあのね、あっちで魔物が出たから助けてあげて!」

「そ、「それを先に言おうね!?」」





 ナターシャちゃんに連れて行かれた先はスラムの端、ではなく、なんと中央だった。

 ここまで入り込まれているということは、相応に被害が出ているのではと焦ったものの、周囲に破壊された建物などはない。

 

「それにしても、まさかあいつらが来てるとは」

「し、知り合い?」

「うん、まぁ一応」


 被害が出ていない理由の一端、それはすでに戦っている人がいたからだ。

 それは僕の知り合いで、魔導騎士科ではない。つまり。


「おるぁああ! いい加減ぶっ壊れろやぁ!」

「いやぁ相変わらず貴族とは思えない暴言だよね。品性を疑うよ」

「てめぇどっちの味方だ! ふざけてる場合か!?」

「”焼きつくせ!”《火矢(フレイムアロー)》! うわぁい弾かれたよ。見た?」

「言ってる場合かああああ!」


 最早聞きなれた漫才だなぁ、本人たちにその気はないだろうけど。

 ニックとディアス。魔導師科と貴族科で冒険者と言う異色の二人組みが巨大なゴーレムと戦いを繰り広げていた。

 異常に巨大な上半身と腕、異様に細い逆間接の脚というアンバランスな姿は今にも倒れそうだが、胸に輝く未加工の魔石が通常のゴーレムではなく、魔物の一種だと主張している。

 魔力の塊である魔物に、バランスがどうのとか言っても仕方ないらしい。


「やあニックディアス、手助けはいるかな?」

「ああ、誰だてめぇ! いや、この声、まさかタロウか!?」

「ちょ、ニックいま余所見したら」

「ぬぐぁ!? やっべぇ!」


 巨大ゴーレムの拳をかわしながら剣で切りかかっていたニックは、僕を見た隙をつかれゴーレムに捕まってしまった。

 巨大な右手でニックを握りこんだゴーレムは、大きく振りかぶってー、投げた!


「うおおぉおぉぉ《物理防壁プロテクショオオォオオオオォォォォォォン》!!」

「ニーーーーック!?」


 ハッキリと目に見えるほどの防壁魔法を展開したニックが、スラムの建物にものすごい速度で叩き込まれる。粗雑な壁が砕けちり、その向こう側へ消えていったニックの安否が気にかかるものの、そんなことを言っている場合ではなかった。


「あ、しまった」


 ディアスのほうも捕まってしまったのだ。


「少し落ち着こう。君がしているのは高速移動ではなく、全力」

『《高速移動スムス・チェネリターテ・モトス》』


 あ、投げた。


「投球うううぅううぅぅぅ《物理(プロテク)しょ──ぐはっ」

「ちょ、大丈夫か!?」

「お、おお、まずそう。防壁展開できてない」


 ディアスは防壁魔法を展開するより前に遠くの建物に叩きつけられていた。

 あれは、下手すると死んだんじゃないかな。


「ナターシャさん、ナターシャちゃんを連れてあいつを見てきてくれるかな。このゴーレムは僕がなんとかするから」

「う、うん、わかった。よろしくね。いこう、ナターシャ」

「わかったー!」


 ナターシャさんは僕が魔法を使えないことを知らない。なのであっさりと言ってくれた。

 ナターシャちゃんを危険な場所から遠ざけたいという思いもあったんだろう。


「さてニック、そろそろ出てきてくれないか? あれは何で、君たちはここで何をしているのか教えて欲しい」


 瓦礫をどかしながら、防壁魔法を弱めて移動できるようになったニックがやってくる。

 それにしても、彼が魔法を使うところは始めてみたけど、金色の魔力とか、ど派手だなぁ。


「それはこっちの台詞なんだが、まぁいい。あれはラクタ・マキナっつー魔物だ。危険度ランクはB、希少度に至ってはAっつーレアものなんだが」

「あれでゴーレムじゃないのか。そんなものがなんでこんなところにいっとお!?」


 周囲の建物を掴んだラクタ・マキナはその一部をもぎとり、こちらへ投げつけてきた。

 一部といっても胴体よりも大きなそれが直撃すれば、僕なんかあっけなく死ぬだろう。


「はっ、避けて正解だぜ。あれは魔力がエンチャントされてっから、防壁魔法を貫通してきやがる。ついでに瓦礫そのものは物理だからな、障壁魔法も貫通するって寸法だ」

「厄介極まりないな。なんでこんなところにいるんだ」


 僕は元々防壁魔法も障壁魔法も使えないから、遠距離攻撃っていうだけで厄介なんだけどね。


「最近反乱を起こされた男爵家が家宝にしていた魔道具に、アレの未加工魔石が使われてって話だ。国から冒険者ギルドに向けて探索と回収の依頼が来てたんだが」

「見つけてみたらこの有様ってことか」


 なるほど、《繁殖のネックレス》と似たようなものか。


 ラクタ・マキナの攻撃を避けながら聞いた情報をまとめよう。

 未加工魔石が使われていた魔道具の名前は《高速輸送機(トランスポーター)》。大砲のような筒に専用の箱を入れると、目的地まで打ち出してくれるものだったらしい。

 

 ただ、これを所有していた男爵は非常に性格が悪く、奴隷や罪を犯した平民をこれに詰め、適当な危険地帯、それこそ王国を囲う大迷宮なんかへ発射する遊びをしていたそうだ。

 普通なら地面に激突する衝撃で死亡・仮に魔法が使え、運よく防壁魔法などで生き延びても大迷宮の奥地で魔物に襲われて死亡。

 そんな事をしていたものだから、その大迷宮の奥地から奇跡的に生還した魔導師を筆頭に反乱を起こされたらしい。


 そりゃ反乱もされるわ。これと比べたらアルドネスお兄様がどれだけマシだったかわかろうというものだ。

 余談だが、奴隷推進派の半分以上はこんな貴族で占められている。悲しいね。


「確認だけど、あれに人が取り込まれてたりする?」

「いや、復活する瞬間は見てたが、んなこたぁなかった。安心してぶっ壊せ」

「それは重畳!」


 喜び勇んで僕はラクタ・マキナから距離をとると、風呂敷をグレイブからとりはずし、自分の身体にくくりなおした。そしてその先端を暴れる魔物へと向ける。


 向けるだけで、攻撃はしないけど。


「おいこらてめぇ! なにしてやがる、戦え!」

「え、なんで? 君たちが受けた依頼でしょ? 僕は関係ないでござるなぁ」

「はあ!?」


 あんな明らかに魔法以外弾き飛ばしますよって見た目の魔物、僕が勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!

 クリスタ=ブリューナクならみっともなくてできない行為でも、この姿なら問題なく行える。

 

 そう、河屋太郎ならね!

シリアスさん「ここにイリスでもいればかっこつけさせられたのに」

クリスタ「いや、イリスがいたらワンパンで終わってるから」

シリアスさん「…………(シクシク」

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