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009 わたくしお小遣いがほしいですわ

昨日のうちに投稿しようと思っていたのに日付が変わってしまいました、すみません。

 僕の魔導騎士科への転入が決まってしまったその晩。

 僕は王城の中の一室に居た。


 ここは王国宰相のために用意された専用の執務室。

 つまり、僕のお爺様である現ブリューナク家当主ロイル=ブリューナクの部屋である。

 僕は今、お爺様と一対一で向き合っていた。

 

 部屋の外にはジェイドとお爺様の護衛の騎士が数人ほど待機しているが、この部屋には僕らふたりきりである。

 用件は、僕がなぜ魔導騎士科への転入を受け入れたのか。

 そして魔法が使えない事を如何(いか)にして隠し通すかである。


「では、釈明を聞こうかクリスタ」


 あぁ、お爺様が僕を見ている。

 退屈な人形を見るいつもの目で。

 えぇ、えぇ、そうでしょうとも。

 ジェイドから報告が来ていようとも、信じられるはずがありません。

 実感できるはずがありません。


 でもだめですわお爺様、わたくし、もうお人形さんじゃありませんのよ?


 僕は悪役令嬢だ。

 悪人ではなく、ソレを演じるだけの人形といえばそうかもしれない。

 だがしかし、お爺様が標榜するブリューナクに相応しい存在を演じているとしても。


 それがお爺様の思い通りの人形を演じるなど、一度も誓ってはいない!


「そんなことよりお爺様、お小遣いがほしいですわ!」

「……は?」


 僕は、いいえいいえ、わたくしはクリスタ=ブリューナク!

 無常に、そして冷徹に、王家には忠誠を、平民には無慈悲を(むね)とするお爺様すら優しく見える、傍若無人な悪役令嬢!


「1000万ほどで構いませんわ!」

「何を言っておるか! 早く釈明をせい!」

「何を言っているはお爺様ですわ? 釈明? わたくしなにも悪いことなんてしておりませんわよ?」


 お爺様があっけにとられている。

 それはそうだろう、こんな活き活きとした僕を見たことなどないはずだ。

 そもそもお爺様は僕が男だと知っている。

 その僕がこうも楽しげに令嬢を演じているのだ、頭がおかしいと思われてもしかたない。


 僕だってそう思うけど、やらねばならないことがある!


「お爺様がわたくしに命じたのはブリューナクに相応しき振る舞い、そして王子様を家畜どもから守ることですわ」

「さすがに平民を家畜とまでは言ってはいないが、そうだな」

「はい? 王家の方々以外は貴族も平民も奴隷も等しく家畜ですわ、お爺様」

「貴様本気でいっているのか? 貴族と奴隷が等しいだと?」


「まあまあまあ! まさかお爺様、家畜ごときを区別して差し上げていますの? なんてお優しいお爺様でしょう。わたくしも見習わなければと思いますが、ごめんなさいませ。精々家畜と下僕(ペット)の違いくらいしかわかりませんわ」


 お爺様が頭を抱えている。

 王国宰相が孫娘()に翻弄される姿など、そうは見られぬ貴重な場面である。

 そもそもお爺様に孫娘は居ないからね。彼の孫は僕と、僕のお兄様がふたり。つまり三人いるのだが、みんな男である。


「……その話はいまはよい。今回の行動が、わたしの命令にそったものだとでも言うつもりか?」

「そのとおりですわお爺様。たしかに政治科にも王子様はおります。第一王位継承者たる、マリウス=グリエンド殿下が。ですかお爺様、お考えくださいませ。政治科にいるのはほぼ貴族のみ。わたくしにとっては平民と変わらぬ家畜ですが、お爺様としては殿下の相手が貴族であるならば問題ないのでしょう?」


「うむ。そもそも王家そのものが奴隷に対して否定的になっておる。今更奴隷推進派の女貴族を忍び込ませられるとは思っておらん」

「ですから勝手ながらわたくし、ターゲットを変える事にしましたの。魔導騎士科の尊き御方、第二王位継承者、ハイド=グリエンド殿下に!」


 これが僕が必死に考えた言い訳だ。

 当初お爺様に指示されていたのは第一王位継承者であるマリウス殿下の周辺に、平民の女子を近づかせないこと。

 けれどこれはそう難しいことではない。

 なにせ彼がいる政治科には平民がほとんどいないのだ。

 それは平民が政治を学ぶ機会に乏しく、また貴族にとってこの学科を卒業することは力を示す機会でもあるため相当に合格倍率が高いのである。

 僕が前世で落ちた難関大学よりも高い。

 僕が差し向けられたのは、所詮ただの保険なのである。


 しかし魔導騎士科は違う。

 まず剣術だが、平民は並の貴族よりも体力が高いことが多い。

 学術よりも農作業などに携わることが多く、礼儀作法を学ぶ必要も無いため結果として鍛えられる時間が多いからだ。

 そしてその鍛え上げられた肉体で剣術を学べば、ある程度以上の実力をつけるのは難しいことではない。少なくとも、学園の騎士科に入学する程度ならば。


 肝心の魔法に関してはグリエンド王国はその魔法を貴族で可能な限り独占したいと考えている。

 よって使える時点で魔導師科には合格。

 ある程度扱え、剣術もできるなら、後は最低限の読み書きなどができる平民ならば魔導騎士科に入るのは難しいことではない。


 まぁ、剣術ができ、魔法の才があり、しかも勉強も最低限できるという時点でものすごくハードルが高いので入学できた時点で相当優秀ということになるのだけど。

 周辺諸国のことまで理解していなければ入れない政治科よりは、幾分マシなのだ。

 

 そして魔導騎士科には現役の一代貴族である自由騎士の子女が多くいる。

 彼らの親である自由騎士たちの多くは息子、娘にも貴族になってほしいと考える現役魔導師でもあるので、その子供たちは上記の条件を満たしていることが多いのだ。


 そう、彼らは一代貴族の子供。つまりは平民なのである。


「なるほど、貴様の考えはわかった。以前の貴様であれば魔導騎士科など 不可能だというところだが、いまの貴様には何か考えがあるのだろう。言うがよい」

「そのための1000万ですわ、お爺様。わたくしに魔導武器を買うための資金をくださいませ」


 魔導武器。

 それは魔力をこめることで魔法を発動できる、非常に高価な武器の総称だ。

 形状は様々で、普通に剣、槍、斧などから僕が振り回したフレイルや弓のようなもの、果ては防具にしかみえないものまである。

 この魔導武器だが、魔法が使えるものしか扱えない。


 ということになっている。

 しかしそれは間違いだ。

 実は魔力があるものなら誰でも扱える。

 そして魔力がない人間は存在しない。少なくとも、この世界には。

 ではなぜ魔法が扱える人間にしか使えないと言われているのか?

 

 それはこの魔導武器がえらい量の魔力を食うからだ。

 魔法が扱えないものというのは魔力量が少ないということもあるが、その制御が行えないということでもある。

 つまり彼らが魔導武器を起動しようとすると、魔力を無尽蔵に吸い取られ、そのまま生命力まで引きずり出されて死ぬのである。


「ですがお爺様、魔石を代用すればわたくしでも扱えます。ご存知ですわね?」

「……どこでそれを知った。それはこの国の機密だ」


 お爺様の目が鋭くなる。

 そりゃまぁ魔法の使えない平民でも魔導武器を扱えるなんて知れたら事だもんな。

 下手をしたら貴族の地位がゆらぎ、一足飛びに反乱がおきかねない。

 いまの貴族の地位は強大な魔力をもつ魔導師を大量に抱えているからなのだから。

 とはいえ、僕がそんな機密を探れるわけも無い。

 探り出せる友人も居ない。


「考えればわかりますわよ? むしろなぜ皆様お気づきにならないのか。いえまぁ、ですから所詮家畜なのでしょうけれど」

「話せ」


「簡単なことですわ。魔力灯はわたくしでも点けられます。わたくしには魔法を扱う才が無いにも関わらず、ですわ。それは魔力と魔法を元々こめていただいているからですが、なぜ魔導武器のみが扱えないなどと皆様考えるのでしょうね? どっちも同じ魔道具でしょう?」


 お爺様が目を見開く。

 そう、僕がイリスに作らせた温風の魔石と冷風の魔石は簡単な魔道具だ。

 それは僕にも扱える。

 なのに魔導武器がなぜ扱えないのか?

 それは必要な魔力の量が違うからだが、それは強力な魔石があれば補える。


 電気と同じだ。

 ドライヤーを動かすだけの電気量では、電車は動かない。

 だが動力は等しく電気なのだから、量を補い、準備をしてやれば同じ手段で動かせる。

 すなわち、スイッチを押すだけ。


 魔導武器だってそれは変わらない。

 別に僕だから気がついたわけじゃない。日本人なら、地球人なら誰でも思いついた話だ。


 ただ彼らが別物だと思っているものを、同じものにしか見えなかったというだけの話なのだから。

 けれど皆がそう思っているなら好都合。誰でも扱える魔導武器を扱うだけで、僕は魔法が扱えると信じさせることができるのだから。


「いいだろう、魔道具と、そうだな、Bランクの魔石をいくつか用意させよう」

「嫌ですわ、お金をくださいませ」

「……理由を聞こうか?」

「わたくしショッピングがしたいですの! 現物支給なんてまっぴらごめんですわ! お小遣いをくださいませ!」


 お爺様が再び頭を抱える。

 そうしてもらわなければ困る。

 クリスタ=ブリューナクが平民よりの思考だと思われるのも困るが、頭のキレるだけの、簡単に制御できる都合のいい存在だと思われても困るからね。

 便利だから利用しよう、ではなく面倒だから放置しておこう、と思われるのが最善だ。

 

 ついでに僕個人が自由に扱える大金を確保できたらラッキーだよね。


「でないとわたくし、うっかりと口が滑ってしまうかも」

「このわたしを脅そうというのか。そもそもいくら魔導武器といえ1000万も必要なかろう! 精々600万もあれば十分なものが手に入るはずだ!」

「だってあの制服地味なんですもの」

「はあ?」


 お爺様のあごが落ちんばかりに開かれる。

 むちゃくちゃ言いだしたぞこのガキって具合に。


「まて、魔導武器の話ではなかったのか」

「魔導武器もほしいですわ! 自分で選んで買いたいですわ! 残りのお金は制服の改造代と、そうですわね、予備用にでも回しますわ!」

「ふざけるな! 話が違うではないか!」

「最初からお小遣いがほしいってちゃんと言ってますわよ!?」


 心外だという顔をする。

 そしてトドメだ。

 例の、イリスが怯えたあの顔をするのである。

 目を見開き、瞳孔を意図的に操作して光を消す。

 普通は無理なはずだけど、できるからやってしまおう。


「お爺様? わたくし、お小遣いがほしいですの。い っ せ ん ま ん ♪」


 結局、お小遣いを手に入れた僕は嬉々として執務室を後にしたので、お爺様の呟きを聞き取ることはなかった。


「アレはなんだ。わたしは、何を解き放ってしまったのだ……」

お爺様は国中に恐れられてる怖い人なんです。

ほんとなんです。

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