075 わたくし緊縛は趣味じゃありませんわ
お久しぶりです!
ネット小説大賞の最終選考で落選したのが悔しくて、こそこそと全話に修正を加えていました。
わかりにくい表現などの修正が主で、読みやすくするためのものです。内容は変わっていないので読み直しはしなくて大丈夫です。
【前回までのあらすじ】
ジェイドの故郷にやってきた一同。
ついに登場した病弱妹アリスちゃんと親を売ろうとするコレット。
そしてダンジョンの中でカンテラ無双でヒャッハーするクリスタ様。
「えぐいなそのカンテラ……」
「そうですわね。欠点もありますけれど」
このカンテラがあれば魔物に対して無双できる。そう思うかもしれない。
けれどそれはいくつかの条件が必要になる。
まず魔物に近づかなければ使えない。
普通の騎士や剣士なら使い道もあるだろうけど、彼らが魔物に対して近づくのは、相応の力量がなければただの自殺行為だ。
パーティに魔導師がいるなら遠距離から魔法で殲滅すればいいし。
さらにデメリットとして周囲の持ち主の居ない魔力、つまり落ちている魔石などを吸い込んでしまう。
つまり、これで魔物を倒すと魔石がカンテラに呑まれるので戦利品が0になる。
ゲームですら倒した敵から戦利品、所謂ドロップアイテムがなければキレるプレイヤーがいるのに、現実に命がけで倒した魔物から何も手に入らないとか、デメリット以外の何者でもないだろう。
僕はお金に困ってないから大した問題じゃないけどね。
ビバ侯爵令嬢。
「そもそも、この迷宮には何が出ますの?」
一応事前に調べてはいたし、本当なら入り口のあたりで打ち合わせをしてから入る予定だったんだけど、変な冒険者たちとの流れでそのまま入っちゃったからなぁ。
「では、改めてご説明させていただきます。この迷宮の名前は捕食の遺跡。主に生き物を食らう魔物が存在しています。有名どころですと先ほどのゴブリンやオークですね」
「生き物を食べない魔物というと、無機物系かしら?」
「左様です。基本的に魔物の姿は原点となる魔法によっていますから、動物の姿、機能を模しているということは食事を取るということです。逆に無機物などであるなら、食事の必要はないということです」
今のところ生き物っぽいやつとしか遭遇してないけれど、動く鎧とか宙に浮かぶ剣とかもいるのだろうか?
……カンテラならそこに浮いてるけど。
「遺跡の構造自体はどうなってんだ?」
「地上部分は山中を掘り進む坑道のような形になっています。こちらもかなり広いですが、本命は地下になります」
ジェイドによれば、捕食の遺跡は今から400年ほど昔、当時の魔導師たちが作り出したらしい。
広大な山中の坑道は偽装で、地下で何らかの研究を行っていたと見られている。
何故それが迷宮になってしまったのかはわからない。
それというのもこの遺跡、現在地下5階まで踏破されているものの、まだまだ底が見えない。
「らしいとか、見られているとか、不確かな情報が多すぎませんこと?」
「すべて判明しているなら、迷宮ではなく、普通に遺跡と呼ばれていますよ」
「ん、迷宮はそういうもの」
「そうですの」
冒険者である二人がそういうなら、きっとそうなんだろう。
地下5階までに高位の魔物がいたという情報はないらしく、高位の魔物を狙うなら最低でも地下6階を目指す必要がある。
ひとまず納得し、みんなで先へと進んでいく。
入り口付近はわりと広かったけれど、段々通路が狭くなる。
といっても横に四人並べる程度の広さはあるのだけど、武器を振り回すことを考えると手狭だろう。
相談の結果、先頭をジミーとミゾレ、中心を僕とイリス、後方をジェイドという並びで進むことになった。
単純に迷宮に慣れている冒険者の二人を前後に、血気盛んなジミーも前に。班で最強のイリスが前後どちらにも対応できるよう真ん中に。
そして一番弱い僕がその傍に、である。
表向きは自分の下僕と一緒にいたいだけということにしている。
「にしても雑魚ばっかだなぁ」
「張り合いが無い……」
何体目かのオークを長剣で切り裂きながら、ぼやくジミー。
ミゾレはミゾレで他のオークを凍結している。
雑魚といってもオークはゴブリンよりも強い魔物だ。
仮に僕が魔道具・魔導武器なしで戦うことになれば、苦戦を強いられるだろう。
いまは地下への階段、というか傾斜を探している。
この遺跡は地上部分から地下1階へのみ階段ではなく傾斜、ようは下り坂になっているらしい。
元々はただの坑道に見せかけるための偽装工作だったんじゃないかっていう話だ。
「いいじゃありませんの、そこそこ稼げているのですし」
そう、オークは魔物である。
当然魔石を落す。そして魔石は高く売れる。
特にオークの原典は胃薬だ。魔石を利用して作り出される魔道具の効果もそれにちなんだものとなる。
魔法は病気に効かないというのが定説だけど、魔物の原典となった古代の魔法はそれを覆す力を持っている。
だからこそオークの魔石はとても高く売れるのだ。
ちなみに魔石の色は薄いピンク色。もっというなら生肉のような色だった。
むしろお腹を壊しそうだ。
「なんでアレから取れる魔石がピンク色なんですか」
嫌そうに呟いたのはイリスだ。
どうやら自分の髪や魔力色と似ているのが気になるらしい。
「気にすることありませんわ。イリスの髪や魔力色は桃の花のように雅ですもの。こんな生肉色とは比ぶべくもありませんわよ」
「クリスタさまぁ」
「ほら、しょげていてもいい事はありませんわよ、前向きにいきましょう」
そんな感じで、前方はオークを蹴散らし、後方のジェイドは背後からの奇襲を警戒してくれている真ん中で。僕はイリスの頭を撫でながらほのぼのと歩いていた。
だからすぐに気がつくことができた。
イリスの頭上に、すーっと小さな生き物が降りてきたのを。
咄嗟にそれを捕まえる。
「クリスタさま?」
「いえ、蜘蛛が……あら?」
降りてきた小さな生き物、蜘蛛を捕まえたはずの手にその姿は無かった。
代わりにベージュ色の糸がある。蜘蛛の糸、にしては太いし頑丈そうだ。
いや、よく見たらその糸にまぎれるようにして、小指の先ほどの小さな石もある。
これも糸と同じベージュ色だ。
「見間違いかしら?」
「クリスタさまも結構おっちょこちょいですよね」
「そんなことは」
ないと言おうとした時、それは起きた。
小さな石が強い光を発したかと思うと、無数の糸を吐き出す。
至近距離で放たれたそれを避ける事もできず、僕の、そしてイリスの身体が拘束される。
その端は通路の壁や天井につながり、さながら蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
「お嬢様!」
僕らの後ろに居たジェイドが無詠唱で風の魔法を放つも、それは糸に触れた途端に消滅する。
「イリスっ!」
「駄目です、魔力が吸われてっ」
拘束されたイリスも魔法を使おうとしているけど、無理そうだ。
見れば彼女につながった糸はうっすらと桃色に染まっている。
どうやら魔力を吸い取っているわけではなく、家電についたアースが電気を逃がすように、壁や天井へと魔力を逃がしているらしい。
創作だと魔力を吸う生き物を許容範囲を超える魔力で破裂させるとかよくあるけれど、これではその手も使えない。
「火傷しても恨むなよ。”焼きつくせ!”《火矢》!」
ジミーの《火矢》が宙に浮いたベージュ色の石、恐らくは魔石へと直進する。
それに対応するように魔石から再び糸が吐き出され、魔石を取り込みながら蜘蛛の形を形成した。天井から一本の糸で釣り下がる蜘蛛。それは僕が先ほど捕まえたと思った、あの蜘蛛だ。
蜘蛛に触れた魔法は糸を経由して天井へと逃がされる。
発動後の魔法でも駄目なのか。
「おいおい、下位魔法とはいえ全詠唱だぞ」
「くっ。手も足も動きませんわ」
「あう。糸が食い込んで」
僕らを拘束した糸は徐々にその数を増し、手足や胴のみならず、首や股関節などに巻きついていく。
魔法が効かないなら物理だと剣を取ろうにも指すら届かず、頼みの《肉を切り刻むもの》も距離が離れていない以上勝手に動く呪いは発動しない。
「どいて」
呆然とするジミーの横をすり抜けて、長剣を抜き放ったミゾレが疾駆する。
行く手を阻むように伸ばされる無数の糸を切り裂きながら前進し、勢いそのままに蜘蛛へと長剣を突き刺した。
ガキっと鈍い音がして、蜘蛛の魔石が破壊される。
魔石が破壊された魔物の末路はゴブリンだろうとこの蜘蛛だろうと変わりなく、その身体は魔力となって霧散していく。
蜘蛛の身体と同じもので構成されている糸も合わせて消滅し、僕とイリスを解放する。
「ありがとうミゾレ」
「ありがとうございます、ミゾレさん」
「ん、なんてことない」
ミゾレはそう言うけど、いまのはかなり危なかった。
今まで散々魔法で無双してきた魔導騎士たちが、小さな蜘蛛の魔物一匹に完封されるところだったのだ。
「申し訳ありませんお嬢様。咄嗟に魔法を使ってしまいました」
「悪い、俺もだ。っていうかなんだったんだアレ」
「ほつれ蜘蛛。魔力を食べて、糸を作る。食べ残しは捨てる。原典はたしか……《糸車》」
あの蜘蛛の原典は魔力によって無限に糸を作りだす魔法らしい。
魔物としての行動原理は、魔力を使って糸を作ること、そのまま。
けれど魔物は自分で魔力を生み出すことは無い。正確に言えば魔力はあるけれど、無限に生み出すほどは無い。それは切り刻み続けたことで消え去ったゴブリンキングからもわかる。
けれど《糸車》は無限に糸を作るために生み出された魔法だ。
生み出す糸が有限であってはいけない。
ならばどうするか?
簡単なことだ、他所から魔力を拝借すればいい。
だからほつれ蜘蛛は襲う。
人を、魔獣を、そして魔物を。
食欲もなく、獣欲でももなく、殺意さえもなく。
ただ糸を作る、そのためだけに。
「古代の魔法、ろくでもないですわ!!」
「あの蜘蛛は冒険者の中でも嫌われ者なのです。魔法が効かず、かといって糸を切り裂いても致命傷は与えられず、倒すには魔石を砕くしかない。つまり、戦うだけ損なのです」
ジェイドもそのことは知っていたのに、放ったのは魔法だった。
本来魔導騎士ではなく魔導師であるジェイドにとって、咄嗟に使えるのは剣ではなく魔法だったのだろう。
ジミーが火の魔法を使ったのは、風の魔法で切れないのなら、燃やせばいいと思ったらしい。
この魔物については知らなかったようだ。
「迷宮は危険がいっぱい。魔導騎士でも、油断しちゃだめ」
「う、はい。すみませんでした」
「そうですわね、改めて助かりましたわミゾレ」
心のどこかで油断もあったのだろう。
ここに居るのは実力のある猛者ばかり。
最弱の僕であってもゴブリン程度なら撃退でき、ゴブリンは魔物最弱とはいえ魔物であることに代わりはない。
そして魔物を単体で撃破できるのは冒険者でいえばCランクに相当する。
Cランクといえば中堅どころだ。パーティ最弱でそれなのだから、ジェイドが子供の頃からも潜っていたという迷宮の、こんな浅いところで危険な目にあうわけが無い。
なんて考えていたわけじゃないけど、自覚してない部分で似たようなことを思っていたのかもしれない。
「ほつれ蜘蛛は本体が非常に小さく、また保有魔力も少ないため、魔力の満ちた迷宮内では隠密性が非常に高いのです。そして身を潜め、近くを通る生き物から魔力を吸い取ります。この迷宮は他にも何かを捕食することに長けた魔物たちが多数いますので、気をつけて進みましょう」
皆で頷き合い、先ほどよりも速度を落として前進する。
魔導騎士が無双を誇るのは魔法が使えるからだ。それを封じられた上で拘束なんてされたら、先のイリスのようになってしまう。
身をもって理解した以上、いまの僕たちに油断も慢心も無い。
「そういえば、あのほつれ蜘蛛でしたっけ。ランクはどんなものですの?」
「ほつれ蜘蛛は危険度D、だけど希少度はE。よくいる」
「ゴブリンキングと同じ危険度じゃありませんの!」
なのに希少度は鉄食い鼠並ってどういう事ですの、納得いきませんわ!
じゃない、納得いかないぞ!
心の声までお嬢様になるほど動揺してしまった。
魔法を無効にするアースのような糸を思えば納得の危険度だし、原典が生活用の魔法って事を考えたら希少度だってなっとくなんだけど。
これが迷宮、恐るべし。
前にも書いたかもしれないんですが、実はコレットってはじめて感想をくれた読者さんと同じ名前なんですよ。でもこれ完全に偶然なんです、いや本気で。
今後もどなたかとお名前が被ることもあるかもしれませんが、意図的にそうすることはありませんし、悪意0%なので赦してください。
ちなみに僕は感想くれた人の名前全部リストアップしてどんな感想くれたのかもまとめてあったりします。全部みてるからなぁ。




