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061 わたくし新装備をゲットしましたわ

本日8時に昨日の分も更新しています。まだご覧になっていない方はそちらから先にお読みいただきますようお願いいたします。

「そもそもの話として、コレットさまはご自分の領地へ、何の研修をしに行くというのですか」


 気を取り直したジェイドの第一声がそれだった。


「特にないです!」

「え、ちょっとコレット? 遊びに行くわけじゃありませんのよ?」

「あ、あ、違います! 誤解です! いや、本当に研修先にそこまで興味は無いんですけれど」


 遊びじゃない、だけど研修に興味は無い?


「コレットさま、ご説明願えますか?」

「はい。研修先はグラスリーフの冒険者ギルドですわ。冒険者ギルドは多くの国を跨いで活動している非国家団体ですので、特定の国に染まらない考えというものを経験する、という名目ですわね」


 それはまぁ、政治科らしいっちゃらしいのかな?

 もっとこう、国境付近の町へいくとか、選択肢は色々あるとは思うけど。


「えっと、真っ当な研修って感じですけど、コレットさまはご興味がないんですか?」

「だって、地元ですのよ? 行き飽きてます」

「冒険者ギルドに、行き飽きてるんですか?」

「はい! ジェイドさまがギルドの依頼を達成し、報告に戻るとお聞きするたびに飛んでいっていましたので!」

「「「「あ~」」」」


 生暖かい視線がジェイドに集中する。

 当の本人は顔をそらしているが、首が真っ赤なのであまり意味は無い。


「んじゃあ、コレットだったか? なんでお前はここ選んだんだよ。まさか本当に知り合いがいたからか?」

「それはさすがに、貴族でも怒る、かも」

「そこが誤解でして。正直言いにくいのですが」


 僕らに申し訳なさそうな表情を浮かべ、口ごもるコレット。

 どうやらそれを言ったら僕らが気分を害すると思っているらしい。

 でも、今のままでも知り合いと遊びにいくために来たと思われてしまうなら、言ってしまったほうがいいと思う。


「別にふざけているわけじゃないのなら誰も怒りませんわよ。お話なさいな」

「お姉さま……それが、その。政治科のほとんどの方は学生に守られるなど、万が一のことがあったらどう責任を取るのだ、と」

「「「「「あー」」」」」


 今度はジェイドも声を揃えた。

 そりゃそうだ。政治科に在籍しているのは魔導騎士科とは別の意味で非常に優秀な平民か、領地を継ぐ立場にある貴族の長子たちだ。

 学生に護衛されて、自分たちに万が一があれば、それは自分だけじゃなく領地へも多大な影響を及ぼす。

 心配して当然だし、僕らを馬鹿にしているとも取れるが、それは信頼を勝ち取れていないこちらの問題だ。


「仕方ありませんわね。コレットが気にすることではありませんわ」

「んだなぁ。どっちかっていうと俺らの落ち度だ」

「ん。それで自分の領地への研修なのに来てくれた?」

「はい、そうなります。その、すみません」


 ミゾレにはっきりと答えながらも、どこか小さくなるコレット。

 でもコレットには感謝こそすれ、謝罪される理由はどこにもない。


「謝らないでください、コレットさま。むしろ私たちは感謝する立場なんです」

「左様ですね。もしコレットさまが居なければ、私たちは誰も護衛できず、誰にも頼ってもらえない魔導騎士科の恥じさらしになるところでした」

「イリスさま、ジェイドさま。ありがとうございます!」


 うんうん、やっぱり女の子には笑顔が一番だ。

 これなら今回の実地訓練は問題なさそ……いや、僕が男でコレットが僕にスキンシップを取ってくるという大問題は何一つ解決していないけど。

 そこはジェイドに任せよう。

 ありがとうジェイド、存分に婚約者とイチャイチャしてくれ。





「各班、顔合わせは済んだか?」

「ロバート教官、A班の担当予定者がまだ来ていません」


 お? A班の班長をしているミリアリアが困ったように手を上げている。

 この時間になってもまだ来ていない生徒がいたのか。

 コレットの言いようだと今回の訓練内容は魔導騎士科以外には不評みたいだけど、まさかボイコットってことはないよな。

 こうして顔合わせの時間が組まれているということは各班に護衛される生徒がいるということだ。

 少なくとも一度は参加を了承したということなんだし、直前で断ったりしたら成績に影響がでるぞ。


 ドドドドドドドドドドドッ!!


 なんて思っているところへ、土煙をあげて二頭の馬が……馬? トカゲ?

 が突撃してきた。


「きゃあっ!?」


 ぶつかりそうになって慌てて避ける。


「よっしゃあああ間に合ったああああっ! まだ行ってねえよな!? 魔導騎士科いるよな!?」

「ぜぇ、はぁ、いやぁ騎竜を借りられて、ぜぇ、よかったね! はぁはぁ、大丈夫、だよね。間に合ってますよね、ね??」


 トカゲ、騎竜というらしい、それに乗って現れたのは見知った生徒、ニックとディアスだった。


「貴方たち、何の騒ぎですのこれは!」

「ああ!? お、いたな侯爵令嬢! ってかお前のせいだろうが! ふざけんなよこらぁ!?」

「はあ!?」


 騎竜から飛び降りながら、怒鳴りつけてくるニック。

 突然僕のせいとか言われてもわけわからん。ふざけんなはこっちの台詞だ。


「貴方たち、クリスタさまになんのご用ですかっ!?」

「あん?」


 僕とニックの間にイリスが割ってはいる。

 しかも右手はしっかりと腰の模造剣に添えられて、いつでも抜剣できる体勢だ。


「はん、こちとら仕事を終えてわざわざ来てやったってのに、えらいご挨拶だなぁ。ああ?」

「何を言っているのか分かりませんが、ご自分の過去を顧みられては如何ですか? 歓迎されるとでも?」


 二人の間で火花が散っている、何故?


 いや、何故じゃないか。

 考えてみたらイリスはニックと顔をあわせるのはあの日、僕とイリスがはじめて会った時以来になる。

 イリスが警戒するのも当たり前だ。

 でもたぶん、彼らが現れたのは難癖をつけるためじゃない。仕事、と言っているし、恐らくは僕が、正確には太郎が彼らへ頼んだ依頼を果たすためだろう。


「かまいませんわイリス。彼らにはちょっと用事を頼んでいたのです」

「クリスタさま?」


 いぶかしむように僕とニックを交互に見るイリス。

 それにニックは肩をすくめると、多少語気を和らげて応じた。


「本当だ、別に喧嘩を売りにきたわけじゃねえ」

「ええ、それと他の用事もあります。私たちも研修へいく予定なんですよ。たしか、A班でしたっけ? まだ出発していませんよね?」


 それでこんなに慌ててきたのか。

 でも出発って……。


「あの、出立日は明日ですよ」

「はぁ!? 今日じゃねえのか!?」

「ひゃっ、は、はい。今日は顔合わせの日ですから」

「くっそ日付間違えてたのか! 急いで損したぜ」


「まぁまぁニック。どっちにせよ顔合わせなら来ないとまずかっただろう? それに侯爵令嬢とは別の班みたいだから、当日会えるとは限らなかったわけだし」

「ちっ、それもそうだがよぉ。ったく、まぁいいか」


 笑いながら安堵しているディアスと、頭をガシガシかきながらぼやくニック。

 本当に見ていて飽きない二人組みだ。

 荒っぽいのが珠に瑕だけど。


「ほれ、ご令嬢! 依頼の品だ、確認しとけ!」

「わっ、と!? ちょっと投げないでくださいませ! って箱?」

「いや、それじゃなくて中身がご依頼の品です。ちょっと荒っぽく戻ってきたんで、傷がつかないように梱包しておきました。いわゆるサービスってやつです」


 投げ渡されたのは縦40cm、横30cmほどのの木箱だった。

 何重にもロープが巻かれ、揺らしても音がしないことから中身も固定されていることが分かる。


「これはご丁寧にどうも。報酬は増えませんけれど」

「おや、それは残念」

「太郎から十分もらっているでしょう? 足りませんでしたの?」


 500万ジェムなんて、Dランク冒険者の報酬にしては破格なはずだけど。


「いえ、十分でしたよ? ただ貰えるものは貰うのが冒険者ですので」

「今回は次の依頼につながる伝手ができた、と満足しておきなさいな」

「ああ、そうするよ。楽な仕事じゃなかったが、報酬は十二分だったしな」


 なんとも、ちょっとの間にそれらしくなったものだと関心する。

 貴族の子供ならお金なんていくらでもあるって気にしなさそうだけど。

 いや、逆か? 貴族の自分が動くなら大金を用意するべきだって思うのかな。


 まぁこの二人はどっちでもなく、冒険者らしい思考に染まりきっているらしい。

 貴族としてはともかく、実力重視の魔導騎士を目指すならいい兆候だ。


「それで中身は……これは、なんですの? ランタン?」


 木箱の中には古めかしい、なんというか、鉱山の奥とかで使われてそうな印象のランタンみたいなものが、布製のクッションに丁寧に囲まれて入っていた。


「あー、それについてなんだが、ちっとこっちこい」

「え? ええ」

「クリスタさま?」

「大丈夫ですわ、ちょっとだけお待ちなさい」


 心配してついてこようとするイリスを手で制して、ニックを追って隅に行く。

 隅といってもここは野外なので、森との境界にある木の近くなんだけど。


「なんですの、わざわざこんな隅っこに。これ、なにかまずいものなんですの?」

「ご禁制の品、とかじゃないですよ。というかたぶん、未発見なのでランク付けすらされていません」

「は? 未発見?」

「馬鹿、声がでけえよ! お前が迷宮から見つけて来いっつったんだろ。未踏破区域からとってきたから、禁制もなにも誰にも知られてねえんだよ」

「あ、貴方たち、ずいぶんと無茶しましたわね」


 迷宮にはマップが作成されている踏破済みの区域と、誰も確認していない未踏破区域というものがある。

 これは過去の遺物である遺跡タイプでも、魔獣や魔物が巣として形成したタイプでも同じで、未踏破区域のほうが圧倒的に危険度が増す。その分こういった未発見の魔道具などが見つかることもあるので旨味は大きいのだけど。


「ははは、死ぬかと思いました。まぁおかげでギルドでの評判は上がりましたし、これを貴女に納品した証明のサインをいただければ、また一歩Cランクに近づきます」

「そういうこった。めんどくせえが、うだうだと腐ってるよりよっぽど充実してら。ほら、これがそれについてた説明書だ。それとセットで仕舞われてたぜ、運がよかったな」

「それは、本当についてますわね」


 説明書なんてついてないことのほうが多いし、ついていても場合によっては物品と分かれてしまっていることもある。

 《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》も発見時は説明書と一緒にあったけど、その後別々の人の手に渡ってしまい、長らく揃わなかったらしいし。

 一緒に見つけられたのは本当に幸運だ。


 さて、せっかく彼らが命がけで見つけだしてくれたお宝だ。

 ありがたく頂戴するのは当然として、説明書も読んでおくとしよう。


【《玉呑(たまのみ)のカンテラ》】

  分類:収集用魔道具

  属性:光・吸収・呪

消費魔力:極少~

特殊効果:

『玉とは宝石、魂を指す言葉であり、この場合は魔物の核である魔石を指す。

中に魔石を入れることで、それを動力源にして明かりを灯すカンテラ。

使用時には手に持っている必要がある。

一度起動すると、近くにある所有権のない魔力があればそれを呑み込み、明かりの持続時間を延長する。

所有権の有無はその魔力に何者かが触れているか、あるいは意思が込められているかを基準とする』


「ちょっとお待ちなさい。これ、呪われてますわよ」

「そうですね」

「そうだな」


 いや二人とも、なにを当然のように頷いているのか。

 ブリューナク侯爵家のご令嬢に呪いの品をプレゼント、いや依頼だから献上か? するって頭は大丈夫か。


「貴方たち、このわたくしにこんなもの渡して、覚悟はできていますの?」


 そもそも魔導武器を持ってこいって依頼だったはずなんだが。

 これは使いようによってはそこらへんの魔導武器より物騒だぞ。

 意思の込められた魔力は吸い込めないってことは攻性魔法を防ぐのには使えないけど、いくらでも悪用できる。


「別にこれがなくても、貴女なら騒ぎを起こすでしょうし」

「それともなんだ? 呪いの品に怖気づいてんのか? だったら別のもん探してきてやるけどよ。どうなんだよ、侯・爵・令・嬢・さ・ん・よ?」

「ふ、舐めないで下さる? 上等ですわ。使いこなしてあげますわよ!」

「「さっすが」」


 はっ!? なんかいい感じに乗せられた気がする。

 いやでも、うん。便利だよね、これ。うん。


 ……気のせいか? 今後もまともな魔導武器は手に入らない気がしてきたぞ。

実はイリスからプレゼントされた《魔力流出防止の手袋》よりも先に設定を作っていた魔道具だったりします。色々あって入手するまでこんなにかかりました。

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