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025 わたくしエルフさんと馴染みましたわ

「班分け?」


 思考が魚に支配されていた僕をイリスが散々揺さぶってこちら側へ戻してくれたあと、魔導騎士科の朝の連絡時間、まぁ朝のショートホームルームみたいな時間にロバートから班分けをするように告げられた。


 え、また?

 それが最初の感想だった。

 なにせマシュマロゴレムの時にやったばかりだ。


「もうすぐ実地訓練だからな」

「あぁ、魔獣を狩るという。全員でいくわけではありませんの?」


 そもそも(くだん)のマシュマロゴレムでの訓練が、実地訓練の前の訓練という位置づけだったはずだ。


「あのなぁ、お前らは見習いとはいえ魔導騎士だぞ? この人数でまとめていってどうする。街でも攻め落とす気か」


 大げさな事を、とはいえない。

 彼らの高位魔法は魔法の使えない平民を一方的に屠殺することができる。

 仮に僕らがただの魔導師であれば、魔法が使えない剣士や騎士でも接近すれば打ち倒すことができるかもしれない。

 けれど現実は魔導騎士、近づかれても対応できる上に、剣を振るいながら魔法を放てる。

 中にはジェイドのように、召喚術のような使役系に特化している人もいるかも知れない。

 そうなったら完全に一人軍隊だ。


 さて、そんな人達が13人、僕とジェイドが転入してきたので15人もあつまって魔獣を狩りに行く。

 完全に過剰戦力だ。上位の魔獣や下位の魔物の群れを相手にしても一方的に打ち倒せる。

 わけるのは当たり前だった。


 とはいえこのクラスとしては初の実地訓練らしく、安全マージンを充分にとって5人一組にするらしい。

 基本の2人一組、いわゆるツーマンセルをニ組と、緊急時に応援を呼びにいく1人で5人だ。

 クラスの人数的には丁度これで5人の班が三組できることになる。

 内訳はクラス内で自由に決めて良いと言われた。ただし週明けまで決まっていなかった場合余っていた人はロバートがわりふることになる。


「ああそうだ、イリスはキュリオール先生が呼んでいたので職員室へ行くように」

「え、わたしですか?」

「なんでも次の授業の教材を運んでほしいらしい。あの人魔力はともかく力はないからな。まぁ首席ってのは代々面倒ごとをおしつけられるもんだ、がんばれ」

「いえ、大丈夫です、行ってきます」


 苦笑しながらもイリスが行ってしまった。ちなみに彼女の足元にはモモちゃんがいる。

 戦闘補助用ゴーレムという位置づけで持ち込み許可を取ったらしい。

 イリスの容姿でモモちゃんを連れ歩いていると、完全にマスコットをつれた魔法少女だった。


 それにしても今日はジェイドもいないし、話し相手が居ない。

 イリスは授業になったら戻ってくるだろうけど、早めに組み分けについて相談しておきたかったな。


 ジェイドとイリスは必ず拉致るとして、残り2人はどうしたものか。


「仕方ない、この俺がついていってやるよ」

「え、いりませんわ」


 何故か自信満々に声をかけてきたジミーをにべもなく切り捨てる。


「なんでだよ! 俺これでも次席だぞ!?」

「貴方、自分が何したか忘れましたの?」

「あ、いや、あれはだな。ちゃうねん」


 なんでエセ関西弁やねん。

 ジミーとはあの日戦って以来まともに話すのはこれがはじめてだ。

 すでに根っからの悪いやつじゃないという事は理解しているし、弁解くらい聞いてあげてもいいだろう。


「普段のイリスならあのくらい余裕で防ぐんだよ。だからつい」

「普段から攻性魔法を使ってましたのね? 言いようからして剣の訓練中に」


 僕の中でジミーランクが1下がった。


「う、いや、だからこないだは皆を止める側に回っただろ! 反省したんだってば!」


 こないだというのは、マシュマロゴレムに錯乱したクラスメイトの一部が高位魔法を連発していた時だろう。

 ロバートも言っていたけど、あれを街中でやられたら本当に街ひとつ消えかねない。

 僕が無事だったのはゴーレム送り出し係として離れていたからだ。

 この学園も王都の中ではあるけれど、かなり大きく土地を使っているのでその辺は心配ない。

 なんでも緊急時の避難場所をかねているとか。


 まぁ最高位の魔物なり他国なりが攻めてきたからといって、王城に平民を入れるわけにもいかないしね。


「それはまぁ、そうでしたわね。それを置くにしても、なぜわたくしと組みたいんですの?」

「イリスともお前とも決着をつけたいからな。どうせお前はイリスと組むんだろ? 誰が一番多く魔獣を狩れるかで勝負だ!」

「勝負というなら他の班に入って競い合えばいいじゃありませんの」

「いや、これ別に班対抗とかじゃないし、行く場所が別なら魔獣が出る数も変わるだろ? 同じ班の中で競い合ったほうがわかりやすいんだって」


 なるほど、わかりやすい理由だ。

 さすが魔導騎士科のツッコミ担当だけあって、その辺を見極めるのは得意らしい。

 負けず嫌いが過ぎる面があるようだけど。

 じゃなきゃ剣の訓練中に禁じ手の攻性魔法なんて使わない。


「わたしも、混ぜて」

「エルフさん?」


 話しこむ僕らに声をかけてきたのは、ちょいちょい気になっていたエルフさんだった。

 淡々とした話し方ながら、よくちょこちょこ動いていて可愛い感じのこだ。


「違う」

「え?」

「ハーフエルフ。わたしは半分だけ」

「あら、お綺麗ですからてっきり」

「エルフはもっと綺麗。これ、お母さん」


 そういって彼女が取り出したのはロケットペンダントだった。

 シンプルな楕円形のチャームを開くと、金髪の綺麗な女性の写真が収まっている。

 この世界には写真がある。正確には似たような魔道具で多少高価だけど、平民でも無理すれば買える値段だ。

 その女性の耳はとても長く、20cmほどもある。

 対してエルフさんは半分の10cmほどだった。


「たしかにお綺麗ですわね。でもわたくしは貴女のほうが可愛いと思いますわ」


 写真のエルフさんのお母さんはたしかに綺麗だけど、神秘的すぎるというか、外国人的な綺麗さだ。

 もちろんそれが悪いわけじゃないけれど、ハーフというだけあってエルフさんのほうが親しみやすい。

 

 日本で聞いた話だけど、ハーフというのは自分たちと同じ遺伝子をもちながら、まったく違う遺伝子もあわせもっているので本能的に求められやすいらしい。ハーフの人の多くが綺麗だったり、かわいかったり、かっこよかったり、そう感じられる理由でもある。

 

 ま、聞きかじっただけなので間違っているかもしれないけど、エルフさんが可愛いのは間違いない。


「……何を企んでるの?」

「まぁ、企むだなんて。人聞きが悪いですわ」


 何故!? 下心抜きの、純粋な感想だったんだけど。

 たしかに男が言ったら口説いてるとか、セクハラとかになるかもしれないけど、いまは女だと思われているはず。

 ま、まさか女性が女性を褒める時は自分より下に見ているとか、裏があるとかそういう実は怖い異性系の話か!?

 見た目はともかく、中身は男なのでその辺の機微を求められると難しい。


「私たちは家畜なんでしょう? 家畜を褒めるの?」


 うん? ああなるほど。

 そういうことか。そこの言い訳はきちんと考えてある。


「エルフさん、いえ、違いましたわね。ええと」

「ミゾレ。私の名前」

「ありがとうミゾレ。貴女はこの国の民じゃありませんわよね?」


 この国にエルフは少ない。ましてや来訪者ではなく国民となるとまずいない。

 貴族には数人いるけれど、ミゾレの言葉には若干のなまりがある。

 見栄が大事な貴族なら、その辺はもっと鍛えるはずだ。


「ん。遠くから来た、冒険者として」

「まだこの国の戸籍はありませんわよね?」

「学園を出て、どこかの騎士団に所属できたら、もらう予定」

「なら貴女は家畜ではありませんわね、わたくしの家畜はあくまでこの国の民だけですわ」


 これが僕の考えいていた言い訳だ。

 もちろん、本当なら出会う王族以外みんな家畜扱いしたほうが悪役令嬢っぽいのだけれど、それをするとある大問題が置きかねない。

 戦争である。

 いや、冗談ではなく、仮に他国からきた使者やらなんやらを家畜扱いしたら開戦まったなしである。

 そこで考えた言い訳がこれ。

 余所(よそ)は余所、(うち)は家作戦。


「……ふっ」


 ミゾレがジミーを見て軽く笑った。

 何故?


「おいミゾレ、なんだその笑い」

「私はこの国の民じゃない」

「お、おう。いや、そんな事気にするなよ。魔導騎士科はみんな仲間だろ?」

「貴方はこの国の民、家畜」

「おいこら!?」


 なんかすごい楽しそうにドヤってる。

 いやミゾレの表情は乏しいんだけど、ドヤオーラがすごい。

 なんか良いこと言って励まそうとしていたジミーがいたたまれない。


「それでミゾレ、組むのは構いませんけれど、貴方は何故わたくしたちと組もうと?」


 クリスタが自分の事を家畜扱いしていると思っていたのに組もうとは、余程の理由があるに違いない。


「次席が首席に絡もうとしてたから」

「絡んではいないだろ!?」


 いや絡んでるよね。

 この次席はジミー、首席がイリスのことだ。

 

「ブリューナクさんの矢、あれから助けてもらったのに、まだつっかかってる」

「うっ、いや、でもあれは」

「言い訳?」

「ちがくてだな」

「みっともない、これがうちの次席…… 」


 はぁ、とため息一つ。

 今にもヤレヤレだぜとか言い出しそう。


「あ、う、ぐ、そ、そういうミゾレだって、本当は首席になれなかったの悔しいんだろ!」

「当たり前。魔導騎士科はみんなそう。次は、勝つ」


 ミゾレが燃えている。

 その名前のようにクールな表情なのに、その心には熱い闘志が宿っているようだ。


「ふふん、その前に俺に勝てるようになってから言うんだな」


 あ、そうか、ジミーが次席という事は、ミゾレはジミーより弱いということだ。

 少なくとも総合戦闘力ではそのはずだ。魔導騎士科はそういう場所なのだから。


「あれは何かの間違い」

「おい、言い訳はみっともないんじゃなかったのか」

「違う、みっともないのはジミー」

「この野郎、お前とも討伐数で勝負だ!」

「ん、野郎じゃないけど、望むところ」


 ふと気になったので聞いて見る。


「そういえばミゾレはどのくらい戦えますの?」

「……」

「ミゾレ?」

「あぁ、ミゾレは席次でいうと第7席だ」


魔導騎士科は現在15人だから。


「えーと、真ん中くらいですわね」

「ぐぬぬぬぬ」

「魔法だけなら上位3席に入るくらいなんだけどなぁ、接近戦で力押しされるとちと弱い」

「否定は、しない」


 たしかに、お世辞にもミゾレに筋肉があるようには見えない。

 下手したら僕の見た目よりない。

 見た目とわざわざ言ったのは、僕の場合これで結構鍛えているからだ。

 クリスタボディは一見ぷにぷに、触ってもすべすべぷにぷに、でも力を入れると固くなる謎の筋肉である。


「まぁ、それでもハーフエルフの筋力で、魔法を使わない剣技でも俺らとやりあえるんだから、技術はすげーよ」

「ジミー、貴方」

「うん?」

「また拾い食いしたの? 頭大丈夫?」

「いつも拾い食いしてるみたいに言うなよ!? 仮にしても痛めるのは腹だよ!」

「あら、やっぱりそういう方でしたのね。家畜に相応しい振る舞いですわ。褒めて差し上げます」

「わーいやったー褒められたー、って嬉しかねえよちくしょおおお!」


 せっかくだからちょっと乗っかってみた。

 ほら、悪いなとは思いつつ、誰かがからかってると自分もやりたくなるじゃないか。

 やりすぎるといじめのきっかけになるけれど、ジミーなら大丈夫だろう。

 何度も言うが、禁じ手の攻性魔法を躊躇無くぶっぱなすようなヤツがそんな豆腐メンタルなわけがない。


 うん、楽しいな、このクラス。


「ところで、首席と次席が同じ班にいて大丈夫ですの?」


 バランス崩壊してないだろうか。


「表向きは大丈夫」

「表向き?」

「ほら、お前とジェイドってまだ実力テストしてないし、席次決まってないだろ? だから暫定的に14位と15位になってるはずだ。どっちがどっちか知らんけど」


 なるほど、実際の実力はともかく、上位2名と下位2名、それに中位がひとりなのでプラマイ0ってことかな。

 ジェイドは魔法だけなら相当上位に入るだろうけど、剣が並って言ってたから微妙か。

 そして僕は魔法が使えない。

 暫定もなにも最下位確定である。


「不満でも、耐えて」

「ブリューナク侯爵家が最下位とか、ムカつくかもしれないけど次の実力テストはまだ先だからなぁ」


 いえ不満じゃありません。

 むしろその実力テスト、わがまま放題してでも回避したい。最下位でいいから。

 不意打ちもなしに本気の魔導騎士に勝てるとは思えない。


「かまいませんわ、わたくしが他の誰に劣るとも思えませんし。席次など些細なことです」

「へぇ、言ってくれるじゃないか」

「なるほど……首席や次席ではなく裏の実力者。恐ろしい」

「あれミゾレそっち!? ま、まぁいいや。なにはともあれ、イリスとジェイドにも組んだこと伝えないとな」

「そうですわね、連絡は大事ですもの」


「お呼びですかお嬢様?」

「「「!?」」」


 その時、巨大な魚が床を貫いて現れた。

 その優雅なフォルムは間違いなく今朝みたアレ、つまりジェイドの召喚獣、次元魚ディメンションフィッシュだ!

 次元魚はエラから下を床に埋めたまま大きく口を開くと、勢いよくナニカを射出した。

 そのナニカは空中で三回転し僕らの目の前に着地する。


「お嬢様、このジェイド、ただいま帰還いたしました」

「ぎゃああ!?」

「げふう!?」


 ジミーが反射的に椅子で殴り飛ばした。

 ミゾレは一瞬で僕の背後に隠れている。おい、それでも魔導騎士科か。

 他のクラスメイトたちも元いた場所から飛びのいている。咄嗟の対応としては素晴らしい。

 いや、抜剣してるやつはもうちょっと落ち着いてほしいけど、まぁ気持ちはわかる。


「うお、なんだジェイドか。新手の魔物かと思った」

「なんで魚から? 訳がわからない」


 彼は全身をぬらぬら光らせて、魚の臭いがこびりついていて非常に生臭かった。

 このままだとジェイドがよくわからない変人扱いされてしまうし、フォローしておこう。

 一応僕のために仕事をしてきてくれたはずだし。


「皆様お騒がせしましたわ、彼には朝から仕事を頼んでいましたの」

「魚に飲まれる仕事か、レベル高いな」

「あれ次元魚だよね、ブリューナクさんは召喚術も使えるのか」

「あの技は、覚えなくてもいいな……」

 

 あれ? 僕のせいになってる!?

 下手に召喚術を使えないというのもアレなので、内心の動揺を必死に押し殺す。

 その横で、ジミーとミゾレの声が聞こえる。


「え、クリスタ魔法使ってたか?」

「使ってない、精霊が騒いでなかった」

「ってことはジェイドの趣味か、あれ」

「移動用だと思う、けど、あれを選んだの、はたぶん趣味」


 よかった、これから班を組むメンバーに僕が仲間を魚に食わせる変態だと誤解されずに済んだらしい。

 なんだかんだとあったけど、ジミーとも、そしてミゾレとも仲良くやっていけそうだ。

 そう安堵した時、教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。


「え? なんですかこれ?」


 授業の道具を持って戻ってきたイリスの目の前には、ぬらぬらで倒れ付すジェイドと、未だ返還されず、床から頭だけをはやした魚がパクパクと口を開け閉めしていた。

さて、次回から徐々にシリアス要素が増えていきますが、『ジャンル:コメディ』は変わりませんのでご安心ください! とこの時点で書いておきます。

具体的に章分けなどはしていないのですが、するとしたら次話から一章の終盤へと入っていきます。


果たしてクリスタはちゃんと悪役を演じられるのか? ジェイドは初登場時のクール系イケメンに戻れるのか? 強い強いといわれているイリスの実際の戦闘は? 

全部一章で描きますのでお楽しみに!

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