022 10万PV記念 閑話 『エルフさんからみたこの国、この学園、あの令嬢』
皆様のお陰で10万PVを達成しました、ありがとうござます!
今日2話目の投稿となりますので021話をご覧でない方はそちらも合わせてお願いします!
……わたしはミゾレ。
種族はハーフエルフ。
別の大陸の、遠くの国から来た。
この国はとてもいい国。
貴族と平民は区別されているし、奴隷もいる。
でも、種族で差別されることはない。
もちろん奴隷の中には人間じゃない、エルフやドワーフもいる。
だけど、他の国から冒険者としてやってきて、貴族に成り上がった亜人も結構いる。
亜人っていう呼び名がそもそも差別的なのだけど、この国の人はエルフやドワーフといった種族名で呼んでくれる。
だからわたしはこの国が、結構好き。
わたしはいま、このグリエンド王国の王都にある、ガイスト学園にいる。
エリートが集められる魔導騎士科にいる。
わたしも冒険者として活動していたところ、声をかけられた。
エリート、ハーフエルフのわたしが。びっくり。
わたしの母国はエルフの国でも特に閉鎖的だから、ハーフエルフは嫌われもので、差別されていた。
流れに流れたその先で、まさかエリート扱いされるとは思わなかった。
この国は魔法を使える人を貴族に取り込もうとしているらしい。
貴族と平民の差を大きくする政策の一環。
でもわたしはそのお陰でエリートになれた。
エルフは生まれつき精霊魔法が使える。
人の使う詠唱魔法とは、違う魔法。
わたしも使えるけど、純粋なエルフほどじゃない。けど、ハーフだから詠唱魔法も使える。純粋なエルフは詠唱魔法が下手。使えなくはないけど、下手。
その両方が使えて、生きるために剣を学んできたお陰で、魔導騎士科に入ることができた。
正確には私の戦い方は魔導騎士じゃなくて、精霊剣士というスタイルになるのだけど、職業としては魔導騎士を目指してる。
だって良い暮らしが出来るもの。
クラスメイトもみんないい人。
ただこの二ヶ月、ちょっとげんなりすることもある。
主席のイリスさんに、次席のジミーさんがことあるごとにつっかかってる。
魔導騎士科は実力重視。
だから平民も、貴族も、人間も、亜人も仲はいい。
すぐ戦いたがるけど、種族差別はない。
でもジミーさんはイリスさんに食って掛かる。
最初はイリスさんが平民で、ジミーさんが貴族だからかと思ってた。
でも違うみたい。
主席になれなかったのが悔しかったらしい。
子供だ、とは言えない。わたしも主席や、次席になれなかったのが、口惜しいから。
模擬戦の授業ではいつもイリスさんはジミーさんの相手をしてる。
剣の訓練では本当は使っちゃいけない攻性魔法を、ジミーさんはすぐ使う。
でもクラスのみんなは誰もとめない。
使っちゃいけないけど、魔導騎士科は力が全てだから。周りを巻き込むような高位魔法はともかく、不意討ちの通常の詠唱魔法くらい、防げない方が悪い。そういう認識。
もちろん使ったジミーさんは後で教官に絞られるけど。
でもイリスさんは難なく防ぐ。
それも無詠唱。すごい。
今までイリスさんに魔法が通じた事はない。
実はわたしも精霊魔法を仕掛けたことがある。
精霊魔法は自分の魔力を対価に、精霊に魔法を使ってもらう。
エルフは精霊に好かれてるから簡単に使えて、詠唱魔法より強い。
わたしはハーフだけど、それでも詠唱魔法より強い。
欠点は、使いたい魔法に適した精霊がいないと使えないこと。だから海の上で火の精霊魔法は使えない。
例外として、契約した精霊に魔石に宿ってもらえれば、ずっと一緒に居てもらうこともできる。
幸いこの学園は魔石を持ち込んでも平気。
魔導師科や魔導騎士科なら、戦いのための魔石や魔導具も平気。
だからイリスさんと模擬戦をしたとき、契約している氷の精霊にお願いして、吹雪を起こしてみた。
室内で吹雪。
詠唱魔法だと最高難易度でも、精霊魔法ならそこそこ。
だから少しは通用すると思ってた。
ものの数秒でかき消された。
さすがに無詠唱じゃなかったけど、省略詠唱で無効化された。
この時わたしは初めて、イリスさんを怖いと思った。
だからあの日、ジミーさんが放った魔法でイリスさんが倒れたのには、とてもびっくりした。
後から聞いた話では、他の学科の貴族に絡まれたり、ルームメイトが変わったり、とてもストレスを抱えていたみたい。
イリスさんは強いけど、気弱な人だ。
イリスさんは怖いけど、やさしい人だ。
魔法は精神の影響を受ける。
イライラしてたり落ち込んでたら、詠唱魔法なら自分の魔力が乱れる。精霊魔法なら、イライラした人のお願いを快く聞いてくれる精霊は少ない。
理由はともかく、今日がジミーさんが初めてイリスさんに勝った日になった。
はずだった。
それがうやむやになる事件が起きた。
ひとりの生徒が乱入してきた。
不純物を全て取りのぞいたような長く、くるくるとした白い髪。
粉雪のように白く、やわらかそうな肌。
大きくくりくりの瞳に、わたしより少し高い背。
胸は……わたしと同じくらいだけど、スラっとした綺麗な人だった。
ハーフエルフのわたしから見ても、過去に出会ったあらゆる人やエルフと比べてなお、綺麗だった。
だけどなんだかすごく怒ってるみたい。
大きな瞳は状況を確認するにつれて、細められていく。
その綺麗な人は魔導騎士科の生徒じゃない。
魔導騎士科は他の学科に比べて人数が半分以下だから、全員把握してる。
それに、あんなフリルをつけた制服、初めてみた。
色が赤いから貴族なんだろうなと思っていたら、なんと侯爵家のお嬢様だった。
剣技の訓練で攻性魔法を使うのは禁止されてる。
クラスメイトが見てみぬ不利をしても、それはこの学園のルール。
他の学科の、それも高位貴族の家の人間にみられたのはまずい。
教官もそう思ったのか2人の間に割って入った。
実は、教官は公爵だ。侯爵家のお嬢様でもさすがに話を聞いてくれるだろう。
そう思っていたら、その綺麗な人が教官を殴り飛ばした。
次いでジミーさんに切りかかる。
魔導師として著名なブリューナク家のお嬢様。
それが模造剣を振るっている。しかも様になってる。
もしかしたら、剣技だけならわたしより強いかもしれない。
訳がわからない。
しかもあのイリスさんをペット扱いしている。
鈴の鳴るように高く可愛い声で、ものすごいセリフを撒き散らしている。
訳がわからない。というか怖い。
この国へ来るまで、ハーフエルフの私を攫おうとした奴隷商人が何人か居たけれど。
彼らより怖い。わたしは何もされていないのに、見ているだけで鳥肌が立っていた。
いつものようにジミーさんが魔法を使った。
魔導騎士科同士ならともかく、違う人に攻性魔法を使うのはさすがにまずい。
あの人は怖いけど、助けないと、そう思った。
でも、それが切っ掛けだった。
侯爵家のお嬢様、ブリューナクさんが壁に飾られていたクロスボウで反撃した。
クロスボウは簡単に射てる。
だけど弦を引くのに最低限の力はいるし、放つまでにすこし時間が必要。
名手なら弓の方が速射できる。
なのにクロスボウで速射、というか、連射、というか乱射していた。
しかもジミーさんが避けきれずに、防壁魔法を使わされている。
その防壁魔法が軋みをあげる速度でクロスボウを乱射している。
魔導師の家系のお嬢様が。
訳がわからない。
結局ジミーさんの防壁魔法が破られた直後、イリスさんがブリューナクさんを止めて事なきを得た。
でもわたしは知っている。
クロスボウを乱射していた、彼女の目が、ジミーさんを見ていなかったことを。
淡々と、流れ作業のように、彼へ矢を放っていたことを。
ジミーさんはイリスさんに感謝すべき。
ついでにつっかかるのもやめるべき。
ブリューナクさんとイリスさんはロバート教官に連れられていった。
あんなにやりたい放題してたのに、その後ろ姿は売られていく仔牛のようだった。
それから、何故かブリューナクさんと、お付きの人が転入してきた。
しかもお付きの人が魔導師科の実力者だった。
彼は貴族になって、政治科へ転入するという噂があったはず。
何故魔導騎士科にいるの?
訳がわからない。
それでも。
そう、それでもだ。
わたしたちはふたりを歓迎しよう。
魔導騎士科は実力がすべて。
あのイリスさんをペット扱いし、ジミーさんを魔法も使わずねじ伏せたクリスタ=ブリューナクさん。
元魔導師科で、現役のBランク冒険者のジェイドさん。
そんなふたりを拒む理由は、どこにもなかった。
なかったけど、その後の授業でブリューナクさんは制服を真っ黒に染めて更に改造したり、鉄食い鼠をミンチを通り越してミートジュースにしていた。
訳がわからない。
魔導武器ってあんなにおぞましいものだっけ?
たぶん、ブリューナクさんの家に伝わるという固有魔法を使わせなければ、わたしでも彼女に勝てると思う。
ジミーさんだって、高位魔法を使っていれば勝てたと思う。
彼はあんなでも次席だから。
そう思うんだけど、できればわたしは、ブリューナクさんとは模擬戦をしたくない。
だって、絶対に怖い思いをするに決まってるから。
仮に試合の結果わたしが勝てても、絶対にトラウマを刻まれるに違いない。
生命の精霊さんも、あの人はなんかおかしいって騒いでるし、間違いない。
でも彼女はイリスさんを気に入っているみたいだし、わたしが関わることなんてないだろう。
だからきっと大丈夫。うん。
この時のわたしはまだ、午後の訓練で異様なマシュマロゴレムたちと出会うことを知らなかった。
クリスタが度々気にしていたエルフさん主観のお話となりました。
彼女は一応平民ですが、人間ではありません。諸国を廻ってグリエンドへたどり着いたハーフエルフの少女。
そんな彼女が眺める景色はいかがだったでしょうか?
クリスタと関わってしまった彼女たち魔導騎士科の受難はまだ始まったばかり!




