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021 わたくしのお兄さまはわりと憐れですわ

「ふ、ふふふ。よくもまぁ、この私をここまで愚弄してくれたものだ」


 ゆらり、ゆらり。

 枝のように細く長い身体を揺らし、アルドネスが僕らを見る。


「クリスタと学友だからと、我ら侯爵家を甘く見ているようだ。貴様らにはこの私がその愚妹よりも恐ろしい存在だと、丁寧に、時間をかけて教育してやる必要があるようだな」


 身体に魔力を漲らせるアルドネス。

 それにクラスメイトたちは声を揃えてキッパリと告げた。


「「「いやブリューナク「クリスタ」さんのほうが怖い」」」

「「なっ」」


 奇しくも僕とお兄さまの声が揃った。

 

 なぜこの状況でそうなった皆の衆!


「かわいそうに、あなたは、妹さんの事を……何も知らないのね」

「貴方にはできるというのか、か弱い魔獣(テッソ)を生きたまま液状化するまで切刻むことが!」

「傷つけるたびに遺言を残し、心を穿(うが)つゴーレムの大群を作り上げることが!」

「大衆の面前で、貴族の子息をクロスボウで(なぶ)ることが!」

「「「そして何より、公爵(教官)を前にして、貴族を家畜呼ばわりすることが!?」」」


 くっ、なにひとつ否定できない!

 それぞれ理由はあったけど、あった……いや、マシュマロゴレムは事故だよ、うん。事故事故。


「……クリスタ、我が愚昧よ。私が間違っていた」

「お、お兄さま?」


 まさか、まさかクラスメイトたちの無駄な発言がアルドネスの心を動かした!?

 なぜ!?

 ど、どこにそんな要素が。


「貴様は十分立派なブリューナク侯爵家の一員だ、誇るが良い。この私も愚民どもを蔑むことはできても、家畜とまでは言い表せなかった。素晴らしい表現力だ、私も習わせてもらおう」

「お、お褒めいただき光栄ですわ、お兄さま」


 そっちかああ、そっちに心を動かしたかああああ!

 そっかぁ、家畜呼び、琴線に触れちゃったかぁ。


「はぁ。それでお兄さま。いったいなぜこのような場所へ?」

「なに、私もこの学園を出た身だからな。久しぶりに寄ってみたのだ」

「あら」


 お兄さまここのOBだったのか。

 そこらへんは流石に調べてなかった。

 12歳以上で適正があれば入れるとはいえアルドネスはもう30代、通っていたのも大分昔だろう。


「色々見て回っていたのだが、少し困ったことになってな」

「あぁ、迷子ですのね!」

「違う!」


 この学園広いからね。

 恥ずかしがって否定するアルドネスをクラスメイトたち追撃する。


「迷子、かわいそう」

「構内掲示板どこだけ? 俺地図持ち歩いてないわ」

「僕ももう暗記したからなぁ。ブリューナクさま、紛らわしいな。アルドネスさま、どこいきたいんですか?」

「迷子、迷子かぁ。この年で迷子かぁ」

「言ってやるなよ、迷子になるのに年は関係ないだろう?」

「迷子センターなんてあったっけこの学園」


 本当に仲が良いクラスだよね。

 僕は浮いてるけど。


「貴様ら、違うと言っているだろう! 落し物を探しているだけだ!」

「お、お兄さま」

「なんだ」

「まさか、家の鍵を無くして締め出されたんですの?」

「なぜ私が一々屋敷の開け閉めなどするのだ! そういうのは使用人の仕事だろう!」

「さすがお兄さま! 貴族っぽいですわ!」

「ぽいではない! 貴族だ、それも大貴族だ!」


 そんな事言われても、僕は自分で開け閉めしているし。

 それに貴族の礼儀作法もここ一ヶ月でつめこんだものだ。それ以前は幽閉されていたし、その前は日本の庶民だ。

 そういう身からすると、家の管理を使用人に任せるというのはすごく貴族っぽいと思う。


「カギは、ヒモをつけると、おとさないよ?」

「いっそ魔法かけて念じると音を出すようにしておくとか」

「どんなカギなんだろうなぁ、超音波で探してみるか?」

「やめなさい、マーティン。あんたそれでこの前ガラス割ってたでしょ」


 探し物でガラス割るなよマーティン君。


「違うわ! なんなのだ貴様ら、そろいも揃って馬鹿者しかいないのか!」

「ああもう、わかりました、探すのを手伝いますからお静かになさってお兄さま。それで? どんなものですの?」

「……ちっ。顔をよせろ」

「えっ……あの、わたくし肉親相手にそういう事をする気は」

「何を考えてる愚か者が! 耳を貸せといっているのだ!」


 だったら最初からそう言ってほしい。

 色魔なアルドネスだから僕に欲情したのかと思った。

 だって見た目はかわいいからね、今生は。お地蔵さまのお陰(せい)で。


「黄土色の魔石だ、見かけなかったか」

「この学園、魔石だけならたくさんありますけれど」


 魔石というとゴブマロの魔石が思い浮かぶ。

 黄土色のゴブリンの魔石、未加工品。

 お兄さまがあそこに置いた? いや、落とした?

 ちょっとカマかけてみようか。


「カットはどんなものですの?」

「……いや、見かけていないならもう良い」


 ビンゴかな……。

 別にカットの方法で魔石の効果は変わらない。もちろん高位の魔石ほど複雑なカットが必要になるけど、カット方法を教えられない理由としては薄い。

 問題なのはカットされていない、未加工品だった場合だけだ。


「よろしいんですの?」

「ふん、見つからなければ買い直せばいいだけのことだ。金ならある。それに、売っていなければ魔物から奪い取ればいいだけだ」


 そう言って不敵に笑う。

 たしかに僕以外のブリューナクなら、高位の魔物でも倒せるだろう。

 僕だって剣さえあればゴブリン程度なら狩れると思う。

 そんな若干ドヤってるアルドネスへ待ったをかける人が居た。


「だ、だめ。そんなのだめです!」

「イリス?」

「あ、アルドネスさま、魔石なら買えばいいと思います。魔物は危険です」

「ほう? この身を心配するというのか、よい心がけだ。ふむ、やはり貴様、今宵私の相手を」

「だってアルドネスさん弱いですし」


 何を勘違いしたのか、下卑た笑みを浮かべていたアルドネスが、それを聞いて固まった。

 すごいよイリスさん、ブリューナク侯爵家の長子相手に弱いって断言したよ。


「こ、この私が弱いだと」


 これが震え声ってやつかぁ。

 でもさ、弱いから魔物の相手をしないでほしいって心配してるのは事実なんだよね。

 自分に対してえろえろしようとしてきた男相手にそんな事を思えるなんて、すごいというかお人よしというか。

 

「せ、せめてクリスタさまを護衛につけてください! 妹さまは結構お強いですから!」

「ちょっとイリスっ!?」


 巻き込まないで!?


「たしかに、ブリューナクさんは強い、というか怖い」

「あー、正面から戦えば負ける気はしないけど、戦うのは怖いな」

「何してくるかわからんからな」

「少なくとも主席に手も足もでなかったこの人よりは強いでしょ」

「クリスタはこの俺に勝った女だからな。うんうん」


 もうやめて! アルドネスがさっきから震えてる!

 お願いキレないでアルドネス、お兄さまが耐えれば平和なまま終わるんだから!

 忍耐力はまだ残って――


「《鋭風(エアサイス)》 !」


 ないですよねえ!

 アルドネスが省略詠唱で攻性魔法を放った!

 イリスの手前で弾かれた!

 場が静まり返った!


「許さんぞ、許さんぞ貴様ら! 平民と十羽一からげの下等な貴族の、家畜の分際でこの私を虚仮(こけ)にしたこといずれ後悔させてくれる! いいか、一人残らずこの私の靴を舐めさせてやるからな!」


 あ、早速家畜って使ってる。なんだろう、こんなやつでも認められたみたいでちょっと嬉しい。

 当のアルドネスはぷるぷる震えているけど。


「な、待ってください! 元々はわたしが原因のはずです!」


 イリスが責任を被ろうとする。

 うん、それはたしかにそうなんだけど、正直魔導騎士科は全員同罪だと思う。

 無論、僕を含めて。


「いい、気迫。さすが侯爵家」

「ああ、力強い家畜発言、さすがブリューナクさんのご兄妹だ!」

「我ら魔導騎士科、力ある者の挑戦なら如何なる時でも受けて立つ!」

「説明しよう、魔導騎士科は基本的に力こそ全てなバトルジャンキーの集まりなのだ」

「いや、違うよな!? 文武魔兼ね備えたエリートだよな俺たち!?」


 ほら、魔導騎士科一同ノリノリで煽ってるし。

 あ、いやジミーは完全にツッコミ枠に収まっているし、僕とイリスは置いてけぼりだが。


 こいつら本気のブリューナクがどれだけ恐ろしいかわかってるのだろうか。

 なにせこのお兄さま、イリスと僕にメンタルぼこぼこにされているとはいえ、それは近距離にいるからだ。

 魔導師の本領発揮は遠距離戦闘。

 暗殺爆殺遠距離砲撃なんでもござれが心情だ。

 高位魔法の中でも詠唱が長い、危険なものを使ってきたら魔導騎士であろうとただでは済まない。

 

 それになにより、アルドネスはブリューナクの固有魔法を使っていない。


「くそっ、覚えていろよ貴様ら! 男はもいで女は犯しつくしてやる! かならず屈辱に塗れさせて懺悔させてやるからな! ”光より生まれし影よ我を飲み込め、望みし影へ我を吐き出せ”《影転移(シャドウジャンプ)》!」


 アルドネスの詠唱に応じて彼の足元の影が膨れ上がりその身を飲み込む。

 その影が地面へ向けて落ちると何ひとつ残らず消え去った。


「おお、あれは通常魔法でありながら使用できるものが限られる転移魔法、そのひとつ影転移! こうもあっさりと使いこなすとはさすが侯爵家だね!」

「知っていたのかヨハン!」

「あれほどの使い手に狙われるとは、さすが、イリス。主席なだけはある」

「まあ狙われてたのは(みさお)だけどな」

「腕がなるなぁ、いつ仕掛けてくるかな。魔導師ならやっぱ不意打ちだよな? 今日から毎日防壁魔法展開しておかなきゃなあ!」

「お前らなんでそんなノリノリなの? ねえ、俺がおかしいの?」


 魔導騎士科に半端なやつはいらない。

 それが平民、貴族、王族の総意である。

 しかし、しかしだよ。

 それって天才(へんじん)しかいらないって意味だったっけ? 違うよね?


 もしかしたら、僕と一番感覚が近いのはジミー、なのかもしれない。


「ストレス、発散したい」


 ジミーの叫びに、エルフの女の子がポツリとそう応えた。

 他のクラスメイトも続く。


「ほら、俺とか、強敵と戦いたくて魔導騎士目指してるからさ」

「そうだよ、マシュマロゴレム(よわいもの)いじめするために魔導騎士科(ここ)へ来たわけじゃないんだよ」


 マーティンと呼ばれていた生徒と、解説担当のヨハンくんも続く。

 え? え?

 ま、まさかこいつら、天然で煽ってたわけじゃなくて……。


「あ、あなた達まさか」

「「「あの人強そうだったから」」」


 マシュマロゴレムは彼らの心に深いトラウマを刻むと共に、強者との戦いを渇望させたらしい。

 僕は深く、それはもう深く反省した。


 次はもっと強いマシュマロゴレムを用意しよう。

今回短めですが、最近がちょっと長すぎましたね。僕は深く、それはもう深く反省しました。

反省しました、が皆様のお陰で今作が10万PV達成しました! やったー!


というわけでこの後すぐ閑話を投稿します!

そちらも合わせてよろしくおねがいします!

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