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019 わたくし下僕のわがままには弱いのですわ

ジェイドの設定に不備があるとのご指摘を受け、確認後こいつぁやべえという事で一部文章を訂正・追記いたしました。

大まかな変更はありませんが活動報告で具体的な場所を説明しましたのでよろしければご確認お願いいたします。細かい場所は気にしてないぜって方は見なくても大丈夫な感じになっています!

【活動報告URL】↓

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1952574/

 ゴブマロの魔石を握りしめながら帰路につく。

 訓練場から寮へ向かうには一度校舎をつっきらないといけないので、魔石をコートの隠しポケットに収納する。間違えて魔導武器起動用の魔石と混ざらないよう、取りにくい位置にあるポケットに入れた。

 咄嗟に使うための魔石を入れるポケットなのに、取りにくい位置があるのはやっぱり問題だよなぁ。

 要改善だ。


 別に魔石くらい握ったまま歩いていても問題ない。

 蛍光灯代わりにも使われているくらいだし、珍しいものでもない。ゴブリンの魔石だって冒険者ギルドや、そこから降ろされている魔導師ギルド、魔道具店なら簡単に買える。


 そう普通なら思うかもしれないけど、このゴブマロの魔石はすこし違った。

 珍しい魔石というわけじゃない。歩きながら改めて確認したけど、図鑑でも見たありふれた、普通のゴブリンの魔石だ。


 そう、魔道具店ではなく、図鑑で確認したままの魔石だった。


 ここで簡単な問題を出してみよう。

 魔道具店に売っている魔石と図鑑の魔石、それは何が違うのか?


 引っ張っても仕方ないので答えを言うと、それは形状だ。

 魔石はその辺の石ころではなく、いうなれば宝石のようにきらびやかな存在でもある。

 そして宝石といえば多彩なカットだろう。


 ファセットカットというやつで、原石を加工していくつもの小さな面をつくり、その透明度を最大限に生かす。透明度が高く、屈折率の高い宝石に用いられることが多いらしいけど、魔石はたとえ最下位のゴブリンのものであってもこのふたつが非常に高い。

 ブリリアントカットとか、この辺りは有名なので名前を知っている人も多いと思う。


 ただし、魔石の場合はきらびやかにするためにカットするわけじゃない。

 無論その意味がないとは言わないけれど、もっと切実な問題がある。


 魔物とは神話の時代に、様々な魔法が核となって魔力をまとい生まれた存在だと言われている。

 その核、つまり魔石にはその魔法が残っていて、魔物はその特性を受け継いでいる。

 例えばゴブリンなら精力増強の魔法が核であり、そこから生まれたゴブリンは非常に繁殖力が高い。

 地球のサブカルだと人間や亜人の女性を襲って孕ませる描写があったけど、この世界のゴブリンを舐めてはいけない。


 この世界の魔物は前述したように核である魔石に魔力がまとって生まれた存在だ。

 肉体というより魔力体というべき身体を持っている。

 

 つまりゴブリンたちは相手に核を埋め込み、その相手の魔力を利用して繁殖する。

 ぶっちゃけ相手が人間である必要もなければ女である必要も無い。

 彼らは他の生き物を見たら見境無く襲い掛かる。

 

 恐ろしい。


 男だろうと女だろうと、人間だろうと犬だろうと猫だろうと牛だろうと襲われるのである。

 なんならドラゴンにだって襲い掛かるのだ、性的な意味で。


 本当に恐ろしい。


 さて、話が少しそれたけど、魔物の正体が魔石に宿った魔法ということは、仮に魔物を倒しても魔石がそのままではいずれ魔力が集まって復活してしまうということだ。

 しかし魔石は現在では失われた古代の魔法そのもの、壊してしまうのはもったいない。

 それを解決するためにカットするのだ。

 魔石によって適切なカットをすることで魔物の復活を防ぎ、かつ魔法を利用できるようにする。当然宝飾品としての価値も上がる。良い事尽くめだ。


 ここまで話せばわかるだろう。

 このゴブマロの魔石はカットされていない。

 つまり放っておけばゴブリンが復活する。

 いや、あのゴブリン型マシュマロゴレムという姿は異常ではあるが、ゴブリンが復活したといっても過言ではないのかもしれない。

 そんな生き物と見れば見境無く性的な意味で襲い掛かるゴブリンの魔石を、未加工で持ち歩いているのを見られるというのは、非常に避けたい。


 気分はエロ本や大人の玩具をこっそり学校にもってきてしまった男子学生だ。

 そりゃあクラスメイトたちの前から早々に立ち去りたくもなる。本当なら教師に預けるなり投げ捨てるなりしたいけど、それをしたらゴブマロを復活させられない。


「クリスタさまっ!」

「お嬢様っ!」

「きゃっ!?」


 背後から呼びかけられて、思わず声が出る。

 自然に女の子らしい悲鳴が出てしまったのは最近演技詰めだったからだと思いたい。決して僕の素ではないはずだ。

 振り向けばイリスとジェイドの2人がいた。

 どうやら追いかけてきたらしい。


「クリスタさま、あの」

「なんですの? なにかご用? それとも構ってもらいたいのかしら。いいですわよ、かわいい下僕(ペット)の頼みですもの」

「クリスタさま、ゴブマロさんの核、抜き取りましたよね」


 ……oh

 思わずエセ外国人みたいなオーバーリアクションをとりたくなる。

 なんでバレたんだ。


「何を言っていますの?」

「誤魔化さないでください。すごい早かったですけど、ゴブマロさんを踏み抜いた足をどかした瞬間に魔石を掠め取りましたよね」

「じぇ、ジェイド、あなたからも何か言っておやりなさいな。わたくしがゴーレムごときの核なんて盗むはずがないでしょう」


 そう、盗むである。

 ゴブマロの魔石の出所がなんであれ、学園のゴーレムから抜き取った魔石を僕がもっているのは、どう取り繕っても泥棒だ。


「お嬢様、申し上げにくいのですが。私にもお嬢様が魔石をもっているように見受けられます」

「ジェイド? 何をいっていますの、まさか貴方もわたくしが掠め取ったなどという戯言(たわごと)を真に受けていますの?」

「いえ、残念ながら私はそこまでの動体視力を有していません。ですがお嬢様のもつ魔石の中に先ほどのゴブマロと同じ魔力を放つものがありますね。そういったものを見分けるのは得意なのですよ、これでも魔導師ですから」


 ジェイドオオオオオオ!?

 こんなところで優秀さを発揮してどうするんだジェイドオオオオオ!?

 役に立たないどころか足をひっぱってどうするんだ、おま、お前何のために僕についてきてるんだ!


「それでお嬢様、その魔石、未加工ですね?」

「……」

「お答えください、その魔石をどうするおつもりですか?」


 ああそうか、すこし誤解していた。

 そうだ、未加工のゴブリンの魔石なんて、街中にこっそり隠すだけでいずれ大惨事が起きる。

 生き物と見れば襲い掛かり、相手の魔力を使って同属を増やす魔物だ。

 平民だって魔法が使えないだけで魔力はある。悪用すればどれだけの悲劇が起こるかわかったものじゃない。


 だからジェイドのこれは、ブリューナクに雇われているからか、それとも彼自身の心根からかはわからないけれど、悲劇を起こさないための行動なんだろう。

 ましてや僕は自分勝手なご令嬢。周りの被害を省みないわがまま貴族がそんなものを持っていたらどうなるやらだ。


「貴方に答える義理はないのですけれど、ここだけの秘密にするというなら教えて差し上げますわ」

「かしこまりました」


 彼は即答するが、間違いなく嘘だろう。

 僕の答えがまずいものであれば、まず確実に彼は僕の邪魔をする。

 自分で手を下すのであれ、お爺さまに報告するのであれ。


「貴方、嘘をつくのが下手ですわね」


 ため息一つ、僕は素直に教えることにした。

 ゴブリンを悪用すると思われるより、マシュマロゴレムを一体手に入れるだけと告げたほうがマシだろう。隠し通せるとは思えないし。


「仕事をした部下には褒美をとらせるものでしょう?」

「は?」

「え?」


 ジェイド、それにイリスがぽかんとしてこちらを見る。


「ゴブマロはわたくしの指示通り戦ったのですから、今後もわたくしに仕える栄誉をあげようというのです。ですから復活させてあげるのですわ」

「……お嬢様」

「なんですのジェイド?」

「本気ですか?」


 まぁ、今までの僕をみて部下に褒美をあげるようなやつじゃないって思われても仕方ない。

 悪役令嬢としてはちょっと甘いかもしれないけれど、これが本当だと分かればジェイドはお爺さまに報告する必要はないし、言いふらしたりするような性格でもないだろう。


 だから僕は堂々と言い切った。


「本気ですわよ」

「どうやってですか?」

「どうやってって……」


 そこでジェイドの表情が先ほどまでの怪しむものではなく、若干呆れを混ぜたものに変わっていることに気がついた。

 はて、彼はなぜ呆れているのだろう?


 魔物と同じくゴーレムを復活させるのは核さえあればいい。

 ゴブリンの魔石もこのまま放置したらゴブリンになるだけだけど、ゴーレムの核とすれば魔石があつめた魔力もゴーレムの稼動に回されるのでゴブリンが復活する心配は無い。

 しかもマシュマロゴレムは下位どころか最下位のゴーレムだ。

 作るのも簡単な『土魔法』が使えればそれで……それ、で――


「ふ、ジェイド、愚問ですわね。わたくしは侯爵令嬢ですのよ? 褒美をとらせるために、わたくし自ら働くわけがないではありませんの」

「は?」


 僕はゴブマロの魔石を取り出して、彼にぽーんと放り投げた。

 慌ててキャッチするジェイド。

 そうだった、僕は魔法が使えないと散々自覚していたじゃないか。


「じゃ、そういうことで、時間がかかっても構いませんわ。ゴブマロの復活、お願いしますわね」

「はあ!?」

「まさかお爺さまの懐刀ともあろうものがこの程度のこともできないと? ああそういえばあなた、ものの役にたった(ためし)がありませんものね?」


 実際無いのだからこれくらいしてほしい。


「な、ふざけないでください!」


 怒られた。

 やっぱりだめかな。彼の仕事はそういうものじゃないし。

 むしろ僕が暴走したら止めるのが仕事だしね。


「マシュマロゴレムごとき簡単に作ってみせます! なんならアイアンゴーレムにしたっていいですよ!」

「あ、いえ、マシュマロゴレムで十分ですわ」


 アイアンゴーレムとは魔物・魔獣の危険度ランクでCランクに当たる強力なゴーレムだ。

 オリハルコンやミスリルのゴーレムなどの最高位ゴーレムほどではないけれど高位ゴーレムに位置する。

 僕が切刻んだあの鉄食い(テッソ)がFランク、魔物としては最下位のゴブリンがEランクと考えればその強さがわかるだろうか。


 それを作れるというだけでジェイドの実力が(うかが)い知れるというものだ。

 まぁそんな彼に最下位のマシュマロゴレムを作れと言っているのだけど。

 ちなみにマシュマロゴレムのランクは正真正銘最下位のGである。鉄食い鼠(テッソ)にすら勝てない。だって攻撃手段がないから。


「待ってください!」


 僕がゴブマロ復活の目処がついて、ついでにジェイドが役に立ってよかったと一安心したところでイリスが声をかけてくる。

 彼女の目はいつもよりも鋭い。

 背が低いため僕を見上げるような姿勢だが、それはたしかに出合ったあの日、ニックやディアスに向けていた瞳とおなじ物だ。


 そんな目を向けられる心当たりは、うん、たくさんあるけど、このタイミングなのは何故だろう。

 盗品を自分のものにしようという行為を、魔導騎士である彼女は見過ごせないという事だろうか?

 それとも、貴族の勝手に憤る、平民ゆえの感情だろうか?


「クリスタさまだけずるいです! わたしもモモちゃんと暮らしたいです!」


 そう言ってイリスが持ち上げたのは、さっき僕が模造剣をぶちかました一体のマシュマロゴレムだった。

 真っ白だったはずだが、なぜか桃色になっている。イリスの髪とお揃いだ。


「ピンクですわね」

「さっき直す為に魔力を注いだらこんな感じに。ではなくて、クリスタさまだけずるいです、わたしもほしいです!」


 その目は覚悟を秘めていた。

 たとえ侯爵家だろうと勝手は赦さない、平民であっても対等になってみせるという決意。


 しかしそれは学園の備品をこっそり持って帰りたいという時に発揮するものではないと思うんだ。

 クリスタの評判がどれだけ下がろうと構わないけれど、それにひっぱられて彼女の評判まで下がるのはよろしくない。

 これはいけない、彼女の為にならないと思いちょっとまじめに言い聞かせることにした。


「いいことイリス、ゴブマロの魔石は学園の備品ではない可能性が高いのですし、いくらでも言い訳できますわ。ですがそのモモちゃんは学園の備品です。それを勝手に持ち帰るのは本当に泥棒になってしまいますの」

「クリスタさまぁ」

「うっ、そんな目で見てもダメですわ。下僕(ペット)の不始末は飼い主の不始末。貴女わたくしに恥をかかせるおつもり? ジェイド、貴方からもなんとかいって」


「素材はマシュマロゴレムと同じにするにしても俺が手がける以上はそこらの雑魚と一緒にはしたくないそもそもあれだけの動きができる核ならもっと色々仕込んでやれば公爵閣下は無理にせよ並みの騎士程度には善戦できる可能性が高いならばせめて骨組みを導入しよう鉱石や木材だとせっかくの柔軟性が失われるし飛龍の皮膜などはどうだろうかどうせなら常時発動型の魔道具なども埋め込んで性能の向上をああいや音声再生機能を流用すれば理論上は魔導武器の起動すら可能なのではその場合起動するだけで効果のあるものを探すところからはじめ」


 ジェイドはゴブマロの魔石を睨みながらぶつぶつと呟いている。完全に違う世界に行っていた。

 どうやら魔法オタクの一面があったらしい。新発見だ。

 そして改めて言おう。


 役に立たないなこいつ!?


「お願いしますクリスタさま、ちゃんとお世話しますから!」

「ちょっ!?」


 イリスが僕に抱きついてきた。

 ちなみに彼女の頭は僕の胸よりさらに下くらいだ。僕はいくら美少女姿とはいえ男であることに変わり無いので身長はそこそこある。まぁ男にしては小さいことは否定しないけど。160ちょいだし。

 大してイリスは140ちょいなんじゃなかろうか。小人族でもドワーフでもないのにちっちゃかった。

 胸は大きくも小さくもないんだけどね。


 その普通サイズの胸が僕に押し付けられる。

 抱きつかれたことで至近距離のイリスから女性特有の異性を引きつける良い匂いがして、胸がバクバクしていた。ドキドキなんてものじゃない、太鼓を叩いてるような感じだ。


 ぱっと見美少女同士の白百合咲き乱れる美しい光景だが、僕も正直嬉しいが。

 嬉しい、が!


 白状しよう。僕は男だ。中身も、肉体も、女の子みたいな見た目だから、女装してるから男が好きという事もない。普通に異性が好きだ、女の子が好きだ。

 イリスは素直な性格だし貴族相手にも大事なときを意見をはっきりいう事ができる性格はとても好ましいものだ。見た目も結構な美少女だ。


 そんな彼女に抱きつかれて反応しないわけがない(・・・・・・・・・・)


 とっさに彼女の肩を掴んで引き剥がした。

 突き飛ばさなかっただけ冷静だったと褒めてもらいたい。


「クリスタさま?」

「わかった、わかりましたわ! わたくしがどうにかして差し上げますから離れなさい!」

「いいんですか!?」

「はぁ……。貴女がそんなわがまま言うの珍しいですもの、たまには下僕(ペット)のわがままに付き合うのも飼い主の務めですわ」

「だからペットじゃありません!」


 そんないつもの反論をした彼女は、いつもと違って笑顔だった。

 しょうがないよ、男は女の子の泣き顔に弱いし、笑顔にも弱いものなんだ。

 なんなら色仕掛けにはもっと弱い。

 僕を女だと思ってるイリスに色仕掛けをした自覚はないだろうけど。


 未だにあっちの世界から帰ってこないジェイドと、モモちゃんをだっこして笑顔のイリスを見ながら。

 あー、これはますます男だってバレるわけにはいかなくなったなぁと遠い目をするのだった。

やったねイリス! モモちゃんが増えたよ!

ついに役に立ったジェイド、しかしやっぱり役に立たなかったジェイド!


イリスもジェイドも結構な実力者のはずなんですが、主人公のせいでまともな戦闘がないので実力を発揮できず。

彼らが真の力を陽の目を見るのはいつになるのか。

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