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105 わたくし闇奴隷商を追い詰めましたわ

前回までのあらすじ

鬼毒蜘蛛のナターシャと仲良くなったクリスタは、試験中に彼女の仲間が暮らすスラムの異変を察知。学園を抜け出し助けに向かうと、そこにいたのは回転サソリと闇奴隷商たちだった。

そしてその中には以前出会った異国の商人、クリフの姿も。

 鉄と鉄を打ち付けあう硬質な音がスラムに響く。

 僕とクリフはお互いに軽装で、武器は切り裂くことに特化した包丁とシミター。

 一撃でも直撃させれば勝負はそこで決する。

 ように見える。


「おっと、危ないですわね」

「その服、いったい何で出来ているんですかね!?」


 横薙ぎに繰り出されたシミターの一撃を、咄嗟に左腕の肘から手首まで、つまり前腕で受け止めた僕を見てクリフが叫ぶ。

 忘れてはいけない、この制服は貴族も通うガイスト学園の制服だ。そんじょそこらの鎧より頑丈にできている。魔力を込めた武器ならいざ知らず、ただのシミターでは切り裂くことさえ敵わない。


「残念でしたわね、わたくしが平民のように粗末な衣装に身を包んでいれば、今ので終わりましたのに」

「ご冗談を。貴女はその服が頑丈であることを前提に動いています。貧弱な防具であれば、また違う動き方をしたでしょう」


 む、バレている。

 やっぱりこのクリフという闇奴隷商、戦い慣れてるな。

 ただの闇奴隷商とは思えない。もしかしたら、他国の間者っていう線もあるのか? 人が消えれば国は混乱するし、有能な人間を攫えれば色々と使い道はあるだろう。


 もっとも、そんな事を国ぐるみでやるかと言われると、ちょっと疑問が残る。グリエンドは国土が小さくとも、軍事力だけなら大国に匹敵する。魔導師の実力が平均して高いからだ。他国からしたら国境に大迷宮があるため攻めづらく、グリエンド側はその大迷宮をものともせず進軍してくるので非常に面倒くさい。


 だから、クリフは単に腕自慢の闇奴隷商か、何らかの理由で国を追われた軍人、または冒険者崩れだと思う。


「このままでは勝負がつきませんね。憲兵、王都では巡回騎士でしたか? 彼らが出てくるのも少々まずい」

「ではどうしますの? わたくしはそれでも一向に構いませんわ」

「こうするのですよ!」


 クリフは懐から何かを取り出し、投げつけてきた。

 また魔晶石かと思ったけれど、あのカンテラの力を知った彼が同じ事をするとも思えない。警戒して大げさにそれを避ける。

 それは魔晶石ではなく小さな包みだった。紙製のようで、風に煽られて開いた包みは、中から紫色の粉末を撒き散らす。


「知りませんか? 薬包紙というのですが、中に薬を入れる紙袋のようなものですよ」

「薬って、毒!?」


 慌てて口を押さえると、更にバックステップで距離を開く。

 鍛え上げた異世界人の肉体は地球人に比べると異常なほど強靭だ。その一歩で3mは離れられる。とはいえ咄嗟の行動なので隙は大きい。

 追撃を警戒する僕の目に映ったのは、こちらに背を向けて駆け出す、いや、逃げ出すクリフの背中だった。


「では、精々ご無事で」

「あ、お待ちなさい!」


 体には痺れも痛みも感じない。薬と言うのはブラフだったのか、少なくとも毒の類いではなかったらしい。

 このまま逃げられるのはまずい。彼がここを根城にしていたのは昨日今日の話じゃない。すでに攫われてしまった人たちがいるはずだ。このままでは、その人達を助けることができなくなってしまう。


 わざわざ逃げる相手に付き合って追いかけっこをしてやる必要はない。

 《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》に魔晶石を滑らせて魔力を補充し、いつものように投擲しようと構えた時だ。

 スラムの建物を粉々に砕きながら、巨大な球体が転がってきた。


 咄嗟に横へとび、更に転がることで回避する。

 このままでは無防備極まりないので、すぐに起き上がり球体を睨む。


「ギチギチギチ」


 それはつい先ほど見たばかりの、そして先日やりあったばかりの魔獣、回転サソリローリングスコーピオンだった。


「なるほど、そういう事でしたのね」


 このタイミングで現れたのは偶然じゃないだろう。

 たぶんあの粉が魔獣を操るか、誘き寄せる薬だったんだ。操るものならクリフ本人が逃げる必要はないし、誘き寄せる線が濃厚。

 なんにせよ少しまずい。

 ゴブマロがいなくとも、多少持ちこたえることはできるし、いざとなれば逃げることもできる。

 数が増えたら厄介だけど、壁まで逃げればナターシャがいるはずだ。

 けれど、そんな事をしたらクリフに逃げ切られてしまう。


 仕方ない、本当はもう使いたくなかったんだけど。


「目には指を、歯にはアルミホイルを、魔獣には魔物を、ですわね」


 何、少し違うけど気にしない。同じもので対抗するより、相手が嫌がるもので対抗したほうが良いに決まってるだろう?

 僕は《繁殖のネックレス》を起動すると、5個の魔晶石を使い、5体のゴブリン生み出すと回転サソリへけしかけた。

 本当ならこのままクリフを追いたいところだけど、このネックレスがどれだけ支配力を維持できるのかわからない。ここで僕がゴブリンから目を離して、その隙に人を襲いでもしたらたまったものじゃない。


「貴方達、二体は胴体、二体は鋏、残る一体は尻尾を抑えなさい」

「ぐぎゃぎゃぎゃ」

「ごぎゃっぎゃ」


 命令に従って動き出すゴブリンたち。もちろん回転サソリは抵抗して大暴れするが、相手は魔物だ。魔獣と違い体力は無限、傷も魔力がある限り即座に塞がる。同じように人外で、同じように魔法を使うように見えても、魔獣と魔物の間には決定的な差がある。


 痛みも恐怖も感じない魔物による捨て身の拘束は、ついに回転サソリを封じ込めることに成功する。

 あとは《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》で解体するだけの簡単なお仕事だった。


 その間にクリフの姿は見えなくなってしまったけれど、そう遠くへは行っていないはずだ。

 どこか、物陰にでも潜んでいるか、以前回転サソリと戦った森へ逃げたか。

 そういえばあの回転サソリもタイミングよく現れたけど、クリフの差し金だったわけか。あそこで僕を殺して、その後スラムの人を奴隷として攫う予定だったと。


「となると、森ですわね」





 ゴブリンを引き連れてやってきた森は、以前見たときよりも禍々しく感じられた。

 見た目が変わっているわけじゃないから、闇奴隷商の根城かもしれないという先入観がそうさせているんだろう。


「貴方達、この森にいる人間をわたくしの前へ連れて来なさい。殺してはいけませんわよ?」

「ぐぎぎゃぎゃ」

「ゲゲゲギャ」

「ではお行きなさい!」


 僕の合図で森の中へ駆け込んでいくゴブリンたち。

 スラムの住民にとってこの森の危険性は周知の事実なので、回転サソリに襲われているからといって逃げ込む人は居ないだろう。万が一クリフ以外の人間がいるとしても、それは彼の仲間くらいだ。


 というか、いまの姿って本当に悪役っぽいよなぁ。ゴブリンに命令して、逃亡者を見つけ出すとか。

 相手は闇奴隷商だし、正義は我にあり、なんだけど。

 物語によってはゴブリンがいいやつ、なんてのはよくある。けどこの世界のゴブリンは精力増強の魔法が身体を得た存在だ。つまり、非常に外聞が悪い。仮にこのネックレスを完全に使いこなせたとしても、あんまり使いたくなかった。


 けれどだからこそとというべきか、ゴブリンたちは人間を見つけ出すのがとても上手だ。

 その目的が精力増強の有効活用、ありていにいえば繁殖行為でなければ僕も素直に賞賛したと思う。 見つけ次第騎士団が派遣され、徹底的に駆除されるのは伊達ではない。

 

 僕も魔法が使えれば森へ入ってもいいのだけど、残念ながら僕は魔法が使えない。この国で、この世界においては弱者とされる立場だ。魔獣が蔓延る森の中へ、ゴブリン連れとはいえ単身入る蛮勇は持ち合わせていなかった。


 あとはゴブリンたちがクリフを見つけ出してくれる事を祈るのみ。

 神に祈るなんて柄じゃないけれど、お地蔵さまにならいいだろう。


「あら?」


 森へ駆け込んでいくゴブリンたちを見送っていると、彼らは急に動きをとめ、こちらを振り返ってきた。

 なんだ? まさか人間を連れて来いって言ったからって、僕を捕まえようなんて考えたんじゃないだろうな?

 ゴブリンは魔物だ。そして魔物は本能に忠実に動く存在だ。今はその上位種たるゴブリンキングを封じたネックレスを使うことで強引にその本能を歪めているから、いつ元に戻っても不思議じゃない。


 ゴブリンたちは森の入り口、つまり僕へ向かって駆け出してくる。普段は二足歩行なのに、今は手も使って猿のように駆けている。全力疾走だ。


 まさか本気で僕を襲うつもりか?

 念のため《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》を構える。

 そして僕まであと1mというところで、ゴブリンたちは方向を変えた。彼らが飛びかかったのは僕から見て右側の、何もない空間。


「ちいっ!」

「ぎょあああっ」


 そこにいた何かが声をあげ、ゴブリンが燃え上がる。

 一瞬にして炎上したゴブリンたちは、灰も残さず魔力となって霧散した。その残滓を、転がった魔石ごと《玉呑みのカンテラ》が虚しく吸い込む。


 空間がぼやけるようにして、ゆっくりと姿を現したのはお目当ての人物、クリフだった。


「貴方、魔法が使えましたのね」

「ええ。ブリューナク家のお嬢様に見つからないよう、念入りに仕込んだのですが、よもやこんな方法で見つけ出されるとは。お見事です」

「当然の賛辞ですけれど、ここは受け取ってあげましょう」


 当然じゃないよ! めっちゃびっくりしたよ!

 よかった、ゴブリン出してて本当によかった! いま全滅したけど!


「透明化だなんて、闇奴隷商にはお似合いの魔法ですわ」

「これでもわたくしの固有魔法なんですが、まったく驚きがないですね。さすがはこの国の魔法を極めた一族というところですか」


 透明化の魔法、たしかに使用者がいるとは聞いたことがない。

 転移とかはあるけれど、透明って実は難易度が高いんだよね。空気を屈折させるにしろ、鏡のように景色を反射させるにしろ、違和感が残るし。

 けれど聞いたことがないのはこの世界での話。地球の創作物ではいくらでも出てきた、ありふれた能力の一つに過ぎない。たしかに驚いてはいるけれど、彼が今まで目にしてきたであろう驚愕の表情に比べたら、驚いていないも同然なんだろう。


「さて、頼みの固有魔法も通用しなかったわけですけれど、まだおやりになります?」

「そうですね、素直に投降するとしましょう、かっ!」


 そう言いながら彼が投げつけてきたシミターを包丁で弾き飛ばす。

 今更この程度の悪あがき、通用すると思っているのだろうか。


「馬鹿にして!」

「いいえ、本気ですとも!」


 そのシミターの後ろから、丁度重なるようにして小さな輪が飛んでくるのが見えた。

 あの形状の投擲武器というと、円月輪か!

 丸い輪っかの外側に刃がついている武器で、チャクラムともいう。扱いが難しい上に、鎧に対しては効果が見込めない、ほとんど暗器のような武器だ。


 つまり制服で弾ける。


「だから無駄だと」

「いいえ、これでいいのですよ」


 腕に当たったそれは、しかし弾かれる事なく、けれど僕を傷つけることもなく。

 腕に巻きついた。


 円月輪じゃ、ない!?


「わたくしの職業がなんなのか、気がついておいでだったのでは?」

「しまっ」

「お黙りなさい、クリスタ=ブリューナク」


 叫びかけた声が止まる。

 自らの意思とは別に、ゆっくりと口が閉じていく。


 僕の腕についたそれは、見知ったものとは形状が違うものの、間違いなく《隷属の首輪》だった。


「《隷属の腕輪》という魔道具でしてね。《隷属の首輪》を改良・小型化したものです。わたくしのお手製なんですよ、中々便利でしょう?」

「…………」


 失敗した、完全にやらかした。

 まさか首輪を、いや、腕輪を投げつけてくるとは思っていなかった。


「さて、それでは命令です。貴女の使っている魔法を全て解除してもらいましょうか」

「…………」


 いやぁ、まぁ、たしかにするよね、普通。

 僕はブリューナク家、つまりこの国最大の魔導師の家系だ。ぱっと見で魔法を使っていないように見えても、分からないよう隠蔽して何らかの魔法を使っている可能性は高い。

 

 そんな事をしても鑑定が使えるなら一瞬で露見するんだろうけど、固有魔法というのはそんじょそこらに転がっているものじゃない。持ってるナーチェリアが特殊なんだ。だから僕に魔法を解除しろと命令するのは、彼の立場からしたら正しい。

 せっかく奴隷におとしたというのに、遅延式の魔法などで逆転されてはたまらない。


 しかしそれは考えすぎというものだ、僕には魔法なんて使えないのだから。


 僕の右手がそっと顔のあたりまで上がり、指を鳴らす。指パッチンともいうアレだ。

 支配されている状態でこれをするという事は、彼が魔法を解除する時の癖なのか、もしくは本当に魔法を解除する儀式的な意味があるのか。


(え? あ!? ちょ、馬鹿、何やってるのよ!?)


 え? いま誰かの声が。あ、念話か!?

 っと、もし念話ならこの口調はまずいですわね。

 もし、誰かいるなら助けてくださいません? 褒美は弾みますわよ?


(あら晶、貴方言葉使い変わった? 女みたいね? って違うそうじゃない、今すぐそれをやめなさい!)


 懐かしい、とても懐かしい名前を聞いて硬直する。

 体は支配されているんだから硬直もなにもないが、こう、精神的な話だ。

 声の主はたぶん女性だろう。そして、少なくとも僕の前世での名前を知っている。いったい誰だ。

 ナーチェリアのように鑑定が使えるのか、あるいは他の特殊な魔法か。

 そんな事を僕は、倒れ行く背中を眺めながら考えていた。


 ドサっと、音を立てて顔面から倒れこむ僕の体。

 それを眺める僕。


 え?


 思わず、自分の手を見る。

 倒れたほうではなく、意識が残るほうのナニカの手を見る。

 そこには、薄く透けた、半透明の男の手があった。


(まずい、加護が、信仰魔法が消えっ!?)










 ブオオォォンと、電車が走る音がした。

 川を渡る橋の上に線路があるから、あの上を走っているんだろう。

 その川は大きめだけど、でもがんばって泳げばわりと渡れるくらいの広さだ。

 泳ぐことに問題があるとしたら水質のほうだろう。

 ちょっと、いやわりと、汚い。


 川と反対側に目を向ければ、小さな丘のように整備された遊歩道と、その向こうに広がる電柱、電線、家、家、ビル、ビル、ビル。

 季節は、いつ頃だろう? 太陽の暖かさも、風の冷たさも感じないから判断がしにくい。雲の形を参考にするなら秋だろうか、冬だろうか。夏、ではないと思う。


 ここ、どこだよ、なんて言えない。

 見覚えのある街、見覚えのある川、見覚えのある、世界。

 そして、見覚えのある──


『え、なんでいるのあんた』

『ははは、そんなの、僕が知りたいよ』


 ──お地蔵さまだった。

コメディ「あああー!? チート能力もないのに無双しようとするから! タグに無双なしってあっただろおおお!?」

シリアス「俺の出番キタ━(゜∀゜)━!」

ハイファンタジー「おいそっち行くなよ!?」

ローファンタジー「俺の出番もキタ━(゜∀゜)━!?」

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