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103 わたくし二度目のサボタージュですわ

ちょっと短いですがキリがいいので。

 ついに試験当日になった。

 戦い好きなイメージが先行しがちな魔導騎士科も、今日だけはノートや教科書を見返したりと普通の学生らしい。

 ヨハンくんやミリアリアは結構余裕そうだけど、マーティンや一部の生徒は結構必死に確認してるな。

 今更覚えようとしても遅いと思うが、がんばってくれ。


 本当なら僕はご令嬢らしく悠々と構えていたかったけど、今回は殿下との勝負があるので一応復習しながら試験の開始を待つ。


「大丈夫ですかクリスタさま」

「まぁ、できることはやりましたから、あとは試験に臨むだけですわね」


 心配そうなイリスにそう返していると、ナーチェリアが不機嫌そうにしている事に気がついた。

 っていうかなんで眼帯なんてつけてるんだ。

 長い前髪で魔眼を隠しているナーチェリアが、今日だけ片目をゴツい眼帯で隠していた。


「どうしましたのナーチェリア、怪我でもしましたの?」

「違うわよ、鑑定禁止って言われて試験中は封印されてるの」

「鑑定禁止って、まさか」

「テスト用紙に鑑定使うとわかるのよ、答え」

「「うわぁ」」


 さすがのイリスもこれにはドン引きである。

 テスト用紙がカンニングペーパーを兼ねているとか、ひどいにもほどがある。そりゃ封印されるわ。


「よかったですわね、鑑定眼が片方だけで」

「初めて邪視に感謝したわね、両目塞がれちゃ文字もろくに書けないし」





「はい、それでは皆さん席についてください」


 試験監督のドロシー先生がやってきたので立ち話していたクラスメイトたちも素直に席に着く。

 彼女は普段ロバートの影に隠れてあまり目立たない。一部の魔法が得意な生徒はよく話しているらしいけど、僕はそもそも魔法が使えないし、魔導武器について聞かれるのも怖かったのでむしろ距離をとっていた。

 とはいえ座学は大体ドロシー先生が担当しているのでどんな人かはわかる。

 

 テスト用紙が配られ、全員に行き渡ると先生の魔法で机ごと魔力の壁で区切られる。

 ぱっと見ではほとんど透明なのに、カンニングの類い一切できないという特殊な結界魔法らしい。

 こういう魔法が得意なせいで、戦闘好き、派手好きな魔導騎士科だと目立たないともいう。


 さて、問題のテストは……。えーと、これは分かる、これも分かる。

 あ! これこないだの勉強会で習ったところだ!


 なんてちょっと懐かしい気持ちにひたりつつ、一時間目、二時間目と順調に終了。

 合間に休憩をとりつつ三時間目、四時間目も終了。

 今日はお昼休憩がなく、このまま各自のレポートを発表することになっている。僕も自分の発表内容を再確認しようとしたところで、それが起きた。


 ブー、ブー、と振動するそれを取り出す。

 ぱっと見ではスマホのように見えるこれは、奴隷の首輪を管理する魔道具だ。

 先日イリスに思いつきで頼んだもの、それは大量のマシュマロゴレムをスラムに配備して、何か起きたらわかるようにする、というものだった。


 とはいえ僕は魔法が使えないのでゴーレムの挙動を遠距離から察知するなんてできない。

 そこで《隷属の首輪》の下位互換である《従属の首輪》をマシュマロゴレムに装備した。

 《隷属の首輪》ならこんな魔道具なくてもわかるんだけど、あれは貴重品だし、何十もの首輪の反応を脳に送られたらパンクしてしまう。一方で《従属の首輪》なら奴隷ギルドに在庫がありあまっているので使わせてもらった。


 その魔道具に首輪が破損したという通知が届いている。

 ゴブマロなんかの例外を除き、マシュマロゴレムは安価で大量生産できる代わりに無能だ。

 ではどうやってスラムの状況を察知するのかといえば、簡単な指令をとばすだけでいい。つまり『スラムで危険があれば自爆せよ』である。


 そうすることで首輪の破損通知がこの魔道具へと飛ばされ、僕は異常を感知することができるという寸法だ。 

 その通知がいま、来てしまった。よりによって試験中に!


 これだけじゃまだ何が起きたかわからないけど、前回のように魔獣や魔物が暴れている可能性もある。或いは闇奴隷商が逃亡奴隷を攫っている可能性も高い。

 どうする? みんなを呼んでスラムに行くか?


 だめだ、それはできない。

 あのスラムにいる多くは逃亡奴隷、この国の人間にとっては道具と同じくらいの価値しかない。

 イリスやジェイドなら助けに行ってくれるだろうけど、いや、この魔導騎士科のみんななら誰だってきっと来てくれる。

 それでも、それでも、だ。試験を抜け出した事実は覆らないし、それに沙汰を下す学園側はスラムを助けにいきましたなんて理由は認めない。


 みんなの将来を潰すわけにはいかない。

 だけどスラムも助けたい。なら答えはひとつだ。


 ひとりで行く、なんて言えたらかっこよかったけど、僕は自分の実力をそこまで過信していない。

 教室を見渡し、目的の人物がノートを見ているのを見つける。


「ナターシャさん」

「な、なに? 発表会で不安なところとか、あるの?」


 そんな優しい言葉に一瞬気後れするも、他の人に聞かれないよう、小声で彼女に囁く。


「スラムが襲われてる可能性が高いですわ。学校を抜け出しますわよ」

「え?」


 幸い午後はレポートの発表会だけだ。提出そのものは済ませているから抜け出しても大きな減点はない。

 まぁ怒られるだろうし、下手したら停学、進路にも影響する。だけど僕は侯爵家なので進路とかどうにでもなるし、仕事を手に入れるために入学したナターシャは既に奴隷商という職を手に入れている。


 なによりスラムにはナターシャの仲間が居る、ここで伝えないという選択肢はなかった。

 もしスラムで起きている危険が闇奴隷商がらみなら、それを捕まえさえすれば僕がお爺さまに怒られることはないし、ナターシャも闇奴隷商のルートを潰したという実績が得られる。

 ただの魔獣が暴れてるだけだったら、その時考えよう。最悪侯爵家の権力でなんとか退学だけは阻止したい。


 侯爵家万歳、と言いたいところだけど、普通の平民に転生してたら女装もせず冒険者ライフを満喫していたと思うので、本当に侯爵家生まれでよかったのかは疑問が残るところだ。


「どうします? レポートの発表が大事だというのなら、わたくしだけでもよろしくてよ?」

「ま、まって、わたしも行く」

「わかりましたわ。最悪わたくしたちの手に負えなければイリスも呼びますけれど、わたくしたちだけで済ませたいですわね」


 イリスは僕と一緒にがんばってくれると言っていたけど、彼女の親はイリスが学園生だから王都に店を構えられている。万が一イリスが退学になんてなったら、王都から追い出されてしまうだろうし。


 というかナターシャが、魔導騎士科の生徒が居て手に負えない状況なんて想像したくないんだけど。


 いきなり居なくなったら探されそうだし、一言言っていくか。


「イリス、ちょっとお花を摘んできますわね」

「わ、わたしも」

「え? あ、はい、行ってらっしゃいませ」


 ちょっとこの言い方はどうなんだと思ったけど、侯爵令嬢がちょっとトイレいってくるわーとか言えないし。

 

 教室を抜け出した僕とナターシャは一目を忍んで学校外へ、と思ったけど校門には警備の騎士がいる、どうしたものか。


「ま、まかせて。こっち」


 ナターシャさんに連れて来られたのは学校を囲う塀の中で、正門から一番遠い場所だった。

 この学校の塀はとにかく高い。5mくらいある。何故って中で攻性魔法がバンバン飛び交うからだ。上空にも魔法が外へいかないように結界が張られている。


「乗り越える」

「乗り越えるって、魔法を使ったら感知されますわよ?」

「だ、大丈夫、ほら」


 そういってナターシャさんは擬態を解除して6本腕の姿へ。

 そして指先を蜘蛛特有の形状へ変化させると壁に張り付いた。


「背中に捕まって」

「え、おんぶですの? 本気、ですのね」


 ナターシャさんは僕を背負うと、かしゃかしゃと機敏に壁を這い上がりあっさりと乗り越えた。

 塀はいくら高いといっても鳥や小動物が乗ることも有る。だからちょっと何かが乗ったくらいで警報がなったりはしない。

 さすがに魔獣並みの魔力があれば反応するけど、僕やナターシャは学園生として魔力がセーフリストに登録されているから大丈夫だった。


「さて、急ぎますわよ」

「う、うん。スラムはあっちだから、ブリューナクさんの体重ならいけそう」

「え、ちょっと貴女何を考えてますの?」


 ナターシャさんが見ているのはスラムがある方向だ。しかしそこは町の入り口からは離れているので門なんてない。

 一度門から出て回り込まないとスラムへはたどり着けない。入り口近くにスラムなんて作ったら騎士団が潰しにくるし。


「よし、行く」

「ちょ、お待ちになって!?」


 しかしナターシャさんは僕を背負ったまま町を走りぬけ、六本腕を猛然と動かすと王都を囲う巨大な壁を上りきってしまった。

 あぁ、これ絶対噂になるよ、侯爵家のご令嬢がまたなんかやらかしたって……。


「お、落ちるから捕まって」

「嘘でしょう!?」


 学園の塀なんて目じゃないくらいこの壁高いんだけど、あ、本気で飛び降りるの?

 わーい紐なしバンジーだー。さん、はい。


「きゃああああああぁぁぁああぁぁぁあぁっ!?」


 この日、僕の悲鳴が王都の空に響き渡った。

Q[クリスタさま本当に他のみんな誘わなくてよかったの?]

A[作者は就職にも関わる試験の最中に抜け出そうぜっていう勇気はない]

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