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102 わたくしレポートを仕上げますわ

今度の章は10万文字に収めようと思ってたんです、思ってたんですよ!

削ろうとがんばってたら逆に増えました、タスケテ、タスケテ。

 ピクリとも動かなくなった回転サソリを念のためグレイブでつついてみる。

 ……よし、完全に死んだかな。


「もういいよゴブマロ」


 一声かけるとソフトボール大の球状に丸くなるゴブマロ。改めてお前マシュマロゴレムなんだよなぁと実感する。

 今日は大分酷使してしまったし、明日にでもジェイドに預けて直してもらおう。


「さて、一応気をつけたつもりですが、ご無事ですか商人さん?」

「ええ、おかげさまで。いやぁ、それにしてもお強いですね」


 この商人、クリフさんには僕が回転サソリと戦っていた間に逃げて欲しかったんだけど、綺麗にこけてたからなぁ。

 情けなさを誤魔化すように頭をかいているクリフさんのおべっかに、旅をしてると荒事に慣れるだけですよと返しておく。

 実際大迷宮を越えてこの国へやってくる人間と言うのは、越えてこられるだけの武力をもった本人か、人を守りながら迷宮を越えられる猛者を護衛として雇えるお金持ちかだ。


「助けていただいたようで、ありがとうございました」

「おや、貴女は」


 声を掛けられたことでクリフさんが連れていた女性と子供が起きていることに気がついた。

 僕も戦闘で気が高ぶって視野が狭くなっていたのか。


「眼が覚めたのですね、それは何より」

「本当にありがとうございました」

「ありがと、お兄ちゃん」


 お兄ちゃん!!

 くう、まさかこの世界でそう呼んでもらえる日が来るだなんて。

 違うぞ、頼れる男扱いされたのが嬉しいんであって、お兄ちゃん呼びが嬉しいんじゃないぞ?

 嫌でもないけど。


「しかし今回は参りましたな。今までも魔獣の襲撃はありましたが、あんなゴーレムが来ることなんてなかったのに」

「どうやらゴーレムではなく魔物だったらしいですよ」


 一見巨大ゴーレムにしか見えないラクタ・マキナだが、魔石がある以上魔物だ。

 頑強な装甲を削り取っても、間接部を破壊しても魔力なので回復してくるゴーレムっぽいものと言えば、その酷さが伝わると思う。


「ほう? あの様子ですと相当高位の魔物なのでしょうね。なんにせよ、このスラムもそろそろ引き上げ時ですかねぇ。商売になりませんし」

「そういえばなぜスラムで商売を? 外壁の向こう、王都のほうがいいのではありませんか?」

「いえね、王都の中で商売するには特殊な許可が必要らしく、わたしのような異国人にはでないんですよ。もっともわたしは商品の仕入れに来ただけですからそれで構わないのですが、滞在中の生活費くらいはここで稼いでおこうかなと」


 あのラクタ・マキナは貴族の遺品から発生したらしいので例外としても、魔獣や魔物に襲われるような場所で商売なんてできるものだろうか?

 そもそもスラムの住民はろくにお金をもっていないだろうし。手持ちがあるなら高い通行料を支払ってでも王都へ入りたいはずだ。


「こう言ってはなんですが、スラムの住人相手に稼げるものですか?」

「ええ、結構いい稼ぎになりますよ。魔国では大した価値もないゴブリンのような下位魔物の魔石でも、よその国じゃ貴重品ですから」

「魔国?」

「おや、知りませんか? 四方を大迷宮に囲まれ、国土にも無数の迷宮と魔物が蔓延る危険地帯。魔法を使えないものでは生きることすら難しい、神々と魔神との最終決戦が行われた終焉の地、魔国グリエンド。そんな風に世間じゃ呼ばれているんですよ」


 正式な名前じゃなくて通称みたいなものかな。

 イリスたちから習った隣国の情報にもあったな。魔法王国とか、死霊帝国とか。


「なるほど。旅をしているので国名については詳しくなってきましたが、そういった情報はすべて連れに任せていましてね。生憎その連れとは逸れてしまったのですが」


 そんな連れ居ないんだけどね。

 強いてあげるとしたらイリスになるだろうけど、彼女はいま自分のレポートに集中しているだけで、別に逸れたわけではない。

 闇奴隷についての情報収集のために、いなくなった連れが攫われたのではないかってことにしてるけど、それがなくても一人旅でグリエンドにやってきました、なんていうと相当の猛者か訳有りだと警戒されるからね。


 それはさておき、いつまでも回転サソリを前に雑談していても仕方がない。

 僕らは王都の外壁へ向けて歩き出した。

 やはり戦闘は終わっていたようで、破壊音もしなければ、瓦礫や人が飛んできたりもしない。


「おや、どうやら騎士団が来たようですね。異国人がいると怪しまれてしまいますし、わたくしたちは離れたほうがよさそうです」


 遠目に結構な数の巡回騎士が歩いてくる。

 それとあれは……どこだったかな、聖獅子騎士団とは別の魔導騎士団の鎧も見える。

 聖獅子騎士団は本来国の切り札だ。国の重鎮に直接の危険がない限りは出てこない。ラクタ・マキナは危険度ランクBと強力な魔物だけど、魔導騎士が数人居れば用意に対処できるだろう。


 そんな魔物が暴れていた場所に見慣れない異国の商人。まぁたしかに怪しまれるか。


「残念ながら、僕は魔物と戦っていた友人の安否を確認せねばなりませんので」

「そうですか。それではわたくしはこれで。またどこかでお会いしましょう」

「ええ、またどこかで」


 クリフさんと別れ、ついでに女性と子供にも騎士団のほうへ向かってもらうよう伝え、ここで別れる。

 僕もこんな格好してるから、騎士団とは関わりたくないんだよね。

 なるにしても、身分を保証してくれる人が一緒にいないとちょっと辛い。


 というわけで、やってきましたラクタ・マキナとの戦闘跡地。


「やあニック! それにディアスも、戻って来れたんだね」

「どこいってやがったてめえ!!」

「え? 回転サソリを倒してた」

「……被害は?」

「ないよ。強いて言うなら僕のゴーレムがちょっと傷ついたけど、直せる範囲」


 余計なことを言わず、被害状況を確認してくるあたり、ニックも成長してるんだなぁと実感する。

 回転サソリはランクDの魔獣で魔導騎士科にとっては雑魚同然だけど、平民にとっては災害のようなものだ。出合った当初の、それこそイリスに絡んでいたころのニックならそれを知っていても僕への文句が続いただろう。


 だからちょっと嬉しくなって、勤めて明るく被害なしと答えた。

 実際ゴブマロの修理は魔導騎士科なら誰だって出来るだろうしね。……できるよね、魔改造したのジェイドだけど。


「無事だったんですねタロウ」


 それはこっちの台詞だと全身ぼろぼろのディアスに返す。

 ここにいるという事は、ラクタ・マキナに投げ飛ばされたあとここへ戻ってきて戦っていたんだろう。

 へらへらしているようで、律儀というか、なんというか。普段の言動のせいで、素直に褒めるのは少し癪だよね。


「それにしてもよく無事だったね」

「ああ、魔導騎士科の方が治してくれました。実は壁に激突するより先に、あまりの速度に内臓が破裂していたんですけど」

「よ、よく生きてたね」


 そこまでいくと治癒魔法でも治せるか怪しいぞ。


「いやぁ、すごいですねあの人。いきなり腕が六本になったかと思うと、それで僕のお腹切手縫ってくっつけて、手術、というんでしたか? その後に治癒魔法を掛けてくれました」

「そ、そっか、ナターシャがいてよかったね」

「なんだ、その、よく無事だったなディアス」

「なんだいなんだい、二人が優しいと調子が狂うじゃないか」


 内臓が破裂するほどのGを受けて、その後開腹手術までされて、すぐさま戦線復帰。

 そんな言葉にするだけでありえないことをやってのけた相手に対して優しくするなと言うのも無理がある。


「そういえばタロウはゴーレムを使うんですか? 使役系だったんですね」

「意外かな?」

「は? 正体隠してるやつにはお似合いだろうが」

「もしかして、普段話していたタロウはトイレ型ゴーレムだったのかな?」


 ちょっと想像してみた。

 トイレにゴーレムを設置して、いつでもふたりと話せる状況を構築しておく。

 マシュマロゴレムのように最下級のゴーレムは例外として、ちょっと質のいいゴーレムなら遠視や念話機能がついてたりする。なお、それは男子トイレに監視カメラと盗聴器を設置するのと同義である。


 はいアウトー!


 女子トイレならセーフなのかって? 世間ではそれを事案という。


「それじゃ人のトイレを覗くことになるだろう? そんな趣味はないよ」

「ですよね、女子トイレならともかく」

「「巡回騎士さんこいつです」」

「ははは、本当に来てるからやめて」


 あ、本当にこっち来たし!

 ってあれ? 巡回騎士、じゃない?


「げ、なんであなた達がここに」

「あん? 誰かと思えば騎士科の雑魚じゃねえか。なんだ、巡回騎士の真似事でも始めたのか?」


 現場の調査を始めた騎士団から離れてやってきたのは、かつてニックに訓練場所を奪われそうになり、僕が八つ当たりで訓練をし、ナーチェリアたちにまでしごかれて闘技場街へ訓練しにいった騎士科のへっぽこ組だった。

 

「遠く外れてないのが反応に困る。騎士科の授業の一環で各騎士団の業務を体験させてもらっているんだ」


 職場体験みたいなものか。

 僕も中学の職場体験で幼稚園とか行ったなぁ。

 子供がブロックを組み合わせるおもちゃで作った武器の一撃が中々強力だった。子供って手加減しないからね、怖いよね。


「でまぁ、知り合いがあっちにいるって事で俺たちが話を聞く担当になったんだよ。本来なら巡回騎士が変な事やらかさないように監督するんだけど、学園生同士なら事情説明すればいい練習になるだろうって」


 なるほどね。

 あとはまぁ、単純に彼らの監督をしている場合じゃないっていうのもあるんだろう。

 魔導騎士が数人居れば対処できるとはいえ、ランクBの魔物が王都の真横で戦闘していたのだ。

 特にラクタ・マキナの攻撃は壁を越えて町中へ届く可能性があった。スラムは王都民じゃないからと放置していたら、そこの巻き添えで王都に被害がでました、だなんて笑い話にもなりやしない。


 騎士団の人たちは忙しそうにこの付近を調べまわっている。


「ところでそちらのお方は?」

「「トイレの妖精」」

「その紹介はやめてくれないかなぁ!?」


 その様子を興味深く見ていた僕を不思議に思ったへっぽく組へのニックディアスの返事がそれだった。

 この姿じゃ誰かわからないのは僕の狙い通りだとしても、妖精はやめてくれ、その筋の人に誤解されるから!!

 せめてトイレの神様にしてくれ!


「僕は河屋太郎といいます。旅人のようなものですね」

「外から、他の国から来た方ですか」

「ええまぁ。怪しいものではない、と言っても信じてもらえないかもしれませんが、そこはこちらのニックとディアス、それに魔導騎士科のナターシャさんに確認を取ってもらえれば間違いないかと」

「は? 俺たちてめぇがどこの誰か知らねえんだが」


 そうえいばそうだった。

 というか僕も河屋太郎がどこの誰かなんて知らない。知ってたらむしろ怖い。


「そんなことより、巡回騎士と共にいるということなら、少し人探しについての相談があるのですが」

「なんですか? あ、俺たちは見習いのようなものなので権限はなにも持っていませんよ?」

「いえいえ、そう大仰なことではなく、ちょっと連れとはぐれてしまったので、どこかで人攫いにでもあっていないかと」


 そうして僕は彼らからも闇奴隷についての情報を仕入れることにした。

 さて、何が聞けるかな?





 その後魔導騎士さんとかもやってきて質問攻めにされたところを、ニックディアスの証言と、ひょっこり現れたナターシャさんの証言で僕の身分が保障され、日が暮れるよりも前に開放された。

 ニックディアスたちは冒険者ギルドへの報告があるとかでまだ仕事らしい。明日も授業があるというのに大変だ。


 一方僕は部屋に戻ってひと風呂浴びたあと、鏡面に向かってスキンケア中。

 化粧水と乳液で色々しつつ今日聞いた話を脳内でまとめていく。


「あれ、ご機嫌ですねクリスタさま」

「あら、わかります?」

 

 久しぶりに自由に話せたからなぁ。

 似非お嬢様口調にも慣れたけど、ちょっと考えながら話してるから。河屋太郎は素なのかと聞かれると、それもちょっと違うのだけど、それでも女性のフリをしているよりは大分楽だ。


 まぁ、悪役令嬢も河屋太郎も、演技なのは口調だけで、発言の意味とか方向性は本音なんだけどね。


「スラムのほうで色々と聞き込みができましたの」

「スラムって、大丈夫だったんですか!? 今日は騒動があったって聞きましたけど」

「ちょっと魔獣と戯れましたけど、それくらいですわね」

「あぁ、いつものですね」


 魔獣と戯れるのがいつものことなグリエンド。そりゃ魔国なんて呼ばれもするよ。


「本当なら闇奴隷商のひとりやふたり捕らえたかったんですけれど」

「危険な事をしないでください、とは言いませんけど、事前にちゃんと相談してくださいね?」

「わかってますわ、ありがとう」


 イリスの言葉が頼もしすぎる。

 そこらの女の子どころか騎士だって目ではない、その気になればひとりで街すら落せそうな魔導騎士科主席のお言葉だ。安心感が違う。


 今日からは今までに調べた情報をまとめてレポートを作ろう。

 単純に課題としてならこれでも合格範囲だと思うけど、王子様と勝負するにはまだ少し物足りない。

 闇奴隷商への対策として、なにか実験でもしてみようか? 実験とその結果がると、一気に本物のレポートっぽくなるよね。

 いや、これだとレポートじゃなくて論文か?


 奴隷、闇奴隷、スラム、人攫い、魔獣、魔物、回転サソリ、ラクタ・マキナ、ゴーレム。

 うーん……うん? アレならわりと安価に量産できるっけ。機能が足りないけど、量産されてる魔道具で補えるかな。


「えーと、イリス。以前使役系は慣れていないと言っていましたけれど、最近は慣れてきましたわよね?」

「そうですね、授業で触れる機会も多いですし、モモちゃんもいますから」


 自分が呼ばれたと思ったのか、モモちゃんがとことこやってきて。にゅうっと美脚を伸ばして見せ付けてくる。

 おいやめろ、たしかに綺麗だけど色のせいでピンクのスパッツを履いたマネキンの下半身だけみたいなんだよそれ。


 ……今更だけどモモちゃんも自立行動してないか?

 ま、まぁいいか、本題はそこじゃない。


「いま思いついたのですけど、ちょっと用意してほしいものがありますの」

へっぽこA「俺は班長のアンドリュー!」

へっぽこB「俺はゲラルド!」

へっぽこC「僕の名前はまだ出ていない!」

へっぽこD「オレもだ!」


クリスタ「へっぽこ四人組でいいよね」


へっぽこたちの初出は一章051「わたくし八つ当たりしますわ」ですね。

ちなみに名前は覚えなくて大丈夫です←


【追記】ご質問が多かったので補足を。

ニックディアスはタロウを謎の異国人だと思うのか、という質問をいくつかいただきました。

結論から言うとそれはありません。


まず最初の出会いからタロウが偽名だという事はバレています。

次に今年度の魔導騎士科は初期に語られている通りクリスタとジェイドを追加して15人しかいないので、特殊なクラスということもあり全員学園内で知名度が高いです。なのでタロウなんて生徒が居ないことも二人は知っています。


そして河屋太郎の姿ですが笠とマスクで顔を隠して声も変えているので、これだけやっておいて本名を名乗っているとはニックもディアスも考えません。


最後に、では出身地そのものを異国だと思われるかについてですが、現在登場してる魔道騎士科でも。

ミゾレ←異国のハーフエルフ

ナーチェリア←元奴隷の猫獣人

シルシル←家憑き妖精(シルキー/魔物)

ナターシャ←鬼毒蜘蛛(オーガタランチュラ/魔獣)


と出身国がどうのってレベルじゃない人だらけなので、仮に生まれ育ちが異国だったと思われても問題ありません。


魔導騎士科、というかグリエンド王国は力があって法律を守るなら全てを受け入れます。


本筋に直接関わらないお話でしたのでこちらで説明しても大丈夫と判断して補足させていただきました。

以上、作者の補足コーナーでした。

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