第三話
アズミは夫からのモラハラにより少し精神的に病んでいた。
夫の声を聞くだけで激しい頭痛、時には嘔吐。
また、何を言われるのだろうと怯える毎日だった。
そんな状態のアズミを病院へ連れて行き、いつも心配していたナナは誰よりもアズミの離婚を喜んだ。
子ども達は保育園。
役所からアズミはそのままナナの家へと向かった。
親からの援助もあり、少し高級感漂うナナのアパートは、同じ市内でも人気な場所にある。
一方でアズミは親を頼れない。今住んでるアパートが精一杯でこれ以上は無理であった。
「アズミ!お疲れさま」
着くとナナは笑顔で迎え入れるとアズミを座らせた。
2人はいつもこうしてどちからの家で会っておしゃべりが続く。
離婚のこと、子どもの成長のことが最近の話題の中心だったが、突然ナナはプリクラを見せた。
そこにはナナと男の人が写っていた。
「誰?」
少し照れながら、ナナはゆっくりと話し始める。
「職場の人なんだけど...すごく優しくて」
ナナは昔から恋多き女だった。
身長が高めでスタイルもよく、子持ちには見えないしとても甘え上手で聞き上手。よく男性からモテていた。
「もしかして...彼氏できたの?」
「それはまだ。この前初めて2人ででかけたの。いい感じだなーくらい」
ナナの新しい恋に、アズミは自分のことのように胸が高鳴った。
「4歳上でね、子どもがいることも知ってて...まだ会わせたことはないんだけど。でも職場の人って言うのがねえ..」
ナナは小さな法律事務所で事務をやっている。 そこの所長はナナのお父さんの幼馴染でその縁があって就職したらしい。
「職場の人ってやっぱり気まずいよねえ」
「でしょー?」
賑やかなナナの恋の予感のおしゃべりに、アズミの離婚手続きの疲れは消えていた。
そして16時。子どもたちのお迎えが迫っている。
「続きはまた!」
そう言ってアズミはナナのアパートを出て保育園に向かった。
離婚前も、よく休みの日はこうしてナナとおしゃべり。
保育園が休みの土日は子どもも連れて一緒にでかけたり、これはナナにとってもアズミにとっても、何気ない日常だった。
ナナと2人の「おしゃべりタイム」は、母親であることを忘れたもう1人の自分の時間のようだった。
現実に帰ってきたかのように、アズミは「母親」に戻り、慌ただしく夕飯を作り、子どもたちと過ごす。