第一歩
「シングルマザー」と聞いて、何を連想しますか?
日々子育てと子どもを食べさせていくために仕事もして自分の時間もそんなになくて。
それはとても厳しい世界。
自分が倒れてしまえば、子どもはどうなるんだろう。そんな不安はいつも消えない。
それでも母は「母親」というだけで、誰にも頼れずにこなさなければならない。
時には甘えたい。時には誰かに頼りたい。
そう思うのは悪いことなのでしょうか。
それでも、やっぱり「お母さん」ですから、何より誰より子どもが1番。
それがシングルマザーの誇り。
「離婚届はたった今をもちまして受理されました。母子家庭となりますからその手続きを児童課で行ってくださいね」
愛想笑い1つない、淡々とマニュアル対応をされたが、アズミは自然と笑顔が溢れた。
「離婚...できたああ」
大きくガッツポーズでもしたい気分だったが、その気持ちを抑え急かされるように児童課へと歩く。
今日も役所は人で溢れ、所員は忙しそうに対応に追われていた。
児童課もまた、人がたくさんいた。
27歳のアズミには、2人の息子がいた。
6歳年長である「優斗」と4歳「大翔」
母子家庭となったことでその手続きを待っていた。
「この書類を記入して提出してください。わからないことがあれば聞いてくださいね」
ここでは柔らかい人柄がわかるような、優しい雰囲気の女性に対応された。
なんとか手続きを済ませて時計を見ると既にお昼が過ぎていた。
「9時半に来て、やっと終わった...。疲れたな」
とにかく書かなければならない紙切れは多く、間違えないように慎重になっていたせいもあってやっと気が抜けた。
役所を出て車に乗り込む。
アズミはすぐにバッグから携帯を取り出し、
「離婚成立しました!」とメールを送った。
中学からずっと親友の「ナナ」に伝えるためだった。
ナナからは待っていましたと言わんばかりに、
「おめでとう!」とすぐに返事が来た。
アズミはうれしそうに役所をあとにした。
今日から本当に3人で生きていける。
それはアズミにとって待ちわびた、「幸せ」であった。