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その瞳がほしい  作者: ワンコ
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ウィポカとは、この国の王を頭とした特殊部隊のことだ。

ウィポカは王の周りで起こることに関する物事すべてに対処する。

それは王族や王城の警護から始まり、諜報や暗殺、さらにお茶の相手やお菓子の買い付けまで多岐に渡る。




ぽたぽたと、自分から垂れるしずくで廊下に自分が歩いた跡を残しながらお城の中を進んでいく。

なんか昔読んでもらったお話に似たようなことをしていた登場人物いたような気がする、何て言うタイトルだったっけな。


「リィヨ!あなたはまたそんな格好で城を汚して!城内には綺麗な格好で入りなさいと何度言えばわかるのですか!」


そんなことを考えていたら、右後ろの方から聞きなれた声で怒られた。

今回はちゃんと怒られないようにしたはずなんだけどな、何がいけなかったんだろう?


声のした方に顔を向けたら、予想通り眉間に深いしわを寄せた人がしっぽみたいに縛った金色の髪の毛を揺らしながらズンズンとこっちに向かって歩いてきていた。

足が長いからか、一歩一歩がすごい大きい。


「怒られると思ったから今日はちゃんと水で泥落としてからきたのに、もう、何が不満なのさ。

ソウノってばそうやっていっつもプリプリしちゃって、そのうちプリプリの海老になっちゃうよ?」


前にドロドロのままでお城に入って怒られたから学習して外で洗ってきたのに、そういうとこ褒めてくれたっていいじゃんね。

なんていうリヨの主張はソウノには全く受け入れられなかったみたいで、その間にそばまできてた彼にもの凄く呆れたように見下された。

リヨより大分上の方にある緑色の目と薄い唇を歪めてため息をつく姿は怒られ慣れいてもちょっと迫力がある。


「ちゃんと落としきれて無いうえにタオルで拭きもせずに上がってきて、泥水が垂れて廊下に道が出来てしまっているでしょう。

確かに以前廊下を泥で汚すなとは言いましたが、そもそもとして汚すことがいけないのです。それぐらいその小さな頭で考えなさい。なんのためにそこについているのですか。

大体アガセは何を教えているのです、脳みそまで筋肉だと常識すら教えられないのですか。」

「あっ今アガセの悪口言ったでしょ!ダメ、アガセの悪口はだめだよ!」


聞き取りやすい声で一気にまくし立てられて、ほぼ流し気味だったけどそこは聞き流さないよ!ダメダメ!腕をバッテンにして大きく主張する。アガセの悪口は許さないよ!

バッテンにした腕のまま目の前のお腹に突っ込んだら、眉間のしわがピクッと動いて目が不機嫌そうに細まった。


「あなた、あまり体調がよろしくないでしょう。また無茶をして。

どうせまた血をたくさん流したとかだとは想像がつきますが。」


いつもみたいに怒られるかと思ったら、顔色を確かめるように伸びて目に少しかかるようになったリヨの前髪を優しくかき上げる。

頭に触れたごつごつとした手があったかくて、思ったより自分の体が冷えてたのに気づく。


「楽しくなってはしゃぎすぎちゃったんだ〜。」

「一人の時は危ないからやめなさいといつも言ってるでしょう。」


ため息まじりに心配してくれるソウノの緑色の目の奥に、じわりと曇りの色がにじむ。

相変わらずとっても心配性な人だ。ものすごい短気で細かくて話が長いけど。


今回の任務は、南の山賊討伐だった。

そこそこ大きな一団となっていた彼らは義賊のようなこともしていたらしく、そんなところにいつも通り国軍のジェクレスをやったら、王さまが反感を買うかもしれないからって、こっそりウィポカを送ることになったのだ。

まあ悪いこともたさんやってたから討伐対象なんかになったんだけど。


そこでリヨの大抜擢。

獣に襲われたっぽく始末できるのはリヨだけだからな。アガセにそう言われて、はりきって獣っぽくしてたら楽しくなって、気が付いたら血が足りなくなってた。いっつも気をつけなさいってソウノに言われてたのにな〜。

楽しくなるとどうしても周りが見えなくなってしまう。


「血には抗えないってやつかも。」


ヘラヘラっと笑って、よく人から言われることをまねして自分で言ってみる。

言われるたびに確かにと納得するけど、ソウノは違うみたいで、フイッとリヨから目をそらしてしまった。


「馬鹿なことを言ってないで早く医務室に行きますよ。」


どこから出したのかわからない、フワフワのタオルでリヨのことを拭きながらピシャリと言い放つ。

これ、後で廊下掃除しなさいって言われそうだな。めんどっちー。


「はーーーい。」

「返事は短くはっきりと。」

「ハイッ」


めんどっちーーー。






「それにしても、何故泥だらけだったのですか。」


手当てをして、薬飲んでしばらく安静にしてなさいと先生に言われた。

いつも退屈と言ってベッドから抜け出すリヨを枕元に座って見張っているソウノがポツリと、思い出したみたいに口を開いた。

腕を組んで、顎を上げたまま寝ているリヨを見下ろしているからまるで尋問みたいだ。


「帰り道でね、木の根っこにひっかかってね、踏ん張れなくてそのまま山道転がったら泥に落ちて、せっかくだから泥遊びしてきたんだぁ。」

「お馬鹿、なんでそのまま泥遊びになるのですか。ますます血が足りなくなるでしょうに。

大体、今回は隊服じゃなかったからまだ良かったものの、汚れるような遊びをしてはいけないと何度言ったらいいのですか。

あなたのドロドロになった服を毎回洗うメイドの気持ちを考えなさい。それか自分で洗いなさい。

……いや、洗うのは良いです、破いて新調するのが目に見えますから。」

「あっひどーーい!私だってもうお洗濯くらいできるよ!」


14歳になって、リィヨ様ももう大人ですねってこの間友達の侍女さんに言われたのに、ソウノはまだ子ども扱いだ。

大人になったリヨは破かずにお洗濯して汚れをまっさらにできるし、なんならさっきもらったお弁当くらい美味しいお料理だって作れちゃうはずだ。きっと。

だって大人はなんでもできるからね。


そういえば、あのお弁当すっごい美味しかったな。

すごい美味しかったしすごい助かったしで、ちゃんとお礼言おうと思ってたのに水浴びしてる間にどっか行っちゃったし。

やっぱりお腹空きすぎて言い方強くなっちゃったので怒らせちゃったのかな。

でもまあお弁当の包みを忘れていってたから届けるついでに言えば良いか。

って、


「あ」

「どうしたのですか」


包みのことを思い出して思わず声を出したリヨに、ソウノはベッドから抜け出して何処かへ行くのではないかと少し警戒して組んでいた足を下ろして眉間のシワを深くした。


「リヨが持ってた包みどこにやったの?」


そういえば先生に診てもらうときにソウノに預けたな、なんで思い出しながら尋ねれば、綺麗な動きで少し離れたところにある荷物置き用のテーブルのほうを指差す。


「ああ、それなら向こうのテーブルに。

……また面倒なものじゃないでしょうね。」


さした指をまた綺麗な動きで戻して、再び腕を組みながら疑わしげに聞かれた声はさっきよりも低い。


リヨは綺麗なものが好きだ。特にキラキラしてるのが良い。

なんでかはわからないけど、見てるとふわふわした良い気持ちになるから。

だから綺麗なものを見つけたら毎回拾ってきては宝箱に入れて、それを眺めて良い気持ちを味わう。


今回もどうせそれだろうと予想したのだろうソウノは、どうやらそれが盗品ではないかどうかを気にしているらしい。

前に任務先で拾った綺麗な蜂蜜色の石が偉い人から盗まれたものだったらしく、お前が盗んだのではと疑われたことがあるのだ。

事態をおさめるのが大変だったのか、それ以来リヨが拾ってくるものに少し敏感になっている。


「大丈夫だよ〜。実はね、今回は綺麗なものを見つけたんじゃなくてね、」


忘れ物を持ってきたんだよ。

そう言った言葉は勢いよく開けられた分厚い医務室の扉の音と、そこから入ってきた大きな人の大きな声でかき消された。


「リヨーーーー!お帰りーーーーーー!」


適当に短く切られたボサボサのまっ黒い髪に、剃られず適当に放置されてるヒゲ。夜道で出会ったら熊と間違えてしまいそうな大きな体。のど元から右ほほにかけての大きな傷の上にこれまた真っ黒な三白眼がある、いかつい顔。

リヨに会いに来てくれた、いつも通りの大好きな人に向かってベットの上からから飛び上がって思いっきり飛びつく。


「アガセーーーー!!ただいまーーーー!!」


姿を見た瞬間に嬉しくなりすぎて、結構なスピードで飛びついたけど、さすがアガセは全くふらつかずにしっかりと抱きとめてくれる。

その上大きい手でぎゅっと力いっぱい抱きしめられて幸せな気持ちになる。


「こら、安静にしてなさいと言われたでしょう。」

「無理〜〜!」

「そうかー、無理なのかー、可愛いなーー!」


ソウノの小言を全然聞かないリヨたちに、イラっとする気配を感じるけど全然気にしない。

6日ぶりの再会を喜ぶのに忙しいから。


くしゃくしゃに笑っているアガセが、ワシャワシャとリヨの頭を撫でながら入り口から移動してさっきまで寝ていたベットの上にリヨを抱っこしたまま座る。

アガセの硬い膝の上はリヨの特等席だ。


「無理じゃなくて。ちゃんとベッドの上で横になりなさい。」

「ここで安静にするから大丈夫だよ。」

「そうだそうだ。安静にするといえば俺、俺といえば安静!横になんなくても大丈夫だ!」

「アガセかっくいい〜〜!」

「このお馬鹿たちはもう……馬に蹴られてみたらどうなんですか。」


アガセと二人でソウノの小言に対抗してたら、頭が痛いみたいにこめかみを押さえながら大きくため息を吐かれた。

その姿を見てアガセと目を見合わせて思わずニシシと笑っていれば、ベッドの横からまたイラっとした気配を感じた。

気にしない気にしない。


「で、今回はどうだった?何してきた?楽しかったか?」

「んっとね〜〜、」


いかつい顔なのに、トロッと優しい目をしたアガセに聞かれて、そのまま任務の報告をする。


実行日より早めに着いたから山のふもとの町で遊んだこと、山賊の居場所が事前情報とは変わっていたこと、探している途中で気持ちのいい大木を見つけたこと、山賊の仲間にアガセと髪の毛の色が似ている人がいたこと、獣っぽくって言われたから獣っぽく襲って始末してきたこと、楽しくなってはしゃぎすぎたこと、転んで泥まみれになったからついでに泥遊びをしてきたこと、そして、


「お城の食料庫のあたりまで着いたらもうすごいお腹空いて動けなくなってね、そしたらお弁当持ったお兄さんがちょうど来てね、お弁当もらったんだぁ〜。」


あの味とかタイミングとか、まるで神様みたいだったな。

キラキラしてた記憶にへらりと笑いながら話せば、横からどうせもらったのではなく脅して奪ったのでしょう、なんていうソウノの声が聞こえてくる。

失礼な、余裕がなくって言い方が強くなっちゃっただけだし。


「リヨ、その兄ちゃんにちゃんと礼言ったか?」


ずっとクルクルの髪の毛を手で梳きながら相槌を打って聞いてくれていたアガセに聞かれる。

挨拶と礼儀は強さの次に大事、それがアガセの口癖だ。


「それがね〜、近くの蛇口で水浴びしてたらどっかに行っちゃってね、まだ言えてない。」

「そうか、早めに言いに行くんだぞ。どこのやつかはちゃんとわかってるのか?」

「うん、忘れて行ったお弁当の包み持ってきたからわかる。」

「かわいそうに、謎の不審人物から逃げられたと思って喜んでいるでしょうに。匂いをたどってまで礼を言いに来て欲しいとは思っていないと思いますよ。

まあ、訪問するにしても明日の夕刻以降にしなさい。彼も仕事があるでしょうから。」

「はーーい。

あ、ね、なんて言うのが一番いいかな、脅かしちゃったのとかおそくなっちゃったのとかもゴメンナサイしないとだよね。」

「普通にありがとうとごめんなさいすればいいんだよ。余計なことはいらねぇさ。」


またふわりと頭を撫でたアガセはそういうけど、でもやっぱりおにーさんには何かお礼の品あげたいな、何が良いかな。

どうせなら喜んでもらいたいな。


2人と話しながら、おにーさんと会うシミュレーションをしていく。



明日、楽しみだな。


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