第8話
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年を越した。
新たな年に入って二月。
まだまだ外は寒く、私の体調では外には出られなかった。
そもそも、身籠って半年。
お腹が徐々に大きくなり、私が外に出ようとするとすぐさま旦那様が飛んできて私を叱りつけ、宥め、そして部屋へと押しやるから外には出ることが出来ないけれど。
ーーこの頃になると、旦那様は私の体調不良に流石に気付いていた。
少し前、夕食前に倒れたのだ。
『リリー!!しっかりするんだ!!っ、おい医者を…!!』
焦る彼の声がすぐ近くで聞こえ、温かく包まれた所で私の意識は途絶えた。
それ以来彼はとても神経質で、私をまるで監視するように見ていた。
「旦那様も飲みますか?シャナが入れる紅茶は格別ですよ」
お茶をしてる時にも、ふらりと部屋に現れてはじっ、と私を見るのでどうしたらいいかわからない。
彼の手元には一応何かしらの本が用意されているが、まるでお飾りのようにそこに視線が落とされることはなかった。
「……じゃあ頂こうかな。…リリー、体調は?」
「全然平気ですよ」
彼の最近の口癖だ。
二言目には「体調は?」と訊く。
そこで素直に「芳しくはございませんね」などと返したら、私はベッドの上から出してはもらえないだろう。
「でも、顔色が悪い」
「そうでしょうか?今日は寒いですからね、そのせいかもしれません」
「なにか温かい洋服を用意するか…羽織れるものとか」
「着ぶくれしてうまく動けなくなりますよ」
クスクス笑う私と対照に、彼は不服そうだった。
まるで子供が拗ねてるみたいだ。
……私が産んだ子が彼に似ていたら、きっとこういう顔をして周囲を振り回すのね。
なんて、少し感傷的なことを考えた。
そういえば彼も最近外に出ない。
アリスのことをほったらかして良いのだろうか。
それとも、会えない期間を過ぎれば屋敷に迎えると、幸せに満ちているのだろうか。
じっ、と彼を見る。
この黒曜石みたいな黒髪の横に、あの美しい透けるような金髪が並んだのなら。
背の高い彼の横に、スタイルのいい彼女が並んだのなら。
きっとそれは1枚の絵画のようでしょうね。
お腹に手を添える。
何故だろう、お腹の中で確かに生きていることが実感できる。
この子は、幸せになるかしら。
誰かを幸せにできるかしら。
「旦那様、」
「どうした?」
この子を、愛してくれますか?
ーなんて、訊けるはずもなかった。
「……いえ、なんでもありません。そういえば今夜の夕食はシチューらしいですよ。楽しみです。旦那様のリクエストと伺いましたよ」
彼が夕食をリクエストするなんて、嫁いでこのかた聞いたことがなかった。
「君の好物だからな」
「……知っていたんですか」
「シチューの時、君はやたら嬉しそうに席についていたから」
泣いてしまうかと思った。
彼が私のことを少しでも見ていてくれたのだと、そう思えたから。
私が彼を想っていることは無駄じゃなかった。
私のどんなに小さな欠片でもいい。
彼はそれをちゃんと見つけてくれた。
この子が産まれて、私がいなくなって、この子が少し成長した時。
彼はこの子の中に私の欠片を見つけてくれるだろうか。
私を思い出してくれるだろうか。
照れくさそうに顔を背ける、目の前の不器用な人が心底愛しいと思った。




