プロローグ
妖精伯爵家となって五代目の彼。
不器用すぎる二人。
この世界には創始者である神の他に人と、神の力を分けられた妖精とがおりました。
両者は住む世界を異にし、交流もほとんどありませんでした。
そんな世界の、とある大きな王国に、小さな伯爵家がありました。
ある時そこの伯爵がなんと妖精に恋をしたのです。
たまたま人間界に来ていた美しい妖精を見初めた伯爵は妖精に想いを伝え、何度も何度も求婚し、ようやく妖精と想いを通じさせました。
妖精は人間へと体を変え、妖精界の特別な鈴ひとつを嫁入り道具として彼に嫁ぎました。
あぁ、なんて幸せな結末。
しかし、問題はその伯爵の次の次の代で起こりました。
伯爵家の土地の農作物が実らず、自慢の葡萄が「王家御用達」の称号から外れてしまったのです。
このままでは伯爵家は没落し、農民も飢え死にしてしまう。
そう思った年若き伯爵はふと祖母が妖精であったことを思い出しました。
妖精というのは特別な神の加護があり、
親いものにはその恩恵がもたらされるというのは有名な話でした。
祖母の形見の鈴を揺らすと、妖精が現れ彼に尋ねました。
『どうしたのでしょう』
伯爵は思い詰めたように言いました。
『この凶作で、我が家は没落の危機にある。農民は餓死してしまうかもしれない。
どうか救ってはくれないか』
『……妖精の恩恵にあやかるには妖精と血縁関係になるのが一番よいのですが、人間界に来ることは私たちにとって死期を早めるも同然です…とても、そんな…』
『お願いだ、なんでもする。』
その言葉に妖精は瞠目し、いくつかの条件を出しました。
『あなたの領土でとれる緑の石、あれを我々にください。
妖精界の魔力の源となるものです。
あれが枯渇する毎に、あなた方は石を渡し、代わりに私たちはあなた方に妻となる妖精を引き渡します』
『それと、かならず妖精を正妻とし、子供をもうけてください』
『さすれば伯爵家は繁栄しつづけるでしょう』
伯爵は頷きました。
こうして伯爵家には一代おきに妖精界から奥方が来るようになり、伯爵家は大きく大きく繁栄していきました。