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いつもあなたと

作者: ハル

 自慢じゃないけれど、今まで人に好きだといわれたことなんて1度もない。

 からかいまじりの風の噂程度に、何組のだれだれが私のことを好きらしいとかは聞いたことあるけれど、面と向かって言われたことはない。

 そんな彼氏いない歴を更新し続ける私には、ストーカーとか痴漢とかいう言葉なんて無関係だった。

 つい3日前までは……。


 はじめに気配がしたのは学校の帰り、家に向かうまでの人気のない道を歩いているときだった。

 陽が落ちはじめて街灯がつきだしたころ。

 その日は愛用中の音楽プレイヤーをたまたま家に忘れていて、聞こえてくるのは遠くで鳴くカラスの声と、古びた街灯がかすかにたてるカチッカチッという音、靴と道路に起こる摩擦音が……2人分。

 自分以外の気配をはっきりと感じた夜だった。

 次の日からまたイヤホンをして歩く。

 耳から伸びた黒いコードを辿っていくとそれはコートのポケットにつながる。

 プレイヤーに繋がっていないコードがポケットからでないように意識するあまり、ポケットに手を入れて歩くことが増えてしまった。


 「彼」は連日私に付きまとった。

 決して後ろを振り向かず、歩調も変えない。

 けれど曲がり角を曲がるたびに好奇心が働く。

 たとえば、ここで偶然にも靴ひもがほどけたら。

 たとえば、ここでふっと忘れ物に気づいて引き返したら。

 私は自ら危険に飛び込んでいこうとしているのだろうか。

 そもそも、待ち受けているのは危険なのか。


 そんな想いをもちながらも、何事もなくただ平穏に日々は過ぎていった。

 どこにいくのにもついてきた。

 学校があるときも休みの日にも、一人のときもそうでないときも。

 雨の日も晴れの日も。

 あの日からもうすぐ3週間にさしかかろうとしている。

 気がつくとあれほど好きだった音楽を聴かなくなっていた。


 3週間と4日目。

 私は学校の下駄箱で呆然と立ち尽くした。

 「彼」がいなかった。

 いつも以上に全神経を耳に集中させたが、気配を感じなかった。

 何がいけなかったのだろうか。

 私は1度だって振り向かなかった。

 1度だって振り切ることも、追いつかれるようなこともしなかった。

 

 ねえ、いったい何があなたを失望させてしまったの?

1000文字小説です。

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