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欲しいのは林檎とあなた  作者: 天嶺 優香
一 嫁ぎ先
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3

「あら、お姉様」

 部屋を出てすぐ、小柄な少女とぶつかりそうになり、足を止めた。視線を向けると驚いたように目を見開いた、次女のエミリアがいた。

「エミリー!」

 思わぬ偶然に喜んで手を広げると、小鳥の様に可愛らしい顔をしたエミリアが小さく舌打ちした。

「いつもながら暑苦しい愛情表現ですわね」

 嫌味ったらしく言ってはいるが、照れている。その証拠にエミリアの顔は真っ赤だ。本当にからかいがいのある妹だと思わず笑ってしまう。

「相変わらず反応が面白くていいわね、エミリー」

 こういったやり取りが好きなアランシアは毎回エミリーに会う度、熱烈に出迎えている。妹がからかうのがとても楽しいのだ。そしてエミリアもややうんざりとしながらも応じてくれる。

「ねえ、エミリー。その箱はなあに?」

 見れば、彼女はその体には少し大きな四角い箱を持っている。ある程度予想がついたアランシアは口元を綻ばせた。

「エミリーは何をくれるの?」

 含み笑いをするアランシアを真っ赤な顔で睨み付けてくる。

「だ、誰もお姉様にドレスをあげるだなんて言ってませんわっ!」

「あら、ドレスなの。見てもいい?」

 プレゼントを即され、エミリーは仕方なく箱をアランシアに渡した。

 包装を丁寧に開き、中から現れたのは美しく縫製された真っ赤なドレス。滲む様な赤色に、体のラインがくっきり見えるぴったりとしたデザインのもので、赤はアランシアが最も好む色でもある。

「お似合いになると思って」

「ありがとう。ルクートへはこれを着て行こうかしら」

 軽く冗談を言うと、エミリーが怒鳴った。

「お姉様! 花嫁は清楚な衣装を着るのが基本ですわっ! そのドレスは夜会とかで着て下さい。それから……」

 王女として顔は整っているが性格はじゃじゃ馬なアランシアにエミリアはまるで教師のように淑女のなんたるかを説いてくる。もう説教はごめんとばかりに後退りをするアランシアの腕を捕まえ、エミリアは更に吠えた。

「お父様を蹴るだなんてっ! お姉様はもう少しおしとやかになって頂きたいですわ!」

 自分も十分おしとやかではないエミリアはそれからも高速で説教を言い捨て、肩で息を繰り返し、落ち着いてからこちらをじとりと睨みつけてくる。

「ふう。わかりましたわね?」

「き、肝に命じます」

 さすがにこれ以上の説教は聞きたくないアランシアは顔を強張らせながらも返事をした。

「お姉様!」

 どん、と背中に何かがぶつかり、アランシアが首を傾げて振り向けば、まだ幼い第一王子である弟イーリがアランシアに抱きついていた。

「あのねっ、僕も、お姉様に贈り物があるんだ!」

 声を弾ませて渡したのは一通の手紙だ。

 中を見ると、そこには幼い子供の字で、他国へと嫁ぐ自分を応援する内容が書かれていた。

「ありがとう、イーリ。とても嬉しい。あとでゆっくり読ませてもらうわ」

 手紙を大事にしまい、箱を持ち直していると、ポーラが走りよってきた。

「もうご挨拶はすまされましたね?」

「ええ、済んだわ」

 姉妹達には全員会っている。他になにか忘れたことは、と考えていると、ポーラが慌ててさらに告げる。

「ではお急ぎ下さい! 馬車の出立する時刻ですっ」

「えッ!?」

 急いで外を見れば、もう国王も王妃も城門で馬車と共に待っていた。

 どうやらエミリーの説教で時間をとられたらしい。

「急がれませ!」

 アランシアの手にある荷物を持って走り出すポーラをアランシアも追いかけた。

「お姉様、どうかお元気で!」

「さよならお姉様!」

 妹や弟の声を背後に聞きながらアランシアは駆けた。

 階段を降りようとしていたポーラの腕を掴み、そのままバルコニーから庭へと飛び降りた。

「姫様ぁああ!」

 突然の事にびっくりしたポーラは悲鳴をあげるが、そんなに高くないバルコニーからの飛び降りに成功したアランシアは走り出す。

 道連れにして飛び降りさせたポーラは勢い余って尻餅をついたが、すぐに助け起こして二人で走る。後からポーラにも説教をされると思うと気分が重くなるが、今はそれどころではない。


    ***


「遅いぞアランシア」

 やっとの思いで辿りついた娘を、来るなり父は叱りつけた。

 ルクートの使者さえいなければ少しの注意ですんだのだが、今回は状況が違った為、アランシアも大人しく怒られた。

「ひ、姫様、こちらのっ、荷物も……、運ぶんですよねぇ?」

 途切れ途切れで話すポーラは相当疲れたらしい。

 恨めしそうに見ながら手に抱えている荷物をどうするのか尋ねた。

「ええ、そうね。その荷物も積んでちょうだい」

 ぱぱっと手早く自分の身なりを整えると、国王の向かいに立つ華奢な男に目をとめた。

 髪色はまるで老人の様な銀髪。にっこりとした笑みを顔を張り付けた若い男はアランシアに深く頭を下げた。

「初めましてお目にかかります、アランシア様。我が王子の第一の従僕を勤めております、ゾアと申します」

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