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 ゼイヴァルへ送られる手紙の送り主がラリアである事は、なんとなく予想していたが、まさか目の前で発見できるなんて思わなかった。しかも、こんなに堂々とわかるものなのか。

 隠す気もあまりないその様に驚いていると、ラリアが笑みを零した。

「やっぱりわかりやすいですよね。だからやめてって言ったのに、あの人が私の事をそう呼ぶから……」

 顔を赤らめて、懐かしそうに微笑むラリアに違和感を感じた。あの人、というのはどうやらゼイヴァルではなく思える。

 なんとなくではあるが、ゼイヴァルならそう呼ぶはずで、わざわざ名前を言わず濁したと言うことは、ゼイヴァルの側妃が口にしてはならないゼイヴァル以外の男。

 ラリアはこちらに微笑んで、アランシアの予測通りの言葉を口にした。

「私ね、好きな人がいますの」

「……殿下ではなく?」

 ラリアはゆっくり頷いた。

「でもあの人は遠くへ行ってしまわれて……、せめてあの人が過ごしたここで生涯過ごそうと思って。ゼイヴァル様はそれを叶えて下さってるだけ」

「……恋文のやり取りもあるのに?」

 そう尋ねると、ラリアは恥ずかしそうに赤くして俯いた。

「あれは、あの人に当てた手紙です。ゼイヴァル様はただ読んでいるだけ」

 恋人に書いた手紙をどうしてゼイヴァルが読むのか理解できずにいると、ラリアがにっこり微笑んだ。

「私はただどこにも送れない手紙をゼイヴァル様に送るだけで、ゼイヴァル様からお返事は来ません」

 それは知らない事実だった。

 ヒヤシンスからの恋文はお互いに手紙を交わしていると思っていたのに、実はヒヤシンスであるラリアは遠くへ行った会えない恋人にあてて手紙を書いていた。

 届ける宛もない手紙はゼイヴァルが受け取るという事で一応のやり取りが一方的に完了しているらしい。

「私が勝手にあの人に送ってるつもりになっているの。それでも、どうしても私の手紙が気に入らないようでしたら、アランシア様がお相手して下さいます?」

「私?」

 意外な申し出に、アランシアは首を傾げた。

 そして、すぐに理解する。

 本人に渡せない手紙を他の人に送る。手紙を書いたラリアにとっては手紙を恋人に送る、というのが重要で、それがたとえ本人でなくても構わないらしい。

「……あなたの恋人の宛先って調べられないの?」

 恋人に書いた手紙を他人に送り、あたかも恋人に送っているような気分になる、という自己満足を続けて良いものだろうか。それだったら恋人の住所を調べた方がいい。──そう思うのに、ラリアは俯いて眉尻を下げた。

「それができたら良かったのに……」

 ラリアの恋人は居場所がわからないのか、何か送れない理由があるのか、とにかく他人に送るしかないらしい。

 ゼイヴァルに手紙を送って周りで噂になるより、アランシアの方が適任だ。

「わかったわ。あなたの手紙を受け取る」

 返事は書かなくてもいい。ただ封を切って読むだけでいい。それならアランシアにもできる。

「ありがとう、アランシア様。図々しい女ですよね。でも私にはそれしかあの人と繋がっていられなくて……」

 自分から離れて行った恋人の為に、よくそこまで出来るものだ。

──あなた、捨てられたのよ。

 だから住所もわからない。恋人から連絡も来ない。それなのに恋人と過ごした場所にとどまって、恋人に手紙を送っているふりまでして。

──可哀相な方。

 同情しているわけではない。

 その考え方や人柄があまりにも甘くて、そんな夢を抱いていないと生きていけないなんて可哀相だと思ったのだ。

「殿下には私から伝えておくわ」

 ほわほわ雲のように漂っているがいい。

 こんな女が、選ばれるのか。

 ラリアは寵姫ではないと否定する。ただ彼が優しいだけだと。だが、寵姫でなければなんなのだ。

 ただ優しいだけでここまでするはずがない。あの夕食の時だって、妻との約束を破ってまで行くはずがない。

 それがわからないだなんて、おめでたい頭だ。

 ラリアは違うのだろうが、ゼイヴァルにとってはやはり寵姫なのだろう。

 アランシアはゆっくりと深呼吸をして立ち上がる。

「じゃあ私は今から伝えてくるわ。お招きどうもありがとう」

 にっこり微笑んで景色を楽しむ事なく立ち去る。そのまま館を出て、ゼイヴァルの執務室へ赴いた。

「すぐにお取り次ぎ致します」

 ドアの前で立っていた護衛兵が、すぐに扉を叩いてゼイヴァルに知らせる。すぐに扉が開き、ゾアが出てきた。彼は恭しくアランシアに礼をとる。

「ただ今ゼイヴァル様は仮眠を取られていらっしゃいます」

「仮眠?」

 なら部屋に今入るのはまずいだろう。

 立ち去ろうとするアランシアを、ゾアは笑顔のまま声をかけてきた。

「お部屋にはいらっしゃいません。中庭の奥だと思います」

「……中庭?」

 ベンチで眠っているのだろうか。まさか、一国の王太子が?

「もう一時間は経ってますから、よろしければ起こして来ては下さいませんか? 寝起きの殿下は怖いですから」

 眉尻を下げてそう頼まれても、寝起きが悪い男なんてアランシアもごめんだ。

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