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 毎日王家の朝食は家族で食べる習慣のようで、アランシアも当たり前のように加えられていた。優しい王と王妃達。たとえ味がわからずとも食事は楽しい。──隣に座る、夫さえいなければ。

「それで、庭の花がとても綺麗で、思わずうっとりして……」

 王妃が柔らかい笑みをこぼしながら話す。アランシアもにこやかに相槌を打つが──ゼイヴァルに手を握られているせいで話に集中できない。

 テーブルクロスに隠れて、まるで秘密の逢い引きかのように指を絡めてくる。指を撫でられて顔が火照りだした。

「そんなに綺麗なら見てみたいね」

 平然とそう言う彼には余裕があるのだろう。それがアランシアにとって一番気に喰わない。

 自分だけうろたえているのが情けなくて──彼の靴を高いヒールで思い切り踏む。

「! いっ……!!」

 絡めていた指が離れ、余裕のあった顔が一気に引きつった。ゼイヴァルのその様子に、王妃が不思議そうに首を傾げた。

「どうかしましたか?」

「……いえ。なんでもありませんよ、母上」

 すぐに笑みを浮かべたゼイヴァルだが、やはり口角が引きつっていた。

 自業自得だと鼻で笑いたいのをアランシアは必死に抑える。

──いい気味ね。


    ***


「君は、俺の足を踏み砕くつもり?」

 食事を終えて部屋に戻る途中、ゼイヴァルが呼び止めてそう尋ねてきた。

「踏み砕けたら嬉しいわ」

 にこやかに微笑みながら言うと、彼は首を傾げた。

「何を怒っているんだ?」

 瞬間、一気に熱が体を駆け巡った。ひくつく口元をなんとか抑え、彼を睨みつけて──怒鳴った。

「怒らせてるのはあなたでしょうがっ!」

 浮気に愛人、おまけに寵姫までいて、正妻の立場にある自分は一体何なのだろうか。

 それなのに全く悪びれない。愛人がいいならそちらを構えばいいのに、なぜかアランシアの所に来る。

 しかも一番腹が立つのは、そんな彼の行動や言動に心が乱れる自分で──もう一度ゼイヴァルの足をヒールで思い切り踏みつけた。

 痛みで顔を歪める彼を放置し、さっさと踵を返す。

 自分の住まいのある館まで歩いていき、少し立ち止まって振り返る。ゼイヴァルの姿はない。

 その事に安堵した。ようやく自分の平穏な時間がやってくる。

 館に入って二階の階段を上がっていると、先日アランシアが殴った愛人の数人が、二階にある扉の一つの前で耳を立てていた。

「……何をしているの?」

 呆れて声をかけると、びくりと肩を揺らして愛人達は振り返った。

「お、王太子妃様」

「ここは誰の部屋なの?」

 二階にはアランシアの部屋があるが、まさか同じ階にも愛人が住んでいたのか。

「こ、ここはラリアの部屋です」

「ラリア?」

 そのラリアに、何の用があって部屋の前で聞き耳を立てているのだろうか。

 考えて、すぐに理解した。

「もしかして、彼女が殿下の寵姫?」

「そうです。昨夜もいらっしゃったみたいで……」

 誰が? まさか、ゼイヴァルが?

 彼女達の言葉に衝撃を受ける。

 昨日は舞踏会だった。アランシアとの情事を終えて、あの「おやすみ」の言葉を残して彼は、寵姫のラリアの元へ行ったと言うのだろうか。

「……殿下がこの部屋に入ったのを見たの?」

「見ました」

 彼女達もラリアの元へゼイヴァルが来た事にショックを受けているのだろう。すらすらと抵抗もなく告げてくれる。

「……あの、王太子妃様?」

 アランシアが黙っているのを気にして声をかけてくるが、その態度の変わりように少し驚いた。恐らく、寵姫へのショックもあるだろうが、アランシアによって受けた身体的ダメージもあるのだろう。

 こちらの顔色をうかがっているのが良くわかる。

 さすがにまともな喧嘩をしたことのないお嬢様に拳で殴るのはやりすぎたか。

 いささか不憫に思ってアランシアは柔らかい笑みを浮かべた。

「直接私が話すから、もうあなた達は部屋に帰って」

 はい、と小さな呟きを返し、愛人達は大人しく部屋に戻っていく。以前に比べて格段に素直だ。その後ろ姿を暫し眺め、息を吐いて部屋の扉をノックした。

「どなた?」

 朗らかな声と共に扉が少しだけ開き、中から丸い大きな瞳で見つめられた。

「あら、王太子妃様。まさかわざわざご挨拶に? 私の所へ? どうぞ、お茶をお出ししますわ」

 扉を明一杯開けて歓迎され、アランシアは戸惑った。愛人の元へ来て、こんな反応は初めてだ。言われるまま部屋に入り、中央に置かれた丸いテーブルを二人で囲む。

 可愛らしい花のティーセットが用意してあり、今から丁度飲む所だったようだ。

「嬉しい! まさかきちんとお会いできる日が来るなんて思ってなかったものですから」

 ふわふわと可愛らしい花をイメージさせるラリアは、プラチナのストレートに、紫がかった不思議な瞳をしていた。肌も白く、雪を思わせる。そこにいるのが幻覚ではないかと思うほど、神秘的で愛らしい娘だ。

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