8.クラスの中で
「須賀くん、あの万屋の部員なんだってね!」
「王子様の親戚って本当?」
数日後、登校早々にクラスメイトの女子生徒から質問にあった。確か、妹尾と栗田という名前だったはずで、ネームプレートを見ると合っていた。新聞部の号外を見て、声を掛けてきたのはわかる。もう聖さんを『王子様』と呼んでいた。号外が貼り出されてから数日経っているのは、僕に声を掛け辛かったからだろう。
二人はただのクラスメイトのはずだった。それなのに、聖さんたちのことが聞きたくて僕に声を掛ける。こういうのは嫌だった。部員になって間もない自分に聞くより、他の人に聞いた方が確実なのに。こういう場合、答えても答えなくても結論は同じだ。
彼女たちは、僕が特別扱いされていることが気にいらないだけだ。
「確かに環境整備部に入ったよ。そして聖さんの親戚だ。先輩たちのことが聞きたいなら、他の人に聞いた方がいい。僕はまだ知らないことが多いからね」
淡々と返すと、妹尾は見るからに不機嫌になり、「そうねっ」と荒々しく去っていった。
何を期待しているのか。まだクラスで友達を作っていないことを考えれば、人との接触を避けていることもわかるだろうに。
僕の対応を見て、周りにいた生徒はコソコソと何か言い合っていた。内容が良いものではないことくらい、表情でわかる。もう、このクラスで友達は作れそうにない。
作りたくなかった。
「大丈夫ですか?」
呆れている中、声を掛けてきたのは真弓夏目だった。変わった名前なので覚えていた。名字と名前が入れ替わっているような感じがする。
真弓が興味本位で声を掛けたのではないことが、表情から窺えた。
「部活のこと? それとも先輩のこと?」
「須賀くんのことです。入学してから騒々しいことに巻き込まれているので。顔色が良くないときもありますよね。今だって」
真弓の洞察力に驚いた。ただの八方美人のように見えていたが、それは本意だったということだ。妹尾のように聖さんの情報目当てで近寄ってきたわけではない。
意識せずに笑えた。
「これは体質なんだよ。多分、真弓くんの敬語と同じだと思うけど」
「…そうですか。では、須賀くんに迷惑が掛からないためにも、行きますね」
頷いて了承を示すと、真弓は笑顔で席へ戻った。気配りは完璧だった。
真弓の敬語は、明らかに人との接触に慣れていないことを表していた。八方美人に見えるのもそのためだ。人との距離がわからないから、誰でも同じように接する。それは、自分が人の悪意を受け取ってしまう体質に似ていた。自分に向かっての怒鳴り声でなくても、ストレスになっていく。それは厄介だったが、何年も前から付き合っている。
素っ気無い態度が原因になったのか、僕に声を掛けてくる者はいなくなった。真弓も遠慮して離れている。そして、昼食はいつの間にか部室で食べるようになっていた。僕が一人で食べているのを知った聖さんが、部室で食べようと誘ったのが始まりだった。そこには当然のように透先輩と学人先輩もいた。三人は同じクラスなのだから教室で食べればいいのに、と思ったが、これは自分のためだとわかっている。
その優しさに甘えることにした。




