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7.部活が日課になって

 部室のドアを開けると、すでに三人は来ていた。開けたのが僕だとわかると、途端に聖さんは笑顔を浮かべた。花が咲くような、と喩えられるその笑顔は皆が言っていたとおり『王子』だった。

「じゃあ、聖も透も仕事に行ってこい」

「えー由宇が来たばかりじゃん。まだ時間あるって」

「その由宇を助けたいなら、自分の仕事を早く終わらせて文化祭のことを手伝うんだな」

 学人先輩の返答に言葉を詰まらせた聖さんは、渋々といった様子で部屋を出ていった。透先輩は呆れたように溜息を吐いて後に続いた。

 ドアが閉まると、そこは別世界のように感じられた。学人先輩と二人きりというのは緊張する。掲示板の前では普通に話していたが、周りに誰もいない状況は初めてだ。聖さんや透先輩と二人きりでも同じことだと思う。

 どうしようかとドアの前に立っていると、学人先輩は怪訝な視線を向けた。

「座らないのか?」

「えっと…どこに座ればいいでしょうか」

「どこでもいい。一応、聖と透がよく座る椅子はこれだけど。あまり俺たちに遠慮しなくていいからな」

 学人先輩は視線を机の書類に落とした。学人先輩が指した椅子以外、残った二脚の椅子を見た。

 そう言われても、先輩なのだから遠慮はしてしまう。先輩に対する礼儀は守って、緊張しない程度に接すればいいのかもしれない。

 とりあえず、失礼にならないように一つ椅子を空けて座った。

「いい距離感だな。さて、君のことを教えてもらおうと思っていたが、俺たちも言ってないことが多いからな。追々知っていけばいい。部室は毎日空けているから。来なくてもいいけど、来てくれると聖が喜ぶから、なるべく来てほしい。あと、当分仕事は回さないから、ここで何をしていてもかまわない。宿題するのもいいな。わからないところがあったら、教えるが?」

「有難う御座います。特に用事がない限り、ここに来ます。…本当に僕が部員でいいんですか?」

 ずっと言おうと思っていた疑問に、学人先輩は眉を顰めた。

 嫌な質問なのはわかっている。でも、はっきりさせたかった。聖さんが自分を気に入ってくれているのはわかるけど、一人だけの部ではない。学人先輩や透先輩は不本意なのかもしれない。

 朝のことでわかったが、この部は特別だ。選ばれた人しか入れない。というよりも、創設して以来新入部員はない。そんな中、僕は聖さんの親戚だと偽ってでも部員になっている。

「聖が誘ったんだ。気にすることはない。君こそ、勝手に部員にされて嫌じゃないのか?」

「僕は他の部活に誘われなくなるので助かります。…わかりました。この部で僕にもできることを探します。今は文化祭のことですね」

 逸らされない学人先輩の視線を受け止めた。

 もう迷うのは止めた。必要だと言われて拒絶する理由は見当たらない。それならば、この部で自分の居場所を見つければいい。

 六月の文化祭後に廃部が決まっている部だけど。

「…そんな由宇だから、聖が選んだんだろうな」

 学人先輩の呟きに首を傾げた。学人先輩は何でもない、とでもいうようにそ知らぬ顔をして、視線を机の上にある書類に戻した。

 沈黙が覆う。しかし、それは不快ではなかった。入学して一週間も経っていないのに早速出た宿題に取り掛かり、時間は過ぎていった。宿題はすぐに終わり、部の課題の文化祭について考えた。部に関係ないものでもいいことは要項を見て知っている。文化的なもの。人目を惹くもの。聖さんが出れば、人目はすぐに集まるだろうけど。

 外から運動部の掛け声が聞こえた。吹奏楽部の音も混じっている。聖さんと透先輩が戻ってくるまで、穏やかな時間は続いた。

 帰りは一緒に駅まで行くのが、日課になった。

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