4.文化祭について
「女の子してるって何だよ。いつもは違うみたいじゃないか。…由宇、何考えてるんだ?」
透先輩はじっとこちらを見ていた。聖さんが言った通り、失礼なことを考えているとでも思ったのか、疑いの眼差しを向けている。嘘を吐いても仕方ない。素直に思ったことを口に出した。
「この格好、可愛いですね。いつもは綺麗だと思いますけど、こういう服だと違って見えます。今回も着るんですか?」
じっと目を見て言うと、透先輩は思いっきり目を逸らした。すごくあからさまだった。
嫌われたのだろうか。突然のことで訳がわからない。旧知の仲だと思われる聖さんを見ると、透先輩に何か囁いているようだった。声を掛け難かったので学人先輩の方へ向くと、苦笑してこっちを見ていた。
「今回は違うことをする。前と同じことをやっても皆飽きるだろうしな。ちなみに、文化祭は皆必死だから覚悟しておくように」
苦笑を含み笑いに変えた学人先輩に、緊張した。
文化祭で必死とはどういうことなのか。体育祭ならまだしも、文化祭で覚悟するようなことが起こるって。学人先輩が言うと嘘に聞こえない。嘘じゃないのはわかっているけど。
そんな文化祭の出し物を考えるなんて、荷が重過ぎる。
「何故必死なんですか? 僕には何をすればいいか検討もつきません」
「そんなに考え込む必要はないよ? 皆が必死な理由は、賞品が良いからなんだ。前は商品券三万円だったかな。僕たちが優勝して、食事に行ったよ」
聖さんはあはは、と軽快に笑った。今日は驚いてばかりだった。
高校の行事で三万円の賞金が出るなんて。皆が必死になるのは当たり前だ。去年この部が優勝したのは納得できた。あの喫茶店なら客は引っ切り無しに来ただろう。今回はそれをしないということは、もう大体のことは決まっているのかもしれない。
新入部員が一から考えるなんてこと、あるはずがないか。
「学人先輩は、もう大体やることを決めているのですか?」
「いや、全く。言ったとおり、由宇に任せる。何をするか書いて提出するのは四月末日だ。喫茶店など、食品を扱うものは審査が必要だからもっと前に申し出が必要だけど、今回は食品関係のものはしない。もちろん、俺たちも考えるから、気楽に考えればいいさ」
学人先輩は申し込み用紙をヒラヒラと振った。聖さんと透先輩を見ると、二人は笑みを浮かべていた。
最後に保険があれば安心できた。思い付かなければ、三人が何とかしてくれる。それが出来る人たちだということは、少し話しただけでもわかっていた。
容姿では自分は戦力にならない。何かすごいことができるわけではない。そんな自分がこの部のためにできることを探すのは時間がかかりそうだ、とまた少し落ち込んだ。
長い説明が終わってほっとしたところに、低い音が響いた。空腹の時に鳴る音だと気付くのに時間はかからなかった。発した人物が恥ずかしそうに腹部を押さえていた。
透先輩は困ったように学人先輩と聖さんを見た。
「まだお昼食べてなかったからな。そろそろ帰るか」
「そうだね。透もお腹が減ったみたいだし」
聖さんの一声で学人先輩と透先輩は帰る準備を始めた。さすが部長というところだ。
時計を見ると一時を示している。授業が終わったのは十二時過ぎだから、一時間ほど話していたことになる。自分も少しの空腹を感じていることに気付いた。
そういえば、と鞄の中を探って目的の物を取り出した。昨日作りすぎて余ったものだ。
「透先輩、帰るまでのおやつということで、コレどうですか?」