おまけ:卒業式(2年後)その後
「咲良も来るなんて…仕返ししてやろうかな」
以前と同様、聖さん透先輩、それに加えて咲良が生徒と保護者に囲まれている中、学人先輩だけは抜け出して僕の隣に立って様子を眺めていた。
今回は、小百合と智哉も在校生に囲まれている。同級生は二人の性格をある程度知っているため、遠巻きに見ていた。二人は在校生相手だと、得意の毒舌やあしらいが出来ないようだった。
助けるつもりはない。最後の思い出くらい、作らせてあげても良いだろう。夏目も僕の隣で苦笑しながら見ていた。
「仕返しって具体的にどういうことをするんだ?」
先ほどの呟きを拾った学人先輩は、面白そうに口の端を上げて聞いた。先輩は変わっていない。前もこんな風に呟きを拾われた。
「咲良の高校の卒業式の日に、『天使』として行ってやろうかと」
「なるほど。『天使』ですか」
夏目も楽しそうに笑顔になった。
『天使』。それは咲良が作ったもう一人の僕だった。
昨年、ある生放送の音楽番組で、直前にゲストの体調が悪くなり、たまたまスタジオ近くにいた咲良が代わりに出演することになった。そのゲスト程の視聴率をデビュー2年目の咲良が取れるわけもなく、咲良は僕に助けを求めた。咲良の頼みで一緒に出演することになり、マネージャーの加納さんの提案で正体を隠すために白いフード付きのコートを着た。
そして、登場した時に、咲良が言った「天使の歌声を聞かせてやるよ」が、『天使』という名前の由来となった。フードで顔を見えないし、コートで性別もわからなくなっていたため、『天使』というのはピッタリだった。
その一度しかテレビに出てないのに、まだ影響は残っている。
もしかして、今回の歌で『天使』の正体が僕だと気付いた人がいるかもしれない。それはそれで構わない。僕は自分が『天使』だとは認めない。僕が『天使』であるのは、あの衣装を着た時だけだ。
「今回と同じようなことになりそうだな」
「学人先輩、協力してくださいね」
「勿論。聖も連れていってやるな。由宇のことは隠しておいて」
学人先輩は策士の笑みで、人差し指を立てた。
「僕も行っていいですか?」
「うん。みんなで見に行こう」
夏目に笑みを向けると、夏目は安心したように笑った。
夏目はもう仲間だ。咲良の卒業式に、万屋部員と小百合、智哉、夏目と行く。違う意味で騒ぎになりそうだが、楽しみだった。
高校で得たものは多く、かけがえのないものになったことを実感した。