21.閑話休題
「やっぱ両立って難しいな」
楽しそうな声に、自然と笑みが漏れた。携帯電話の液晶には『名波咲良』と表示されている。
中学での唯一の友達。彼は僕を『親友』だと言った。
「『佐倉七海』には慣れた?」
「まあな。高校でもそう呼ばれるからなー」
『佐倉七海』として芸能界に入った咲良は、モデルからの三年間のブランクを感じさせずにアイドルとなっていた。三年間、普通の中学生でいた咲良は確かに成長していた。それを近くで見ていたからよくわかる。
「由宇は友達できた?」
「まだだよ。一人友達になりたい人はいるけど、ちょっと難しいかな。顔は整ってるけどね」
『由宇は顔が整っている人に好かれる』と言ったのは咲良だった。茶化して言ったのに、咲良の反応は鈍かった。
「友達はいない? そんなはず…学年が違うからか…」
明らかな独り言に、返答しないでいた。僕に友達がいないことは変なことではない。中学では、咲良と友達になる一年の二学期までいなかった。それを知っている咲良が、何故。
「まあいいや。友達ができたら紹介してくれよ」
「もちろん。咲良もちゃんと仲良しな人を作るんだよ」
「わかってる。あ、加納サンが呼んでるから切るな」
咲良のマネージャー、加納さんが控えめに呼ぶ声が微かに聞こえた。
「うん。頑張ってね」
「お前も頑張れよ!」
咲良の励ましが、単純に嬉しかった。




