2.物理準備室の隣で
入学式の翌日、実力テストが実施された。さすが進学校というべきか、入学手続きのときに配布された、まだ習っていない高校一年の問題が出ていた。科目は国語、数学、英語の三教科だけだということだけが救いだった。
授業は午前だけの日で、上級生が鞄を持って校舎を出て行く姿が窓から見えた。そのまま家に帰る人もいれば、部活がある人もいる。ちょうど新入生は部活見学をするのに良い機会でもあり、クラスメイトはホームルームが終わってすぐに仲良くなった者同士で話し合っていた。
入学早々友人を作るつもりもなく、さっさと帰る用意をして教室を出た。出席番号が近いからといって友達になる必要はない。友人の選別を見誤ったら、傷付くのは自分だと、身をもって知っていた。
今のところ、話の流れで部員になったと思われる部活がある。とりあえず部室に向かうことにした。
特別棟は専門科目の教室がある四階の棟だった。一階は書道部で、残りの教室は倉庫になっている。運動場に近いため、備品が運びやすいという理由からだった。二階は美術部で、石膏や用具で場所をとるため、フロア全部を使っている。三階は理科室全般で、生物、物理、化学と分かれている。四階は音楽室で、その隣に図書室がある。
目的の物理準備室はすぐに見つかった。階段を上がって曲がるとプレートが目に入った。その隣、プレートの無い部屋の前で足を止めた。
中から声が聞こえる。ノックをすると「どうぞ」という返事があり、ゆっくりドアを開けた。
「失礼します」
「うわっ由宇だ。本当に来てくれたんだー」
「…来ない方が良かったですか?」
「いや、来てくれて嬉しいよ! いや、いきなりあんなこと言われて警戒されたかなーと思ったからさ」
あはは、と笑う聖さんにつられて笑みを浮かべた。自覚はあったみたいだった。初対面で抱きつくし、部に勧誘するし、名前で呼ぶし。今考えると、それで不快に思わない自分もどうかな、と思った。こんなに順応性はなかったはずだ。
はっきりいうと、協調性がない。それなのに。
「わかっているなら、少しは遠慮しろ。由宇、ドアを閉めてこっちへ来いよ」
透さんはぶっきらぼうに手招きした。それに素直に従い、ドアをきっちり閉めて透さんの勧める椅子へと向かった。
適度な距離を空けて、理科室特有の背凭れのない椅子に行儀良く座った。
「環境整備部へようこそ。まず初めに、由宇は聖の親戚ということにしておくからな。母方の親戚だとでも言っておけばいい」
学人さんはさらりと言ったが、聞き流せるものではなかった。皆が名前で呼んでいるのも気になったが、そんなことどうでもいい。なぜ聖さんの親戚だという嘘を吐くのか。その理由の方が大事だった。
「親戚って…」
「君に迷惑をかけないためだ。聖の過度のスキンシップを誤魔化すための手段だと思ってくれていい。聖はこの顔で人気があるからな。突然、聖が新入生に親しくしていれば嫌がらせをしようとする奴が出てきてもおかしくない。だから、聖のことは先輩と呼ばないように。俺たちも名前で呼んだ方がいいな」