15.文化祭の狂気で
「バンドってことだから、これでいいだろ」
「そうだな。やり過ぎると危険だ」
話し合う声に意識がはっきりした。目を開けると、薄暗い中、二人の男子生徒が立っていた。男だということは、制服と声からわかる。二人は目出し帽を被っていた。
用意周到だ。こんな人気がないところを選び、しっかりと人物が特定できないように目出し帽を被る。格好を気にするならサングラスにマスクぐらいになるだろうが、それでは十分ではない。目出し帽なら髪型はおろか、輪郭さえ掴めなかった。二人の体格は標準で、この学校だけでも何人いるかわからない。
体を動かそうとして、手を後ろに縛られていることに気付いた。もがいてみても、きつく縛られていて緩む気配さえない。ごそごそと動く音に気付いたのか、二人の目は僕に向いた。
唯一見える目は、あの時睨んでいた目と同じように見えた。憎悪の目はどれも同じなのかもしれない。
「気がついたか」
「ここは…」
「使われていない倉庫だ。助けを呼んでも無駄だ」
希望を持たせないように男は言い切った。今更騒ぐ気にはなれなかった。人気がないことはわかっていたし、今は体力を残して置く方が後々役に立つだろう。
大人しくしていると、もう一人が乾いた笑い声を上げた。
「諦めたのか? 賢明だな。一応ここの鍵は開けておいてやる。けど、いつ人が来るかわからない。すぐに人が通るかもしれないし、数日経っても来ないかもしれない」
「何故こんなことを…」
「お前が万屋の部員だからだ。ああ、右手は潰しておいた。バンドは無理だな」
右手を潰した、という言葉を境に右手が痛み出した。自覚したら痛くなる。なんて不便な体なんだろう。このまま知らなければ楽だったのに。
もう用はない、とばかりに二人は出ていった。しっかりと扉は閉められる。鍵をかける音はしなかったから、言葉通り誰でも開けられるだろう。しかし、誰か来る気配はない。気を長く待つことにした。幸い、身体的な痛みには耐性がある。僕が弱いのは精神的なものだ。
こんな状況になって、なんでこんなことに、と悔やむ気持ちもあるが、部員だからこんな目に遭ったと、嬉しい気持ちもある。僕もバンドの一員だと思われている。一番弱い僕を狙ったのは賢い選択だ。聖さんを傷付けようものなら、他の生徒に袋叩きにされる勢いだろう。
今まで何度か感じたことのある痛みと共に、妙に頭が重かった。何かの薬の影響かもしれない。そうでなければ、右手の痛みで目が覚めていただろう。倦怠感を伴って、また意識は沈んでいく。殴られて気を失っていたのは数分だったようで、窓から日が差し込んでいる。
思い浮かぶのは先輩たちの顔だった。