12.部室の中で
「ムカツクな、あの二人を見てると」
部室のドアを開けようとした手を止めた。透先輩の不機嫌な声が気になる。『あの二人』とは誰のことなのか。
「浮かれているんだろ。それもわからないではないが」
学人先輩も同意するように答えた。こちらは淡々と述べたという感じだ。その後に深い溜息が続いた。
「聖は特別なんだ。それをわかっていない」
「ずっと三人だったからな。こんなことを予想しなかった」
嫌でもわかった。透先輩の『ムカツク二人』は僕と聖さんのことだ。そして、主語を『由宇』にすれば納得できた。透先輩と学人先輩から見た僕だった。浮かれていて、部の価値がわかっていなくて、三人の中に入ってきた。
学人先輩の溜息から、良くは思われてことがわかる。
「由宇、入らないの?」
背後から掛かった声に、体が震えた。盗み聞きをしていたのを見られていたのか。
聖さんは僕が開けられなかったドアを抵抗なく開けた。部室には学人先輩と透先輩がいつもの席に座っている。僕が話を聞いていたことを知っているのに、二人はいつもと変わらなかった。あれは悪口の一種だったはずだ。それを本人が聞いていたことを知っても普通にできる。
この部で自分は邪魔者だ。
「由宇、調理室に行くぞ」
「頑張れよ。私も後から行くから」
「透も頑張って。じゃあ、行こうか」
はい、と明るい返事をしたが、上手く笑えている自信がなかった。いや、きちんと笑顔になっているはずだ。
自分が傷付いていると思うのも嫌だが、傷付いていると知られるのはもっと嫌だから。




